位相線形空間1:ノルムと内積

<<現在工事中>>

入門テキスト「位相線形空間」

  • 位相線形空間1:ノルムと内積

1. ノルム、Banach空間(環、*-環)の定義

本稿においては、$\mathbb{F}$ により $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ を表すこととする。また $\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$ とする。

定義1.1(ノルム空間、Banach空間)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線型空間とする。 $$X\ni x\mapsto \lVert x\rVert \in [0,\infty)$$ が $X$ 上のノルムであるとは次が成り立つことを言う。

  • $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し、$\lVert x+y\rVert\leq \lVert x\rVert+\lVert y\rVert$.
  • $(2)$ 任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し、$\lVert \alpha x\rVert=\lvert\alpha\rvert\lVert x\rVert$.
  • $(3)$ $\lVert x\rVert=0$ $\Leftrightarrow$ $x=0$.

ノルムが備わった $\mathbb{F}$ 上の線型空間を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間と言う。$\mathbb{F}$ 上のノルム空間 $X$ に対し、 $$X\times X\ni (x,y)\mapsto \lVert x-y\rVert\in[0,\infty)$$ は $X$ 上の距離である。ノルム空間はこの距離による距離空間とみなす。そして $\mathbb{F}$ 上のノルム空間で、この距離により完備距離空間であるものを $\mathbb{F}$ 上の Banach 空間と言う。

ユークリッド空間 $\mathbb{R}^N$ は $\mathbb{R}$ 上のBanach 空間、ユニタリ空間 $\mathbb{C}^N$ は $\mathbb{C}$ 上のBanach 空間である。

定義1.2(部分空間に誘導されるノルム)

ノルム空間の線形部分空間はのノルムをそのまま受け継いだノルム空間とみなす。

Banach空間の閉部分空間はBanach空間である。

定義1.3(多元環)

$\mathbb{F}$ 上の線形空間 $X$ に 乗法 $X\times X\ni (x,y)\mapsto xy\in X$ が定義されており、加法と乗法に関して環をなし、スカラー倍と乗法に関して、 $$ \alpha(xy)=(\alpha x)y=x(\alpha y)\quad(\forall \alpha\in \mathbb{F},\forall x,y\in X) $$ が成り立つとき、$X$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環と言う。

定義1.4(ノルム環、Banach環)

$\mathbb{F}$ 上の多元環 $X$ がノルム空間( resp. Banach 空間)であり、 $$ \lVert xy\rVert\leq \lVert x\rVert\lVert y\rVert\quad(\forall x,y\in X) $$ が成り立つとき、$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム環( resp. Banach 環)と言う。

定義1.5(*-環)

$\mathbb{F}$ 上の多元環 $X$ にさらに対合と呼ばれる演算 $X\ni x\mapsto x^*\in X$ が定義されており、次が成り立つとき $X$ を*-環と言う。

  • $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し $(x+y)^*=x^*+y^*$
  • $(2)$ 任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し $(\alpha x)^*=\overline{\alpha}x^*$.
  • $(3)$ 任意の $x,y\in X$ に対し $(xy)^*=y^*x^*$.
  • $(4)$ 任意の $x\in X$ に対し $x^{**}=x$.

定義1.6(ノルム*-環、Banach *-環)

$\mathbb{F}$ 上の*-環 $X$ がノルム環(resp. Banach環)でもあるとする。 $$ \lVert x^*\rVert=\lVert x\rVert\quad(\forall x\in X) $$ が成り立つとき $X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム*-環(resp. Banach *-環)と言う。

定義1.7($C^*$-環)

$\mathbb{F}$ 上の*-環 $X$ がBanach環でもあり、 $$ \lVert x^*x\rVert=\lVert x\rVert^2\quad(\forall x\in X)\quad\quad(*) $$ が成り立つとき $X$ を $\mathbb{F}$ 上の $C^*$-環と言う。また $(*)$ を $C^*$-ノルム条件と言う。任意の $x\in X$ に対し $C^*$-ノルム条件より、 $$ \lVert x\rVert^2=\lVert x^*x\rVert\leq \lVert x^*\rVert\lVert x\rVert $$ であるから $\lVert x\rVert\leq\lVert x^*\rVert$ 、したがって $\lVert x\rVert=\lVert x^*\rVert$ である。よって $C^*$-環は特にBanach *環である。

2 商ノルム

定義2.1(商ノルム)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間、$M\subset X$ を閉部分空間とし、$X/M$ を商線形空間、 $$ X\ni x\mapsto [x]\in X/M $$ を商写像とする。このとき、 $$ \lVert [x]\rVert:=\inf\{\lVert x-y\rVert:y\in M\}\quad(\forall [x]\in X/M)\quad\quad(*) $$ として、$X/M$ 上のノルムが定義できる。(次の命題2.2による。)これを $X/M$ 上の商ノルムと言う。

