位相空間論13:距離空間の位相(1)

この章では、距離空間の位相的取り扱いでしばしば用いられる諸性質について取り扱う。特に、いわば「すき間のない」距離空間である完備距離空間の性質について扱う。ただし、完備性は開集合の言葉だけでは記述できない距離に依存した概念であって、位相的性質ではないので注意が必要である。また、写像に関しては、一様連続写像の概念について述べる。

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入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論13:距離空間の位相(1)
  • 位相空間論15:局所コンパクト空間?
  • 位相空間論16:Tychonoffの定理?

まず、改めて距離空間についての基本的な用語を確認しておこう。 $(X, d)$ を距離空間とする。$x\in X,$ $r>0$ とするとき、 $$ B_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)<r\},\quad \overline{B}_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)\leq r\} $$ をそれぞれ $x$ を中心とする半径 $r$ の開球体、閉球体といい(定義 1.14)、混乱のおそれのない場合はこれらを単に $B(x,r),$ $\overline{B}(x,r)$ で表す。距離空間 $(X, d)$ も混乱のおそれのない場合は単に $X$ で表すことがある。距離空間 $X$ は位相空間と見なすことができ、開球体、閉球体はそれぞれ $X$ の開集合、閉集合である(定義 1.16)。さらに、$x\in X$ を固定するとき $\{B(x,r)\,|\,r>0\}$ および $\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系となる(例 2.8)。

なお、以下では三角不等式 $d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)$ を移項した形 $$ d(x,y)\geq d(x,z)-d(y,z) $$ も使われることがあるので注意しておく。次の事実は基本的である。

命題 13.1 (距離関数の連続性)

$(X, d)$ を距離空間とするとき、距離 $d\colon X\times X\to\mathbb{R}$ は直積空間 $X\times X$ から実数直線 $\mathbb{R}$ への連続関数である。

証明

$(x, y)\in X\times X$ とする。$(x, y)\in X$ における $d$ の連続性を示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。このとき $$ d(B(x, \varepsilon/2)\times B(y, \varepsilon/2))\subset (d(x,y)-\varepsilon, d(x,y)+\varepsilon)\quad(\star) $$ であることを示せばよい。そこで、$x'\in B(x, \varepsilon/2)$ および $y'\in B(y, \varepsilon/2)$ を任意に与える。いま $$ d(x', y')-d(x, y)\leq d(x', x)+d(x, y)+d(y, y')-d(x, y)=d(x, x')+d(y, y')<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。上の式で $x$ と $x'$ を入れ換え、$y$ と $y'$ を入れ換えれば同様に $d(x, y)-d(x',y')<\varepsilon$ も得られるから、結局 $$ |d(x', y')-d(x, y)|<\varepsilon $$ となる。これは $d(x', y')\in (d(x,y)-\varepsilon, d(x,y)+\varepsilon)$ を意味するから、$(\star)$ が示された。$\square$

定義 13.2 (集合の間の距離)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A,$ $B$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、$A$ と $B$ との間の距離 $d(A, B)$ を $$ d(A, B)=\inf\{d(x,y)\,|\,x\in A,\,y\in B\} $$ で定義する。

注意 13.3 (距離がゼロである二つの閉集合は必ずしも交わらない)

距離空間 $(X, d)$ において、もし $A, B\subset X$ に対して $A\cap B\neq\emptyset$ であれば、定義から $d(A, B)=0$ である。このことの逆は、たとえ $A,$ $B$ が $X$ の閉集合であるとしても正しくない。例えば、$X=\mathbb{R}^2$ とし、 $$ A=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1\},\quad B=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y=0\} $$ とすると、$d(A, B)=0$ であるが $A\cap B=\emptyset$ である。しかし、次の命題(の対偶)から分かるように、$A,$ $B$ の少なくとも一方がコンパクトであれば、このようなことは起こらない。$\square$

命題 13.4 (交わらないコンパクト集合と閉集合の距離は正)

$(X, d)$ を距離空間とし、$A$ を $X$ のコンパクト集合とし、$B$ を $X$ の閉集合とする。もし、$A\cap B=\emptyset$ であるならば、$d(A, B)>0$ である。

証明

各 $x\in A$ に対して、$X\setminus B$ は $x$ の $X$ における開近傍となるから、$r_x>0$ を $B(x, r_x)\subset X\setminus B$ となるように選べる。このとき、$\{B(x, r_x/2)\,|\,x\in A\}$ はコンパクト集合 $A$ の $X$ における開被覆であるから、有限個の点 $x_1,\ldots, x_n\in X$ が存在して $A\subset \bigcup_{i=1}^n B(x_i, r_{x_i}/2)$ となる。$r=\min\{r_{x_1}/2,\ldots, r_{x_n}/2\}>0$ とおこう。任意に $x\in A,$ $y\in B$ を与える。このとき、ある $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $x\in B(x_i, r_{x_i}/2)$ すなわち $d(x_i,x)<r_{x_i}/2$ である。一方、$B(x_i, r_{x_i})\subset X\setminus B$ であるから、$d(x_i, y)\geq r_{x_i}$ である。よって、 $$ d(x,y)\geq d(x_i, y)-d(x_i, x)\geq r_{x_i}-r_{x_i}/2=r_{x_i}/2\geq r $$ である。これが任意の $x\in A,$ $y\in B$ について成り立つので、$d(A, B)\geq r>0$ である。$\square$

コンパクト距離空間の開被覆について、次の定理が基本的である。

定理 13.5 (Lebesgue数の存在)

$(X, d)$ をコンパクト距離空間とし、$\mathcal{U}$ を $X$ の開被覆とする。このとき、ある $\delta>0$ が存在して、次が成り立つ:「任意の $x\in X$ に対して、ある $U\in \mathcal{U}$ が存在して $B(x,\delta)\subset U$ となる。」(このような $\delta$ を開被覆 $\mathcal{U}$ のLebesgue数 (Lebesgue number)という。)

証明

各 $x\in X$ に対して、$U_x\in\mathcal{U}$ を $x\in U_x$ となるように選び、次に $r_x>0$ を $B(x, r_x)\subset U_x$ となるように選ぶ。すると、$\{B(x, r_x/2)\,|\,x\in X\}$ はコンパクト空間 $X$ の開被覆であるから、有限個の点 $x_1,\ldots, x_n\in X$ を取り $X=\bigcup_{i=1}^n B(x_i, r_{x_i}/2)$ とできる。

$\delta=\min\{r_{x_1}/2,\ldots,r_{x_n}/2\}>0$ とおく。$\delta$ が定理の条件を満たすことを示そう。そのため、$x\in X$ を任意に与える。$i\in\{1,\ldots,n\}$ で $x\in B(x_i, r_{x_i}/2)$ すなわち $d(x, x_i)<r_{x_i}/2$ となるものが存在する。このとき $B(x,\delta)\subset U_{x_i}$ となることを示そう。そのため、$y\in B(x,\delta)$ とする。すると $d(x,y)<\delta\leq r_{x_i}/2$ なので、 $d(y, x_i)\leq d(y,x)+d(x,x_i)<r_{x_i}/2+r_{x_i}/2=r_{x_i}$ であるから、$y\in B(x_i, r_{x_i})\subset U_{x_i}$ である。これで、$B(x,\delta)\subset U_{x_i}$ が示され、定理は証明された。$\square$

実数直線 $\mathbb{R}$ の基本的な性質として「任意のCauchy列は収束する」というものがある。このことを復習しておこう。実数列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $$ n,m\geq N \Longrightarrow |x_n-x_m|<\varepsilon $$ が成立することである。このような実数列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は必ずある実数に収束するのであった。ある実数列が Cauchy列であると分かるためには、その列の極限が何であるか知っている必要はない。したがって、この性質は、極限が未知である実数列に対して極限の存在を保証するものとして重要である。

