入門テキスト「位相空間論」

本稿においては、現代数学のどの方面に進むにあたっても必要となる位相空間論の基本事項を、証明をつけた形で解説する。読者には、集合と写像の言葉への慣れを期待する。たとえば、和集合・共通部分などの集合の操作や、全射・単射・像・逆像などの概念には親しんでいるものとする。さらに、具体例を理解するためには、連続性の $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた定義や、数列の収束の定義、実数の基本性質などを理解していることが望ましい。

現代数学では、点の集まりとしての集合に構造を付加することにより、多彩な概念を構成していく。例えば、代数学においては、集合に加法や乗法などの演算という構造を付加して??などといった概念を考える。位相空間は、集合にある種の構造を付加することで、写像の連続性や点列の収束など、ある種の「近さ」にまつわる議論を可能にしたものである。つまり、端的に言えば、位相空間とは「近さ」が定義される場所である。

座標平面 $\mathbb{R}^2$ の中には、我々が慣れ親しんだ数多くの図形、たとえば、線分、円、三角形、四角形がある。こうした図形には、自然に「近さ」の概念があると考えられるが、実際にこれらの図形は $\mathbb{R}^2$ からの相対位相という自然な方法で、位相空間とみなすことができる。しかし、図形を位相空間とみなすことは、同時に「近さ」以外の要素を捨象することでもある。その結果として、通常では同じとは思えない図形が、位相空間として同一(正式な用語では「同相」)となることがある。実際、いま述べた円、三角形、四角形はすべて互いに同相である。しかし、線分はこれらと同相ではない。このように、位相空間の立場では図形がかなり「粗く」分類されることになるが、この立場での図形の分類を目指す学問が位相幾何学である。

上に述べたことからも、位相空間論は幾何学の基礎として重要なことは推察されると思うが、位相空間論の重要性は幾何学に留まるものではない。数学の様々な分野で、直観的には図形とは思えない集合に位相空間の構造を与えることで、ある種の図形的考察が可能となる。一つ例を挙げれば、関数解析学においては、関数のなす集合に位相空間としての構造を与えることで「関数空間」をつくり、関数を点とする一種の図形として取り扱うことで解析学の問題解決に豊富な道具を提供している。

0. Euclid空間の位相

はじめに、位相空間を定義する動機付けとして、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の場合に、写像の連続性を開集合の概念を通して扱うことを考えてみる。ここでは、 $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた連続性の定義にすでに触れていることが望ましい。

本稿では、 $\mathbb{N}$ によって正の整数の全体を表す。 $n\in\mathbb{N}$ に対して、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ とは、実数 $n$ 個の組 $(x_1,\ldots, x_n)$ の全体からなる集合である。 $x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ と $t\in\mathbb{R}$ に対して、 $$ x\pm y=(x_1\pm y_1,\ldots, x_n\pm y_n), \quad tx=(tx_1,\ldots, tx_n) $$ と定義する。 $x=(x_1,\ldots, x_n), y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $x$ と $y$ のEuclid内積 $x\cdot y$ および $x$ のEuclidノルム $\|x\|$ を $$ x\cdot y=\sum_{i=1}^n x_iy_i,\quad \|x\|=\sqrt{x\cdot x}=\sqrt{\sum_{i=1}^n x_i^2} $$ で定義する。Euclidノルム $\|x\|$ は、 $x$ と原点 $0=(0,\ldots,0)$ の間の通常の意味での距離であり、常に0以上の値をとる。このとき、次が成り立つ。

命題 0.1 (Cauchy-Schwarz の不等式)

$x, y\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $(x\cdot y)^2\leq \|x\|^2\|y\|^2$ である。

証明

$x=0$ の場合、不等式は明らかに成立するので $x\neq 0$ とする。 $t\in\mathbb{R}$ に対して $\varphi(t)=\|tx+y\|^2$ とおくと $$ \varphi(t)=t^2\|x\|^2+2 tx\cdot y+\|y\|^2 $$ である。 $\varphi(t)$ は $t$ の2次関数であって、 $t$ によらず 常に $\varphi(t)\geq 0$ である。 よって、その判別式は0以下である。これから、求める不等式が得られる。 $\square$

命題 0.2 (Euclid空間のノルムの性質)

任意の $x, y\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $\|x+y\|\leq \|x\|+\|y\|$ が成り立つ。

証明

$x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)$ とすると、 $$ (\|x\|+\|y\|)^2-\|x+y\|^2=(\|x\|^2+2\|x\|\|y\|+\|y\|^2)-(\|x\|^2+2x\cdot y+\|y\|^2)=2(\|x\|\|y\|-x\cdot y) $$ であるが、命題 0.1により最右辺は0以上となる。よって、求める不等式が得られる。 $\square$

一般に、二点 $x, y\in\mathbb{R}^n$ の間の距離 $d(x, y)$ は $$ d(x, y)=\|x-y\|=\sqrt{(x_1-y_1)^2+\cdots+(x_n-y_n)^2} $$ により定義される。すると、次が成り立つ。

命題 0.3 (Euclid距離の性質)

任意の $x, y, z\in\mathbb{R}^n$ に対して、次が成り立つ。

  • $d(x, y)=0\Longleftrightarrow x=y$
  • $d(x, y)=d(y, x)$
  • $d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)$(三角不等式)

証明

はじめの二つの性質は明らかだろう。最後の三角不等式は、命題 0.2 により $$ d(x, z)=\|x-z\|=\|(x-y)+(y-z)\|\leq \|x-y\|+\|y-z\|=d(x, y)+d(y, z) $$ となることから分かる。 $\square$

距離の概念を用いて、Euclid空間における開球体の概念が定義できる。

定義 0.4 (Euclid空間における開球体)

$x\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、 $\mathbb{R}^n$ の部分集合 $B(x, r)$ を $$ B(x,r)=\{y\in\mathbb{R}^n\,|\,d(y,x)<r\} $$ により定義する。 $B(x, r)$ を、 $x$ を中心とする半径 $r$ の開球体という。 $\square$

さて、Euclid空間の間の写像$f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を考えよう。($n$ と $m$ は異なっていてもよい。)この写像 $f$ が $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であることは、次のように定義されるのだった。

  • 写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が点 $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であるとは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、 $\delta>0$ であって次の条件を満たすものが存在することである:

    「$d_{\mathbb{R}^n}(x,a)<\delta$ を満たすすべての $x\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $d_{\mathbb{R}^m}(f(x), f(a))<\varepsilon$ が成り立つ。」

ここで、定義域 $\mathbb{R}^n$ と終域 $\mathbb{R}^m$ の距離を区別するために、記号 $d_{\mathbb{R}^n}$ と $d_{\mathbb{R}^m}$ を用いた(これは本来必要な区別であるが、記号が煩雑になるのを避けるため、以下では両者を単に $d$ で表す)。

このように定義した上で、写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が連続であることは、任意の $a\in\mathbb{R}^n$ に対して、 $f$ が点 $a$ において連続であることと定義されるのだった(さきほど述べたのは、 $a\in\mathbb{R}^n$ を固定したときに $f$ が点 $a$ において連続であることの定義である。いまは点を指定せずに $f$ そのものが連続であることの定義を述べたのである)。

さて、写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ の連続性は、開球体の言葉で言い換えると次のようになる(これが単なる言い換えにすぎないことを確認せよ。証明は省略する)。

命題 0.5 (開球体を用いた連続性の言い換え)

写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ が点 $a\in\mathbb{R}^n$ において連続であることは、次のことと同値である:

「任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $\delta>0$ が存在して $f(B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ となる。」$\square$

ここでも、開球体が $\mathbb{R}^n$ 内のものか $\mathbb{R}^m$ 内のものかをはっきりさせるため、あえて添字に $\mathbb{R}^n$, $\mathbb{R}^m$ を付けて、 $B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta)$, $B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ のような表記を用いた。

実は、連続性の概念は、次に導入する開集合の言葉によってより簡潔に言い表される。

定義 0.6 (Euclid空間における開集合)

$U$ を $\mathbb{R}^n$ の部分集合とする。 $U$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であるとは、任意の $x\in\mathbb{R}^n$ に対して、ある $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ が成り立つことをいう。 $\square$

つまり、 $U$ が開集合とは、 $U$ のどの点に対しても、その点を中心とする十分小さい開球体が $U$ に含まれていることである。すでに導入した開球体は開集合の例である。すなわち、

命題 0.7 (開球体は開集合である)

任意の $x\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、開球体 $B(x, r)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

証明

$x\in\mathbb{R}^n,$ $r>0$ を任意に与える。 $B(x, r)$ が開集合であることを示そう。 $y\in B(x, r)$ とする。このとき、 $B(y, r')\subset B(x, r)$ であるような $r'>0$ が存在することを示せばよい。 $B(x, r)$ の定義により、 $d(x, y)<r$ である。そこで、 $r'=r-d(x, y)$ とおけば、 $r'>0$ である。このとき、任意に $z\in B(y, r')$ を与えると、 $d(y, z)<r'$ であるので、命題 0.3の三角不等式により、 $$ d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)<d(x, y)+r'=r $$ である。よって、 $z\in B(x, r)$ である。したがって、 $B(y, r')\subset B(x, r)$ である。これで、 $B(x, r)$ が開集合であることが示された。 $\square$

平面 $\mathbb{R}^2$ の場合でいえば、上の結果は、円の内部 $$ \{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,(x-a)^2+(y-b)^2<r^2\} $$ が $\mathbb{R}^2$ の開集合であることを意味している。 このほかにも、例えば、「境界を含まない長方形」 $$ \{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,a<x<b,\, c<y<d\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である(証明してみよ)。開集合の直観的なイメージとしては、ひとまずこのような平面内の「境界を含まない図形」を思い浮かべるのがよいだろう。

開集合は、次の性質をもつ。これは、後の位相空間の定義を理解するために重要である。

命題 0.8 (開集合の性質)

$\mathbb{R}^n$ の開集合について、以下のことが成り立つ。

  • (1) $\emptyset$ および $\mathbb{R}^n$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
  • (2) $\mathbb{R}^n$ の二個の開集合の共通部分は、再び $\mathbb{R}^n$ の開集合である。すなわち、 $U_1, U_2$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であるならば、 $U_1\cap U_2$ も $\mathbb{R}^n$ の開集合である。
  • (3) $\mathbb{R}^n$ の任意の個数の開集合の和集合は、再び $\mathbb{R}^n$ の開集合である。すなわち、以下が成り立つ:$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合を要素とする集合とする(有限集合でも、無限集合でもよい)。このとき、和集合 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_i$ も $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

証明

(1) まず、 $\mathbb{R}^n$ 自身が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示す。 $x\in \mathbb{R}^n$ を任意に与える。このとき、 $B(x, r)\subset\mathbb{R}^n$ となるような $r>0$ を見つければよいが、この場合 $r$ は何でもよい。たとえば、 $r=1$ とすれば $B(x, 1)\subset\mathbb{R}^n$ となり、 $\mathbb{R}^n$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。次に、 $\emptyset$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示す。示すべきことは、任意の $x\in\emptyset$ に対して、ある $r>0$ が存在して $B(x,r)\subset\emptyset$ となることである。これを論理式で書けば次のようになる。 $$ \forall x [(x\in\emptyset) \rightarrow \exists r (r>0 \wedge B(x, r)\subset \emptyset)] $$ いま、 $x\in\emptyset$ は偽であるので、上の論理式の $[(x\in\emptyset) \rightarrow \cdots]$ は真の命題である($P$ が偽であるとき、 $P\rightarrow Q$ は真となるのであった)。これがすべての $x$ について成り立つので、上の論理式は全体として真であり、したがって、 $\emptyset$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

(2) $U_1, U_2$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合とし、 $x\in U_1\cap U_2$ とする。 $i=1, 2$ に対して、 $U_i$ が開集合であって $x\in U_i$ であることから、 $r_i>0$ を $B(x, r_i)\subset U_i$ となるように取れる。そこで、 $r=\mathrm{min}\{r_1, r_2\}$ とすると、 $r>0$ である。すると、 $i=1, 2$ に対して、 $B(x, r)\subset B(x, r_i)\subset U_i$ であるから、 $B(x, r)\subset U_1\cap U_2$ である。これで、 $U_1\cap U_2$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。

(3) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $\mathbb{R}^n$ の開集合からなる集合とする。 $x\in \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、 $x\in U_{\lambda_0}$ である。 $U_{\lambda_0}$ は開集合なので、 $r>0$ を $B(x, r)\subset U_{\lambda_0}$ となるように取れる。 $U_{\lambda_0}\subset \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ であるから、 $B(x, r)\subset \bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、 $\bigcup_{\lamdba\in \Lambda} U_\lambda$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。 $\square$

さて、開集合の言葉を用いると、次のように写像の連続性を簡潔な言葉で言い表すことができる。

定理 0.10 (開集合を用いた写像の連続性の記述)

写像 $f\colon \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) $\mathbb{R}^m$ の任意の開集合 $V$ に対して、その $f$ による逆像 $f^{-1}(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。

証明

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ を連続写像とし、 $V\subset\mathbb{R}^m$ を $\mathbb{R}^m$ の開集合とする。 $f^{-1}(V)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,f(x)\in V\}$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることを示そう。そこで、 $x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、 $f(x)\in V$ で $V$ は $\mathbb{R}^m$ の開集合だから、ある $\varepsilon>0$ が存在して、 $B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)\subset V$ となる。いま、 $f$ は連続であるから、とくに点 $x$ において連続である。したがって、命題 0.5により、 $\delta>0$ が存在して、 $$ f(B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon) $$ となる。この式は、 $$ B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta)\subset f^{-1}(B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)) $$ と言い換えられる(確かめよ)。ところが、 $B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon)\subset V$ であったから、 $f^{-1}(B_{\mathbb{R}^m}(f(x), \varepsilon))\subset f^{-1}(V)$ である。以上により、 $B_{\mathbb{R}^n}(x, \delta)\subset f^{-1}(V)$ である。これで、 $f^{-1}(V)$ が $\mathbb{R}^n$ の開集合であることが示された。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m$ に対して、(2) を仮定する。 $f$ が連続であることを示すため、任意に $a\in\mathbb{R}^n$ を与える。 $f$ が $a$ において連続と分かればよいが、それを示すために命題 0.5を用いることにしよう。そこで、 $\varepsilon>0$ を任意に与える。このときに、 $\delta>0$ であって $f(B_{\mathbb{R}^n}(a,\delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a),\varepsilon)$ であるようなものを見つければよい。いま、 $V=B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ とおけば、命題 0.7により $V$ は $\mathbb{R}^m$ の開集合である。よって、いま仮定している (2) により、 $f^{-1}(V)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。ところが、 $f(a)\in V$ であるから、 $a\in f^{-1}(V)$ である。よって、ある $\delta>0$ に対して、 $$ B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta)\subset f^{-1}(V) $$ である。これは、 $$ f(B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta))\subset V $$ と言い換えられる(さきほども同様の議論があったことに注意せよ)。これは、 $V$ の定義に戻れば $f(B_{\mathbb{R}^n}(a, \delta))\subset B_{\mathbb{R}^m}(f(a), \varepsilon)$ である。これで、 $f$ が $a$ において連続であることが示された。 $a\in\mathbb{R}^n$ は任意であったから、 $f$ は連続であることが示された。 $\square$