命題2.2

定義2.1の $(*)$ によって $X/M$ 上のノルムが定義される。

証明

$[x_1]=[x_2]$ ならば $x_1-x_2\in M$ であるから、 $$ \{\lVert x_1-y\rVert:y\in M\}=\{\lVert x_1+(x_2-x_1)-y:y\in M\}=\{\lVert x_2-y\rVert:y\in M\} $$ である。よって $(*)$ により $X/M\ni [x]\mapsto \lVert [x]\rVert\in[0,\infty)$ が定義できる。任意の $[x_1],[x_2]\in X/M$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\inf\{\lVert x_1+x_2-y\rVert:y\in M\}=\inf\{\lVert x_1-y_1+x_2-y_2\rVert:y_1,y_2\in M\}\\ &\leq \inf\{\lVert x_1-y_1\rVert:y_1\in M\}+\inf\{\lVert x_2-y_2\rVert:y_2\in M\} \end{aligned} $$ であるから $\lVert [x_1]+[x_2]\rVert\leq \lVert [x_1]\rVert+\lVert [x_2]\rVert$ が成り立つ。また任意の $[x]\in X/M$ と任意の $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し、 $$ \inf\{\lVert \alpha x-y\rVert:y\in M\}=\inf\{\lVert \alpha x-\alpha y\rVert:y\in M\} =\lvert\alpha\rvert\inf\{\lVert x-y\rVert:y\in M\} $$ であるから $\lVert\alpha[x]\rVert=\lvert\alpha\rvert\lVert [x]\rVert$ が成り立つ。$\lVert [x]\rVert=0$ ならば下限の定義より任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $\lVert x-y\rVert<\epsilon$ なる $y\in M$ が取れるので $x\in \overline{M}=M$、したがって $[x]=0$ である。

命題2.3(Banach空間の商ノルム空間はBanach空間)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のBanach空間、$M\subset X$ を閉部分空間とする。このとき $X/M$ は商ノルムによりBanach空間である。

証明

$(z_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X/M$ のCauchy列とする。$(z_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が収束する部分列を持つことを示せば十分である。Cauchy列であることから部分列 $(z_{k(n)})_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ \lVert z_{k(n+1)}-z_{k(n)}\rVert<\frac{1}{2^n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れる。これに対し商ノルムの定義と帰納法により $X$ の列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ z_{k(n)}=x_n,\quad \lVert x_{n+1}-x_n\rVert<\frac{1}{2^n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れ、$m\geq n$ なる任意の $n,m\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert x_m-x_n\rVert<\frac{2}{2^n} $$ であるから $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $X$ のCauchy列である。$X$ はBanach空間であるので $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はある $x\in X$ に収束する。よって、 $$ \lVert z_{k(n)}-[x]\rVert\leq \lVert x_{n}-x\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから $(z_{k(n)})_{n\in \mathbb{N}}$ は収束する。

定義2.4(多元環のイデアル、*-環の *-イデアル)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環とする。空でない $I\subset X$ が 加法とスカラー倍で閉じており、任意の $x\in X$ と任意の $y\in I$ に対し $xy,yx\in I$ が成り立つとき、$I$ を $X$ のイデアルと言う。
$X$ を $\mathbb{F}$ 上の *-環とする。空でない $I\subset X$ が 加法とスカラー倍と対合で閉じており、任意の $x\in X$ と任意の $y\in I$ に対し $xy,yx\in I$ が成り立つとき、$I$ を $X$ の *-イデアルと言う。

命題2.5(商ノルム環、商Banach環)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム環、$I\subset X$ を閉イデアルとする。このとき商多元環 $X/I$ は商ノルムによりノルム環である。また $X$ がBanach環ならば $X/I$ は商ノルムによりBanach環である。さらに $X$ が Banach *-環であり、$I$ が閉 *-イデアルならば $X/I$ は商ノルムによりBanach *-環である。

証明

任意の $[x_1],[x_2]\in X/I$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\inf\{\lVert x_1x_2-y\rVert:y\in I\}\leq \inf\{\lVert (x_1-y_1)(x_2-y_2)\rVert:y_1,y_2\in I\}\\ &\leq \inf\{\lVert x_1-y_1\rVert:y_1\in I\}\inf\{\lVert x_2-y_2\rVert:y_2\in I\} \end{aligned} $$ であるから $\lVert [x_1][x_2]\rVert\leq \lVert [x_1]\rVert\lVert [x_2]\rVert$ が成り立つ。よって $X/I$ は商ノルムによりノルム環である。$X$ がBanach環ならば命題2.3より $X/I$ はBanach環である。$X$ がBanach *-環であり、$I$ が *-イデアルであるとき任意の $[x]\in X/I$ に対し、 $$ \{\lVert x^*-y\rVert:y\in I\}=\{\lVert x-y^*\rVert:y\in I\}=\{\lVert x-y\rVert:y\in I\} $$ であるから $\lVert [x]^*\rVert=\lVert [x]\rVert$ である。よって $X/I$ は商ノルムによりBanach *-環である。

3. 有界線形作用素、作用素ノルム

定義3.1($\mathbb{B}(X,Y)$ と作用素ノルム)

$X, Y$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。$X\rightarrow Y$ の線形作用素全体に各点ごとの演算を入れて得られる $\mathbb{F}$ 上の線形空間を $\mathbb{L}(X,Y)$ と表す。そして任意の $T\in \mathbb{L}(X,Y)$ に対し、 $$ \lVert T\rVert=\sup\{\lVert Tx\rVert : x\in X, \lVert x\rVert\leq 1\} $$ とおき、 $$ \mathbb{B}(X,Y)=\{T\in \mathbb{L}(X,Y):\lVert T\rVert<\infty\} $$ とおく。$\mathbb{B}(X,Y)$ の元を $X\rightarrow Y$ の有界線形作用素と言う。 $$ \lVert Tx\rVert\leq\lVert T\rVert \lVert x\rVert\quad(\forall T\in \mathbb{B}(X,Y), \forall x\in X) $$ であるから、$\mathbb{B}(X,Y)$ は $\mathbb{L} (X,Y)$ の線形部分空間であり、 $$ \mathbb{B}(X,Y)\ni T\mapsto \lVert T\rVert\in [0,\infty) $$ は $\mathbb{B}(X,Y)$ 上のノルムである。このノルムを作用素ノルムと言う。後の命題3.4で見るように $Y$ がBanach空間ならば $\mathbb{B}(X,Y)$ はBanach空間である。