距離空間においても、まったく同様にしてCauchy列の概念を定義できる。そして、$\mathbb{R}$ のときのように任意のCauchy列が収束するような距離空間を、完備な距離空間という。

定義 13.6 (Cauchy列)

$(X, d)$ を距離空間とし、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X, d)$ のCauchy列(Cauchy sequence)であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $$ n, m\geq N\Longrightarrow d(x_n, x_m)<\varepsilon $$ が成立することをいう。$\square$

この定義は、もちろん、$X=\mathbb{R}$ の場合にはすでに述べた実数列がCauchy列であることの定義と一致する。

定義 13.7 (完備性)

距離空間 $(X, d)$ が完備(complete)であるとは、$(X,d)$ の任意のCauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、ある $x\in X$ が存在して $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することをいう。$\square$

例 13.8 ($\mathbb{R}$ は完備であるが $\mathbb{Q}$ は完備でない)

すでに述べたことから、$\mathbb{R}$ は(通常の距離に関して)完備な距離空間となる。 $\mathbb{Q}$ は、$\mathbb{R}$ の距離の制限によって距離空間とみなされるが、この $\mathbb{Q}$ は完備ではないことを示そう。

$\sqrt{2}$ の十進小数展開 $\sqrt{2}=1.4142\cdots$ を小数第 $n$ 位までで打ち切って得られる有理数を $x_n$ とすれば、 $$ x_1=1.4,\quad x_2=1.41,\quad x_3=1.414,\cdots $$ という $\mathbb{Q}$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られる。$(x_n)_{n=1}^\infty$ はCauchy列である。これを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。これに対して $N\in\mathbb{N}$ を $10^{-N}<\varepsilon$ となるように十分大きく取る。すると、$n, m\geq N$ のとき $x_n$ と $x_m$ は少なくとも小数第 $n$ 位まで一致するから $|x_n-x_m|\leq 10^{-N}<\varepsilon$ である。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $\mathbb{Q}$ のCauchy列である。$\mathbb{Q}$ が完備でないことを言うには、このCauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{Q}$ のいかなる点にも収束しないことが言えればよい。

そこで、Cauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ がある $x\in\mathbb{Q}$ に収束したとして矛盾を導こう。実数 $\sqrt{2}$ はよく知られているように無理数だから、$\sqrt{2}\neq x$ である。そこで、$\varepsilon=|x-\sqrt{2}|/2$ とおくと、$\varepsilon>0$ である。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束すると仮定しているので、ある $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $|x_n-x|<\varepsilon$ である。次に、$N_2\in\mathbb{N}$ を、$10^{-N_2}<\varepsilon$ となるように十分小さくとる。数列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ のつくり方から、$n\geq N_2$ のとき $|x_n-\sqrt{2}|\leq 10^{-N_2}<\varepsilon$ である。そこで、$N=\max\{N_1, N_2\}$ とおけば、$|x_N-x|<\varepsilon,$ $|x_N-\sqrt{2}|<\varepsilon$ なので、 $$ {|x-\sqrt{2}|}\leq|x-x_N|+|x_N-\sqrt{2}|<\varepsilon+\varepsilon=2\varepsilon=|x-\sqrt{2}| $$ となり、矛盾する。これで、$\mathbb{Q}$ のCauchy列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{Q}$ のいかなる点にも収束しないことが示されたので、$\mathbb{Q}$ は完備でないと分かった。$\square$

距離空間 $(X, d)$ と部分集合 $A\subset X$ に対して、$d$ の制限 $d|_{A\times A}$ は $A$ 上の距離となる。$A$ はこの $d|_{A\times A}$ によって距離空間と見なすことにしているのだった(注意 1.13)。

命題 13.9 (完備距離空間の閉集合は完備)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、$A$ を $X$ の閉集合とする。 このとき $A$ も完備距離空間となる。

証明

$A$ を完備距離空間 $(X, d)$ の閉集合とする。$d_A=d|_{A\times A}$ とおくとき、$(A, d_A)$ が完備であることを示せばよい。そこで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $(A, d_A)$ のCauchy列とする。これを $X$ の点列とみなせば、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列でもあるから、$(X, d)$ の完備性により、ある $x\in X$ が存在して、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。すなわち、次が成り立つ(命題 2.19参照)。

任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n,x)<\varepsilon$ である。$\quad (\star)$

いま、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であり、$A$ は $X$ の閉集合であったので、 命題 4.8により $x\in A$ である。したがって、$d_A(x_n, x)$ を考えることができそれは $d(x_n, x)$ に等しい。よって、$(\star)$ により次が成り立つ。

任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d_A(x_n,x)<\varepsilon$ である。

これは、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(A,d_A)$ において $x$ に収束していることを示している(命題 2.19参照)。これで $(A, d_A)$ が完備であることが示された。$\square$

命題 13.10 (距離空間の完備な部分集合は閉集合)

$(X, d)$ を距離空間、$A$ を $X$ の部分集合とする。もし、$A$ が完備であるならば、$A$ は $X$ の閉集合である。

証明

再び、$d|_{A\times A}=d_A$ とする。$A$ が $X$ の閉集合であることを、命題 4.8を用いて証明する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $A$ の点列とし、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $X$ の点 $x$ に収束するとする。このとき、$x\in A$ を証明すればよい。 まず、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(A, d_A)$ のCauchy列である。これを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束するから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon/2$ である。このとき、任意の $n, m\geq N$ に対して $$ d_A(x_n, x_m)=d(x_n, x_m)\leq d(x_n, x)+d(x, x_m)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(A, d_A)$ のCauchy列であることが分かった。いま、$A$ つまり $(A, d_A)$ は完備であるから、ある $x'\in A$ が存在して、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x'$ に収束する。以上で $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束し、同時に $x'$ にも収束することが言えた。いま、$X$ は距離空間なのでHausdorff空間である(命題 11.6)。したがって、命題 11.10により、$x=x'$ である。いま、$x'\in A$ であったから、$x\in A$ である。以上から、命題 4.8によって $A$ が $X$ の閉集合であることが示された。$\square$

とくに注意すべきこととして、完備性は位相的性質ではない。つまり、$(X, d)$ と $(Y, d')$ が距離空間であり、$(X,d)$ が完備であるとき、$X$ と $Y$ が同相であったとしても $(Y, d')$ が完備になるとは限らない。それは次の例から分かる。

例 13.11 (完備性は位相的性質ではない)

$X=[0,\infty)$ と $Y=[0, 1)$ を考える。これらはともに $\mathbb{R}$ の部分集合だから、$\mathbb{R}$ からの距離の制限により距離空間とみなせる。$X$ と $Y$ は同相である。実際、$h\colon X\to Y$ を $$ h(x)=\frac{x}{1+x} $$ で定めると、$h$ は連続で、その逆 $h^{-1}\colon Y\to X$ は $h^{-1}(y)=y/(1-y)$ で与えられ $h^{-1}$ も連続だから、$h$ は同相写像となる。

$\mathbb{R}$ は完備距離空間であり $X$ は $\mathbb{R}$ の閉集合だから、命題 13.9により、$X$ は完備である。一方、$Y$ は $\mathbb{R}$ の閉集合ではないので、命題 13.10により $Y$ は完備ではあり得ない。$\square$