定理 0.10 は、(Euclid空間の間の)写像の連続性という性質が、距離を直接用いることなく、開集合の言葉だけで記述できることを示している。逆に言えば、どの集合が開集合であるかさえ知っていれば、距離も開球体も直接には使わずに、写像の連続性は定義できてしまう。

以下で定義される位相空間は、点の集合に対して、「どの部分集合が開集合であるか」というデータだけが与えられている。位相空間においては、距離や開球体という概念を定義することは一般にはできないが、それでも連続写像の概念が定義できる。つまり、定理 0.10における性質 (2) が成り立つ写像を連続写像と定義するのである。

1. 位相空間

では、さっそく位相空間を定義しよう。

定義 1.1 (位相空間の定義)

位相空間(topological space)とは、集合 $X$ と、 $X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ との組 $(X, \mathcal{O})$ であって、以下の条件 (O1), (O2), (O3) を満たすものである。

  • (O1) $\emptyset\in\mathcal{O},$ $X\in\mathcal{O}$ である。
  • (O2) $U_1, U_2\in\mathcal{O}$ ならば $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ である。
  • (O3) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ ならば $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ である。

ここでの集合族 $\mathcal{O}$ を位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合系あるいは位相(topology)といい、 $\mathcal{O}$ の要素を位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合(open set)という。また、 $X$ の要素のことを、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の(point)という。集合 $X$ に対して位相 $\mathcal{O}$ を定めて位相空間 $(X, \mathcal{O})$ をつくることを、位相を定める、位相を入れるなどという。 $\square$

正式には位相空間は $(X,\mathcal{O})$ という組のことであるが、通常は $\mathcal{O}$ を暗黙のうちに固定されたものとみなし、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ と呼ぶかわりに、簡単に「位相空間 $X$」と呼ぶことが多い。

(O1) は空集合 $\emptyset$ と $X$ 自身が位相空間 $X$ の開集合であることを述べている。(O2) は $X$ の二個の開集合の共通部分が $X$ の開集合となることを述べている。(O3) は $X$ の任意個の開集合の和集合が $X$ の開集合となることを述べている。これらの条件は、Euclid空間の開集合については成り立っていたことに注意しよう(命題 0.8)。(O1)-(O3) を「開集合系の公理」と呼ぶこともある。

(O2) は次の条件に置き換えられる。

  • (O2') $U_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}$ ならば $U_1\cap\cdots\cap U_n\in\mathcal{O}$ である。

実際、(O2') で $n=2$ とすれば (O2) が得られるし、逆に (O2) から $n$ についての帰納法で (O2') を導くことができる。以下では、(O2') もいままでの (O1)-(O3) と同様によく用いられる。

続いて、位相空間の閉集合を定義する。

定義 1.2 (閉集合)

位相空間 $X$ の部分集合 $F\subset X$ が $X$ の閉集合(closed set)であるとは、その補集合 $X\setminus F$ が開集合であることをいう。 $\square$

ここで、一般に集合 $A,$ $B$ に対して $A\setminus B$ は差集合 $\{x\in A\,|\,x\notin B\}$ を表す。 後に述べる距離空間においては、閉集合が「点列の収束について閉じた集合」と同じものになることが分かる。このことから、「閉」集合という名前に正当性があることが分かる。開集合系の公理 (O1)-(O3) から、次が分かる。

命題 1.3 (閉集合の満たす性質)

位相空間 $X$ に対して、その閉集合全体の族を $\mathcal{F}$ とすると、次のことが成り立つ。

  • (C1) $\emptyset\in\mathcal{F}$, $X\in\mathcal{F}$ である。
  • (C2) $F_1, F_2\in\mathcal{F}$ ならば $F_1\cup F_2\in\mathcal{F}$ である。
  • (C3) $\{F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{F}$ ならば $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda\in\mathcal{F}$ である。

また、次のことも成り立つ。

  • (C2') $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ ならば $F_1\cup\cdots\cup F_n\in\mathcal{F}$ である。

証明

(C1)を示す。 $X\setminus \emptyset=X$, $X\setminus X=\emptyset$ は (O1) により $X$ の開集合であるから、 $\emptyset$ と $X$ は $X$ の閉集合である。

(C2)を示す。 $F_1, F_2$ を $X$ の閉集合とすると、 $X\setminus F_1, X\setminus F_2$ は $X$ の開集合である。 $X\setminus (F_1\cup F_n)=(X\setminus F_1)\cap(X\setminus F_n)$ であるから、(O2) により $X\setminus (F_1\cup F_2)$ は $X$ の開集合である。よって、 $F_1\cup F_2$ は $X$ の閉集合である。

(C3)を示す。 $\{F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}(\neq\emptyset)$ を、 $X$ の閉集合からなる族とする。このとき、 $\{X\setminus F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ は $X$ の開集合からなる族である。 $X\setminus \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} (X\setminus F_\lambda)$ であるから、(O3) により $X\setminus \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ は $X$ の開集合である。よって、 $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ は $X$ の閉集合である。

(C2')は、(C2)から $n$ についての帰納法によって導かれる。 $\square$

注意 1.4 (ゼロ個の集合の共通部分)

(C3) において、 $\Lambda=\emptyset$ の場合は $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda=\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ は「ゼロ個の集合の共通部分」であるが、これの取り扱いには注意が必要である。共通部分の通常の定義に基づけば $$ x\in\bigcap_{\lambda\in\emptyset} F_\lambda \Longleftrightarrow \text{すべての }\lambda\in\emptyset\text{ に対して }x\in F_\lambda $$ である。そして、同値記号 $\Longleftrightarrow$ の右側の条件は、論理記号で書けば $$ \forall \lambda [\lambda\in\emptyset\rightarrow x\in F_\lambda] $$ であるから、 $x$ によらず真である($\lambda\in\emptyset$ は偽なので、 $\lambda\in\emptyset\rightarrow\cdots$ の形の命題は無条件に真となる)。したがって、どんな $x$ も $x\in\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ に属するから、 $x\in\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ は「すべてのものの集合」となり、これは、集合論でよく知られているように、集合として存在するには大きすぎる。そのような理由で、ゼロ個の集合の共通部分は考えないのが通例であるが、いまの文脈では、考察しているものは $X$ の部分集合だけである。したがって、 $x$ の動く範囲も $X$ の要素に限定して考えるのは自然である。そう考えれば、 $\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda$ は「$X$ の要素すべての集合」すなわち $X$ となる。

以上のことを踏まえて、(C3) においては、 $\Lambda=\emptyset$ のときは $\bigcap_{\lambda\in \emptyset} F_\lambda=X$ であると約束する。以降も、ゼロ個の集合の共通部分が現れた場合は、今回と同様の解釈をとる。 $\square$

注意 1.5 (閉集合から位相空間を定める)

位相空間を定めるには、開集合のかわりに、閉集合の概念を最初に与えてもよい。このことを説明しよう。

集合 $X$ に対して、 $X$ の部分集合族 $\mathcal{F}$ で条件 (C1)-(C3) を満たすものが与えられたとする。すると、 $\mathcal{O}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ と定めれば (O1)-(O3) が満たされ、 $(X, \mathcal{O})$ は位相空間となる。しかも、この位相空間において $\mathcal{F}$ はちょうど閉集合の全体に一致する。

つまり、集合 $X$ に対して、部分集合族 $\mathcal{F}$ で (C1)-(C3) を満たすものを与え、その要素を閉集合と呼ぶことにすれば、その補集合を開集合と呼ぶことで、位相空間が定まるのである。今後説明するが、位相空間を定める方法には、このほかにも色々ある。 $\square$

例 1.6 (離散位相)

$X$ を任意の集合とする。 $\mathcal{O}_\delta$ を、 $X$ のすべての部分集合からなる集合とすると、(O1)-(O3) がすべて成り立つ。このときの $\mathcal{O}_\delta$ を $X$ 上の離散位相(discrete topology)といい、位相空間 $(X, \mathcal{O}_\delta)$を離散空間(discrete space)という。言い換えれば、離散空間とは、すべての部分集合が開集合である位相空間である。これは、すべての部分集合が閉集合である位相空間と言っても良い。 $\square$

例 1.7 (密着位相)

$X$ を任意の集合とする。 $\mathcal{O}_i=\{\emptyset, X\}$ とすれば、(O1)-(O3) がすべて成り立つ。このときの $\mathcal{O}_i$ を $X$ 上の密着位相(indiscrete topology)といい、位相空間 $(X, \mathcal{O}_i)$ を密着空間(indiscrete space)という。 $\square$

例 1.8 (補有限位相)

$X$ を任意の集合とする。 $X$ の部分集合族 $\mathcal{F}$ を、 $\mathcal{F}=\{X\}\cup\{F\subset X\,|\,F\text{ は有限集合}\}$ で定義しよう。すると、 $\mathcal{F}$ は命題 1.3の (C1)-(C3) を満たすことがすぐに分かる。そこで、注意 1.5で述べた通り $\mathcal{O}_f=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ とすると、 $(X, \mathcal{O}_f)$ は位相空間となる。具体的に書けば、 $$ \mathcal{O}_f=\{\emptyset\}\cup\{X\setminus F\,|\,F\text{ は }X\text{ の有限部分集合}\} $$ である。 $\mathcal{F}$ は、 $(X, \mathcal{O}_f)$ の閉集合の全体にちょうど一致する。 $\mathcal{O}_f$ を $X$ 上の補有限位相(cofinite topology)という。 $X$ が無限集合である場合は、 $\mathcal{O}_f$ は $\mathcal{O}_\delta$ と $\mathcal{O}_i$ のどちらとも異なる。 $\square$

例 1.9 (Euclid空間、とくに実数直線)

Euclid空間$\mathbb{R}^n$には開集合の概念が定義された(定義 0.6)。 $\mathbb{R}^n$ の開集合全体の族を $\mathcal{O}_{\mathrm{Eucl}}$ と書こう。このとき、命題 0.8は $\mathcal{O}_{\mathrm{Eucl}}$ が (O1)-(O3) を満たすことを示している。よって、 $(\mathbb{R}^n, \mathcal{O}_{\mathrm{Eucl}})$ は位相空間となる。以下では、断らない限り、 $\mathbb{R}^n$ を常にこの方法で位相空間とみなし、単に $\mathbb{R}^n$ で表すことにする。

ここで、特に $n=1$ の場合を考えることで、実数直線 $\mathbb{R}=\mathbb{R}^1$ も位相空間とみなせることが分かる。 $x\in \mathbb{R}$ に対してノルム $\|x\|$ は単なる絶対値 $|x|$ であり、 $x, y\in\mathbb{R}$ に対して距離 $d(x, y)$ は $|x-y|$ である。よって、 $x\in \mathbb{R}$ と $r>0$ に対して、開球体 $B(x,r)=\{y\in\mathbb{R}\,|\,|x-y|<r\}$ は開区間 $(x-r, x+r)$ のことである。したがって、 $U\subset\mathbb{R}$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることは、任意の $x\in U$ に対して $r>0$ が存在して $(x-r, x+r)\subset U$ となることと同値である。このことから、 $-\infty\leq a<b\leq +\infty$ となる任意の $a, b$ に対して、開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ は $\mathbb{R}$ の開集合であると分かる。次に $a<b$ となる $a, b\in\mathbb{R}$ に対して、閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ を考えよう。 $\mathbb{R}\setminus [a, b]=(-\infty, a)\cup (b, +\infty)$ であり、この左辺は開集合の和集合として開集合となるから、閉区間 $[a, b]$ は $\mathbb{R}$ の閉集合である。また、 $[a, +\infty)$ や $(-\infty, b]$ も $\mathbb{R}$ の閉集合である。 $\square$

定義 1.10 (位相の比較)

集合 $X$ に対して、二つの位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ が与えられているとする。すなわち、 $X$ の部分集合族 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ がともに (O1)-(O3) を満たしているとする。 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ であるとき、 $\mathcal{O}_1$ は $\mathcal{O}_2$ より粗い(coarser)といい、 $\mathcal{O}_2$ は $\mathcal{O}_1$ より細かい(finer)という。 $\square$

例 1.11 (位相の比較の具体例)

集合 $X$ に対して、離散位相 $\mathcal{O}_\delta$ は密着位相 $\mathcal{O}_i$より細かい。 $X$ 上のどんな位相も(とくに、補有限位相 $\mathcal{O}_f$ は)、離散位相より粗く、密着位相より細かい。 $\square$

$\mathbb{R}^n$ 上のEuclid距離の性質(定義 0.3)を抽象化することで、距離空間の概念を定義しよう。

定義 1.12 (距離空間)

$X$ を集合とする。写像$d\colon X\times X\to [0,\infty)$ が任意の $x, y, z\in X$ に対して次の性質を満たすとき、組 $(X, d)$ を距離空間(metric space)という。

  • (D1) $d(x, y)=0\Longleftrightarrow x=y$
  • (D2) $d(x, y)=d(y, x)$
  • (D3) $d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)$(三角不等式)

$d$ を $X$ 上の距離関数あるいは距離(distance function)という。 $d$ が文脈から明らかな場合は、距離空間 $(X, d)$ を単に $X$ と書く。 $\square$

三角不等式については、移項した形 $$ d(x, y)\geq d(x, z)-d(y, z) $$ をよく使われるので注意する。 もちろん、 $\mathbb{R}^n$ の Euclid距離を $d$ とするとき $(\mathbb{R}^n, d)$ は距離空間である。

注意 1.13 (距離の制限)

距離空間 $(X, d)$ と $X$ の部分集合 $A$ が与えられているとき、制限 $d_A=d|_{A\times A}\colon A\times A\to [0,\infty)$ を考えれば、 $(A, d_A)$ も再び距離空間となる。以下では、距離空間の部分集合はこの方法で距離空間とみなす。たとえば、 $\mathbb{R}^n$ の部分集合は距離空間となる。 $\square$

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ のEuclid距離から開集合が定義できて $\mathbb{R}^n$ を位相空間とみなせたのと全く同様にして(定義 0.6例 1.9参照)、距離空間においても開集合の概念を定義し、位相空間とみなすことができる。詳細は Euclid 空間の場合の繰り返しとなるので、証明などは一部略して述べよう。

定義 1.14 (距離空間における開球体)

$(X, d)$ を距離空間とする。 $x\in X$ と $r>0$ に対して、 $X$ の部分集合 $B_d(x, r)$ および $\overline{B}_d(x, r)$ を $$ B_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)<r\},\quad \overline{B}_d(x,r)=\{y\in X\,|\,d(x,y)\leq r\} $$ で定義し、それぞれ、 $x$ を中心とする半径 $r$ の開球体(open ball)、閉球体(closed ball)という。 誤解のおそれのない場合、添字 $d$ を省略し、単に $B(x, r),$ $\overline{B}(x,r)$ と書く。 $\square$

定義 1.15 (距離空間における開集合)

$(X, d)$ を距離空間とし、 $U\subset X$ とする。 $U$ が距離空間 $X$ の開集合であるとは、任意の $x\in U$ に対して、 $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ が成り立つことをいう。

命題 1.16 (開球体は開集合、閉球体は閉集合である)

$(X, d)$ を距離空間とする。任意の $x\in X$ と$r>0$ に対して、開球体 $B(x, r)$ は $X$ の開集合である。また、閉球体 $\overline{B}(x,r)$ は $X$ の閉集合である。

