位相空間論0:Euclid空間の位相

はじめに、位相空間を定義する動機付けとして、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の場合に、写像の連続性を開集合の概念を通して扱うことを考えてみる。ここでは、 $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた連続性の定義にすでに触れていることが望ましい。

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入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論0:Euclid空間の位相
  • 位相空間論15:局所コンパクト空間?
  • 位相空間論16:Tychonoffの定理?

このテキストでは、$\mathbb{N}$ によって正の整数の全体を表す。$n\in\mathbb{N}$ に対して、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ とは、実数 $n$ 個の組 $(x_1,\ldots, x_n)$ の全体からなる集合である。$x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ と $t\in\mathbb{R}$ に対して、 $$ x\pm y=(x_1\pm y_1,\ldots, x_n\pm y_n), \quad tx=(tx_1,\ldots, tx_n) $$ と定義する。$x=(x_1,\ldots, x_n), y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $x$ と $y$ のEuclid内積 $x\cdot y$ および $x$ のEuclidノルム $\|x\|$ を $$ x\cdot y=\sum_{i=1}^n x_iy_i,\quad \|x\|=\sqrt{x\cdot x}=\sqrt{\sum_{i=1}^n x_i^2} $$ で定義する。Euclidノルム $\|x\|$ は、$x$ と原点 $0=(0,\ldots,0)$ の間の通常の意味での距離であり、常に0以上の値をとる。このとき、次が成り立つ。

命題 0.1 (Cauchy-Schwarz の不等式)

$x, y\in\mathbb{R}^n$ に対して、$(x\cdot y)^2\leq \|x\|^2\|y\|^2$ である。

証明

$x=0$ の場合、不等式は明らかに成立するので $x\neq 0$ とする。 $t\in\mathbb{R}$ に対して $\varphi(t)=\|tx+y\|^2$ とおくと $$ \varphi(t)=t^2\|x\|^2+2 tx\cdot y+\|y\|^2 $$ である。$\varphi(t)$ は $t$ の2次関数であって、$t$ によらず 常に $\varphi(t)\geq 0$ である。 よって、その判別式は0以下である。これから、求める不等式が得られる。$\square$

命題 0.2 (Euclid空間のノルムの性質)

任意の $x, y\in\mathbb{R}^n$ に対して、$\|x+y\|\leq \|x\|+\|y\|$ が成り立つ。

証明

$x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)$ とすると、 $$ (\|x\|+\|y\|)^2-\|x+y\|^2=(\|x\|^2+2\|x\|\|y\|+\|y\|^2)-(\|x\|^2+2x\cdot y+\|y\|^2)=2(\|x\|\|y\|-x\cdot y) $$ であるが、命題 0.1により最右辺は0以上となる。よって、求める不等式が得られる。$\square$

一般に、二点 $x, y\in\mathbb{R}^n$ の間の距離 $d(x, y)$ は $$ d(x, y)=\|x-y\|=\sqrt{(x_1-y_1)^2+\cdots+(x_n-y_n)^2} $$ により定義される。すると、次が成り立つ。

命題 0.3 (Euclid距離の性質)

任意の $x, y, z\in\mathbb{R}^n$ に対して、次が成り立つ。

  • $d(x, y)=0\Longleftrightarrow x=y$
  • $d(x, y)=d(y, x)$
  • $d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)$(三角不等式)

証明

はじめの二つの性質は明らかだろう。最後の三角不等式は、命題 0.2 により $$ d(x, z)=\|x-z\|=\|(x-y)+(y-z)\|\leq \|x-y\|+\|y-z\|=d(x, y)+d(y, z) $$ となることから分かる。$\square$

距離の概念を用いて、Euclid空間における開球体の概念が定義できる。

定義 0.4 (Euclid空間における開球体)

$x\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $B(x, r)$ を $$ B(x,r)=\{y\in\mathbb{R}^n\,|\,d(y,x)<r\} $$ により定義する。$B(x, r)$ を、$x$ を中心とする半径 $r$ の開球体という。$\square$

さて、Euclid空間の間の写像$f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を考えよう。($n$ と $m$ は異なっていてもよい。)この写像 $f$ が $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であることは、次のように定義されるのだった。

  • 写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が点 $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ であって次の条件を満たすものが存在することである:

    「$d_{\mathbb{R}^n}(x,a)<\delta$ を満たすすべての $x\in\mathbb{R}^n$ に対して、$d_{\mathbb{R}^m}(f(x), f(a))<\varepsilon$ が成り立つ。」