定義 13.12 (等長埋め込み、等長写像)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が等長埋め込み(isometric embedding)であるとは、任意の $x_1, x_2\in X$ に対して $$ d'(f(x_1), f(x_2))=d(x_1, x_2) $$ が成り立つことをいう。等長埋め込み $f\colon X\to Y$ がさらに全射であるとき、$f$ を等長写像(isometry)という。等長写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき、$(X, d)$ と $(Y', d')$ は等長(isomettric)であるという。$\square$

定義から、等長埋め込み $f\colon X\to Y$ は単射である。実際、$x_1, x_2\in X$ に対して $f(x_1)=f(x_2)$ とすると、$0=d'(f(x_1), f(x_2))=d(x_1, x_2)$ となり、したがって $x_1=x_2$ となるからである。さらに、等長埋め込み $f\colon X\to Y$ は連続である。実際、$x\in X$, $\varepsilon>0$ とすると、$\delta=\varepsilon$ とおくとき、$d(x, x')<\delta$ となる任意の $x'\in X$ に対して $d'(f(x), f(x'))=d(x, x')<\delta=\varepsilon$ となるから、命題 5.9により $f$ は連続である。

注意 13.13 (等長写像は同相写像、等長埋め込みは埋め込み)

$f\colon X\to Y$ が等長写像であるとすると、さきほど見たことにより $f$ は連続な全単射であるが、逆写像 $f^{-1}\colon Y\to X$ も等長写像であるから、$f^{-1}$ も連続となる。よって、$f\colon X\to Y$ は同相写像である。つまり、等長写像は常に同相写像である。

$g\colon X\to Y$ が等長埋め込みであるとき、$g$ の終域を $g(X)$ に制限した写像を $\hat{g}\colon X\to g(X)$ とすると、$\hat{g}$ は等長写像であり、よって上のことから $\hat{g}$ は同相写像である。したがって、$g\colon X\to Y$ は埋め込みである。つまり、等長埋め込みは常に埋め込みである。

一般に、等長埋め込み $g\colon X\to Y$ が与えられているとき、$x\in X$ と $g(x)\in g(X)$ を同一視して考えれば、$X\subset Y$ であると考え、$X$ の距離 $d$ は $Y$ の距離 $d'$ を $X$ に制限して得られるものと考えることができる。$\square$

$\mathbb{Q}$ は完備ではないが、$\mathbb{R}$ はそれを稠密な部分集合にもつ完備距離空間である。より一般に、距離空間 $X$ に対しては $X$ を稠密な部分集合にもつような完備距離空間 $\tilde{X}$ をつくることができる。それが $X$ の完備化と呼ばれるものである。以下でこれを正式に定義しよう。

定義 13.14 (完備化)

$(X, d)$ を距離空間とする。$(X, d)$ の完備化とは、完備距離空間 $(\tilde{X}, \tilde{d})$ と等長埋め込み $\iota\colon X\to\tilde{X}$ との組 $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ であって、$\iota(X)$ が $X'$ において稠密であるようなものをいう。

完備化の定義において、「$X$ が $\tilde{X}$ の稠密な部分集合である」というのは厳密には正しくない。しかし、$X$ を等長埋め込み $\iota$ の像 $\iota(X)$ と同一視したと考えれば、$X$ は $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であると思うことができる。実は、以下で行う完備化の構成がスムーズにできるようにするためには、このような等長埋め込みを介した定義の方が便利なのである。

定理 13.15 (完備化の存在)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、$(X, d)$ の完備化は存在する。

証明

以下では、誤解のおそれのない場合、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ のことを簡単に $(x_n)$ と書く。$(X, d)$ のCauchy列全体の集合を $\mathcal{C}$ とおく。$(x_n),$ $(y_n)\in\mathcal{C}$ に対して、$(x_n)\sim(y_n)$ であることを $$ (x_n)\sim(y_n) \Longleftrightarrow \lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=0 $$ により定義すると、$\sim$ が集合 $\mathcal{C}$ 上の同値関係となることを示そう。$\sim$ が反射律と対称律を満たすことはそれぞれ明らかである。$\sim$ が推移律を満たすことを示すため、$(x_n), (y_n), (z_n)\in\mathcal{C}$ に対して $(x_n)\sim(y_n),$ $(y_n)\sim(z_n)$ とする。$(x_n)\sim(z_n)$ つまり $\lim_{n\to\infty} d(x_n, z_n)=0$ を示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。いま、$(x_n)\sim(y_n)$ つまり $\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=0$ であるので、ある $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $d(x_n, y_n)<\varepsilon/2$ である。また、$(y_n)\sim(z_n)$ であることから、同様にある $N_2\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_2$ のとき常に $d(y_n, z_n)<\varepsilon/2$ である。そこで、$N=\max\{N_1, N_2\}$ とおくと、$n\geq N$ のとき常に $$ 0\leq d(x_n, z_n)\leq d(x_n, y_n)+d(y_n, z_n)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ となる。よって、$\lim_{n\to\infty} d(x_n, z_n)=0$ であるから、$(x_n)\sim(z_n)$ である。これで $\sim$ の推移性が示され、$\sim$ が $\mathcal{C}$ 上の同値関係であることが示された。

$\tilde{X}$ を、$\mathcal{C}$ の $\sim$ による商集合とする。つまり、 $$ \tilde{X}=\mathcal{C}/\mathord{\sim} $$ とする。Cauchy列 $(x_n)\in \mathcal{C}$ の $\sim$ に関する同値類を $[(x_n)]$ で表す。$[(x_n)]$ は $\tilde{X}$ の要素である。

以下では、集合 $\tilde{X}$ 上の距離 $\tilde{d}$ を定義する。そのため $\xi=[(x_n)],$ $\eta=[(y_n)]\in \tilde{X}$ に対して、

$$ \tilde{d}(\xi, \eta)=\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)\quad(\star) $$ と定義したい。この定義が意味をもつためには、右辺の極限が存在すること、およびその極限が代表元 $(x_n),$ $(y_n)$ の選び方によらず、同値類 $\xi,$ $\eta$ のみによって決まることを示さなければならない。

まず、$(\star)$ の右辺の極限が存在することを示そう。そこで $(x_n), (y_n)\in\mathcal{C}$ とする。このとき、$a_n=d(x_n, y_n)\in\mathbb{R}$ とおけば $(a_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{R}$ のCauchy列となることを示せばよい。そこで $\varepsilon>0$ とする。$(x_n),$ $(y_n)$ は $(X, d)$ のCauchy列であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2,$ $d(y_n, y_m)<\varepsilon/2$ となる。したがって、$n, m\geq N$ のとき $$ \begin{aligned} a_n-a_m&=d(x_n, y_n)-d(x_m, y_m)\\ &\leq d(x_n, x_m)+d(x_m, y_m)+d(y_m, y_n)-d(x_m, y_m)\\ &= d(x_n, x_m)+d(y_m, y_n)\\ &<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。同様に、$a_m-a_n<\varepsilon$ も言えるから、結局 $n, m\geq N$ のとき $|a_n-a_m|<\varepsilon$ であることが分かる。これで、$(a_n)_{n=1}^\infty$ が $\mathbb{R}$ のCauchy列であることが示され、$(\star)$ の右辺の極限が存在することが示された。