証明

$B(x, r)$ が開集合であることの証明は、Euclid空間の場合の命題 0.7と全く同様なので省略する。 $\overline{B}(x, r)$ が閉集合であることを示そう。そのためには、補集合 $X\setminus \overline{B}(x,r)$ が開集合であることを示せばよい。そこで、 $y\in X\setminus\overline{B}(x,r)$ を任意に与える。すると、 $d(x,y)>r$ であるから、 $\varepsilon=d(x,y)-r$ とおくとき $\varepsilon>0$ である。 $z\in B(y,\varepsilon)$ を任意に与える。すると、 $$ d(x,z)\geq d(x,y)-d(z,y)>d(x,y)-\varepsilon=d(x,y)-(d(x,y)-r)=r $$ であるから、 $z\in X\setminus\overline{B}(x,r)$ である。よって、 $B(y,\varepsilon)\subset X\setminus\overline{B}(x,r)$ であるから、 $X\setminus\overline{B}(x,r)$ は $X$ の開集合である。 $\square$

命題 1.17 (距離空間から位相空間が得られる)

$(X, d)$ を距離空間とし、 $\mathcal{O}_d$ を $X$ の開集合全体の集合とする。このとき、 $\mathcal{O}_d$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす(証明は命題 0.8と同様)。したがって、 $(X, \mathcal{O}_d)$ は位相空間となる。 $\square$

このように距離空間 $(X, d)$ からは常に位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ が得られる。 $\mathcal{O}_d$ のことを $d$ が定める位相という。以下ではいつでも、距離空間をこの方法で位相空間とみなすことにする。

距離空間から位相空間が得られることは分かったが、では逆に位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が先に与えられたときに、 $X$ 上の距離関数 $d$ をうまく定義して、距離空間 $(X, d)$ から得られる位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ をはじめの $(X, \mathcal{O})$ と一致させることはできるだろうか。それは一般には可能ではないが、それが可能であるとき、 $(X, \mathcal{O})$ は距離化可能であるという。

定義 1.18 (距離化可能空間)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とする。 $X$ 上の距離 $d$ が存在して、 $d$ が定める位相 $\mathcal{O}_d$ が $\mathcal{O}$ と一致するとき、 $X$ は距離化可能(metrizable)であるという。

距離化可能な位相空間は、距離を用いて調べることができるので扱いやすい。位相空間がどのような条件のもとで距離化可能となるかについては、位相空間論の初期に盛んに研究され、多くの結果が知られている。

注意 1.19 (距離空間と距離化可能空間)

ここで、距離空間と距離化可能空間の概念上の違いに注意しておこう。距離空間と言った場合は距離が一つ指定されているのに対し、距離化可能空間と言った場合は指定されているのはあくまで位相のみであって、その位相を定める距離は(存在はするが)特定のものが指定されてはいない。次の例 1.20で離散空間が距離化可能であることを示すが、それはこの事情のよい説明になっている。離散空間そのものには特定の距離が指定されてはいないが、その位相を定めるようなうまい距離を定義することができるのである。 $\square$

例 1.20 (離散空間は距離化可能)

$(X, \mathcal{O}_\delta)$ を離散空間とする(例 1.6)。つまり、 $\mathcal{O}_\delta$ は $X$ の部分集合すべてからなる集合である。このとき、 $(X, \mathcal{O}_\delta)$ が距離化可能となることを示そう。そのため、距離関数 $d\colon X\times X\to [0,\infty)$ を、 $x=y$ のとき $d(x,y)=0$, $x\neq y$ のとき $d(x,y)=1$ とすることで定義する。このとき $d$ は距離の満たすべき定義 1.12の性質 (D1)-(D3) を満たす(確かめよ)。よって距離空間 $(X, d)$ が定まる。さらに、各 $x\in X$ に対して、半径 $1$ の開球体 $B_d(x,1)$ について $B_d(x,1)=\{x\}$ となる。したがって、命題1.16より、各 $x\in X$ に対して、一点集合 $\{x\}$ は $d$ の定める位相 $\mathcal{O}_d$ について開集合である。任意に $A\subset X$ を与えると、 $A=\bigcup_{x\in A}\{x\}$ だから、 $A$ は $\mathcal{O}_d$ について開集合である。よって、 $\mathcal{O}_d$ は離散位相 $\mathcal{O}_\delta$ に一致するから、離散空間 $(X, \mathcal{O}_\delta)$ は距離化可能であることが分かった。 $\square$

2. 近傍と基本近傍系

位相空間 $X$ の点 $x$に対して、 $x$ の近傍という概念を定義する。 $x$ の近傍とは直観的には「$x$ の十分近くの点をすべて含んでいる集合」であるが、その名に反して必ずしも小さい集合ではない。

定義 2.1 (近傍)

$X$ を位相空間とし、 $x\in X$ とする。 $X$ の部分集合 $V$ が $x$ の($X$ における)近傍(neighborhood)であるとは、ある開集合 $U\subset X$ に対して $x\in U\subset V$ であることをいう。さらに、 $V$ が開集合(あるいは閉集合)であるとき、 $V$ を $x$ の($X$ における)開近傍閉近傍)(open/closed neighborhood)という。 $\square$

この定義から、 $X$ 自身も $x$ の近傍であることに注意する(近傍は必ずしも小さくない!)。しかし、実際の議論では通常大きな近傍にはあまり意味はなく、小さい近傍に本質的な意味があることが多い。 $\varepsilon$-$\delta$ 論法において、 $\varepsilon$ や $\delta$ が小さい数のときが本質的だったのと同じである。

ある点の開近傍とは、その点を要素にもつ開集合にほかならない。つまり、

命題 2.2 (開近傍の同値な言い換え)

$X$ を位相空間とし、 $x\in X$ とする。 $V\subset X$ に対して、次の二つは同値である。

  • (1) $V$ は $x$ の開近傍である。
  • (2) $V$ は開集合であり、かつ $x\in V$ である。

証明 まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $V\subset X$ を $x$ の開近傍とすると、 $V$ は開集合である。しかも $V$ は $x$ の近傍なので、ある開集合 $U$ が存在して、 $x\in U\subset V$ である。したがって、 $x\in V$ も成り立つ。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $V\subset X$ が開集合で、しかも $x\in V$ であるとする。このとき、 $U=V$ とおけば、 $U$ は開集合で $x\in U\subset V$ である。よって、 $V$ は $x$ の開近傍である。 $\square$

近傍の有限個の共通部分は、再び近傍となる。

命題 2.3 (近傍の有限個の共通部分)

$X$ を位相空間とし、 $x\in X$ とする。任意の $n\in\mathbb{N}$ と $x$ の $X$ における近傍 $V_1,\ldots, V_n$ に対して、 $V_1\cap\cdots\cap V_n$ は $x$ の $X$ における近傍である。

証明

近傍の定義により、各 $i=1,\ldots, n$ に対して、開集合 $U_i$ であって $x\in U_i\subset V_i$ となるようなものが取れる。すると $U_1\cap\cdots\cap U_n$ も開集合であって、 $x\in U_1\cap\cdots\cap U_n\subset V_1\cap\cdots\cap V_n$ である。よって、 $V_1\cap\cdots\cap V_n$ は $x$ の $X$ における近傍である。 $\square$

次の命題は、位相空間の部分集合が開集合であることを示すために常套手段として用いられる。

命題 2.4 (開集合の判定条件)

位相空間 $X$ の部分集合 $U$ に対して、次の二つは同値である。

  • (1) $U$ は $X$ の開集合である。
  • (2) 任意の $x\in U$ に対して、 $x$ の $X$ における近傍 $V$ であって $V\subset U$ となるものが存在する。

証明

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $U\subset X$ を開集合とし、 $x\in U$ とする。命題 2.2により、 $U$ は $x$ の $X$ における開近傍となるから、 $V=U$ とおけば、 $V$ は $x$ の $X$ における開近傍で、 $V\subset U$ を満たす。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $U\subset X$ に対して (2) が成り立つとすると、各 $x\in U$ に対して、 $x$ の近傍 $V_x$ であって $V_x\subset U$ となるものが選べる。さらに、近傍の定義から、各 $x\in U$ に対して、 $x\in U_x\subset V_x$ を満たす開集合 $U_x$ が選べる。このとき、 $U=\bigcup_{x\in U} U_x$ である(確かめよ)。よって、 $U$ は開集合の和集合となるから、開集合となる。 $\square$

位相空間 $X$ の点 $x$ の近傍には、一般に非常に多種多様なものがあり扱いが難しい。そこで、限られた種類の近傍に考察を限定することがしばしばある。そのときに役に立つのが基本近傍系の概念である。

定義 2.5 (基本近傍系)

$X$ を位相空間とし、 $x\in X$ とする。 $x$ の$X$ における近傍からなる集合族 $\mathcal{U}$ が $x$ の($X$ における)基本近傍系(neighborhood base)であるとは、 $x$ の任意の近傍 $V$ に対して、ある $U\in\mathcal{U}$ が存在して $U\subset V$ が成り立つことをいう。 $\square$

上の定義において、「任意の近傍 $V$」を「任意の開近傍 $V$」に変えても、定義としては同値になることに注意しよう(確かめよ)。

例 2.6 (近傍の全体は基本近傍系)

まず、つまらない例であるが、位相空間 $X$ の点 $x$ に対して、 $x$ の近傍全体の集合を $\mathcal{U}$ とおけば、 $\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $\square$

例 2.7 (開近傍の全体は基本近傍系)

$X$ を位相空間、 $x\in X$ とする。 $\mathcal{U}$ を、 $x$ の $X$ における開近傍全体の集合とすると、 $\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系となる。実際、 $x$ の近傍 $V$ を与えると、近傍の定義により $x\in U\subset V$ であるような開集合 $U$ が存在するが、 $U$ は $x$ の開近傍である(命題 2.2)。これで、 $\mathcal{U}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系となることが示された。 $\square$

例 2.8 (距離空間における基本近傍系)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、 $x\in X$ に対して次の集合族は $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{U}_x=\{B(x,r)\,|\,r>0\} $$ 実際、 $B(x,r)$ は $x$ を要素にもつ開集合なので(命題 1.16)、命題 2.2により $x$の開近傍である。よって、 $\mathcal{U}_x$ は $x$ の近傍からなる集合である。次に、 $x$ の任意の開近傍 $V$ を与える。すると、 $x\in V$ で $V$ は開集合だから、距離空間における開集合の定義により、ある $r>0$ が存在して $B(x,r)\subset V$ である。 $B(x,r)\in\mathcal{U}_x$ であるから、これで $\mathcal{U}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

また、次の集合族も $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{V}_x=\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ 実際、これが $x$ の近傍からなる集合であることはさきほどと同様に示される。次に、 $x$ の任意の開近傍 $V$ を与える。すると、ある $r>0$ に対して $B(x,r)\subset U$ である。いま、 $n\in\mathbb{N}$ を十分大きく取れば $1/n<r$ であるので、 $B(x,1/n)\subset B(x,r)\subset U$ となる。 $B(x,1/n)\in\mathcal{V}_x$ なので、これで $\mathcal{V}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。 $\square$

例 2.9 (離散空間における基本近傍系)

$X$ を離散空間とする(例 1.6)。このとき、任意の点 $x$ に対して、一点からなる集合 $\{x\}$ は点 $x$ の開近傍である。そして、一個の近傍 $\{x\}$ だけからなる集合族 $\{\{x\}\}$ は、 $x$ の $X$ における基本近傍系となる(確かめよ)。 $\square$

上において、離散空間の各点 $x$ について一点集合 $\{x\}$ が $x$ の開近傍となる、という事実は、離散空間がその名の通り「点がそれぞれ孤立してバラバラである」という直観を補強してくれるものであろう。 一般に、位相空間 $X$ の点 $x$ は、 $\{x\}$ が開集合であるときに孤立点(isolated point)であるという。

位相空間 $X$ の各点 $x\in X$ に対して、それぞれ $x$ の基本近傍系 $\mathcal{U}_x$ が与えられているという状況を考える。このとき、次が成り立つ。

命題 2.10 (基本近傍系のもつ性質)

位相空間 $X$ の各点 $x\in X$ に対して、 $x$ の $X$ における基本近傍系 $\mathcal{U}_x$ が与えられているとする。このとき、次の性質が成り立つ。

  • (NB1) 任意の $x\in X$ に対して $\mathcal{U}_x\neq\emptyset$ である。
  • (NB2) 任意の $x\in X,$ $U\in\mathcal{U}_x$ に対して、 $x\in U$ である。
  • (NB3) 任意の $x\in X,$ $U_1, U_2\in\mathcal{U}_x$ に対して、 $V\in\mathcal{U}_x$ であって $V\subset U_1\cap U_2$ となるものが存在する。
  • (NB4) 任意の $x\in X,$ $U\in\mathcal{U}_x$ に対して、次のような $V\in\mathcal{U}_x$ が存在する:「任意の $y\in V$ に対して、 $W\in\mathcal{U}_y$ が存在して $W\subset U$ となる。」

証明

(NB1) は $X\in\mathcal{U}_x$ となることから分かる。次に、(NB2) は基本近傍系および近傍の定義から明らかである。

(NB3) を示すため、 $x\in X$, $U_1, U_2\in\mathcal{U}_x$ とする。 $U_1$, $U_2$ は $x$ の近傍なので、 $x\in V_i\subset U_i\,(i=1,2)$ となるような開集合 $V_i$ が存在する。すると、 $V_1\cap V_2$ は $x$ の開近傍であるから、基本近傍系の定義により、 $V\in\mathcal{U}_x$ であって $V\subset V_1\cap V_2\subset U_1\cap U_2$ となるものが存在する。これで (NB3) が示された。

(NB4) を示すため、 $x\in X$, $U\in\mathcal{U}_x$ とする。 $U$ は $x$ の近傍なので、 $x\in U_0\subset U$ となるような開集合 $U_0$ が存在する。 $U_0$ は $x$ の開近傍なので、 $V\subset U_0$ となるような $V\in\mathcal{U}_x$ が存在する。この $V$ が求めるものであることを示そう。そこで、 $y\in V$ とする。すると $y\in U_0$ で $U_0$ は開集合だから、 $U_0$ は $y$ の開近傍である。よって、 $W\subset U_0$ となるような $W\in\mathcal{U}_y$ が存在する。 $U_0\subset U$ だったので、 $W\subset U$ である。これで、 $V$ が求めるものであることが分かり、(NB4) が示された。 $\square$

この命題 2.10はやや複雑な形だが、基本近傍系を指定することで位相空間を定めるのに役に立つ。注意 1.5では、閉集合全体の集合を指定することで位相空間を定める方法を述べたが、次の命題 2.11から分かるように、それと同様のことが基本近傍系でもできるのである。(命題 2.11は証明が少々混み入っているので、初読の際は証明を読み飛ばしてもよい。)

命題 2.11 (基本近傍系から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。各 $x\in X$ に対して、 $X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{U}_x$ が与えられ、条件 (NB1)-(NB4) を満たすとする。このとき、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、各 $x\in X$ に対して $\mathcal{U}_x$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系となるものが一意的に存在する。

証明

まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示そう。 $\mathcal{O}$ を以下で定義する。 $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{任意の }x\in U\text{ に対してある }V\in\mathcal{U}_x\text{ が存在して }V\subset U\} $$ このとき、 $\mathcal{O}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすことを示そう。

