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位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相 †本稿においては、$\mathbb{F}$ により $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ を表すこととする。また $\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$ とする。 8. セミノルム位相 †定義8.1(位相線形空間) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$X$ がHausdorff空間でもあり、加法とスカラー倍
ノルム空間は位相線形空間である。 定義8.2(セミノルム) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $p:X\rightarrow[0,\infty)$ が $X$ 上のセミノルムであるとは、
が成り立つことを言う。 定義8.3(セミノルムの分離族(separating family of seminorms)) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$X$ 上のセミノルムの集合か$\mathcal{P}$ が $X$ を分離するとは、 $$ \{x\in X:\forall p\in \mathcal{P}, p(x)=0\}=\{0\} $$ が成り立つことを言う。$X$ を分離する $X$ 上のセミノルムの集合を $X$ 上のセミノルムの分離族と呼ぶこととする。 定義8.4(セミノルムの分離族が誘導するセミノルム位相、セミノルム空間) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{P}$ を $X$ 上のセミノルムの分離族とする。任意の $(p,a)\in \mathcal{P}\times X$ に対し、 $$ p_a:X\ni x\mapsto p(x-a)\in [0,\infty) $$ と定義する。このとき $(p_a:X\rightarrow[0,\infty))_{(p,a)\in \mathcal{P}\times X}$ が $X$ 上に誘導する始位相を $\mathcal{P}$ が誘導するセミノルム位相と言う。(始位相に関してはネットによる位相空間論を参照。)次の命題8.6より $X$ はセミノルム位相により位相線形空間である。セミノルム位相による位相線形空間をセミノルム空間と言う。 定義8.5(絶対凸(absolutely convex)) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。凸集合 $C\subset X$ が絶対凸であるとは、任意の $x\in C$ と $\lvert\alpha\rvert\leq 1$ を満たす任意の $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し $\alpha x\in C$ が成り立つことを言う。 命題8.6(セミノルム位相の基本性質) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{P}$ を $X$ 上のセミノルムの分離族とする。$\mathcal{P}$ が誘導するセミノルム位相について次が成り立つ。
証明
例8.7(ノルム空間はセミノルム空間) †$\mathbb{F}$ 上のノルム空間 $(X,\lVert \cdot\rVert)$ は、$1$ つのセミノルムからなるセミノルムの分離族 $\{\lVert \cdot\rVert\}$ から誘導されるセミノルム位相によるセミノルム空間である。 9. 汎弱位相 †定義9.1(線形汎関数の分離族) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$X$ 上の線形汎関数からなる集合 $\mathcal{F}$ が $X$ を分離するとは、 $$ \{x\in X: \forall \varphi\in \mathcal{F},\varphi(x)=0\}=\{0\} $$ が成り立つことを言う。$X$ を分離する $X$ 上の線形汎関数からなる集合を $X$ 上の線形汎関数の分離族と呼ぶこととする。 定義9.2(線形汎関数の分離族が誘導する汎弱位相) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の線形汎関数の分離族とする。任意の $\varphi\in \mathcal{F}$ に対しセミノルム $\lvert\varphi(\cdot)\rvert:X\ni x\mapsto \lvert\varphi(x)\rvert\in [0,\infty)$ を定義する。このとき、 $$ \mathcal{P}:=\{\lvert\varphi(\cdot)\rvert:\varphi\in \mathcal{F}\} $$ は $X$ 上のセミノルムの分離族である。$\mathcal{P}$が誘導する $X$ 上のセミノルム位相を $\mathcal{F}$ が誘導する $X$ 上の汎弱位相と言う。 命題9.3(汎弱位相の基本性質) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の線形汎関数の分離族とする。$\mathcal{F}$ が誘導する $X$ 上の汎弱位相について次が成り立つ。
証明 命題8.6による。 補題9.4 †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\varphi,\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ を $X$ 上の線形汎関数とし、 $$ \bigcap_{k=1}^{n}\text{Ker}(\varphi_k)\subset \text{Ker}(\varphi)\quad\quad(*) $$ が成り立つとする。このとき $\varphi$ は $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の線形結合で表される。 証明 $$ \Phi:X\ni x\mapsto (\varphi_1(x),\ldots,\varphi_n(x))\in \mathbb{F}^n $$ なる線形作用素を考えると、$(*)$ より線形汎関数 $$ \Phi(X)\ni \Phi(x)\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F}\quad\quad(**) $$ が定義できる。そこで、 $$ \mathbb{F}^n=\Phi(X)\oplus M $$ なる部分空間 $M\subset \mathbb{F}^n$ を取り、$(**)$ を $\mathbb{F}^n$ 上の線形汎関数 $$ \psi:\mathbb{F}^n=\Phi(X)\oplus M\ni \Phi(x)+m\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F} $$ に拡張する。