次に、$(\star)$ の右辺の極限が代表元 $(x_n),$ $(y_n)$ の選び方によらないことを示す。そのため、$(x_n), (x'_n), (y_n), (y'_n)\in\mathcal{C}$ として $(x_n)\sim (x'_n),$ $(y_n)\sim (y'_n)$ であると仮定する。このとき $\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)$ を示せばよい。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。$(x_n)\sim (x'_n),$ $(y_n)\sim (y'_n)$ であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x'_n)<\varepsilon/2,$ $d(y_n, y'_n)<\varepsilon/2$ である。よって、$n\geq N$ のとき $$ \begin{aligned} d(x_n, y_n)-d(x'_n, y'_n) &\leq d(x_n, x'_n)+d(x'_n, y'_n)+d(y'_n, y_n)-d(x'_n, y'_n)\\ &=d(x_n, x'_n)+d(y'_n, y_n)\\ &<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。$n\to\infty$ として、 $$ \lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)-\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)\leq\varepsilon $$ を得る。同様にして、$\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)-\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)\leq\varepsilon$ も得られるから、結局 $$ |\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)-\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)|\leq\varepsilon $$ となる。これが任意の $\varepsilon>0$ について成り立つので、$\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)=\lim_{n\to\infty} d(x'_n, y'_n)$ である。これで、$(\star)$ の右辺の極限が代表元 $(x_n),$ $(y_n)$ の取り方によらないことが示された。

以上で写像 $\tilde{d}\colon\tilde{X}\times\tilde{X}\to [0, \infty)$ が定義された。次に、これが集合 $\tilde{X}$ 上の距離であること、つまり定義 1.12の(D1)-(D3)を満たすことを示す。

まず、(D1)が成り立つこと、つまり $\xi, \eta\in\tilde{X}$ に対して $$ \tilde{d}(\xi, \eta)=0\Longleftrightarrow \xi=\eta $$ であることを示そう。まず、$\Longleftarrow$ を示す。そのため、$\xi=\eta\in\tilde{X}$ とする。このとき、$\xi$ の代表元 $(x_n)$ を一つ選ぶと、$(x_n)$ は同時に $\eta$ の代表元でもある。よって、$\tilde{d}(\xi, \eta)=\lim_{n\to\infty} (x_n, x_n)=0$ である。次に、$\Rightarrow$ を示す。そのため、$\xi=[(x_n)], \eta=[(y_n)]\in\tilde{X}$ に対して $\tilde{d}(\xi, \eta)=0$ とする。すると、定義から $\lim_{n\to\infty} d(x_n, y_n)\to 0$ である。しかし、これは $(x_n)\sim (y_n)$ を意味するから、$\xi=[(x_n)]=[(y_n)]=\eta$ である。

(D2)が成り立つこと、つまり $\xi, \eta\in\tilde{X}$ に対して $\tilde{d}(\xi, \eta)=\tilde{d}(\eta, \xi)$ であることは明らかである。

(D3)が成り立つこと、つまり $\tilde{d}$ について三角不等式が成り立つことを示そう。$\xi=[(x_n)],$ $\eta=[(y_n)],$ $\zeta=[(z_n)]$ とする。すると、$d$ についての三角不等式により、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $$ d(x_n, z_n)\leq d(x_n, y_n)+d(y_n, z_n) $$ となる。この両辺で $n\to\infty$ とすると、求める三角不等式 $\tilde{d}(\xi, \zeta)\leq \tilde{d}(\xi, \eta)+\tilde{d}(\eta, \zeta)$ が得られる。

以上で、距離空間 $(\tilde{X}, \tilde{d})$ が得られた。写像 $\iota\colon X\to\tilde{X}$ を次で定義しよう。$x\in X$ に対して、$(c^x_n)_{n=1}^\infty$ を $x, x, x,\ldots$ という点列とする。つまり、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $c^x_n=x$ と定義する。このとき、$(c^x_n)$ は明らかに $X$ のCauchy列となるから、$[(c^x_n)]\in\tilde{X}$ を考えることができる。そこで、$\iota\colon X\to\tilde{X}$ を $$ \iota(x)=[(c^x_n)] $$ で定義する。

$\iota\colon X\to\tilde{X}$ は等長埋め込みである。実際、$x, y\in X$ とすると $$ \begin{aligned} \tilde{d}(\iota(x), \iota(y))&=\tilde{d}([(c^x_n)], [(c^y_n)])=\lim_{n\to\infty} d(c^x_n, c^y_n)\\ &=\lim_{n\to\infty} d(x,y)=d(x,y) \end{aligned} $$ となるからである。

さらに、像 $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であること、つまり $\tilde{X}=\operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ であることを示そう。それには $\tilde{X}\subset \operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ を示せばよい。そのため、任意に $\xi\in \tilde{X}$ を与える。$\xi\in \operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ を命題 4.5の条件を用いて示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$B_{\tilde{d}}(\xi, \varepsilon)\cap\iota(X)\neq\emptyset$ を示せばよい。つまり、$x\in X$ であって $\tilde{d}(\xi, \iota(x))<\varepsilon$ となるものを見つければよい。$\xi$ はある $(x_n)\in\mathcal{C}$ を用いて $\xi=[(x_n)]$ と表すことができる。$(x_n)$ は $(X, d)$ のCauchy列なので、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して $n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2$ となる。このとき $x=x_N$ とおくと、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon/2$ となるので、 $$ \begin{aligned} \tilde{d}(\xi, \iota(x))&=\tilde{d}([(x_n)], [(c^x_n)])=\lim_{n\to\infty} d(x_n, c^x_n)\\ &=\lim_{n\to\infty} d(x_n, x)\leq\varepsilon/2<\varepsilon \end{aligned} $$ となる。よって $x\in X$ は求める性質を満たすから、$\iota(X)$ が $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であることが示された。

最後に、$(\tilde{X}, \tilde{d})$ が完備距離空間であることを示そう。そのため、$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ を $(\tilde{X}, \tilde{d})$ のCauchy列とする。すでに示したように $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ において稠密であるから、$\xi_n\in\operatorname{Cl}_{\tilde{X}} \iota(X)$ であり、したがって $B_{\tilde{d}}(\xi_n, 1/n)\cap \iota(X)\neq\emptyset$ である。よって、$x_n\in X$ を $\tilde{d}(\xi_n, \iota(x_n))<1/n$ となるように選べる。このとき、$(x_n)\in\mathcal{C}$ であること、つまり $(x_n)$ が $(X, d)$ のCauchy列であることを示そう。そのため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ は $(\tilde{X}, \tilde{d})$ のCauchy列であるので、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $\tilde{d}(\xi_n, \xi_m)<\varepsilon/3$ となる。$N$ を必要なら大きく取り換え、$1/N\leq\varepsilon/3$ が成り立つとしてよい。さて、$n, m\geq N$ なる $n, m$ を任意に与える。このとき、$\iota$ が等長埋め込みであることにより $$ \begin{aligned} d(x_n, x_m)&=\tilde{d}(\iota(x_n), \iota(x_m))\\ &\leq\tilde{d}(\iota(x_n), \xi_n)+\tilde{d}(\xi_n, \xi_m)+\tilde{d}(\xi_m, \iota(x_m))\\ &<1/n+\varepsilon/3+1/m\leq 1/N+\varepsilon/3+1/N\\ &\leq\varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon \end{aligned} $$ となる。これで、$(x_n)$ が $(X, d)$ のCauchy列であること、つまり $(x_n)\in\mathcal{C}$ が示された。そこで、$\xi=[(x_n)]\in\tilde{X}$ とする。このとき、$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ が $(\tilde{X}, \tilde{d})$ において $\xi$ に収束することを示そう。そのため、任意に $\varepsilon>0$ を与える。$(x_n)$ は $(X,d)$ におけるCauchy列であるから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n, m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\varepsilon/2$ となる。さらに、必要なら $N$ を大きく取り換えて、$1/N<\varepsilon/2$ であるとしてよい。$m\geq N$ を任意に与えると、 $$ \begin{aligned} \tilde{d}(\xi, \iota(x_m)) &=\tilde{d}([(x_n)], [(c^{x_m}_n)])=\lim_{n\to\infty}d(x_n, c^{x_m}_n)\\ &=\lim_{n\to\infty} d(x_n, x_m)\leq\varepsilon/2 \end{aligned} $$ であり、かつ $$ d(\iota(x_m), \xi_m)<1/m\leq 1/N<\varepsilon/2 $$ であるから、 $$ \tilde{d}(\xi, \xi_m)\leq \tilde{d}(\xi, \iota(x_m))+d(\iota(x_m), \xi_m)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ となる。これで、$(\xi_n)_{n=1}^\infty$ が $(\tilde{X}, \tilde{d})$ において $\xi$ に収束することが示され、$(\tilde{X}, \tilde{d})$ の完備性が証明された。