(O1) については、まず $\emptyset\in\mathcal{O}$ を示さなければならない。それには、任意の $x\in\emptyset$ に対してある $V\in\mathcal{U}_x$ が存在して $V\subset \emptyset$ となることを示す必要があるが、ここで $x\in\emptyset$ が偽であることから、示すべきことは真となる(命題 0.8および注意 1.3でも同様の議論を行った)。よって、 $\emptyset\in\mathcal{O}$ である。次に、 $X\in\mathcal{O}$ を示そう。そのため、 $x\in X$ を任意に与える。(NB1)により、 $V\in\mathcal{U}_x$ が少なくとも一つ存在する。このとき、もちろん $V\subset X$ である。 $x\in X$ は任意だったので、 $X\in\mathcal{O}$ が示された。

(O2) を示すため、 $U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。 $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ を示すため、 $x\in U_1\cap U_2$ とする。 $i=1,2$ に対して、 $U_i\in\mathcal{O}$ であることより、 $V_i\in\mathcal{U}_x$ であって $V_i\subset U_i$ となるものが存在する。(NB3) により、 $W\in\mathcal{U}_x$ であって $W\subset V_1\cap V_2$ となるものが存在する。すると、 $W\subset V_1\cap V_2\subset U_1\cap U_2$ である。 $x\in U_1\cap U_2$ は任意だったので、 $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ が分かった。

(O3) を示すため、 $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ とする。 $x\in\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、 $x\in U_{\lambda_0}$ である。 $U_{\lambda_0}\in\mathcal{O}$ なので、ある $V\in \mathcal{U}_x$ に対して、 $V\subset U_{\lambda_0}$ である。したがって、 $V\subset\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ が示された。

以上で、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が得られた。 次に、各 $x\in X$ に対して、 $\mathcal{U}_x$ がこの位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系となることを示す。まず、 $U\in\mathcal{O}$, $x\in U$ とするときに、 $V\in\mathcal{U}_x$ であって $x\in V\subset U$ となるものが存在することは $\mathcal{O}$ の定義から明らかである。問題は、 $\mathcal{U}_x$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の近傍になっていることの証明である。そのため、 $U\in\mathcal{U}_x$ とする。次のようにおく。 $$ U'=\{y\in U\,|\,\text{ある }V\in\mathcal{U}_y\text{ が存在して }V\subset U\} $$ 明らかに $x\in U'\subset U$ である。 $U'\in\mathcal{O}$ であることをいうため、 $y\in U'$ とする。 $U'$ の定義により、 $V\in\mathcal{U}_y$ であって $V\subset U$ となるものが存在する。さらに、(NB4) により、次のような $V'\in\mathcal{U}_y$ が存在する:「任意の $z\in V'$ に対して、 $W\in\mathcal{U}_z$ が存在して、 $W\subset V$ である。」すると $V'$ の取り方と (NB2) から $V'\subset V$ であり、よって $V'\subset U$ である。さらにこのとき、 $V'\subset U'$ である。実際、 $z\in V'$ とすると、いま述べたことから $z\in U$ であり、さらに、 $W\in\mathcal{U}_z$ が存在して $W\subset V$ となり、よって $W\subset U$ である。よって、 $z\in U'$ である。したがって、 $V'\subset U'$ である。これで、 $U'\in\mathcal{O}$ であることが示された。 $x\in U'\subset U$ であったから、 $U$ は $x$ の $(X, \mathcal{O})$ における近傍である。これで、 $\mathcal{U}_x$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の近傍であることが示された。以上で、各 $x\in X$ に対して、 $\mathcal{U}_x$ が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系であることが示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。そこで、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ がともに命題の条件を満たしたとする。 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、 $U\in\mathcal{O}_1$ とする。このとき、 $U\in\mathcal{O}_2$ となること、つまり $U$ が位相空間 $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であることを命題 2.4を用いて示す。そのため、 $x\in U$ とする。 $\mathcal{U}_x$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_1)$ における基本近傍系だから、ある $V\in\mathcal{U}_x$ が存在して、 $V\subset U$ である。ところが、 $\mathcal{U}_x$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における基本近傍系でもあり、 $V\in\mathcal{U}_x$ であるから、 $V$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における近傍である。したがって、命題 2.4により、 $U$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合、つまり $U\in\mathcal{O}_2$ である。これで、 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ が示された。全く同様に、 $\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も示されるから、結局 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ を得る。 $\square$

どの点においても高々可算個の近傍からなる基本近傍系が存在するような位相空間には名前がついている。

定義 2.12 (第一可算)

位相空間 $X$ が第一可算(first countable)である、あるいは第一可算公理を満たすとは、任意の $x\in X$ に対して、高々可算な $x$ の基本近傍系 $\mathcal{U}$ が存在することをいう。 $\square$

例 2.13 (距離空間は第一可算)

距離空間は第一可算である。実際、 $X$ を距離空間とするとき、各 $x\in X$ に対して例 2.8の基本近傍系 $\mathcal{V}_x=\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は高々可算となるからである。また、例 2.9から分かるように離散空間も第一可算である(一点からなる集合も高々可算であることに注意)。この結果は、離散空間が距離化可能であるという例1.20の結果からも分かる。なお、距離化可能空間についてもその位相を定める距離の一つを選べば同じ議論ができるので、距離化可能空間は第一可算である。後に例 4.14において、第一可算だが距離化可能でない位相空間の例を与える。 $\square$

例 2.14 (補有限位相と第一可算性)

$X$ を無限集合とし、 $X$ を補有限位相(例 1.8)によって位相空間と考える。 $X$ が可算無限集合の場合、 $X$ は第一可算となる。実際、このときは $X=\{p_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$(ただし、 $i\neq j$ のとき $p_i\neq p_j$)と表すことができるが、 $p_i$ の基本近傍系 $\mathcal{U}_i$ として $$ \mathcal{U}_i=\{\{p_i\}\cup(X\setminus\{p_1,\ldots, p_n\})\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ というものが取れる(確かめよ)。 $\mathcal{U}_i$ は高々可算集合であるから、これで $X$ が第一可算であることが示された。

$X$ が非可算集合である場合、 $X$ は第一可算ではないことを示そう。そのため、点 $p_0\in X$ を何でもよいので一つ固定する。 $p_0$ が高々可算な基本近傍系をもたないことを示せばよい。もし、 $p_0$ が高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}$ をもてば、 $\mathcal{U}=\{U_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ と表すことができる。各 $i$ に対して、 $p_0\in V\subset U_i$ となる開集合 $V$ が存在するが、このとき補有限位相の定義より $X\setminus V$ は有限であり、よって $X\setminus U_i$ も有限である。したがって、和集合 $\bigcup_{i=1}^\infty (X\setminus U_i)=X\setminus \bigcap_{i=1}^\infty U_i$ は高々可算となるので、 $X$ の非可算性により、 $X\setminus (X\setminus \bigcap_{i=1}^\infty U_i)=\bigcap_{i=1}^\infty U_i$ は非可算である。よって、それから一点を除いた $\bigcap_{i=1}^\infty U_i\setminus \{p_0\}$ はもちろん空ではない。そこで、点 $p\in \bigcap_{i=1}^\infty U_i\setminus \{p_0\}$ を一つとる。このとき、 $U=X\setminus \{p\}$ は $p_0$ の近傍であるが、どの $i$ に対しても $U_i\subset U$ は成立しない。実際、 $p\in U_i$, $p\notin U$ となるからである。これは、 $\mathcal{U}$ が $p_0$ の基本近傍系であることに反する。よって、 $p_0$ は高々可算な基本近傍系をもたないので、 $X$ は第一可算ではない。また、このことから $X$ が距離化可能でないことも分かる。もし距離化可能なら、例 2.13により、第一可算となってしまうからである。 $\square$

後々のために次のことを示しておく。

命題 2.15 (第一可算空間の基本近傍系を減少列にとれること)

$X$ を第一可算な空間とする。このとき、各 $x\in X$ に対して、 $x$ の $X$ における基本近傍系 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ であって各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_{n+1}\subset V_n$ となるものが存在する。

証明

$X$ を第一可算空間とし、 $x\in X$ とする。第一可算性の定義から、 $x$ の高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}$ が存在する。 $\mathcal{U}$ は高々可算なので、 $\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ と表すことができる。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n=U_1\cap\cdots\cap U_n$ とおくと、命題 2.3により $V_n$ は $x$ の近傍であり、 $V_{n+1}\subset V_n$ を満たす。 $x$ の $X$ における近傍 $V$ を任意に与える。 $\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して、 $U_n\subset V$ である。定義により $V_n\subset U_n$ であるから、 $V_n\subset V$ である。これで $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。 $\square$

次に、位相空間における点列の収束の概念を定義する。これは、実数直線 $\mathbb{R}$ における数列の収束の一般化である。点列の収束が威力を発揮するのは主に第一可算な空間(たとえば距離空間)においてであるが、定義そのものは一般の位相空間で行うことができる。

位相空間 $X$ に対して、 $X$ の点列とは、くだけた言い方では、 $X$ の点からなる列 $x_1, x_2,\ldots$ のことで、これを $(x_n)_{n=1}^\infty$ で表す。正式には、 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ とは、 $f(n)=x_n$ で定義される写像 $f\colon \mathbb{N}\to X$ のことである。点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $X$ の部分集合 $\{x_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ とは違うものなので注意が必要である。

定義 2.16 (点列の収束)

$X$ を位相空間、 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、 $x\in X$ とする。このとき、 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束(converge)するとは、

$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、 $n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ となる

ことをいう。このとき、 $x$ は点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ の極限(limit) であるといい、 $x_n\to x$ と書く。 $\square$

なお、上の定義において、「任意の近傍 $V$」を「任意の開近傍 $V$」に置き換えても同値な定義となる(確かめよ。なお、このことは例 2.7とこの後の命題 2.18を組み合わせても分かる)。

注意 2.17 (点列の極限が一意的と限らないこと)

一般には、点列の極限が存在しても、それは一意的とは限らない。例えば $X=\{0, 1\}$ とし、 $X$ を密着位相によって位相空間と考える。 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を、すべての $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n=0$ とすることで定義する。このとき、 $x_n\to 0$ かつ $x_n\to 1$ である。 $\square$

次の命題で分かるように、ある点への点列の収束を議論するためには、その点の近傍すべては必要ではなく、基本近傍系を考えれば十分である。

命題 2.18 (基本近傍系と点列の収束)

$X$ を位相空間、 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列、 $x\in X$ とし、 $\mathcal{U}$ を $x$ の $X$ における基本近傍系とする。このとき、 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するためには、

任意の $U\in\mathcal{U}$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、 $n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる

ことが必要十分である。

証明

必要性は明らかである。十分性を示す。「任意の $U\in\mathcal{U}$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、 $n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる」ことを仮定する。 $x$ の近傍 $V$ を任意に与える。 $\mathcal{U}$ は $x$ の基本近傍系なので、 $U\in\mathcal{U}$ が存在して、 $U\subset V$ となる。仮定により、 $n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ であり、よって $x_n\in V$ である。したがって、 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。 $\square$

命題 2.19 (距離空間における点列の収束)

$X$ を距離空間とする。 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が点 $x\in X$ に収束するためには、 $\mathbb{R}$ の点列 $(d(x_n, x))_{n=1}^\infty$ が $0$ に収束することが必要十分である。つまり、次の同値性が成り立つ。 $$ x_n\to x \,\Longleftrightarrow\, d(x_n,x)\to 0 $$

証明

$\{B(x,r)\,|\,r>0\}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、命題 2.18により、 $x_n\to x$ となることは、

任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $N$ が存在して、 $n\geq N$ のとき $x_n\in B(x,\varepsilon)$

となることと同値である。ここでの $x_n\in B(x,\varepsilon)$ は $d(x_n, x)<\varepsilon$ と同値であり、これはさらに $|d(x_n, x)-0|<\varepsilon$ とも書ける。よって、結局 $x_n\to x$ となることは

任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $N$ が存在して、 $n\geq N$ のとき $|d(x_n, x)-0|<\varepsilon$

となることと同値であり、これはまさに、 $d(x_n, x)\to 0$ となることを意味している。 $\square$

最後に、Euclid 空間の部分集合における点列の収束について補足しておく。 $A$ がEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合であるとき、 $A$ は $\mathbb{R}^n$ のEuclid距離の制限(注意 1.13)により距離空間とみなすのであった。以下で見るように、 $A$ における点列の収束は、「座標ごとの収束」と同値である。

命題 2.20 (Euclid空間の部分集合における点列の収束)

$A$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合とし、 $(p_j)_{j=1}^\infty$ を $A$ の点列、 $p=(x_1,\ldots,x_n)\in A$ とする。 $p_j=(x_{1,j},\ldots, x_{n,j})\,(j\in\mathbb{N})$ とすると $\mathbb{R}$ の点列 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty\,(i=1,\ldots,n)$ が得られるが、このとき次は同値である。

  • (1) $(p_j)_{j=1}^\infty$ は $p$ に収束する。
  • (2) 各 $i=1,\ldots,n$ に対して、 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ は $x_i$ に収束する。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束すると仮定する。 $i\in\{1,\ldots,n\}$ を任意に与える。このとき、 $\mathbb{R}$ の点列 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束していることを示そう。 $\varepsilon>0$ を任意に与える。 $N\in\mathbb{N}$ が存在して、 $j\geq N$ のとき常に $\|p_j-p\|<\varepsilon$ となる。ここで、 $\|\phantom{x}\|$ はEuclidノルムを表す。いま $$ {|}x_{i,j}-x_i{|}=\sqrt{(x_{i,j}-x_i)^2}\leq\sqrt{\sum_{i'=1}^n (x_{i',j}-x_{i'})^2}=\|p_j-p\| $$ であるから、 $j\geq N$ のとき常に $\|x_{i,j}-x_i|\leq\varepsilon$ となる。これで、 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束することが示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束すると仮定する。 $(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束することを示すため、 $\varepsilon>0$ を任意に与える。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、 $N_i\in\mathbb{N}$ を取り、 $j\geq N_i$ のとき常に $|x_{i,j}-x_i|<\varepsilon/\sqrt{n}$ となるようにできる。 $N=\max\{N_1,\ldots, N_n\}$ としよう。このとき、 $j\geq N$ ならば $$ \|p_j-p\|^2=\sum_{i=1}^n (x_{i,j}-x_i)^2<n\cdot(\varepsilon/\sqrt{n})^2=\varepsilon^2 $$ であり、よって $\|p_j-p\|<\varepsilon$ である。これで、 $(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束することが示された。 $\square$

3. 開基

位相空間の開基の概念を定義する。ある点の近傍のうちいわば代表的なものを集めたのが基本近傍系であったのに対して、位相空間の開集合のうち代表的なものを集めたものが開基であると考えられる。

定義 3.1 (開基)

$X$ を位相空間とする。 $X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ が $X$ の開基(open base)であるとは、次の二つの条件を満たすことをいう。

  • $\mathcal{B}$ の任意の要素は $X$ の開集合である。
  • $X$ の任意の開集合 $U$ と任意の $x\in U$ に対して、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset U$ となる。 $\square$

命題 3.2 (開基であることの言い換え)

$X$ を位相空間とする。 $X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ に対して、次の二つの条件は同値である。

  • (1) $\mathcal{B}$ は $X$ の開基である。
  • (2) $\mathcal{B}$ の任意の要素は開集合で、かつ、 $X$ の任意の開集合 $U$ に対して、 $\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ であって $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ となるものが存在する。