定義3.2($\mathbb{B}(X)$)

ノルム空間 $X$ に対し、$X\rightarrow X$ の線形作用素全体のなす線形空間 $$ \mathbb{L}(X):=\mathbb{L}(X,X) $$ は作用素の合成を乗法として多元環をなす。そこで、 $$ \mathbb{B}(X):=\mathbb{B}(X,X)\subset \mathbb{L}(X) $$ とおくと、 $$ \lVert STx\rVert\leq \lVert S\rVert \lVert Tx\rVert \leq \lVert S\rVert \lVert T\rVert \lVert x\rVert\quad (\forall S,T\in \mathbb{B}(X), \forall x\in X) $$ より $\mathbb{B}(X)$ はノルム環をなす。命題3.4で見るように $X$ がBanach空間ならば $\mathbb{B}(X)$ はBanach環である。

命題3.3(有界線形作用素の特徴付け)

$X,Y$ をノルム空間とする。$T\in \mathbb{L}(X,Y)$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T\in \mathbb{B}(X,Y)$.
  • $(2)$ $T$ は一様連続である。
  • $(3)$ $T$ は $0\in X$ において連続である。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ は $\lVert Tx\rVert\leq \lVert T\rVert \lVert x\rVert$ であることによる。 $(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。$(3)\Rightarrow(1)$ を示す。 $T$ が $0\in X$ において連続であるとすると、$\delta\in(0,\infty)$ が存在し $\lVert x\rVert\leq \delta$ を満たす任意の $x\in X$ に対し $\lVert Tx\rVert\leq 1$ となる。よって $T$ の線形性より、 $$ \lVert T\rVert=\sup\{\lVert Tx\rVert: \lVert x\rVert\leq 1\}\leq \delta^{-1} $$ であるから、$T$ は有界線形作用素である。

命題3.4($Y$ がBanach空間ならば $\mathbb{B}(X,Y)$ は Banach 空間)

$X$ をノルム空間、$Y$ をBanach空間とする。このとき $\mathbb{B}(X,Y)$ は Banach 空間である。

証明

$(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\mathbb{B}(X,Y)$ の Cauchy 列とする。任意の $x\in X$ に対し、 $$ \lVert T_nx-T_mx\rVert\leq \lVert T_n-T_m\rVert \lVert x\rVert\quad(\forall n,m\in\mathbb{N}) $$ であるから、$(T_nx)_{n\in \mathbb{N}}$ はBanach空間 $Y$ の Cauchy 列である。よって、 $$ Tx=\lim_{n\rightarrow\infty} T_nx\quad(\forall x\in X) $$ として $T:X\rightarrow Y$ が定義でき、$T$ は明らかに線型作用素である。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $n_0\in\mathbb{N}$ で、 $$ \lVert T_n-T_m\rVert\leq \epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ なるものを取る。このとき任意の $m\geq n_0$と、$\lVert x\rVert\leq 1$ なる任意の $x\in X$ に対し、 $$ \lVert Tx-T_mx\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert T_nx-T_mx\rVert=\inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_kx-T_mx\rVert\leq \sup_{k\geq n_0}\lVert T_kx-T_mx\rVert \leq \epsilon $$ であるから $T=(T-T_m)+T_m\in \mathbb{B}(X,Y)$ であり、$(T_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $T$ に収束する。よって $\mathbb{B}(X,Y)$ は Banach 空間である。

定義3.5(ノルム空間 $X$ の双対空間 $X^*$ )

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。命題3.4より $X$ 上の有界線形汎関数全体 $\mathbb{B}(X,\mathbb{F})$ はBanach空間である。これを $X$ の双対空間と言い、$X^*$ と表す。

命題3.6(有界線形作用素の閉包上への一意拡張)

$X$ をノルム空間、$Y$ をBanach空間、$M\subset X$ を部分空間とする。このとき任意の $T\in \mathbb{B}(M,Y)$ に対し $\overline{T}\in \mathbb{B}(\overline{M},Y)$ で、 $\overline{T}|_M=T$ を満たすものが唯一つ存在する。そして $\lVert \overline{T}\rVert=\lVert T\rVert$ である。