以上で、距離空間 $(X, d)$ の完備化 $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ が得られた。$\square$

距離空間 $(X, d)$ の完備化は正式には $((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ という対のことであるが、$X$ を $\iota(X)$ と同一視して $X\subset\tilde{X}$ であると見なした上で、単に $(\tilde{X}, \tilde{d})$ あるいは $\tilde{X}$ のことを $X$ の完備化と呼ぶ場合が多い。距離空間の完備化はある意味での一意性も成り立つが、その証明は後で行う(定理 13.27)。

定義 13.16 (直径)

$(X, d)$ を距離空間とする。$X$ の空でない部分集合 $A$ に対して $$ \operatorname{diam} A=\sup\{d(x,y)\,|\,x,y\in A\} $$ と定義し、これを $A$ の直径(diameter)と呼ぶ。$\operatorname{diam} A$ は $+\infty$ を含む非負の実数値を取る。なお、便宜的に $\operatorname{diam} \emptyset=0$ と定義する。$\operatorname{diam} A<+\infty$ であるとき、$A$ は $X$ の有界(bounded)な部分集合であるという。

$X$ 自身も $X$ の部分集合なので、$\operatorname{diam} X$ が定義される。$\operatorname{diam} X<+\infty$ であるとき、距離空間 $(X, d)$ は有界であるという。$\square$

なお、定理 9.20の前でEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合の有界性をすでに定義しているが、このときの定義と上の定義は、次の命題により矛盾していない。

命題 13.17 (有界性の同値な定義)

$(X, d)$ を距離空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。このとき、$X$ の部分集合 $A$ に対して次は同値である。

  • (1) $A$ は有界である。
  • (2) 任意の $x\in X$ に対して $R>0$ が存在して $A\subset B_d(x, R)$ である。
  • (3) ある $x\in X$ に対して $R>0$ が存在して $A\subset B_d(x, R)$ である。

証明

(1)$\Rightarrow$(2)を示す。$A$ を有界とすると、$M=\diam A$ とおくとき $M<+\infty$ である。$x\in X$ を任意に与える。ある $R>0$ に対して $A\subset B_d(x, R)$ であることを示そう。$A=\emptyset$ であれば $A\subset B_d(x,1)$ となるから、$A\neq\emptyset$ であるとする。すると、$a_0\in A$ が存在する。このとき、任意の $a\in A$ に対して $d(x, a)\leq d(x, a_0)+d(a_0, a)\leq d(x, a_0)+M$ である。そこで $R=d(x, a_0)+M+1$ とおけば、任意の $a\in A$ に対して $d(x, a)<R$ である。これは $A\subset B_d(x, R)$ を意味する。

(2)$\Rightarrow$(3)は($X\neq\emptyset$ であることから)明らかである。

(3)$\Rightarrow$(1)を示す。ある $x\in X$ と $R>0$ に対して $A\subset B_d(x, R)$ が成り立つとする。$a, b\in A$ を任意に与えると $d(a, b)\leq d(a, x)+d(x, b)<R+R=2R$ となる。したがって、$\diam A\leq 2R<+\infty$ であるから、$A$ は有界である。$\square$

命題 13.18 (完備距離空間における直径が0に収束する閉集合の減少列)

$(X, d)$ を完備距離空間、$(F_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の空でない閉集合からなる列で、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $F_{n+1}\subset F_n$ を満たし、かつ $\lim_{n\to\infty} \operatorname{diam} F_n=0$ となるようなものとする。このとき、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ はちょうど一つの点からなる集合である。

証明

まず、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ は高々一つの点からなること、すなわち、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ が二つ以上の点をもつことはない、ということを示そう。そこで、$x, y\in\bigcap_{n=1}^\infty$ とし、$x\neq y$ であったとする。すると、$r=d(x,y)>0$ である。いま、$\operatorname{diam} F_n\to 0$ であるから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $\operatorname{diam} F_n<r$ である。このとき $x, y\in F_n$ であるから、 $$ r=d(x, y)\leq\operatorname{diam} F_n<r $$ となり矛盾する。

あとは、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n\neq\emptyset$ を示せばよい。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $F_n\neq\emptyset$ であったので、$x_n\in F_n$ を選べる。こうして $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られるが、$(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることを示そう。そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$\operatorname{diam} F_n\to 0$ であるから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して $\operatorname{diam} F_N<\varepsilon$ である。$n, m\geq N$ となる $n, m$ を任意に与える。このとき、$x_n\in F_n\subset F_N,$ $x_m\in F_m\subset F_N$ であるから、 $d(x_n, x_m)\leq\operatorname{diam} F_N<\varepsilon$ である。これで、$(x_n)_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることが示された。$(X, d)$ は完備であるから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ はある点 $x$ に収束する。 このとき、$x\in\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ となることを示そう。そのため、任意に $n\in\mathbb{N}$ を与える。すると、点列 $(x_{n+i-1})_{i=1}^\infty$ は $F_n$ の点列で、$x$ に収束する。$F_n$ は $X$ の閉集合であったから、$x\in F_n$ である。$n\in\mathbb{N}$ は任意であったから、これで $x\in\bigcap_{n=1}^\infty F_n$ が示された。よって、$\bigcap_{n=1}^\infty F_n\neq\emptyset$ である。$\square$

完備距離空間について成り立つ次の定理は幅広い応用をもっている。

定理 13.19 (Baireのカテゴリー定理)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_n$ が $X$ の稠密な開集合であるとする。このとき、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ は $X$ の稠密な部分集合である。

証明

$x\in X$ とし、$\varepsilon>0$ とする。このとき、$B(x,\varepsilon)\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n\neq\emptyset$ であることを示せばよい(定理 13.15の証明で、$\iota(X)$ が $\tilde{X}$ の稠密な部分集合であることを示したときと同様である)。

$U_1$ は $X$ において稠密であるから、点 $x_1\in B(x,\varepsilon/2)\cap U_1$ が存在する。$U_1$ は開集合であるから、$\varepsilon_1>0$ を、$\varepsilon_1<\varepsilon/2$ かつ $B(x_1, \varepsilon_1)\subset B(x, \varepsilon/2)\cap U_1$ であるように取れる。 次に、$U_2$ は $X$ において稠密であるから、点 $x_2\in B(x_1, \varepsilon_1/2)\cap U_2$ が存在する。$U_2$ は開集合であるから、$\varepsilon_2>0$ を、$\varepsilon_2<\varepsilon/4$ かつ $B(x_2, \varepsilon_2)\subset B(x_1, \varepsilon_1/2)\cap U_2$ であるように取れる。