ここで、定義域 $\mathbb{R}^n$ と終域 $\mathbb{R}^m$ の距離を区別するために、記号 $d_{\mathbb{R}^n}$ と $d_{\mathbb{R}^m}$ を用いた(これは本来必要な区別であるが、記号が煩雑になるのを避けるため、以下では両者を単に $d$ で表す)。

このように定義した上で、写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が連続であることは、任意の $a\in\mathbb{R}^n$ に対して、$f$ が点 $a$ において連続であることと定義されるのだった(さきほど述べたのは、$a\in\mathbb{R}^n$ を固定したときに $f$ が点 $a$ において連続であることの定義である。いまは点を指定せずに $f$ そのものが連続であることの定義を述べたのである)。

さて、写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ の連続性は、開球体の言葉で言い換えると次のようになる(これが単なる言い換えにすぎないことを確認せよ。証明は省略する)。

命題 0.5 (開球体を用いた連続性の言い換え)

写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が点 $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であることは、次のことと同値である:

「任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $\delta>0$ が存在して $f(B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ となる。」$\square$

ここでも、開球体が $\mathbb{R}^n$ 内のものか $\mathbb{R}^m$ 内のものかをはっきりさせるため、あえて添字に $\mathbb{R}^n$, $\mathbb{R}^m$ を付けて、$B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta)$, $B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ のような表記を用いた。

実は、連続性の概念は、次に導入する開集合の言葉によってより簡潔に言い表される。

定義 0.6 (Euclid空間における開集合)

$U$ を $\mathbb{R}^n$ の部分集合とする。$U$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であるとは、任意の $x\in Us$ に対して、ある $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ が成り立つことをいう。$\square$

つまり、$U$ が開集合とは、$U$ のどの点に対しても、その点を中心とする十分小さい開球体が $U$ に含まれていることである。すでに導入した開球体は開集合の例である。すなわち、

命題 0.7 (開球体は開集合である)

任意の $x\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、開球体 $B(x, r)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

証明

$x\in\mathbb{R}^n,$ $r>0$ を任意に与える。$B(x, r)$ が開集合であることを示そう。$y\in B(x, r)$ とする。このとき、$B(y, r')\subset B(x, r)$ であるような $r'>0$ が存在することを示せばよい。$B(x, r)$ の定義により、$d(x, y)<r$ である。そこで、$r'=r-d(x, y)$ とおけば、$r'>0$ である。このとき、任意に $z\in B(y, r')$ を与えると、$d(y, z)<r'$ であるので、命題 0.3の三角不等式により、 $$ d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)<d(x, y)+r'=r $$ である。よって、$z\in B(x, r)$ である。したがって、$B(y, r')\subset B(x, r)$ である。これで、$B(x, r)$ が開集合であることが示された。$\square$

平面 $\mathbb{R}^2$ の場合でいえば、上の結果は、円の内部 $$ \{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,(x-a)^2+(y-b)^2<r^2\} $$ が $\mathbb{R}^2$ の開集合であることを意味している。 このほかにも、例えば、「境界を含まない長方形」 $$ \{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,a<x<b,\, c<y<d\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である(証明してみよ)。開集合の直観的なイメージとしては、ひとまずこのような平面内の「境界を含まない図形」を思い浮かべるのがよいだろう。

開集合は、次の性質をもつ。これは、後の位相空間の定義を理解するために重要である。

命題 0.8 (開集合の性質)

$\mathbb{R}^n$ の開集合について、以下のことが成り立つ。

  • (1) $\emptyset$ および $\mathbb{R}^n$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
  • (2) $\mathbb{R}^n$ の二個の開集合の共通部分は、再び $\mathbb{R}^n$ の開集合である。すなわち、$U_1, U_2$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であるならば、$U_1\cap U_2$ も $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
  • (3) $\mathbb{R}^n$ の任意の個数の開集合の和集合は、再び $\mathbb{R}^n$ の開集合である。すなわち、以下が成り立つ:$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合を要素とする集合とする(有限集合でも、無限集合でもよい)。このとき、和集合 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_i$ も $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