証明

一意性は $M\subset \overline{M}$ の稠密性と $\mathbb{B}(\overline{M},Y)$ の元の連続性による。存在を示す。任意の $x\in \overline{M}$ に対し $x$ に収束する $M$ の列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が取れ、$\lVert Tx_n-Tx_m\rVert\leq \lVert T\rVert \lVert x_n-x_m\rVert$ $(\forall n,m\in\mathbb{N})$ であるから $(T_nx)_{n\in\mathbb{N}}$ はBanach空間 $Y$ の Cauchy 列である。よって $(Tx_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は収束する。$(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ とは別に $x$ に収束する $M$ の列 $(x_n')_{n\in \mathbb{N}}$ を取ると、 $$ \lVert Tx_n-Tx_n'\rVert\leq \lVert T\rVert \lVert x_n-x_n'\rVert\leq \lVert T\rVert( \lVert x_n-x\rVert +\lVert x-x_n'\rVert)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、$(Tx_n)_{n\in \mathbb{N}}$ と $(Tx_n')_{n\in \mathbb{N}}$ が収束する点は一致する。よって $\overline{T}x=\lim_{n\rightarrow\infty} Tx_n$ として $\overline{T}:\overline{M}\rightarrow Y$ が定義できる。$\overline{T}$ は明らかに線型作用素であり、$T$ の拡張である。そして、 $$ \lVert \overline{T}x\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert Tx_n\rVert \leq \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert T\rVert \lVert x_n\rVert=\lVert T\rVert \lVert x\rVert $$ であるから $\overline{T}\in \mathbb{B}(\overline{M},Y)$、$\lVert \overline{T}\rVert\leq \lVert T\rVert$である。逆の不等式は $\overline{T}$ は $T$ の拡張であるから成り立つ。

4. 有限次元ノルム空間

命題4.1(基本命題)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の有限次元ノルム空間、$e_1,\ldots, e_N$ を $X$ の基底とし、線型同型写像 $$ \Phi: \mathbb{F}^N\ni (t_1,\ldots, t_N)\mapsto \sum_{j=1}^{N}t_je_j\in X $$ を定義する。このとき $\Phi^{-1}:X\rightarrow \mathbb{F}^N$ は有界線形作用素である。

証明

$$ B=\{t\in \mathbb{F}^N: \lvert t\rvert<1\},\quad S=\{t\in \mathbb{F}^N:\lvert t\rvert=1\},\quad E=\{t\in \mathbb{F}^N: \lvert t\rvert>1\} $$ とおく。$\Phi$ は連続であり、$S$ はコンパクトであるから $\Phi(S)$ は $X$ のコンパクト集合、したがって閉集合である。そして $0\in X\backslash \Phi(S)$ であるから、 $$ \overline{B}_X(0,\delta)=\{x\in X:\lVert x\rVert\leq\delta\}\subset X\backslash \Phi(S)=\Phi(B\cup E) $$ なる $\delta\in(0,\infty)$ が取れる。 $$ \Phi^{-1}(\overline{B}_X(0,\delta))\subset B\cup E $$ であり、$\Phi^{-1}(\overline{B}_X(0,\delta))$ は凸集合ゆえ(弧状)連結であるから、 $$ \Phi^{-1}(\overline{B}_X(0,\delta))\subset B $$ が成り立つ。これより、 $$ \lVert \Phi^{-1}(x)\rVert\leq \delta^{-1}\lVert x\rVert\quad(\forall x\in X) $$ が成り立つので、$\Phi^{-1}:\mathbb{F}^N\rightarrow X$ は有界線形作用素である。

系4.2(有限次元ノルム空間はBanach空間)

任意の有限次元ノルム空間はBanach空間である。

証明

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の $N$ 次元ノルム空間とし、命題3.1における同相写像 $\Phi:\mathbb{F}^N\rightarrow X$ を考える。$(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を $X$ の Cauchy 列とすると、$(\Phi^{-1}(x_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{F}^N$ の Cauchy 列であり、$\mathbb{F}^N$ は Banach 空間であるので $(\Phi^{-1}(x_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は収束する。よって $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は収束する。

系4.3(ノルム空間の有限次元部分空間は自動的に閉)

ノルム空間の有限次元部分空間は閉である。

証明

$X$ をノルム空間、$M\subset X$ を有限次元部分空間とする。任意の $x\in \overline{M}$ に対し $x$ に収束する $M$ の点列 $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が取れる。$M$ はBanach空間なので $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $M$ において収束する。ゆえに $x\in M$ である。

系4.4(有限次元ノルム空間からノルム空間への線形作用素は自動的に有界)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の有限次元ノルム空間、$Y$ を$\mathbb{F}$ 上の任意のノルム空間とする。このとき任意の線形作用素 $T:X\rightarrow Y$ に対し $T$ は有界線形作用素である。

証明

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の $N$ 次元ノルム空間とし、命題3.1における同相写像 $\Phi:\mathbb{F}^N\rightarrow X$ を考える。 $$ \hat{T}: \mathbb{F}^N\ni (t_1,\ldots,t_N)\mapsto \sum_{j=1}^{N}t_jTe_j\in Y $$ は連続な線形作用素なので有界線形作用素である。$T$ は有界線形作用素 $\Phi^{-1}$ と $\hat{T}$ の合成なので、有界線形作用素である。

5. Banach空間における総和

定義5.1(総和 $\sum_{j\in J}x_j$ の収束)

$X$ をノルム空間、$J$ を集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in X$ が与えられているとする。そして $\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れた有向集合とする。$\mathcal{F}_J$ によって添字付けられた $X$ のネット $(\sum_{j\in F}x_j)_{F\in \mathcal{F}_J}$ が収束するとき、$\sum_{j\in J}x_j$ は収束すると言い、その収束点を、 $$ \sum_{j\in J}x_j=\lim_{F\rightarrow J}\sum_{j\in F}x_j $$ と表す。

ネットについてはネットによる位相空間論を参照されたい。

注意5.2( $\sum_{n=1}^{\infty}x_n$ と $\sum_{n\in\mathbb{N}}x_n$ )

$\sum_{n\in\mathbb{N}}x_n$ が収束するならば $\sum_{n=1}^{\infty}x_n$ は $\sum_{n\in\mathbb{N}}x_n$ に収束する。しかし逆は一般に成り立たない。