この操作を繰り返すことで、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ と正の実数の列 $(\varepsilon_n)_{n=1}^\infty$ を $$ B(x_n,\varepsilon_n)\subset B(x_{n-1}, \varepsilon_{n-1}/2)\cap U_n, \quad\varepsilon_n<\varepsilon/2^n \quad(n\in\mathbb{N}) $$ となるように取れる(ただし、$x_0=x,$ $\varepsilon_0=\varepsilon$ とする)。いま、$F_n=\overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)\,(n=0,1,2,\ldots)$ とおけば、$F_n$ は空でない閉集合で、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $$ \begin{aligned} F_n&=\overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)\subset B(x_n, \varepsilon_n)\\ &\subset B(x_{n-1}, \varepsilon_{n-1}/2)\subset \overline{B}(x_{n-1}, \varepsilon_{n-1}/2)=F_{n-1} \end{aligned} $$ である。しかも、$\operatorname{diam} F_n\leq \varepsilon_n<\varepsilon/2^n\,(n\in\mathbb{N})$ であるから $\operatorname{diam} F_n\to 0$ である。したがって、命題 13.18により、$\bigcap_{n=0}^\infty F_n=\bigcap_{n=0}^\infty \overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)$ はちょうど一つの点 $x_\infty$ からなる。

$x_\infty\in F_0=\overline{B}(x_0, \varepsilon_0/2)=\overline{B}(x, \varepsilon/2)$ であるから、$x_\infty\in B(x, \varepsilon)$ である。次に $n\in\mathbb{N}$ を任意に与える。 $$ F_n=\overline{B}(x_n, \varepsilon_n/2)\subset B(x_n, \varepsilon_n)\subset U_n $$ であるから、$x_\infty\in F_n\subset U_n$ である。これが任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して成り立つので $x_\infty\in\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ である。したがって、$x_\infty\in B(x, \varepsilon)\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ である。これで $B(x,\varepsilon)\cap\bigcap_{n=1}^\infty U_n\neq\emptyset$ が示されたので、証明が終わった。$\square$

Baireのカテゴリー定理は次の形で用いられることも多い。位相空間 $X$ における部分集合 $A$ の内部(定義 4.18)を $\operatorname{Int}_X A$ または $\operatorname{Int} A$ と表すのであった。

系 13.20 (Baireのカテゴリー定理の帰結)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。$(A_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の部分集合の列で $\bigcup_{n=1}^\infty A_n=X$ を満たすものとする。このとき、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して、$\operatorname{Int}\operatorname{Cl} A_n\neq\emptyset$ となる。

証明

結論を否定し、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $\operatorname{Int}\operatorname{Cl} A_n=\emptyset$ であるとする。このとき、$U_n=X\setminus \operatorname{Cl} A_n$ とおくと、$U_n$ は $X$ の開集合であり、また命題 4.21により、 $$ \emptyset=\operatorname{Int} \operatorname{Cl} A_n=\operatorname{Int} (X\setminus U_n)=X\setminus \operatorname{Cl} U_n $$ であるから $\operatorname{Cl} U_n=X$ となり、$U_n$ は $X$ において稠密と分かる。したがって、定理 13.19により、$\bigcap_{n=1}^\infty U_n$ も $X$ において稠密である。ところが、 $$ \bigcap_{n=1}^\infty U_n=\bigcap_{n=1}^\infty (X\setminus \operatorname{Cl} A_n)=X\setminus \bigcup_{n=1}^\infty \operatorname{Cl} A_n=X\setminus X=\emptyset $$ であるから、これは空集合 $\emptyset$ が $X$ において稠密であることを意味している。$X\neq\emptyset$ としていたから、これは起こり得ない。$\square$

一般に、位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、$\operatorname{Int} \operatorname{Cl} A=\emptyset$ が成り立つとき $A$ は($X$ において)全疎(nowhere dense)であるという。この用語を使うと、系 13.20は次のように述べることができる。

系 13.21 (完備距離空間と全疎集合)

空でない完備距離空間は、可算個の全疎集合の和集合に表すことができない。$\square$

完備距離空間について成り立つもう一つの特筆すべき定理として、次のBanachの不動点定理がある。

定理 13.22 (Banachの不動点定理)

$(X, d)$ を完備距離空間とし、$X\neq\emptyset$ とする。写像 $f\colon X\to X$ が、ある定数 $c$ (ただし、$0<c<1$)に対して次を満たすとする。 $$ d(f(x), f(y))\leq cd(x,y)\quad(\star) $$ このとき、$f$ はただ一つの不動点をもつ。すなわち、$x\in X$ がただ一つ存在して $f(x)=x$ を満たす。

証明

まず、$f$ は連続であることに注意しておく。実際、任意の $\varepsilon>0,$ $x\in X$ を与えるとき、$\delta=\varepsilon$ とおくと、$d(x, x')<\delta$ となる任意の $x'\in X$ に対して $(\star)$ により $d(f(x), f(x'))\leq cd(x,x')\leq d(x,x')<\delta=\varepsilon$ となるからである。

$X\neq\emptyset$ であることを用いて $x_1\in X$ を一つ取り固定する。$x_2=f(x_1),\,x_3=f(x_2),\ldots, x_{n+1}=f(x_n),\ldots$ により $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を定める。すると、各 $n,m\in\mathbb{N}$ に対して $d(x_{n+1}, x_{m+1})=d(f(x_n), f(x_m))\leq cd(x_n, x_m)$ であるから、これを繰り返し用いて、任意の $n,m,i\in\mathbb{N}$ に対して $$ d(x_{n+i}, x_{m+i})\leq c^id(x_n, x_m)\quad(\star) $$ となる。

さて、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X,d)$ のCauchy列であることを示そう。そこで $\varepsilon>0$ を任意に与える。$N\in\mathbb{N}$ を十分大きくとり、 $$ \frac{c^N d(x_1, x_2)}{1-c}<\varepsilon $$ となるようにする。$n\geq m\geq N$ となる $n, m$ を任意に与える。すると $(\star)$ により $$ \begin{aligned} d(x_m, x_n)&\leq c^{m-1}d(x_1, x_{n-m+1})<c^N\sum_{i=1}^{n-m+1} d(x_i, x_{i+1})\\ &<c^N\sum_{i=1}^{n-m+1} c^{i-1} d(x_1, x_2)<\frac{c^N d(x_1, x_2)}{1-c}<\varepsilon \end{aligned} $$ となる。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列である。$(X, d)$ は完備であるから、$(x_n)_{n=1}^\infty$ はある点 $x\in X$ に収束する。最初に注意したように $f$ は連続であるから、命題 5.19により $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。ところが、$f(x_n)=x_{n+1}$ であるから、$(x_{n+1})_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ も $f(x)$ に収束する。かくして、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ にも $f(x)$ にも収束するから、命題 11.10により $x=f(x)$ である。

あとは、$x=f(x)$ を満たす $x\in X$ が一意的であることを示せばよい。そこで、$x, x'\in X$ とし、$x=f(x),$ $x'=f(x')$ を満たすとする。このとき $(\star)$ により $$ d(x, x')=d(f(x), f(x'))\leq cd(x, x')\leq d(x, x') $$ であるから、$d(x, x')=cd(x, x')$ である。よって、$(1-c)d(x,x')=0$ であるが、$0<c<1$ であったから $d(x,x')=0$ であり、したがって $x=x'$ である。$\square$

$0<c<1$ であるようなある定数 $c$ に対して上の定理の $(\star)$ を満たす写像 $f\colon X\to X$ を縮小写像(contraction mapping)という。そのため、上の定理は縮小写像の原理(contraction principle)とも呼ばれる。

さて、距離空間の間の一様連続写像の概念を定義する。

定義 13.23 (一様連続性)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とするとき、写像 $f\colon X\to Y$ が一様連続(uniformly continuous)であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して、次が成り立つことをいう:

「$x, x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

連続写像と一様連続写像の違いには注意が必要である。命題 5.9によれば、距離空間 $(X,d),$ $(Y,d')$ に対して、$f\colon X\to Y$ が連続写像であることは次と同値なのであった:

任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して、次が成り立つ。「$x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

上においては、$\delta$ を $x$ と $\varepsilon$ の両方に依存した形で取ることができるのに対して、さきほどの一様連続性の定義では、$\delta$ を $\varepsilon$ のみに依存した形で取れなければならない。したがって、$\delta$ の取り方についての要求は一様連続性の方が厳しいものになっている($\varepsilon$ を固定して $x$ を動かしたとき、連続性の場合は $\delta$ が変化することが許されるのに対して、一様連続性の場合はそれが許されないのだから、確かに一様連続性の方が $\delta$ の取り方に厳しい要請を課している!)。よって写像 $f\colon X\to Y$ に対して一様連続性は連続性よりも強い条件である。つまり、一様連続写像はすべて連続写像である。

例 13.24 (連続だが一様連続でない写像)

$X=(0,+\infty)$ として、連続写像 $f\colon X\to X$ を $f(x)=1/x$ で定める。このとき、$f$ は一様連続ではないことを示そう。そのためには、$\varepsilon=1$ とおくとき、一様連続性の定義にあるような $\delta>0$ が存在しないことを示せばよい。もし、そのような $\delta>0$ が存在すれば、

$x, x'\in X,$ $|x-x'|<\delta$ ならば $|f(x)-f(x')|<1(=\varepsilon)\quad(\star)$

となるはずである。$n\in\mathbb{N}$ を十分大きく取り、$1/n<\delta$ となるようにしよう。いま $x=1/n,$ $x'=1/(n+1)$ とおけば、$|x-x'|<1/n-1/(n+1)<1/n<\delta$ である。しかし、$|f(x)-f(x')|=|n-(n+1)|=1$ となるから、$|f(x)-f(x')|<1$ は成立しない。これは、$(\star)$ が成立することに反する。よって、$f\colon X\to X$ は一様連続ではない。$\square$

定理 13.25 (コンパクト距離空間から距離空間への連続写像は一様連続)

$(X, d),$ $(Y,d')$ を距離空間、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$X$ がコンパクトならば、$f$ は一様連続である。

証明

$f$ が一様連続であることを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$f$ は連続であるから、 $$ \mathcal{U}=\{f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))\,|\,y\in Y\} $$ は $X$ の開被覆である。$X$ はコンパクトな距離空間であるから、定理 13.5により、開被覆 $\mathcal{U}$ のLebesgue数 $\delta>0$ が存在する。つまり、$\delta>0$ が存在して以下を満たす:「任意の $x\in X$ に対して $y\in Y$ であって $B_d(x,\delta)\subset f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))$ となるものが存在する。」この $\delta$ が一様連続性の定義を満たすことを示すため、$x, x'\in X$ で $d(x, x')<\delta$ を満たすものを任意に与える。このとき、$\delta$ の取り方から、ある $y\in Y$ が存在して $B_d(x,\delta)\subset f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))$ である。いま $x, x'\in B_d(x,\delta)$ なので、$x, x'\in f^{-1}(B_{d'}(y,\varepsilon/2))$ であり、よって $f(x), f(x')\in B_{d'}(y,\varepsilon/2)$ である。したがって、 $$ d'(f(x), f(x'))\leq d'(f(x),y)+d'(y,f(x'))<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon $$ である。これで、$f\colon X\to Y$ が一様連続であることが示された。$\square$

命題 13.26 (一様連続写像はCauchy列をCauchy列にうつす)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とし、$f\colon X\to Y$ を一様連続写像とする。$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $(X, d)$ のCauchy列ならば、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $(Y, d')$ のCauchy列である。

証明

$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $(Y, d')$ のCauchy列であることを示すため、$\varepsilon>0$ とする。$f\colon X\to Y$ は一様連続であるから、ある $\delta>0$ が存在して、$x, x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ となる。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列であるから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n,m\geq N$ のとき常に $d(x_n, x_m)<\delta$ となる。このとき、$\delta$ の取り方から、$n,m\geq N$ のとき常に $d'(f(x_n), f(x_m))<\varepsilon$ である。これで、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ がCauchy列であることが示された。$\square$

定理 13.27 (完備距離空間に値をとる一様連続写像の稠密部分集合からの拡張)

$(X,d)$ を距離空間、$A$ を $X$ の稠密な部分集合とし、$(Y,d')$ を完備距離空間とする。また、$f\colon A\to Y$ を一様連続写像とする。このとき、$f$ は $X$ 上の一様連続写像に一意的に拡張できる。すなわち、一様連続写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ であって $\tilde{f}|_A=f$ となるものが一意的に存在する。

証明

一様連続写像は連続写像であるから、命題 11.9により、定理の主張のような一様連続写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ は存在すれば一意的であることが分かる。したがって、あとはそのような一様連続写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ が存在することを示せばよい。

$x\in X$ を任意に与える。$A$ は $X$ において稠密であるから、命題 4.7により、$A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ で $x_n\to x$ となるものが存在する。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ のCauchy列である。これを示すため、$\varepsilon>0$ とする。$x_n\to x$ だから、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon/2$ である。このとき、$n, m\geq N$ ならば $d(x_n, x_m)\leq d(x_n, x)+d(x, x_m)<\varepsilon/2+\varepsilon/2=\varepsilon$ である。よって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ のCauchy列である。したがって、命題 13.26により、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $(Y, d')$ のCauchy列であるから、$(Y, d')$ の完備性により、極限 $\lim_{n\to\infty} f(x_n)\in Y$ が存在する。

この極限 $\lim_{n\to\infty} f(x_n)\in Y$ が $x_n\to x$ となる $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ の取り方によらないことを示そう。そこで、$(x'_n)_{n=1}^\infty$ を $x'_n\to x$ となるもう一つの $A$ の点列とする。このとき、$y=\lim_{n\to\infty} f(x_n),$ $y'=\lim_{n\to\infty} f(x'_n)$ とおいて $y=y'$ を示そう。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。$f$ は一様連続なので、ある $\delta>0$ が存在して、$d(a, a')<\delta$ となる任意の $a, a'\in A$ に対して $d'(f(a), f(a'))<\varepsilon/3$ である。いま、$x_n\to x,$ $x'_n\to x,$ $f(x_n)\to y,$ $f(x'_n)\to y'$ なので、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N$ のとき常に $$ d(x_n, x)<\delta/2, \quad d(x'_n, x)<\delta/2,\quad d'(f(x_n),y)<\varepsilon/3,\quad d'(f(x'_n),y')<\varepsilon/3 $$ となる。よって、$n\geq N$ のとき $d(x_n, x'_n)\leq d(x_n, x)+d(x, x'_n)<\delta/2+\delta/2=\delta$ であり、したがって $d'(f(x_n), f(x'_n))<\varepsilon/3$ となるから $$ d'(y,y')\leq d'(y, f(x_n))+d'(f(x_n), f(x'_n))+d'(f'(x'_n), y')<\varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon $$ となる。これが任意の $\varepsilon>0$ について成り立つので、$d'(y,y')=0$ であり、よって $y=y'$ である。

以上から、この極限 $\lim_{n\to\infty} f(x_n)$ は最初に与えた $x\in X$ のみによって定まるので、これを $\tilde{f}(x)$ とおけば、写像 $\tilde{f}\colon X\to Y$ が定まる。