$\mathbb{F}^n$ の標準基底 $e_1,\ldots,e_n$ に対し、 $$ \varphi(x)=\psi(\Phi(x))=\psi\left(\sum_{k=1}^{n}\varphi_k(x)e_k\right) =\sum_{k=1}^{n}\psi(e_k)\varphi_k(x)\quad(\forall x\in X) $$ であるから $\varphi$ は $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の線形結合である。 命題9.5(汎弱位相に関して連続な線形汎関数全体) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の線形汎関数の分離族とする。このとき $\mathcal{F}$ が誘導する汎弱位相に関して連続な線形汎関数全体は $\text{span}(\mathcal{F})$ である。ただし $\text{span}(\mathcal{F})$ は $\mathcal{F}$ の元の線形結合全体である。 $$ 証明 $\text{span}(\mathcal{F})$ の元が汎弱位相に関して連続であることは命題9.3の $(1)$ による。(ネットによる位相空間論のネットによる連続性の特徴付けを参照。)$\varphi$ を汎弱位相に関して連続な線形汎関数とする。 このとき $\{x\in X:\lvert\varphi(x)\rvert<1\}$ は $0\in X$ の開近傍であるから、命題9.3の $(3)$ より有限個の $\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in \mathcal{F}$ と $\epsilon\in(0,\infty)$ で、 $$ \bigcap_{k=1}^{n}\{x\in X:\lvert\varphi_k(x)\rvert<\epsilon\}\subset\{x\in X:\lvert\varphi(x)\rvert<1\} $$ なるものが取れる。任意の $x\in X$ と任意の $\delta\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \frac{\epsilon x}{\text{max}(\varphi_1(x),\ldots,\varphi_n(x))+\delta}\in \bigcap_{k=1}^{n}\{x\in X:\lvert\varphi_k(x)\rvert<\epsilon\}\subset\{x\in X:\lvert\varphi(x)\rvert<1\} $$ であるから、 $$ \lvert\varphi(x)\rvert\leq \epsilon^{-1}(\text{max}(\varphi_1(x),\ldots,\varphi_n(x))+\delta) $$ である。よって $\delta\in (0,\infty)$ の任意性より、 $$ \lvert\varphi(x)\rvert\leq \epsilon^{-1}\text{max}(\varphi_1(x),\ldots,\varphi_n(x))\quad(\forall x\in X) $$ が成り立つ。これより、 $$ \bigcap_{k=1}^{n}\text{Ker}(\varphi_k)\subset \text{Ker}(\varphi) $$ であるから補題9.4より $\varphi$ は $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の線形結合で表される。 よって $\varphi\in \text{span}(\mathcal{F})$ である。 10. ノルム空間の双対空間の弱 *-位相、Alaogluの定理 †定義10.1(弱 *-位相) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。任意の $x\in X$ に対し $X^*$ 上の線形汎関数 $$ \iota(x):X^*\ni \varphi\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F} $$ を定義する。このとき $\iota(X)=\{\iota(x):x\in X\}$ は $X^*$ を分離する。$\iota(X)$ が誘導する$X^*$ 上の汎弱位相を弱 *-位相と言う。 注意10.2(弱 *-位相に関する収束の特徴付け) †命題9.3より $X^*$ のネット $(\varphi_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $\varphi\in X^*$ に対し、 $$ \text{弱 *-位相に関して }\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi\quad\Leftrightarrow\quad\text{任意の }x\in X\text{ に対して }\varphi_{\lambda}(x)\rightarrow\varphi(x) $$ である。また命題9.5より弱 *-位相に関して連続な $X^*$ 上の線形汎関数全体は $\iota(X)$ に一致する。 定理10.3(Alaogluの定理) †$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。$X$ の双対空間 $X^*$ の単位ノルム閉球 $(X^*)_1:=\{\varphi\in X^*:\lVert \varphi\rVert\leq 1\}$ は弱 *-位相でコンパクトである。 証明 ネットによる位相空間論のコンパクト性の特徴付けより $(X^*)_1$ の任意の普遍ネット $(\varphi_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が弱 *-位相で収束することを示せばよい。任意の $x\in X$ に対し $(\varphi_{\lambda}(x))_{\lambda\in\Lambda}$ は $\mathbb{F}$ のコンパクト集合 $\{t\in \mathbb{F}:\lvert t\rvert\leq \lVert x\rVert\}$ の普遍ネットであるから収束する。よって $\varphi: X\rightarrow \mathbb{F}$ で、 $$ \varphi(x)=\lim_{\lambda\in\Lambda}\varphi_{\lambda}(x)\quad(\forall x\in X) $$ なるものが定まる。 このとき $\varphi\in (X^*)_1$ であり、 弱 *-位相で $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi$ である。 次のページ †前のページ †関連項目 † |