命題5.3(総和が収束するならば可算個を除いて $0$ )

$\sum_{j\in J}x_j$ が収束するならば、$\{j\in J:x_j\neq 0\}$ は可算集合である。

証明

任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $J_{\epsilon}=\{j\in J:\lVert x_j\rVert\geq\epsilon\}$ とおくと、 $$ \{j\in J:x_j\neq0\}=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}J_{\frac{1}{n}} $$ である。これより任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $J_{\epsilon}$ が有限集合であることを示せばよい。$\sum_{j\in J}x_j$ は収束するので、$F_{\epsilon}\in \mathcal{F}_J$ が存在し $F\supset F_{\epsilon}$ なる任意の $F\in \mathcal{F}_J$ に対し、 $$ \left\lVert \sum_{j\in F}x_j-\sum_{j\in F_{\epsilon}}x_j\right\rVert<\epsilon $$ となる。よって任意の $j\in J\backslash F_{\epsilon}$ に対し $\lVert x_j\rVert<\epsilon$ であるから、$J_{\epsilon}\subset F_{\epsilon}$ である。ゆえに $J_{\epsilon}$ は有限集合である。

定義5.4(非負数の総和)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in [0,\infty]$ が与えられているとする。$J$ の有限部分集合全体 $\mathcal{F}_J$ に対し、 $$ \sum_{j\in J}x_j=\sup_{F\in \mathcal{F_J}}\sum_{j\in F}x_j\in [0,\infty] $$ と定義する。$\mathbb{R}$ の上に有界な単調増加ネットは上限に収束するから、この定義は $x_j\in [0,\infty)$ $(\forall j\in J)$ で $\sum_{j\in J}x_j$ が収束する場合と矛盾しない。

定義5.5(総和の絶対収束)

$X$ をノルム空間、$J$ を集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in X$ が与えられているとする。$\sum_{j\in J}\lVert x_j\rVert<\infty$ が成り立つとき $\sum_{j\in J}x_j$ は絶対収束すると言う。

命題5.6(Banach空間における総和について絶対収束 $\Rightarrow$ 収束)

$X$をBanach空間、$J$を集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in X$ が与えられているとする。そして $\sum_{j\in J}x_j$ が絶対収束するとする。このとき $\sum_{j\in J}x_j$ は収束する。

証明

$J_0=\{j\in J:x_j\neq0\}$ とおく。 命題5.3より $J_0$ は可算集合である。もし $J_0$ が有限集合ならば明らかに $\sum_{j\in J}x_j$ は $\sum_{j\in J_0}x_j$ に収束する。 そこで $J_0$ は可算無限集合であるとし $\mathbb{N}\ni n\mapsto j_n\in J_0$ を全単射とする。 $$ \sum_{n=1}^{\infty}\lVert x_{j_n}\rVert=\sum_{n\in \mathbb{N}}\lVert x_{j_n}\rVert=\sum_{j\in J_0}\lVert x_j\rVert=\sum_{j\in J}\lVert x_j\rVert<\infty $$ であり、$N>M$ なる任意の $N,M\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \left\lVert\sum_{n=1}^{N}x_{j_n}-\sum_{n=1}^{M}x_{j_n}\right\rVert \leq \sum_{n=M+1}^{N}\lVert x_{j_n}\rVert =\sum_{n=1}^{N}\lVert x_{j_n}\rVert-\sum_{n=1}^{M}\lVert x_{j_n}\rVert $$ であるから $X$ の完備性より$\sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}$ は収束する。任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $N\in \mathbb{N}$ で、 $$ \left\lVert \sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}-\sum_{n=1}^{N}x_{j_n}\right\rVert<\frac{\epsilon}{2},\quad \sum_{n\geq N+1}\lVert x_{j_n}\rVert<\frac{\epsilon}{2} $$ なるものを取ると、$F\supset \{j_1,\ldots,j_N\}$ なる任意の $F\in \mathcal{F}_J$に対し, $$ \left\lVert \sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}-\sum_{j\in F}x_j\right\rVert \leq \lVert \sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}-\sum_{n=1}^{N}x_{j_n}\rVert+\sum_{n\geq N+1}\lVert x_{j_n}\rVert<\epsilon $$ となるので $\sum_{j\in J}x_j$ は $\sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}$ に収束する。

6. 内積、Hilbert空間、直交分解、Rieszの定理

定義6.1(内積、内積空間、Hilbert空間)

$\mathcal{H}$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $$ (\cdot\mid \cdot):\mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto (u\mid v)\in \mathbb{F} $$ が $\mathcal{H}$ 上の内積であるとは次が成り立つことを言う。

  • $(1)$ 任意の $u\in\mathcal{H}$ に対し $\mathcal{H}\ni v\mapsto (u\mid v)\in \mathbb{F}$ は線形汎関数。
  • $(2)$ 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $\overline{(u\mid v)}=(v\mid u)$.
  • $(3)$ 任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid v)\geq0$.
  • $(4)$ $(v\mid v)=0$ $\Leftrightarrow$ $v=0$.