このとき、$\tilde{f}|_A=f$ である。これを示すため、$x\in X$ とする。このときは、$x$ に収束する $A$ の点列として、$c^x_n=x\,(n\in\mathbb{N})$ で定義される点列 $(c^x_n)_{n=1}^\infty$ が取れる。したがって、$\tilde{f}(x)=\lim_{n\to\infty} f(c^x_n)=\lim_{n\to\infty} f(x)=f(x)$ となる。これで、$\tilde{f}|_A=f$ が示された。

最後に、$\tilde{f}\colon X\to Y$ が一様連続となることを示そう。そのため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$f\colon A\to Y$ は一様連続なので、$\delta>0$ が存在して、$a, a'\in A,$ $d(a, a')<\delta$ ならば $d'(f(a), f(a'))<\varepsilon/3$ となる。そこで、$d(x, x')<\delta/3$ であるような $x, x'\in X$ を任意に与える。$A$ の点列 $(x_n),$ $(x'_n)$ で $x_n\to x,$ $x'_n\to x'$ となるようなものを取る。すると、$f(x_n)\to\tilde{f}(x),$ $f(x'_n)\to\tilde{f}(x')$ も成り立つから、$N\in\mathbb{N}$ を十分大きく取るとき $$ d(x_N, x)<\delta/3,\quad d(x'_N, x')<\delta/3,\quad d'(f(x_N), \tilde{f}(x))<\varepsilon/3,\quad d'(f(x'_N), \tilde{f}(x'))<\varepsilon/3 $$ となる。すると、 $$ d(x_N, x'_N)\leq d(x_N, x)+d(x, x')+d(x', x'_N)<\delta/3+\delta/3+\delta/3=\delta $$ であるから、$\delta$ の取り方により $d'(f(x_N), f(x'_N))<\varepsilon/3$ である。したがって、 $$ d(\tilde{f}(x), \tilde{f}(x'))\leq d'(\tilde{f}(x), f(x_N))+d'(f(x_N), f(x'_N))+d'(f(x'_N), \tilde{f}(x'))<\varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon $$ となり、これで $\tilde{f}$ の一様連続性が示された。$\square$

定理 13.28 (完備化の一意性)

$(X, d)$ を距離空間とするとき、$(X, d)$ の完備化は次の意味で一意的である:$((\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ と $((\tilde{X}', \tilde{d}'), \iota')$ がともに $(X, d)$ の完備化であるならば、等長写像 $\Phi\colon \tilde{X}\to\tilde{X}'$ であって $\Phi\circ\iota=\iota'$ となるものがただ一つ存在する。

証明

$( (\tilde{X}, \tilde{d}), \iota)$ と $( (\tilde{X}', \tilde{d}'), \iota')$ をともに $(X, d)$ の完備化とする。$\iota\colon X\to\tilde{X}$ と $\iota'\colon X\to\tilde{X}'$ は等長埋め込みだから、等長埋め込み $\varphi\colon \iota(X)\to\tilde{X}'$ が $\varphi(\iota(x) )=\iota'(x)$ により定義される。等長埋め込みは明らかに一様連続であるから、$\tilde{X}'$ の完備性により $\varphi$ に定理 13.27を適用でき、一様連続写像 $\Phi\colon \tilde{X}\to\tilde{X}'$ で $\Phi|_{\iota(X)}=\varphi$ となるものが一意的に存在すると分かる。この $\Phi$ は $\Phi\circ\iota=\iota'$ を満たすことが定義からすぐに分かる。

$\Phi$ が等長写像であることを示そう。そのため、次の写像 $f, g\colon\tilde{X}\times\tilde{X}\to\mathbb{R}$ を考える。 $$ f(\xi, \eta)=\tilde{d}(\xi, \eta),\quad g(\xi, \eta)=\tilde{d}'(\Phi(\xi), \Phi(\eta))\qquad(\xi, \eta\in\tilde{X}) $$ このとき $f, g$ はともに命題 13.1により連続である。さらに、$f|_{\iota(X)\times\iota(X)}=g|_{\iota(X)\times\iota(X)}$ である。実際、$x, y\in X$ のとき、$\varphi$ が等長埋め込みであることより $$ \begin{aligned} f(\iota(x), \iota(x)) &=\tilde{d}(\iota(x), \iota(y))=\tilde{d}'(\varphi(\iota(x)), \varphi(\iota(y)))\\ &=\tilde{d}'(\iota'(x), \iota'(y))=\tilde{d}'(\Phi(\iota(x)), \Phi(\iota(y)))\\ &=g(\iota(x), \iota(y)) \end{aligned} $$ となるからである。ところが $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ において稠密だから、$\iota(X)\times\iota(X)$ は $\tilde{X}\times\tilde{X}$ において稠密である(命題 8.20から分かる)。よって、命題 11.9により、$f=g$ である。このことは、$\Phi$ が等長写像であることを示している。

最後に、$\Phi$ の一意性を示すため、もう一つの等長写像 $\Phi'\colon\tilde{X}\to\tilde{X}'$ が $\Phi'\circ\iota=\iota'$ を満たしたとする。すると任意の $x\in X$ に対して $\Phi(\iota(x))=\iota'(x)=\Phi'(\iota(x))$ なので、$\Phi|_{\iota(X)}=\Phi'|_{\iota(X)}$ である。$\Phi,$ $\Phi'$ は連続であり $\iota(X)$ は $\tilde{X}$ において稠密なので、再び命題 11.9により $\Phi=\Phi'$ である。これで定理は証明された。$\square$

最後に、一様同相写像の概念にふれておく。

定義 13.29 (一様同相写像)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。$f\colon X\to Y$ が一様同相写像(uniform homeomorphism)であるとは、$f$ が全単射な一様連続写像であって、逆 $f^{-1}\colon Y\to X$ も一様連続であることをいう。一様同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき、二つの距離空間 $(X, d)$ と $(Y, d')$ は一様同相(uniformly homeomorphic)であるという。

一様同相写像の定義は、同相写像の定義で「連続写像」となっているところをすべて「一様連続写像」に置き換えたものである。一様連続写像は連続写像であるから、一様同相写像は同相写像である。なお、一様同相写像 $f\colon X\to Y$ においては、定義域 $X$ と終域 $Y$ はそれぞれ距離空間でなければならないことに注意する(実際には、「一様空間」というより広い枠組みでも一様同相写像は定義されるが、ここではふれない)。

完備性は位相的性質ではない、つまり同相写像では保たれないことをすでに述べたが(例 13.11)、一様同相写像では保たれる。すなわち、次が成り立つ。

命題 13.30 (完備性は一様同相で不変な性質である)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。$(X, d)$ が完備であり、$(X, d)$ と $(Y, d')$ が一様同相であるならば、$(Y, d')$ も完備である。

証明

$(X, d)$ と $(Y, d')$ は一様同相なので、一様同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在する。$(Y, d')$ の完備性を示すため、$(y_n)_{n=1}^\infty$ を $(Y, d')$ のCauchy列とする。いま、$f^{-1}\colon Y\to X$ は一様連続だから、命題 13.26により、$(f^{-1}(y_n))_{n=1}^\infty$ は $(X, d)$ のCauchy列である。よって、$(X, d)$ の完備性により、ある $x\in X$ に対して $f^{-1}(y_n)\to x$ となる。$f$ は一様連続、とくに連続であるから、このとき命題 5.19により $y_n=f(f^{-1}(y_n))\to f(x)$ となる。これで、$(Y, d')$ の完備性が示された。$\square$

一様同相写像ではない同相写像の例としては、例 13.11の同相写像 $h\colon [0, \infty)\to [0, 1)$ が挙げられる。実際、$[0, \infty)$ は完備であり $[0, 1)$ は完備ではないからである。

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関連項目



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Last-modified: 2020-12-02 (水) 21:27:15 (1d)