証明

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $\mathcal{B}$ を $X$ の開基とする。すると、 $\mathcal{B}$ の任意の要素は $X$ の開集合である。次に、 $X$ の開集合 $U$ を任意に与える。このとき、各 $x\in U$ に対して、 $B_x\in\mathcal{B}$ を $x\in B_x\subset U$ となるように選べる。すると、 $U=\bigcup_{x\in U} B_x$ である(確かめよ)。よって、 $\mathcal{B}'=\{B_x\,|\,x\in B\}$ とおけば $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ である。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定する。 $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることを示そう。まず、(2) により、 $\mathcal{B}$ の任意の要素は開集合である。次に、 $U\subset X$ を開集合とし、 $x\in U$ とする。(2) により、 $\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ であって、 $U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B$ であるようなものが存在する。すると、ある $B\in\mathcal{B}'$ に対して、 $x\in B$ であるが、この $B$ に対して、 $B\in\mathcal{B}$, $x\in B\subset U$ である。よって、 $\mathcal{B}$ は $X$ の開基である。 $\square$

例 3.3 (開集合系自体は開基)

明らかな例であるが、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ に対して、 $X$ の開集合全体の集合 $\mathcal{O}$ は $X$ の開基である。 $\square$

例 3.4 (距離空間の開基)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、 $X$ の開球体すべての集合を $\mathcal{B}$ とする。すなわち、 $$ \mathcal{B}=\{B(x,r)\,|\,x\in X,\, r>0\} $$ とする。このとき、 $\mathcal{B}$ は $X$ の開基となることを示そう。まず、開球体は開集合であるから(命題 1.16)、 $\mathcal{B}$ の任意の要素は確かに $X$ の開集合となる。次に、 $U$ を $X$ の開集合とし、 $x\in U$ とする。距離空間における開集合の定義により、ある $r>0$ が存在して $B(x, r)\subset U$ となる。 $B(x, r)\in\mathcal{B}$ であるから、これで $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることが示された。

さらに、 $\mathcal{B}$ の部分集合 $\mathcal{B}'$ を $$ \mathcal{B}'=\{B(x, 1/n)\,|\,x\in X,\, n\in\mathbb{N}\} $$ で定義する。このとき $\mathcal{B}'$ も $X$ の開基となる。このことの証明は、例 2.7において $\mathcal{V}_x$ が基本近傍系であることの証明と同様にできるから、ここでは省略する。 $\square$

例 3.5 (Euclid空間の開基)

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は距離空間であるから、例 3.4により、 $$ \mathcal{B}=\{B(x,r)\,|\,x\in\mathbb{R}^n, r>0\},\quad \mathcal{B}'=\{B(x,1/m)\,|\,x\in\mathbb{R}^n,\,m\in\mathbb{N}\} $$ は $\mathbb{R}^n$ の開基である。 $\mathbb{R}^n$ は非可算集合だから、これらの開基はともに非可算である。

実は、 $\mathbb{R}^n$ は可算な開基をもつ。このことを見るため、座標がすべて有理数であるような $\mathbb{R}^n$ の点全体のなす部分集合 $$ \mathbb{Q}^n=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_1,\ldots, x_n\in\mathbb{Q}\} $$ を考える。 $\mathbb{Q}$ は可算集合だから、 $\mathbb{Q}^n$ も可算集合である。そこで、 $$ \mathcal{B}_0=\{B(x,1/m)\,|\,x\in\mathbb{Q}^n, m\in\mathbb{N}\} $$ と定める。 $\mathcal{B}_0$ は、 $\mathbb{R}^n$ の開集合からなる可算集合である。 $\mathcal{B}_0$ が $\mathbb{R}^n$ の開基となっていることを確かめよう。そのため、任意の開集合 $U\subset\mathbb{R}^n$ と任意の $x=(x_1,\ldots, x_n)\in U$ を与える。ある $r>0$ に対して、 $B(x,r)\subset U$ である。 $m\in\mathbb{N}$ を、 $1/m<r$ となるようにとる。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、有理数 $y_i\in\mathbb{Q}$ を $x_i$ に十分近くとり、 $|x_i-y_i|<1/2m\sqrt{n}$ となるようにする。このとき、 $$ d(x,y)^2=\sum_{i=1}^n (x_i-y_i)^2< n\cdot \frac{1}{(2m\sqrt{n})^2}=\left(\frac{1}{2m}\right)^2 $$ となるから、 $d(x,y)<1/2m$ である。 $B=B(y,1/2m)$ とおくと、 $B\in\mathcal{B}_0$, $x\in B$ である。あとは、 $B\subset U$ を示せばよい。そこで、 $z\in B=B(y,1/2m)$ とする。 $d(y, z)<1/2m$ であるから、 $d(x, z)\leq d(x, y)+d(y, z)<1/2m+1/2m=1/m$ となる。よって、 $1/m<r$ であったことにより、 $z\in B(x,1/m)\subset B(x, r)\subset U$ である。これで、 $B\subset U$ が示された。

特に $n=1$ の場合を考える。この場合、上の開基 $\mathcal{B}$ は、ちょうど $\mathbb{R}$ の開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ の全体と一致する。したがって、開区間全体の集合 $\{(a, b)\,|\,a,b\in\mathbb{R},\, a<b\}$ は $\mathbb{R}$ の開基である。 $\square$

高々可算な開基をもつ位相空間は特に扱いやすく、名前がついている。

定義 3.6 (第二可算)

位相空間 $X$ が第二可算(second countable)である、あるいは第二可算公理を満たすとは、高々可算な $X$ の開基が存在することをいう。 $\square$

例 3.5により、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ は第二可算な位相空間である。

命題 3.7 (第二可算ならば第一可算)

位相空間 $X$ が第二可算であるならば、 $X$ は第一可算である。

証明

$X$ を第二可算な位相空間とする。第二可算性の定義によって、高々可算な $X$ の開基 $\mathcal{B}$ が存在する。このとき、各 $x\in X$ に対して、 $$ \mathcal{B}_x=\{B\in\mathcal{B}\,|\,x\in B\} $$ とおく。すると、 $\mathcal{B}_x$ は $\mathcal{B}$ の部分集合なので高々可算である。あとは、 $\mathcal{B}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系となることを示せばよい。各 $B\in\mathcal{B}_x$ に対して $B$ は $x$ を要素にもつ開集合だから、 $x$ の開近傍である。よって、 $\mathcal{B}_x$ は $x$ の近傍からなる集合族となっている。次に、 $V$ を $x$ の開近傍とする。このとき、 $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、 $x\in B\subset V$ となる。このとき $x\in B$, $B\in\mathcal{B}$ であるから $B\in\mathcal{B}_x$ である。以上で、 $\mathcal{B}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。 $\square$

命題 3.7 の逆は成立しない。

例 3.8 (第一可算であるが第二可算でない空間)

$X$ を任意の非可算集合とする(たとえば、 $X=\mathbb{R}$ としてもよい)。この $X$ を離散位相によって位相空間とみなす。このとき、例 2.9でみたように、各 $x\in X$ に対して、 $x$ のただ一つの近傍からなる集合 $\{\{x\}\}$ は $x$ の基本近傍系である。よって、各 $x$ に対して、高々可算な(実際には、ただ一つの要素からなる)$x$ の基本近傍系が取れるから、 $X$ は第一可算である。

ところが、 $X$ は第二可算ではない。これを示すため、 $X$ の開基 $\mathcal{B}$ を任意に与える。 $\mathcal{B}$ が非可算であることを示せばよい。各 $x\in X$ に対して、 $\{x\}$ は $x$ を要素にもつ開集合だから、 $\mathcal{B}$ が開基であることより $x\in B\subset \{x\}$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在するが、このとき明らかに $B=\{x\}$ でなければならない。よって、各 $x\in X$ に対して $\{x\}\in\mathcal{B}$ であるから、写像 $f\colon X\to\mathcal{B}$ が $f(x)=\{x\}$ で定義される。この $f$ は単射であり $X$ は非可算集合だから、 $\mathcal{B}$ も非可算集合である。 $\square$

位相空間の開基は次の性質をもつ。

命題 3.9 (開基のもつ性質)

位相空間 $X$ の任意の開基 $\mathcal{B}$ に対して、次の性質が成り立つ。

  • (OB1) 任意の $x\in X$ に対して、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B$ となる。
  • (OB2) 任意の $B_1, B_2\in\mathcal{B}$ と $x\in B_1\cap B_2$ に対して、 $B\in\mathcal{B}$ が存在して $x\in B\subset B_1\cap B_2$ が成り立つ。

証明

(OB1) を示すため、 $x\in X$ とする。 $X$ 自身は開集合であるから、開基の定義により $x\in B\subset X$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在する。これで (OB1) が示された。

次に (OB2) を示すため、 $B_1, B_2\in\mathcal{B}$ と $x\in B_1\cap B_2$ を任意に与える。開基は開集合からなる集合だったから、 $B_1, B_2$ は開集合である。よって、 $B_1\cap B_2$ も開集合となる。 $x\in B_1\cap B_2$ だから、開基の定義により $B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset B_1\cap B_2$ となるものが存在する。 $\square$

基本近傍系のときと同じように、次の命題により、開基を指定することによって位相空間を定めることができる。

命題 3.10 (開基から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。 $X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{B}$ が与えられ、条件 (OB1), (OB2) を満たすとする。このとき、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、 $\mathcal{B}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開基となるものが一意的に存在する。この位相 $\mathcal{O}$ は具体的には $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{任意の }x\in U\text{ に対してある }B\in\mathcal{B}\text{ が存在して }x\in B\subset U\}\qquad (\star) $$ で与えられる。

証明

まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示す。そのため、集合族 $\mathcal{O}$ を $(\star)$ によって定義する。 このとき、 $\mathcal{O}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすことを示そう。

(O1) を示そう。 $\emptyset\in\mathcal{O}$ が成り立つことは、 $\forall x((x\in\emptyset)\rightarrow\cdots)$ の形の命題が常に真となることから分かる(命題 0.8注意 1.3命題 2.11のときと同様)。 $X\in\mathcal{O}$ を示すため、 $x\in X$ とする。(OB1) により、ある $B\in\mathcal{B}$ に対して $x\in B\subset X$ である。よって、 $X\in\mathcal{O}$ である。

(O2) を示すため、 $U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。 $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ を示すため、 $x\in U_1\cap U_2$ とする。各 $i=1, 2$ に対して、 $B_i\in\mathcal{B}$ を $x\in B_i\subset U_i$ となるように取れる。すると、 $x\in B_1\cap B_2\subset U_1\cap U_2$ である。(OB2) により、 $B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset B_1\cap B_2$ となるものが存在する。すると $x\in B\subset U_1\cap U_2$ である。これで、 $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ が示され、(O2) が示された。

(O3) を示すため、 $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ とする。 $x\in\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lamba$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、 $x\in U_{\lambda_0}$ である。 $U_{\lambda_0}\in\mathcal{O}$ なので、ある $B\in \mathcal{B}$ に対して、 $B\subset U_{\lambda_0}$ である。したがって、 $B\subset\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ が示され、(O3) が示された。

以上で、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が得られた。次に、 $\mathcal{B}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の開基となっていることを示す。まず、 $\mathcal{B}$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ の開集合であること、つまり $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ を示す。そのため、 $U\in\mathcal{B}$ とし、 $x\in U$ とする。 $B=U$ とおけば、 $B\in\mathcal{B}$ であって $x\in B\subset U$ である。よって、 $U\in\mathcal{O}$ となる。これで $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ が示された。次に、 $U\in\mathcal{O}$ とし、 $x\in U$ とする。このとき、 $\mathcal{O}$ の定義により、 $x\in B\subset U$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在する。以上により、 $\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることが示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ に対して、 $\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O}_1)$ の開基であると同時に $(X, \mathcal{O}_2)$ の開基でもあるとする。 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、 $U\in\mathcal{O}_1$ とする。このとき、 $U\in\mathcal{O}_2$ となること、つまり $U$ が位相空間 $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であることを命題 2.4を用いて示す。そのため、 $x\in U$ とする。 $\mathcal{B}$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の開基だから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、 $x\in B\subset U$ である。ところが、 $\mathcal{B}$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開基でもあり、 $B\in\mathcal{B}$ であるから、 $B$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であり、よって $B$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における開近傍である。したがって、命題 2.4により、 $U$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合、つまり $U\in\mathcal{O}_2$ である。これで、 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ が示された。全く同様に、 $\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も示されるから、結局 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ を得る。 $\square$

注意 3.11 (集合族を開基として生成される位相)

命題 3.10での位相 $\mathcal{O}$ を、$\mathcal{B}$ を開基として生成される位相という。このとき、 $\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}$ を含む最小の位相($\mathcal{B}$ を含む最も粗い位相)となっている。

このことを示そう。まず、 $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}$ は、 $\mathcal{B}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることから明らかに成立する。次に、 $\mathcal{O}'$ を、 $\mathcal{B}\subset\mathcal{O}'$ であるような $X$ 上の任意の位相とする。このとき、 $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ を示したい。そのため、 $U\in\mathcal{O}$ とする。命題 3.2より、 $\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}$ が存在して $$ U=\bigcup_{B\in\mathcal{B}'} B $$ である。ところが、 $\mathcal{B}'\subset\mathcal{B}\subset\mathcal{O}'$ であったので、各 $B\in\mathcal{B}'$ は $\mathcal{O}'$ の要素である。よって、上の式の右辺は、 $\mathcal{O}'$ の要素の和集合になっており、よって開集合系の公理から $\mathcal{O}'$ の要素である。したがって、 $U\in\mathcal{O}'$ が成り立つ。これで、 $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ が示され、 $\mathcal{O}$ が $\mathcal{B}$ を含む最小の位相であることが分かった。 $\square$

例 3.12 (Sorgenfrey 直線)

命題 3.10を使って、実数全体の集合 $\mathbb{R}$ に通常とは異なる位相を入れて、位相空間の例を構成しよう。実数 $a, b$ が $a<b$ を満たすとき、半開区間 $[a, b)$ を $[a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x<b\}$ で定義する。半開区間全体の集合を $\mathcal{B}$ とする。すなわち、 $$ \mathcal{B}=\{[a, b)\,|\,a, b\in\mathbb{R},\,a<b\} $$ とする。このとき、 $\mathcal{B}$ は条件 (OB1), (OB2) を満たす(確かめよ)。したがって、命題 3.10により、 $\mathcal{B}$ を開基とする $\mathbb{R}$ 上の位相がただ一つ存在する。集合 $\mathbb{R}$ にこの位相を入れて得られる位相空間をSorgenfrey直線(Sorgenfrey line)という。

以下ではSorgenfrey直線を $\mathbb{S}$ で表す。各 $x\in\mathbb{S}$ に対して、次の $\mathcal{U}_x$ は $x$ の $\mathbb{S}$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{U}_x=\{[x, x+1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ 実際、 $V$ を $x$ の $\mathbb{S}$ における開近傍とすると、 $\mathcal{B}$ が $\mathcal{S}$ の開基であることから、 $x\in [a, b)\subset V$ となる $a, b\in\mathbb{R}$ が存在する。このとき、 $a\leq x<b$ である。さらに、 $n\in\mathbb{N}$ を、 $x+1/n\leq b$ となるように取れる。すると、 $x\in [x, x+1/n)\subset [a, b)\subset V$ である。これで、 $\mathcal{U}_x$ が $x$ の $\mathbb{S}$ における基本近傍系であることが示された。 $\mathcal{U}_x$ は可算であるから、これでSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ は第一可算であることも分かった。