内積が備わった $\mathbb{F}$ 上の線形空間を $\mathbb{F}$ 上の内積空間と言う。 $$ \lVert v\rVert:=\sqrt{(v\mid v)}\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ とおくと、Schwarzの不等式(次の命題6.2) $$ \lvert (u\mid v)\rvert\leq \lVert u\rVert \lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in\mathcal{H}) $$ が成り立つので、$\mathcal{H}\ni v\mapsto \lVert v\rVert \in [0,\infty)$ は $\mathcal{H}$ 上のノルムである。このノルムを内積から誘導されるノルムと言う。内積空間はこの内積から誘導されるノルムによるノルム空間とみなす。内積空間でBanach空間であるものをHilbert空間と言う。

ユークリッド空間 $\mathbb{R}^N$ は $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間、ユニタリ空間 $\mathbb{C}^N$ は $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間である。

命題6.2(Schwarzの不等式)

$\mathcal{H}$ を内積空間とすると、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lvert(u\mid v)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert,\quad \lVert u+v\rVert\leq \lVert u\rVert+\lVert v\rVert \quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ が成り立つ。

証明

$v=0$ ならば自明であるので $v\neq0$ とする。任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し、 $$ 0\leq (u-\alpha v\mid u-\alpha v)=\lVert u\rVert^2-\overline{\alpha(u\mid v)}-\alpha(u\mid v)+\lvert\alpha\rvert^2\lVert v\rVert^2 $$ であるから、 $$ \alpha:=\frac{(v\mid u)}{\lVert v\rVert^2} $$ とおけば、 $$ 0\leq \lVert u\rVert^2-\frac{\lvert (u\mid v)\rvert^2}{\lVert v\rVert^2} $$ を得る。よって $\lvert (u\mid v)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert$ が成り立つ。そしてこれより、 $$ \lVert u+v\rVert^2=(u+v\mid u+v)=\lVert u\rVert^2+2\text{Re}(u\mid v)+\lVert v\rVert^2\leq \lVert u\rVert^2+2\lVert u\rVert\lVert v\rVert+\lVert v\rVert^2 =(\lVert u\rVert+\lVert v\rVert)^2 $$ であるから $\lVert u+v\rVert\leq \lVert u\rVert+\lVert v\rVert$ が成り立つ。

定義6.3(反線形写像)

$V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$T:V\rightarrow W$ が反線形写像であるとは、 $$ T(u+v)=Tu+Tv,\quad T\alpha v=\overline{\alpha}Tv\quad(\forall u,v\in V,\forall \alpha\in \mathbb{F}) $$ が成り立つことを言う。$\mathbb{F}=\mathbb{R}$ の場合、反線形写像は線形写像である。

定義6.4(準双線形写像(汎関数))

$U,V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $$ \Phi:U\times V\ni (u,v)\mapsto \Phi(u,v)\in W $$ が準双線形写像であるとは、任意の $u\in U$ に対し $V\ni v\mapsto \Phi(u,v)\in W$ が線形写像であり、任意の $v\in V$ に対し $U\ni u\mapsto \Phi(u,v)\in W$ が反線形写像であることを言う。$W=\mathbb{F}$ である場合は準双線形汎関数と言う。

定義6.5(有界(準)双線形写像)

$U,V,W$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。(準)双線形写像 $\Phi:U\times V\rightarrow W$ に対し、 $$ \lVert \Phi\rVert:=\sup\{\lVert \Phi(u,v)\rVert:\lVert u\rVert\leq1,\lVert v\rVert\leq1\} $$ とおく。$\lVert \Phi\rVert<\infty$ であるとき $\Phi$ は有界であると言い、$\lVert\Phi\rVert$ を $\Phi$ のノルムと言う。 $$ \lVert \Phi(u,v)\rVert\leq \lVert \Phi\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u\in U,\forall v\in V) $$ であるから有界(準)双線形写像 $\Phi:U\times V\rightarrow W$ は直積位相に関して連続である。

注意6.6(内積はノルムが $1$ 以下の有界準双線形汎関数)

Schwarzの不等式より内積 $\mathcal{H}\times\mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto (u\mid v)\in \mathbb{F}$ はノルムが $1$ 以下の有界準双線形汎関数である。上で述べているように内積は直積位相で連続である。

定義6.7(直交、直交補空間)

$\mathcal{H}$ を内積空間とする。$u,v\in \mathcal{H}$ に対し $(u\mid v)=0$ が成り立つとき $u$ と $v$ は互いに直交すると言う。また $E,F\subset \mathcal{H}$ に対し $(u\mid v)=0$ $(\forall u\in E,\forall v\in F)$ が成り立つとき $E,F$ は互いに直交すると言う。$E\subset \mathcal{H}$ に対し、 $$ E^{\perp}:=\{v\in \mathcal{H}:\forall u\in E, (u\mid v)=0\} $$ を $E$ の直交補空間と言う。内積の連続性より $E^{\perp}\subset \mathcal{H}$ は閉部分空間であり、$E^{\perp}=(\overline{E})^{\perp}$ である。

注意6.8(中線定理)

$\mathcal{H}$ を内積空間とする。任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert u+v\rVert^2+\lVert u-v\rVert^2=2(\lVert u\rVert^2+\lVert v\rVert^2) $$ が成り立つ。

補題6.9(Hilbert空間の閉凸集合と最適近似)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$C\subset \mathcal{H}$ を閉凸集合とする。このとき任意の $u\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert u-v_0\rVert=d(u,C) $$ を満たす $v_0\in C$ が唯一つ存在する。ただし $d(u,C)$ は $u$ と $C$ の距離、すなわち、 $$ d(u,C)=\inf\{\lVert u-v\rVert:v\in C\} $$ である。