証明

(1) まず、$\mathbb{R}^n$ 自身が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示す。$x\in \mathbb{R}^n$ を任意に与える。このとき、$B(x, r)\subset\mathbb{R}^n$ となるような $r>0$ を見つければよいが、この場合 $r$ は何でもよい。たとえば、$r=1$ とすれば $B(x, 1)\subset\mathbb{R}^n$ となり、$\mathbb{R}^n$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。次に、$\emptyset$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示す。示すべきことは、任意の $x\in\emptyset$ に対して、ある $r>0$ が存在して $B(x,r)\subset\emptyset$ となることである。これを論理式で書けば次のようになる。 $$ \forall x [(x\in\emptyset) \rightarrow \exists r (r>0 \wedge B(x, r)\subset \emptyset)] $$ いま、$x\in\emptyset$ は偽であるので、上の論理式の $[(x\in\emptyset) \rightarrow \cdots]$ は真の命題である($P$ が偽であるとき、$P\rightarrow Q$ は真となるのであった)。これがすべての $x$ について成り立つので、上の論理式は全体として真であり、したがって、$\emptyset$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

(2) $U_1, U_2$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合とし、$x\in U_1\cap U_2$ とする。$i=1, 2$ に対して、$U_i$ が開集合であって $x\in U_i$ であることから、$r_i>0$ を $B(x, r_i)\subset U_i$ となるように取れる。そこで、$r=\mathrm{min}\{r_1, r_2\}$ とすると、$r>0$ である。すると、$i=1, 2$ に対して、$B(x, r)\subset B(x, r_i)\subset U_i$ であるから、$B(x, r)\subset U_1\cap U_2$ である。これで、$U_1\cap U_2$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。

(3) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合からなる集合とする。$x\in \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、$x\in U_{\lambda_0}$ である。$U_{\lambda_0}$ は開集合なので、$r>0$ を $B(x, r)\subset U_{\lambda_0}$ となるように取れる。$U_{\lambda_0}\subset \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ であるから、$B(x, r)\subset \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。$\square$

さて、開集合の言葉を用いると、次のように写像の連続性を簡潔な言葉で言い表すことができる。

定理 0.10 (開集合を用いた写像の連続性の記述)

写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) $\mathbb{R}^m$ の任意の開集合 $V$ に対して、その $f$ による逆像 $f^{-1}(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

証明

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を連続写像とし、$V\subset\mathbb{R}^m$ を $\mathbb{R}^m$ の開集合とする。$f^{-1}(V)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,f(x)\in V\}$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示そう。そこで、$x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、$f(x)\in V$ で $V$ は $\mathbb{R}^m$ の開集合だから、ある $\varepsilon>0$ が存在して、$B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)\subset V$ となる。いま、$f$ は連続であるから、とくに点 $x$ において連続である。したがって、命題 0.5により、$\delta>0$ が存在して、 $$ f(B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon) $$ となる。この式は、 $$ B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta)\subset f^{-1}(B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)) $$ と言い換えられる(確かめよ)。ところが、$B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)\subset V$ であったから、$f^{-1}(B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon))\subset f^{-1}(V)$ である。以上により、$B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta)\subset f^{-1}(V)$ である。これで、$f^{-1}(V)$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ に対して、(2) を仮定する。$f$ が連続であることを示すため、任意に $a\in\mathbb{R}^n$ を与える。$f$ が $a$ において連続と分かればよいが、それを示すために命題 0.5を用いることにしよう。そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。このときに、$\delta>0$ であって $f(B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a),\varepsilon)$ であるようなものを見つければよい。いま、$V=B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ とおけば、命題 0.7により $V$ は $\mathbb{R}^m$ の開集合である。よって、いま仮定している (2) により、$f^{-1}(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。ところが、$f(a)\in V$ であるから、$a\in f^{-1}(V)$ である。よって、ある $\delta>0$ に対して、 $$ B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta)\subset f^{-1}(V) $$ である。これは、 $$ f(B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta))\subset V $$ と言い換えられる(さきほども同様の議論があったことに注意せよ)。これは、$V$ の定義に戻れば $f(B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ である。これで、$f$ が $a$ において連続であることが示された。$a\in\mathbb{R}^n$ は任意であったから、$f$ は連続であることが示された。$\square$

定理 0.10 は、(Euclid空間の間の)写像の連続性という性質が、距離を直接用いることなく、開集合の言葉だけで記述できることを示している。逆に言えば、どの集合が開集合であるかさえ知っていれば、距離も開球体も直接には使わずに、写像の連続性は定義できてしまう。

以下で定義される位相空間は、点の集合に対して、「どの部分集合が開集合であるか」というデータだけが与えられている。位相空間においては、距離や開球体という概念を定義することは一般にはできないが、それでも連続写像の概念が定義できる。つまり、定理 0.10における性質 (2) が成り立つ写像を連続写像と定義するのである。

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Last-modified: 2020-11-12 (木) 22:32:47 (21d)