$\mathbb{R}$ の通常の位相を $\mathcal{O}_\mathbb{R}$ で表し、 $\mathbb{S}$ の位相を $\mathcal{O}_\mathbb{S}$ で表す。このとき、 $$ \mathcal{O}_\mathbb{R}\subset \mathcal{O}_\mathbb{S} $$ であることを示そう。そのために、まず任意の開区間 $(a, b)=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a<x<b\}$ を考える。 $(a, b)=\bigcup_{a<x<b}[x, b)$ と表されるから、 $(a, b)\in\mathcal{O}_\mathbb{S}$ である。よって、開区間全体の集合を $\mathcal{I}$ とすれば $\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_\mathbb{S}$ である。ところが、例 3.5の最後の段落で述べたように、 $\mathcal{I}$ は通常の位相を入れた $\mathbb{R}$ の開基である。よって注意 3.11により、 $\mathcal{O}_\mathbb{R}$ は $\mathcal{I}$ を含む最小の位相だから、 $\mathcal{O}_\mathbb{R}\subset\mathcal{O}_\mathcal{S}$ であることが分かった。こうして、Sorgenfrey 直線の位相は $\mathbb{R}$ の通常の位相よりも細かいことが分かった。

Sorgenfrey直線 $\mathbb{S}$ は第二可算ではない。これを示すため、 $\mathbb{S}$ が高々可算な開基 $\mathcal{B}$ をもったとする。 $\mathcal{B}$ の要素で空でなく下に有界であるもの全体を $\mathcal{B}'$ とし、写像 $f\colon\mathcal{B}'\to\mathbb{R}$ を、 $f(B)=\inf B$ によって定義する。ここで、 $\inf B$ は集合 $B$ の下限を表す。 $\mathcal{B}'$ は高々可算であるから、像 $f(\mathcal{B}')$ は高々可算であるが、 $\mathbb{R}$ は非可算なので、点 $x\in\mathbb{R}\setminus f(\mathbb{B}')$ が存在する。すると、 $x\in B\subset [x, x+1)$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在するが、このとき $B$ は要素 $x$ をもち、下界 $x$ をもつから $B\in\mathcal{B}'$ であり、 $x=\inf B=f(B)$ となる。これは $x\in\mathbb{R}\setminus f(\mathbb{B}')$ としていたことに反する。以上で、 $\mathbb{S}$ は第二可算ではないことが示された。 $\square$

開基の条件をさらに弱めた準開基の概念を定義する。

定義 3.13 (準開基)

$X$ を位相空間、 $\mathcal{S}$ を $X$ の部分集合族とする。 $\mathcal{S}$ が $X$ の準開基(subbase)であるとは、 $\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分全体が $X$ の開基になること、つまり次の集合 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が $X$ の開基になることをいう。 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\left\{\bigcap_{i=1}^n S_i\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\, S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}\right\} $$ このとき $\mathcal{S}\subset\mathcal{B}_\mathcal{S}$ であるから、 $\mathcal{S}$ の要素はすべて $X$ の開集合となることに注意する。また、 $\mathcal{S}$ 自身が開基である場合は、 $\mathcal{S}\subset\mathcal{B}_\mathcal{S}$ であることから $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ も開基となる。よって、開基は常に準開基となる。 $\square$

例 3.14 (実数直線の準開基)

$\mathbb{R}$ において、次の部分集合族を考える。 $$ \mathcal{S}=\{(a, +\infty)\,|\,a\in\mathbb{R}\}\cup\{(-\infty, b)\,|\,b\in\mathbb{R}\} $$ つまり、 $\mathcal{S}$ を左右どちらかだけに無限な開区間の全体とする。このとき、 $\mathcal{S}$ は $\mathbb{R}$ の準開基であることを示そう。

定義 3.13の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を考え、これが $\mathbb{R}$ の開基であることを示そう。 $\mathcal{S}$ の要素はすべて $\mathbb{R}$ の開集合なので、 その有限個の共通部分全体である $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素もすべて $\mathbb{R}$ の開集合である。 次に、 $U\subset\mathbb{R}$ を開集合、 $x\in U$ とする。すると、 ある $r>0$ に対して、 $B=B(x,r)$ とおくとき $B=(x-r, x+r)\subset U$ であるが、ここで $$ B=(x-r, x+r)=(x-r, +\infty)\cap (-\infty, x+r) $$ であるから $B\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ である。これと $x\in B\subset U$ により、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が $\mathbb{R}$ の開基であることが示された。 よって、 $\mathcal{S}$ は $\mathbb{R}$ の準開基である。

命題 3.15 (準開基のもつ性質)

位相空間 $X$ の任意の準開基 $\mathcal{S}$ に対して、次の性質が成り立つ。

  • (SB) 任意の $x\in X$ に対して、ある $S\in\mathcal{S}$ が存在して $x\in S$ となる。

証明 $x\in X$ とする。 $X$ 自身は開集合であるから、 定義 3.13 の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素 $B$ が存在して、 $x\in B\subset X$ となる。 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の定義から、ある $n\in\mathbb{N}$ と $S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}$ に対して $B=\bigcap_{i=1}^n S_i$ と表すことができる。よって、 $x\in B\subset S_1$ となるので、求める $S\in\mathcal{S}$ としては $S_1$ を取ればよい。 $\square$

命題 3.15の(SB)は非常に弱い条件であるが、この(SB)を満たしさえすれば、集合族はある位相の準開基になることができる。つまり、次が成り立つ。

命題 3.16 (準開基から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。 $X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{S}$ が与えられ、条件 (SB) を満たすとする。このとき、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、 $\mathcal{S}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の準開基となるものが一意的に存在する。

証明

与えられた $\mathcal{S}$ に対して、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を定義 3.13の通りとする。すると、任意の $B_1, B_2\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に対して $B_1\cap B_2\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ となることに注意する(確かめよ)。このことと、 $\mathcal{S}$ が (SB) を満たすことから、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ が (OB1), (OB2) を満たすことが分かり、よって、命題 3.10により、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基とする位相、すなわち $\mathcal{S}$ を準開基とする位相が一意的に存在することが分かる。 $\square$

開集合系の公理 (O1)-(O3) は、集合に位相を定めるときには一つの大きな制約である。命題 3.16はある意味でその制約を大幅に緩和するものである。つまり、(O1)-(O3) を満たさない集合族 $\mathcal{S}$ についても、(それが非常に弱い条件 (SB) を満たしさえすれば)$\mathcal{S}$ に基づいて位相を定めることができるのである。

注意 3.17 (集合族を準開基として生成される位相)

命題 3.16 での位相 $\mathcal{O}$ を、$\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相という。このとき、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $(X, \mathcal{O})$ の開基なのだから、 $\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相でもあることに注意する。

このときも注意 3.11のときと同様に、 $\mathcal{O}$ は $\mathcal{S}$ を含む最小の位相($\mathcal{S}$ を含む最も粗い位相)となっている。このことを示そう。まず、 $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ は、 $\mathcal{S}$ が $(X, \mathcal{O})$ の開基であることから明らかに成立する。次に、 $\mathcal{O}'$ を、 $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ であるような $X$ 上の任意の位相とする。すると、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ である。実際、 $B\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると $B=\bigcap_{i=1}^n S_i$, $S_i\in\mathcal{S}$ と表すことができるが、 $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ により $S_i\in\mathcal{O}'$ であり、よって開集合系の公理により $B=\bigcap_{i=1}^n S_i\in\mathcal{O}'$ となる。これで、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ が示された。すでに注意したように、 $\mathcal{O}$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相だから、注意 3.11で示したことより、 $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。これが示したいことであった。 $\square$

(SB) を満たす集合族 $\mathcal{S}$ は、それ自体では開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たさないかもしれない。 $\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ というのは、一言で言えば、(O1)-(O3) を満たすために最低限必要な集合を $\mathcal{S}$ に加えて得られる位相である。

4. 閉包と内部

位相空間の部分集合に対する重要な操作として、閉包と内部がある。 まず、閉包について述べよう。直観的にいえば、閉包とは、部分集合に対してそれに「いくらでも近い」点を付け加えたものである(後の命題 4.5を見るとそれが納得できるであろう)。

定義 4.1 (閉包)

$X$ を位相空間、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $A$ を含む $X$ の閉集合全体の集合を $\mathcal{F}_A$ とするとき、 共通部分 $\bigcap_{F\in \mathcal{F}_A} F$ を $A$ の $X$ における閉包(closure)といい、 $\operatorname{Cl} A$ で表す。

$A$ の閉包の記号としては、この他にも $\overline{A}$ が広く用いられている。複数の位相空間を扱うときなどに、 $X$ における閉包であることを強調する必要がある場合は $\operatorname{Cl}_X A$ と書く場合もある。 定義から明らかに、 $A\subset\operatorname{Cl} A$ である。 $\operatorname{Cl} A$ の要素のことを、 $A$ の触点(adherent point)ということがある。 また、各 $A\subset X$ に $\operatorname{Cl} A$ を対応させることで、 $X$ の冪集合 $\mathcal{P}(X)$ から $\mathcal{P}(X)$ への写像 $$ \operatorname{Cl}\colon \mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X) $$ が定義される。これを $X$ の閉包作用素(closure operator)という ($X$ の部分集合全体の集合を $X$ の冪集合といい $\mathcal{P}(X)$ で表すのであった)。 $\square$

閉集合の任意個の共通部分は常に閉集合となる(命題 1.3)ので、閉包 $\operatorname{Cl} A$ は閉集合である。 次の命題は、閉包を取り扱うときに常に用いられる。

命題 4.2 (閉包の最小性)

$X$ を位相空間、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $F$ が $A\subset F$ を満たす $X$ の閉集合であるならば $\operatorname{Cl} A\subset F$ である。 したがって、 $\operatorname{Cl} A$ は $A$ を含む $X$ の閉集合のうち最小のものである。

証明

$A\subset X$ とし、 $X$ の閉集合 $F$ が $A\subset F$ を満たすとする。このとき、定義 4.1の$\mathcal{F}_A$ に対して $F\in\mathcal{F}_A$ であるから、 $\operatorname{Cl} A=\bigcap_{F'\in\mathcal{F}_A} F'\subset F$ である。 $\operatorname{Cl} A$ は上で注意したように $X$ の閉集合であるから、 いま言えたことは、まさに、 $\operatorname{Cl} A$ が $A$ を含む $X$ の閉集合のうち最小のものであることを示している。 $\square$

注意 4.3 (閉集合の特徴づけ)

命題 4.2の後半の主張から、すぐに次のことが分かる。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が閉集合であることは、 $A=\operatorname{Cl} A$ であることと同値である。 $A\subset\operatorname{Cl} A$ はいつでも成り立つので、これは $\operatorname{Cl} A\subset A$ とも同値である。 $\square$

命題 4.4 (閉包の単調性)

$X$ を位相空間とするとき、 $X$ の部分集合 $A, B$ に対して $A\subset B$ ならば $\operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} B$ である。

証明

$A\subset B\subset X$ とする。 $B\subset\operatorname{Cl} B$ であるから、 $A\subset \operatorname{Cl} B$ である。 $\operatorname{Cl} B$ は閉集合 であるから、命題 4.2により、 $\operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl} B$ である。 $\square$

ある点が与えられた部分集合の閉包に属しているかどうか判定するには、次の命題を用いることが多い。

命題 4.5 (閉包に属する点の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $x\in A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Cl} A$ である。
  • (2) $x$ の任意の近傍 $V$ に対して、 $A\cap V\neq\emptyset$ である。
  • (3) $x$ の任意の開近傍 $V$ に対して、 $A\cap V\neq\emptyset$ である。
  • (4) $x$ のある基本近傍系 $\mathcal{V}$ が存在して、任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して $A\cap V\neq\emptyset$ である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $x\in \operatorname{Cl} A$ とする。(2) がもし成り立たなければ、 $x$ のある近傍 $V$ に対して、 $V\cap A=\emptyset$ である。近傍の定義から、開集合 $U$ で $x\in U\subset V$ となるものが存在するが、このとき $U\cap A=\emptyset$ であるから、 $A\subset X\setminus U$ である。 $X\setminus U$ は閉集合だから、命題 4.2により $\operatorname{Cl} A\subset X\setminus U$ であり、よって、 $x\in X\setminus U$ である。これは、 $x\in U$ であったことに反する。よって、(2) は成り立つ。

(2) $\Rightarrow$ (3) は明らかである。

(3) $\Rightarrow$ (4) は、 $x$ の基本近傍系 $\mathcal{V}$ として $x$ の開近傍全体の集合をとれば、直ちに正しいことが分かる。

(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) のような $x$ の基本近傍系 $\mathcal{V}$ が存在するにもかかわらず $x\notin \operatorname{Cl} A$ であったとして矛盾を導こう。このとき、 $X\setminus \operatorname{Cl} A$ は $x$ の開近傍であるから、ある $V\in\mathcal{V}$ に対して $x\in V\subset X\setminus \operatorname{Cl} A$ である。すると $V\cap \operatorname{Cl} A=\emptyset$ であるから、 $V\cap A=\emptyset$ である。これは、基本近傍系 $\mathcal{V}$ の取り方に反する。 $\square$

距離空間においては、閉包は点列の収束を用いて次のように記述できる。

命題 4.6 (距離空間における閉包)

$X$ を距離空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Cl} A$ である。
  • (2) $x$ に収束するような $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が存在する。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $x\in\operatorname{Cl} A$ とする。命題 4.5により、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $B(x, 1/n)\cap A\neq\emptyset$ である。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n\in B(x, 1/n)\cap A$ を選べば、 $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が得られる。 $\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が $x$ の基本近傍系であることに注目すれば、命題 2.18により、 $x_n\to x$ であることが分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を、 $x$ に収束するような $A$ の点列とする。このとき $x\in \operatorname{Cl} A$ であることを、命題 4.5 (2) の条件を確かめることで示そう。そこで、 $V$ を $x$ の近傍とする。 $x_n\to x$ なので、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、 $n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ である。すると、とくに $x_N\in V$ である。 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であったので、 $x_N\in V\cap A$ である。よって、 $V\cap A\neq\emptyset$ である。これが $x$ の任意の近傍 $V$ に対して成り立つので、 $x\in\operatorname{Cl} A$ である。 $\square$

次は、距離空間において閉集合が「点列の収束について閉じた集合」と同じものになることを示している。このことは、閉集合という用語を正当化するものと言えるだろう。

命題 4.7 (距離空間における閉集合の特徴づけ)

$X$ を距離空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とするとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は $X$ の閉集合である。
  • (2) $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $X$ の点 $x$ に収束するならば、 $x\in A$ である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $A$ を $X$ の閉集合とすると、注意 4.3により、 $A=\operatorname{Cl} A$ である。 $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $X$ の点 $x$ に収束するとする。このとき、命題 4.6により $x\in \operatorname{Cl} A$ であるから、 $x\in A$ である。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定しよう。このとき $A=\operatorname{Cl} A$ を示せばよいが、 $A\subset\operatorname{Cl} A$ はいつでも成り立つので、 $\operatorname{Cl} A\subset A$ をいえば十分である(注意 4.3を参照)。そこで、 $x\in\operatorname{Cl} A$ とする。このとき、命題 4.6により、 $A$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ で $x$ に収束するものが存在する。(2) により、このとき $x\in A$ である。これで $\operatorname{Cl} A\subset A$ が示された。 $\square$