証明

下限の定義より $C$ の列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ d(u,C)=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert u-v_n\rVert $$ を満たすものが取れる。中線定理より任意の $n,m\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert (u-v_n)+(u-v_m)\rVert^2+\lVert v_n-v_m\rVert^2 =2(\lVert u-v_n\rVert^2+\lVert u-v_m\rVert^2) $$ であり、$C$ が凸集合であることから、 $$ \lVert (u-v_n)+(u-v_m)\rVert^2 =4\left\lVert u-\frac{1}{2}(v_n+v_m)\right\rVert^2\geq 4d(u,C)^2 $$ であるので、 $$ \lVert v_n-v_m\rVert^2\leq 2\{(\lVert u-v_n\rVert^2-d(u,C)^2)+(\lVert u-v_m\rVert^2-d(u,C)^2)\} $$ である。よって $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はCauchy列である。$\mathcal{H}$ はHilbert空間であり $C$ は閉であるから $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はある $v_0\in C$ に収束し、 $$ \lVert u-v_0\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert u-v_n\rVert=d(u,C) $$ である。もし $v_0'\in C$ も $\lVert u-v_0'\rVert=d(u,C)$ を満たすならば、中線定理より、 $$ \begin{aligned} 4d(u,C)^2&=\lVert (u-v_0)+(u-v_0')\rVert^2+\lVert v_0-v_0'\rVert^2\\ &=4\left\lVert u-\frac{1}{2}(v_0+v_0')\right\rVert^2+\lVert v_0-v_0'\rVert^2\\ &\geq 4d(u,C)^2+\lVert v_0-v_0'\rVert^2 \end{aligned} $$ である。よって $\lVert v_0-v_0'\rVert=0$ であるから $v_0=v_0'$ である。

注意6.10(互いに直交する部分空間の和は直和)

$\mathcal{H}$ を内積空間、$M,N\subset \mathcal{H}$ を互いに直交する部分空間とする。このとき任意の $v\in M\cap N$ に対し $\lVert v\rvert^2=(v\mid v)=0$ であるので $M\cap N=\{0\}$ である。よって和空間 $M+N=\{u+v:u\in M,v\in N\}$ は直和 $M\oplus N$ である。

定理6.11(Hilbert空間の直交分解)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$M\subset \mathcal{H}$ を閉部分空間とする。このとき、 $$ \mathcal{H}=M\oplus M^{\perp} $$ が成り立つ。

証明

任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し補題6.9より $\lVert v-v_1\rVert=d(v,M)$ なる $v_1\in M$ が一意存在する。$v_2:=v-v_1$ とおき、$v_2\in M^{\perp}$ が成り立つことを示せばよい。任意の $u\in M$ と任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert v_2\mp\epsilon u\rVert=\lVert v-(v_1\pm \epsilon u)\rVert \geq d(v,M)=\lVert v_2\rVert $$ であるから、 $$ \lVert v_2\rVert^2\leq \lVert v_2\rVert^2\mp 2\epsilon\text{Re}(v_2\mid u)+\epsilon^2\lVert u\rVert^2 $$ である。したがって、 $$ \pm2\text{Re}(v_2\mid u)\leq\epsilon\lVert u\rVert^2\quad(\forall u\in M,\forall \epsilon\in (0,\infty)) $$ が成り立つ。よって $u\in M$ と $\epsilon\in(0,\infty)$ の任意性より、 $$ {\rm Re}(v_2\mid u)=0\quad(\forall u\in M) $$ である。$\mathcal{H}$ が $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間の場合は、 $$ {\rm Im}(v_2\mid u)={\rm Re}(v_2\mid iu)=0\quad(\forall u\in M) $$ である。よって $v_2\in M^{\perp}$ である。

命題6.12(Hilbert空間の部分空間の閉包は第二直交補空間)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ の部分空間 $M$ に対し、 $$ M^{\perp\perp}=\overline{M} $$ が成り立つ。

証明

$(M)^{\perp}=(\overline{M})^{\perp}$ であるから、$M$ は閉部分空間であるとして示せば十分である。$M\subset M^{\perp\perp}$ は自明である。逆の包含関係を示す。任意の $v\in M^{\perp\perp}$ に対し定理6.11より、 $$ v=v_1+v_2,\quad v_1\in M,\quad v_2\in M^{\perp} $$ と表され、$v_1\in M\subset M^{\perp\perp}$ より、 $$ v_2=v-v_1\in M^{\perp}\cap M^{\perp\perp}=\{0\} $$ である。よって $v=v_1\in M$ である。

定理6.13(Rieszの定理)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ に対し、 $$ \mathcal{H}\ni v\mapsto (v\mid \cdot)\in \mathcal{H}^* $$ はノルムを保存する全単射反線形写像である。

証明

内積の定義とSchwarzの不等式より反線形写像であり、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $\lVert (v\mid \cdot)\rVert\leq\lVert v\rVert$ である。また、 $$ \lVert v\rVert^2=(v\mid v)\leq \lVert (v\mid\cdot)\rVert\lVert v\rVert $$ であるから $\lVert (v\mid \cdot)\rVert=\lVert v\rVert$ である。後は全射であることを示せばよい。任意の $\varphi\in \mathcal{H}^*$ を取る。$\varphi=0$ ならば $\varphi=(0\mid\cdot)$ であるから $\varphi\neq0$ とする。このとき閉部分空間 $\text{Ker}(\varphi)$(閉であることは $\varphi$ の連続性による)に対し、$\text{Ker}(\varphi)\neq\mathcal{H}$ であるから、定理6.11より、$v_0\in (\text{Ker}(\varphi))^{\perp}$ で $\varphi(v_0)\neq0$ なるものが取れる。 線形性より $\varphi(v_0)=1$ としてよい。このとき任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $v-\varphi(v)v_0\in \text{Ker}(\varphi)$ であるから、 $$ 0=(v_0\mid v-\varphi(v)v_0)=(v_0\mid v)-\lVert v_0\rVert^2\varphi(v) $$ である。よって $\varphi=(\lVert v_0\rVert^{-2}v_o\mid \cdot)$ であるから、全射である。