例 4.8 (閉包の具体例)

(1) $X$ を離散空間とする。このときは、任意の $A\subset X$ に対して、 $A$ そのものが $X$ の閉集合なので $A=\operatorname{Cl} A$ である。

(2) $X$ を密着空間とする。このときは、閉集合が $\emptyset$ と $X$ の二つしかない。よって、 $A\subset X$ が空でなければ $\operatorname{Cl} A=X$ である。また、 $\operatorname{Cl} \emptyset=\emptyset$ である。

(3) 無限集合 $X$ を補有限位相(例 1.8)によって位相空間と見なす。このときは、 $X$ の閉集合は $X$ の有限部分集合すべてと、 $X$ そのものである。よって、 $A\subset X$ が有限集合のときは、 $\operatorname{Cl} A=A$ である。一方、 $A$ が無限集合のときは、 $\operatorname{Cl} A=X$ である。

(4) $X=\mathbb{R}$ とする。 $A$ を開区間 $(-1, 1)$ とするとき、 $\operatorname{Cl} A=[-1, 1]$ であることを示そう。そのためには、(i) $x>1$ のとき $x\notin\operatorname{Cl} A$ (ii) $x<-1$ のとき $x\notin\operatorname{Cl} A$ (iii) $1\in\operatorname{Cl} A$ (iv) $-1\in\operatorname{Cl} A$ の四つを示せばよい。ここでは、(i) と (iii) のみ示そう((ii) は (i) と、(iv) は (iii) と、それぞれ同様である)。(i) を見るため、 $x>1$ とする。このとき開区間 $U=(1,+\infty)$ を考えると、 $U$ は $x$ の開近傍で $U\cap A=\emptyset$ であるから、命題 4.5により $x\notin \operatorname{Cl} A$ である。(iii) を見るためには、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を $x_n=1-1/n$ で定義するとき $x_n\to 1$ となることに注目する。 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列だから、命題 4.6により $1\in\operatorname{Cl} A$ である。この例にも見られるように、 $\mathbb{R}$(あるいは一般に $\mathbb{R}^n$)における閉包は、直観的には集合に「境界の点」を付け加えたものであるということができ、視覚的に分かりやすい。

(5) $X=\mathbb{R}^n$ に対して、各座標が有理数であるような点全体のなす部分集合 $\mathbb{Q}^n$ を考える。このとき、 $\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n=\mathbb{R}^n$ となることを示そう。 $\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n\subset\mathbb{R}^n$ は明らかなので、 $\mathbb{R}^n\subset\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n$ であることを示せばよい。そこで、 $d$ でEuclid距離を表すことにし、 $x=(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n$ とする。 $x$ の基本近傍系として、 $\mathcal{V}=\{B_d(x,r)\,|\,r>0\}$ を考え、これについて命題 4.5(4)の条件を用いることで $x\in\operatorname{Cl} \mathbb{Q}^n$ を示そう。任意に $V\in\mathcal{V}$ を与える。ある $r>0$ に対して、 $V=B_d(x,r)$ である。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、有理数 $y_i\in\mathbb{Q}$ を $x_i$ に十分近くとり、 $|x_i-y_i|<r/\sqrt{n}$ となるようにする。すると、 $y=(y_1,\ldots, y_n)$ に対して $y\in\mathbb{Q}^n$ であり、簡単な計算により $d(x,y)<r$ を得る。よって、 $y\in B_d(x,r)\cap\mathbb{Q}^n=V\cap\mathbb{Q}^n$ となる。よって、 $V\cap\mathbb{Q}^n\neq\emptyset$ であるから、命題 4.5(4)により $x\in\operatorname{Cl}\mathbb{Q}^n$ である。 $\square$

上の例の(5)のように、閉包が空間全体となるような部分集合は特に重要であるため、それを表す用語がある。

定義 4.9 (稠密)

$X$ を位相空間とする。 $X$ の部分集合 $A$ が($X$ において)稠密(dense)であるとは、 $\operatorname{Cl} A=X$ が成り立つことをいう。 $\square$

例 4.10 (稠密な部分集合の例)

例 4.8(5)により、 $\mathbb{R}^n$ において $\mathbb{Q}^n$ は稠密である。とくに、 $\mathbb{R}$ において $\mathbb{Q}$ は稠密である。 $\square$

定義 4.11 (可分)

位相空間 $X$ が可分(separable)であるとは、 $X$ の高々可算な部分集合 $A$ であって $X$ において稠密なものが存在することをいう。 $\square$

$\mathbb{Q}^n$ は高々可算集合であるから、例 4.10 により $\mathbb{R}^n$ は可分な位相空間であるが、より一般に次の結果がある。

命題 4.12 (第二可算ならば可分)

位相空間 $X$ が第二可算であるとする。このとき、 $X$ は可分である。

証明

位相空間 $X$ が第二可算であるとすると、 $X$ の高々可算な開基 $\mathcal{B}$ が存在する。各 $B\in\mathcal{B}\setminus \{\emptyset\}$ に対して、点 $x_B\in B$ を選び、 $A=\{x_B\,|\,B\in\mathcal{B}\setminus \{\emptyset\}\}$ とおく。 $A$ は高々可算集合であるから、あとは $A$ が $X$ において稠密であること、つまり $X=\operatorname{Cl} A$ を示せばよい。そのためには、 $X\subset \operatorname{Cl} A$ が言えればよい。そこで、 $x\in X$ とする。 $x\in\operatorname{Cl} A$ を、命題 4.5(3)の条件を使って示すため、 $x$ の開近傍 $V$ を任意に与える。すると、 $x\in B\subset V$ となる $B\in\mathcal{B}$ が存在する。このとき、 $x\in B$ により $B\neq\emptyset$ だから、 $x_B\in B$ が定義される。 $x_B\in V\cap A$ なので、 $V\cap A\neq\emptyset$ である。これで命題 4.5(3)の条件により $x\in\operatorname{Cl} A$ が示された。よって $X\subset \operatorname{Cl} A$ となり、 $A$ が $X$ において稠密であることが示された。 $\square$

次の結果により、距離空間については第二可算性と可分性は同値な性質となる。

命題 4.13 (距離空間が可分ならば第二可算)

距離空間 $(X, d)$ が可分であるとする。このとき、 $(X, d)$ は第二可算である。

証明

距離空間 $(X, d)$ が可分であるとすると、高々可算な集合 $A\subset X$ であって $X$ において稠密なものが存在する。このとき、 $$ \mathcal{B}=\{B(a,1/n)\,|\,a\in A,\,n\in\mathbb{N}\} $$ とおけば $\mathcal{B}$ が $X$ の開基となることを示そう。 $\mathcal{B}$ は高々可算であるから、これが言えれば $X$ の第二可算性が示されて証明は終わる。さて、そこで $U$ を $X$ の開集合とし、 $x\in U$ とする。 $x\in B\subset U$ となる $B\in\mathcal{B}$ を見つければよい。まず、 $r>0$ を $B(x,r)\subset U$ となるように取る。 $n\in\mathbb{N}$ を、 $1/n<r$ であるように取ると、 $x\in X=\operatorname{Cl} A$ により $B(x,1/2n)\cap A\neq\emptyset$ である。そこで、 $a\in B(x,1/2n)\cap A$ を一つ取る。すると、 $d(a,x)<1/2n$ であるから、 $x\in B(a,1/2n)$ である。また、 $B(a,1/2n)\subset B(x,1/n)$ である。実際、 $y\in B(a,1/2r)$ とすれば、 $d(y,x)\leq d(y,a)+d(a,x)<1/2n+1/2n=1/n$ であるから、 $y\in B(x,1/n)$ となる。以上から $$ x\in B(a,1/2n)\subset B(x,1/n)\subset B(x,r)\subset U $$ である。 $B(a,1/2n)\in\mathcal{B}$ であるから、これで $\mathcal{B}$ が $X$ の開基となることが示された。 $\square$

例 4.14 (可分だが第二可算でない例、第一可算だが距離化可能でない例)

$X$ を集合とし、これを補有限位相(例 1.8)により位相空間とみなす。このとき、 $X$ は可分であることを示そう。 $X$ が高々可算の場合は、 $X$ 自身が高々可算な稠密集合となるからよい。そこで、 $X$ が非可算であるとする。このときは、 可算無限部分集合 $A\subset X$ を取ることができる。 $A$ が $X$ において稠密である。実際、 $X$ の閉集合は $X$ の有限部分集合あるいは $X$ 自身だから、このとき $A$ を含む $X$ の閉集合は $X$ 自身しかあり得ない。よって、 $A$ を含む最小の閉集合であるところの $\operatorname{Cl} A$ は $X$ でなければならない。 これで $A$ は $X$ の稠密な部分集合であることが分かり、 $X$ は可分であることが分かった。

一方、 $X$ が非可算であるとき、 $X$ は第一可算とならないことを例 2.14で示している。このことと命題 3.7より、 $X$ は第二可算でもない。したがって、非可算集合に補有限位相を入れたものは、可分であるが第二可算ではない位相空間の例となっている。

可分だが第二可算ではない位相空間のもう一つの例として、Sorgenfrey直線 $\mathbb{S}$(例 3.12)がある。実際、 $\mathbb{S}$ の高々可算な稠密な部分集合として $\mathbb{Q}$ が取れる(確かめよ)。一方、 $\mathbb{S}$ が第二可算でないことは例 3.12で示した。 $\mathbb{S}$ が可分だが第二可算でないという事実と命題 4.14により、 $\mathbb{S}$ は距離化可能ではないことが分かる。かくして、 $\mathbb{S}$ は第一可算であるが距離化可能ではない位相空間であると分かった。 $\square$

閉包作用素を指定することで位相空間を定めることができる。そのときに用いられる性質が次のものである。

命題 4.15 (閉包作用素の性質)

位相空間 $X$ の閉包作用素 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ は次の性質を満たす。

  • (CO1) $\operatorname{Cl} \emptyset=\emptyset$
  • (CO2) $A\subset\operatorname{Cl} A$
  • (CO3) $\operatorname{Cl}(A\cup B)=\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B$
  • (CO4) $\operatorname{Cl} \operatorname{Cl} A=\operatorname{Cl} A$

証明

(CO1)は、 $\emptyset$ が閉集合であることから分かる。(CO2)は、閉包の定義から明らかである。

(CO3)を示すため、 $A, B\subset X$ とする。命題 4.4により $\operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl}(A\cup B)$ および $\operatorname{Cl} B\subset \operatorname{Cl}(A\cup B)$ が成り立つので、 $\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B\subset \operatorname{Cl}(A\cup B)$ である。一方、(CO2)により $A\cup B\subset\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B$ である。命題 1.3の(C2)により $\operatorname{Cl} A\cup\operatorname{Cl} B$ は閉集合だから、命題 4.2により $\operatorname{Cl} (A\cup B)\subset \operatorname{Cl} A\cup \operatorname{Cl} B$ である。

(CO4)を示すため、 $A\subset X$ とする。 $\operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} A$ という明らかな包含関係に注目する。ここでの右辺 $\operatorname{Cl} A$ は閉集合なので、命題 4.2により$\operatorname{Cl} \operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl} A$ である。逆向きの包含 $\operatorname{Cl} A\subset \operatorname{Cl} \operatorname{Cl} A$ は(CO2)から直ちに分かる。 $\square$

命題 4.16 (閉包作用素から位相空間を定める)

集合 $X$ に対して写像 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が与えられ、命題 4.15の条件(CO1)-(CO4)を満たしているとする。このとき、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、 $\operatorname{Cl}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の閉包作用素となるようなものがただ一つ存在する。

証明

写像 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が(CO1)-(CO4)を満たすとする。 まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示そう。そのため、はじめに $\mathcal{F}$ を以下で定義する。 $$ \mathcal{F}=\{A\subset X\,|\,A=\operatorname{Cl} A \} $$ $\mathcal{F}$ が命題 1.3の(C1)-(C3)を満たすことを確認しよう。

まず、(C1)を示す。(CO1)により $\emptyset\in\mathcal{F}$ である。また、(CO2)により $X\subset\operatorname{Cl} X\subset X$ となるので、 $X\in\mathcal{F}$ である。(C2)を示すため、 $F_1, F_2\in\mathcal{F}$ とする。(CO3)により、 $\operatorname{Cl}(F_1\cup F_2)=\operatorname{Cl} F_1\cup\operatorname{Cl} F_2=F_1\cup F_2$ であるから、 $F_1\cup F_2\in\mathcal{F}$ である。(C3)を示す前に、次が成り立つことに注意しておく。 $$ A\subset B\subset X \Longrightarrow \operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} B\qquad(\star) $$ これを見るため、 $A\subset B\subset X$ とする。 このとき $A\cup B=B$ なので、(CO3)により$\operatorname{Cl}A\cup\operatorname{Cl} B=\operatorname{Cl}(A\cup B)=\operatorname{Cl} B$ であり、したがって $\operatorname{Cl} A\subset\operatorname{Cl} B$ である。

さて、(C3)を示すため、 $\{F_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{F}$ とする。 $\lambda\in \Lambda$ を任意に固定すると、 $\bigcap_{\mu\in \lambda} F_\mu\subset F_\lambda$ であるから、これに上で示したことを適用して、 $\operatorname{Cl}\, \bigcap_{\mu\in I} F_\mu\subset \operatorname{Cl} F_\lambda=F_\lambda$ を得る。これがすべての $\lambda\in \Lambda$ について成り立つので、 $\operatorname{Cl} \bigcap_{\mu\in I} F_\mu\subset \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ である。逆向きの包含は (CO2) から成り立つので、 $\operatorname{Cl} \bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda=\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda$ であり、よって $\bigcap_{\lambda\in \Lambda} F_\lambda\in\mathcal{F}$ である。

以上により、 $\mathcal{F}$ は(C1)-(C3)を満たす。よって、 $\mathcal{F}$の要素の補集合全体の集合 $$ \mathcal{O}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\} $$ は(O1)-(O3)を満たし、 $(X, \mathcal{O})$ は位相空間となって $\mathcal{F}$ は $(X, \mathcal{O})$ の閉集合全体の集合になることが分かる。