7. Hilbert空間上の有界線形作用素の共役作用素

定理7.1(Hilbert空間上の有界準双線形汎関数に対応する有界線形作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とし、$\Phi:\mathcal{H}\times \mathcal{K}\rightarrow\mathbb{F}$ を有界準双線形汎関数とする。このとき、 $$ \Phi(u,v)=(u\mid Tv)\quad(\forall u\in \mathcal{H}, \forall v\in \mathcal{K}) $$ を満たす $T\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ が唯一つ存在する。そして $\lVert \Phi\rVert=\lVert T\rVert$ が成り立つ。

証明

一意性は内積の定義より自明である。任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し $\overline{\Phi(\cdot,v)}\in \mathcal{H}^*$ であるから、Rieszの定理より、$T:\mathcal{K}\rightarrow\mathcal{H}$ で、 $$ \Phi(u,v)=(u\mid Tv)\quad(\forall u\in \mathcal{H}) $$ なるものが定まる。 このとき $\Phi$ と内積の準双線形性より $T:\mathcal{K}\rightarrow\mathcal{H}$ は線形写像であり、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=\Phi(Tv,v)\leq \lVert \Phi\rVert\lVert Tv\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}) $$ であるから、$T\in\mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$、$\lVert T\rVert\leq \lVert \Phi\rVert$ である。またSchwarzの不等式より、 $$ \lvert\Phi(u,v)\rvert=\lvert(u\mid Tv)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert Tv\rVert\leq \lVert T\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in \mathcal{K}) $$ であるから、$\lVert\Phi\rVert\leq \lVert T\rVert$ である。

命題7.2 

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とし、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ とする。このとき、 $$ \Phi:\mathcal{H}\times \mathcal{K}\ni (u,v)\mapsto (Tu\mid v)\in \mathbb{K} $$ はノルムが $\lVert T\rVert$ の有界準双線形汎関数である。

証明

Schwarzの不等式より、 $$ \lvert\Phi(u,v)\rvert=\lvert (Tu\mid v)\rvert\leq \lVert Tu\rVert\lVert v\rVert\leq \lVert T\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in \mathcal{K}) $$ であるから $\lVert \Phi\rVert\leq \lVert T\rVert$ である。また、 $$ \lVert Tu\rVert^2=\Phi(u,Tu)\leq \lVert \Phi\rVert\lVert u\rVert\lVert Tu\rVert \leq \lVert \Phi\rVert\lVert T\rVert\lVert u\rVert^2\quad(\forall u\in \mathcal{H}) $$ であるから $\lVert T\rVert^2\leq \lVert \Phi\rVert\lVert T\rVert$、よって $\lVert T\rVert\leq \lVert\Phi\rVert$ である。

定義7.3(Hilbert空間上の有界線形作用素の共役作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とし、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ とする。このとき定理7.1命題7.2より、 $T^*\in \mathcal{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ で、 $$ (Tu\mid v)=(u\mid T^*v)\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in \mathcal{K}) $$ を満たすものが唯一つ存在し、 $\lVert T\rVert=\lVert T^*\rVert$ である。$T^*$ を $T$ の共役作用素と言う。

命題7.4(共役作用素の基本性質)

$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $S,T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ に対し $(S+T)^*=S^*+T^*$.
  • $(2)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ と任意の $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し $(\alpha T)^*=\overline{\alpha}T^*$.
  • $(3)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$、$S\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{L})$ に対し $(ST)^*=T^*S^*$.*1
  • $(4)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ に対し $T^{**}=T$.
  • $(5)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ に対し $\lVert T^*T\rVert=\lVert T\rVert^2$.

証明

$(1)\sim(4)$ は共役作用素の定義より容易に確かめられる。$(5)$ は、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=(v\mid T^*Tv)\leq \lVert v\rVert\lVert T^*Tv\rVert\leq \lVert T^*T\rVert\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ より $\lVert T\rVert^2\leq \lVert T^*T\rVert\leq \lVert T^*\rVert\lVert T\rVert=\lVert T\rVert^2$ であるから成り立つ。

系7.5(Hilbert空間 $\mathcal{H}$ に対し $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は $C^*$-環)

$\mathbb{F}$ 上のHilbert空間 $\mathcal{H}$ に対しBanach環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は、$\mathbb{B}(\mathcal{H})\ni T\mapsto T^*\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を対合として $\mathbb{F}$ 上の $C^*$-環である。

8. Hilbert空間のCONS

Hilbert空間のCONSについては、測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間を参照されたい。

9. $\ell^p$ 直和Banach空間、直和Hilbert空間

$\ell^p$ 直和Banach空間、直和Hilbert空間については、測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間を参照されたい。

次のページ

関連項目



*1 ただし $ST$ は $S$ と $T$ の合成である。

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-10-25 (日) 16:34:25 (39d)