次に、 $\mathrm{Cl}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における閉包作用素に一致することを示そう。混乱を防ぐため、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における閉包作用素は $\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}}$ で表す。示すべきことは、任意の $A\subset X$ に対して $\operatorname{Cl}A=\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A$ となることである。そこで、 $A\subset X$ を任意に与える。(CO2)により、 $A\subset \operatorname{Cl} A$ であるが、いま(CO4)により$\operatorname{Cl}\operatorname{Cl}A=\operatorname{Cl}A$ なので、 $\operatorname{Cl}A\in\mathcal{F}$ つまり $\operatorname{Cl}A$ は $(X, \mathcal{O})$ の閉集合である。よって、命題 4.2により、 $\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A\subset\operatorname{Cl}A$ である。逆向きの包含を示すため、任意の $x\in\operatorname{Cl}A$ を与える。 $x$ の $(X, \mathcal{O})$ における開近傍 $V$ を任意に与えると、 $X\setminus V=\operatorname{Cl}(X\setminus V)$ である。もし、 $V\cap A=\emptyset$ であれば、 $A\subset X\setminus V$ であるから、さきほど示した性質 $(\star)$ により、 $x\in \operatorname{Cl}A\subset\operatorname{Cl}(X\setminus V)=X\setminus V$ となり、 $x\in V$ であることに反する。よって、 $V\cap A\neq\emptyset$ であるから、命題 4.5(3)により、 $x\in\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A$ である。以上で、 $\operatorname{Cl}A=\mathrm{Cl}_{\mathcal{O}} A$ が示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。そこで、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ に対して、 $\mathrm{Cl}$ が $(X, \mathcal{O}_1)$ の閉包作用素であると同時に $(X, \mathcal{O}_2)$ の閉包作用素でもあるとする。 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、 $U\in\mathcal{O}_1$ とする。 $X\setminus U$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の閉集合であり、 $\mathrm{Cl}$ は $(X, \mathcal{O}_1)$ の閉包作用素なので、 $X\setminus U=\operatorname{Cl}(X\setminus U)$ である。 $\mathrm{Cl}$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の閉包作用素でもあるので、この式は注意 4.3により $X\setminus U$ が $(X, \mathcal{O}_2)$ の閉集合であることを意味し、したがって $U\in\mathcal{O}_2$ である。以上から、 $\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ である。全く同様に、 $\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も成り立つから、 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ である。 $\square$

次に、閉包と双対的な操作として、部分集合の内部の概念を導入する。

定義 4.17 (内部)

$X$ を位相空間、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $A$ に含まれる $X$ の開集合全体の集合を $\mathcal{U}_A$ とするとき、和集合 $\bigcup_{U\in \mathcal{U}_A} U$ を $A$ の $X$ における内部(interior)といい、 $\operatorname{Int} A$ で表す。 $\square$

$A$ の内部の記号としては、この他にも $A^\circ$ を用いる文献もある。複数の位相空間を扱うときなどに、 $X$ における内部であることを強調する必要がある場合は $\operatorname{Int}_X A$ と書く場合もある。定義から明らかに、 $\operatorname{Int} A\subset A$ である。 $\operatorname{Int} A$ の要素のことを、 $A$ の内点(interior point)という。 また、各 $A\subset X$ に $\operatorname{Int} A$ を対応させることで、 $X$ の冪集合 $\mathcal{P}(X)$ から $\mathcal{P}(X)$ への写像 $$ \operatorname{Int}\colon \mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X) $$ が定義される。これを $X$ の内部作用素(interior operator)という。 $\square$

開集合の任意個の和集合は常に開集合であるから、内部 $\operatorname{Int} A$ は開集合である。

命題 4.18 (内部の最大性)

$X$ を位相空間、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $U$ が $U\subset A$ を満たす $X$ の開集合であるならば $U\subset \operatorname{Int} A$ である。 したがって、 $\operatorname{Int} A$ は $A$ に含まれる $X$ の開集合のうち最大のものである。

証明

$A\subset X$ とし、 $X$ の開集合 $U$ が $U\subset A$ を満たすとする。このとき、定義 4.17の $\mathcal{U}_A$ に対して $U\in\mathcal{U}_A$ であるから、 $U\subset \bigcup_{U'\in\mathcal{U}_A} U'=\operatorname{Int} A$ である。 $\operatorname{Int} A$ は上で注意したように $X$ の開集合であるから、 いま言えたことは、まさに、 $\operatorname{Int} A$ が $A$ に含まれる $X$ の開集合のうち最大のものであることを示している。 $\square$

注意 4.19 (開集合の特徴づけ)

命題 4.18の後半の主張から、すぐに次のことが分かる。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が開集合であることは、 $A=\operatorname{Int} A$ であることと同値である。 $\square$

次の関係を用いると、内部に関する様々な主張は、閉包に関する主張から導かれることが分かる。

命題 4.20 (内部と閉包との関係)

$X$ を位相空間とするとき、任意の $A\subset X$ に対して $\operatorname{Int} A=X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)$ である。

証明 二つの包含関係 $\operatorname{Int} A\subset X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)$ および $X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset \operatorname{Int} A$ を示そう。

まず、 $\operatorname{Int} A\subset A$ であるから、 $X\setminus A\subset X\setminus \operatorname{Int} A$ である。よって、命題 4.2により、 $\operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset X\setminus \operatorname{Int} A$ である。したがって、 $\operatorname{Int} A\subset X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)$ である。 一方、 $X\setminus A\subset\operatorname{Cl}(X\setminus A)$ であるから、 $X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset A$ である。よって、命題 4.18により、 $X\setminus \operatorname{Cl}(X\setminus A)\subset \operatorname{Int} A$ である。 $\square$

命題 4.21 (内部の単調性)

$X$ を位相空間とするとき、 $X$ の部分集合 $A, B$ に対して $A\subset B$ ならば $\operatorname{Int} A\subset\operatorname{Int} B$ である。

証明

閉包の単調性(命題 4.4)と命題 4.20を組み合わせれば分かる。 $\square$

命題 4.22 (内部に属する点の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $x\in A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Int} A$ である。
  • (2) $x$ のある近傍 $V$ に対して、 $V\subset A$ である。
  • (3) $A$ は $x$ の近傍である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、 $x$ の近傍 $V$ として $\operatorname{Int} A$ を取れることから分かる。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。 $x$ のある近傍 $V$ に対して $V\subset A$ であるとする。このとき、 $X$ の開集合 $U$ で $x\in U\subset V$ となるものが存在する。すると $U\subset A$ であるから、 $A$ は $x$ の近傍である。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $A$ が $x$ の近傍であるとすると、ある開集合 $U$ に対して、 $x\in U\subset A$ である。よって、命題 4.18により、 $U\subset \operatorname{Int} A$ である。 $\square$

命題 4.23 (内部作用素の性質)

位相空間 $X$ の閉包作用素 $\operatorname{Int}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ は次の性質を満たす。

  • (IO1) $\operatorname{Int} X=X$
  • (IO2) $\operatorname{Int} A\subset A$
  • (IO3) $\operatorname{Int}(A\cap B)=\operatorname{Int} A\cap\operatorname{Int} B$
  • (IO4) $\operatorname{Int} \operatorname{Int} A=\operatorname{Int} A$

証明

閉包作用素の性質(命題 4.15)と命題 4.20を組み合わせれば分かる。 $\square$

命題 4.24 (内部作用素から位相空間を定める)

集合 $X$ に対して写像 $\operatorname{Int}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ が与えられ、命題 4.23の条件(IO1)-(IO4)を満たしているとする。このとき、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、 $\operatorname{Int}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の内部作用素となるようなものがただ一つ存在する。

証明 $\operatorname{Cl}\colon\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$ を $\operatorname{Cl} A=X\setminus \operatorname{Int}(X\setminus A)$ により定義すれば、 $\operatorname{Cl}$ は (CO1)-(CO4) を満たすから、 $X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって $\operatorname{Cl}$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の閉包作用素となるものがただ一つ存在する。 $\operatorname{Cl}$ が $(X, \mathcal{O})$ の閉包作用素であることと $\operatorname{Int}$ が $(X, \mathcal{O})$ の内部作用素であることは命題 4.20により同値であるから、示すべき主張が得られる。 $\square$

最後に、閉包と内部を用いてすぐに定義される境界の概念にふれよう。

定義 4.25 (境界)

位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、差集合 $\operatorname{Cl} A\setminus \operatorname{Int} A$ を $A$ の $X$ における境界(frontier)といい、 $\operatorname{Fr} A$ と表す。 $\square$

境界 $\operatorname{Fr} A$ は文献によって様々な記号で表され、他には $\partial A$, $\operatorname{Bd} A$ などもよく用いられる。 $X$ における境界であることを強調する必要がある場合は $\operatorname{Fr}_X A$ と書く場合もある。 定義と命題 4.20により、 $$ \operatorname{Fr} A=\operatorname{Cl} A\cap(X\setminus \operatorname{Int} A)=\operatorname{Cl} A\cap\operatorname{Cl}(X\setminus A) $$ である。よって、 $\operatorname{Fr} A$ は常に $X$ の閉集合である。さらに、上の式と命題 4.5から、次が直ちに導かれる(証明は省略する)。

命題 4.26 (境界に属する点の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $x\in A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x\in \operatorname{Fr} A$ である。
  • (2) $x$ の任意の近傍 $V$ に対して、 $A\cap V\neq\emptyset$ かつ $(X\setminus A)\cap V\neq\emptyset$ である。
  • (3) $x$ の任意の開近傍 $V$ に対して、 $A\cap V\neq\emptyset$ かつ $(X\setminus A)\cap V\neq\emptyset$ である。
  • (4) $x$ のある基本近傍系 $\mathcal{V}$ が存在して、任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して $A\cap V\neq\emptyset$ かつ $(X\setminus A)\cap V\neq\emptyset$ である。 $\square$

例 4.27 (内部と境界の例)

(1) $X=\mathbb{R}^2$ とし、 $A$ を平面 $\mathbb{R}^2$ の原点 $0=(0,0)$ を中心する半径 $1$ の閉円板とする。すなわち、 $$ A=\overline{B}_{d_{\mathbb{R}^2}}(0,1)=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,{d_{\mathbb{R}^2}}(x,0)\leq 1\}=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|\leq 1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1\} $$ とする。ここで、 ${d_{\mathbb{R}^2}}$ は $\mathbb{R}^2$ 上のEuclid距離、 $\|\phantom{x}\|$ はEuclidノルムとする。命題 1.16により、 $A$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。 よって、 $\operatorname{Cl} A=A$ である。次に、 $\operatorname{Int} A$ を求めよう。 いま少なくとも $\operatorname{Int} A\subset A$ だから、 $A$ の各点 $x$ に対して、 $x$ が $\operatorname{Int} A$ に属しているかどうかを判定するという方針をとる。まず、 ${d_{\mathbb{R}^2}}(x, 0)<1$ の場合を考える。このときは、開円板 $U=B_{d_{\mathbb{R}^2}}(0,1)$ が $x$ の開近傍となり、 $U\subset A$ であるから、命題 4.22により $x\in\operatorname{Int} A$ である。次に、 ${d_{\mathbb{R}^2}}(x, 0)=1$ の場合を考える。このときは $x\notin \operatorname{Int} A$ であることを示そう。そのためには、命題 4.22により、 $x$ のいかなる近傍 $V$ に対しても、 $V$ が $A$ に含まれないことを示せばよい。そこで、 $x$ の近傍 $V$ を任意に与えると、ある $r>0$ が存在して、 $B(x,r)\subset V$ である。 $y=(1+r/2)x$ とおけば、 ${d_{\mathbb{R}^2}}(y,x)=\|y-x\|=(r/2)\|x\|=(r/2)\cdot 1=r/2<r$ により $y\in B(x,r)\subset V$ である。一方、 ${d_{\mathbb{R}^2}}(y,0)=\|y\|=(1+r/2)\|x\|=(1+r/2)\cdot 1=1+r/2>1$ であるから、 $y\notin A$ である。以上により、 $y\in V\setminus A$ であるので、 $V$ は $A$ に含まれない。したがって、 $x\notin\operatorname{Int} A$ である。こうして、 $$ \operatorname{Int} A=B_{d_{\mathbb{R}^2}}(0,1)=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,{d_{\mathbb{R}^2}}(x,0)<1\}=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|<1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,x_1^2+x_2^2<1\} $$ となることが分かった。 $\operatorname{Cl} A=A$ であったから、 $A$ の境界 $\operatorname{Fr} A=\operatorname{Cl} A\setminus\operatorname{Int} A=A\setminus\operatorname{Int} A$ は単位円周となる。すなわち、 $$ \operatorname{Fr} A=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,{d_{\mathbb{R}^2}}(x,0)=1\}=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|=1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,x_1^2+x_2^2=1\} $$ である。

(2) $X=\mathbb{R}^3$ とし、 $$ B=\{(x_1, x_2, x_3)\in\mathbb{R}^3\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1,\,x_3=0\} $$ とする。 $B$ は $\mathbb{R}^3$ 内の平面 $P=\{(x_1, x_2, x_3)\in\mathbb{R}^3\,|\,x_3=0\}$ に含まれる閉円板である。 $B$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合である。このことを示すには、例えば、 $B=P\cap \overline{B}_{d_{\mathbb{R}^3}}(0,1)$ であることに注目すればよい。ここで、 ${d_{\mathbb{R}^3}}$ は $\mathbb{R}^3$ のEuclid距離を表す。 $\overline{B}_d(0,1)$ は閉球体だから $\mathbb{R}^3$ の閉集合で(命題 1.16)、 $P$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合であることは、たとえば $\mathbb{R}^3\setminus P$ が開集合であることから分かる(詳細は読者にゆだねる)。したがって、それらの共通部分である $B$ は $\mathbb{R}^3$ の閉集合である。よって、 $B=\operatorname{Cl} B$ である。

次に、 $\operatorname{Int} B=\emptyset$ であることを示そう。 $\operatorname{Int} B\subset B$ はいつでも成り立つから、それを言うには、 $B$ のいかなる点も $\operatorname{Int} B$ に属していないことを言えばよい。そこで、任意に $x=(x_1, x_2, x_3)\in B$ を与える。 $B$ の定義から、 $x_3=0$ であり、よって $x=(x_1, x_2, 0)$ である。 $x$ の近傍 $V$ を任意に与える。すると、 $r>0$ が存在して、 $B_{d_{\mathbb{R}^3}}(x,r)\subset V$ である。このとき、 $x'=(x_1, x_2, r/2)$ とおけば、 $d_{\mathbb{R}^3}(x, x')=r/2<r$ なので、 $x'\in B_{d_{\mathbb{R}^3}}(x,r)\subset V$ であるが、一方で $x'$ の第 3 座標 $r/2$ は $0$ でないから、 $x'\notin B$ である。よって、 $V$ は $B$ に含まれない。これが $x$ の任意の近傍 $V$ について成り立つから、命題 4.22により $x\notin\operatorname{Int} B$ である。これで、 $\operatorname{Int} B=\emptyset$ が示された。

以上より、 $B$ の境界 $\operatorname{Fr} B$ は $\operatorname{Fr} B=\operatorname{Cl} B\setminus\operatorname{Int} B=B\setminus\emptyset=B$ である。

(1) の$A$ と (2) の $B$ は一見どちらも同じような閉円板であるが、内部 $\operatorname{Int} A$ と $\operatorname{Int} B$ には大きな違いが生じていることに注意する。これは、内部を考えるときに全空間を $\mathbb{R}^2$ と考えるか $\mathbb{R}^3$ と考えるかの違いに由来している。 $\square$

5. 連続写像

ここから、複数の位相空間の間の写像が扱うことを始める。まず、連続写像を導入する。これは非常に基本的な概念であって、通常、位相空間の間の写像としては連続写像のみを考えると言っても良いほどである。連続写像は微積分で考えられていた連続関数の一般化であり、直観的には「近くの点を近くの点に写す」写像である。その定義は非常に簡潔に述べられるが、すぐには直観的な意味が読み取りづらいかもしれない。

定義 5.1 (連続写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が連続写像(continuous map)であるとは、 $Y$ の任意の開集合 $V$ に対して、逆像 $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合となることをいう。 $\square$

$(X, \mathcal{O})$, $(Y, \mathcal{O}')$ のように開集合系を明示的に書いている場合(とくに同じ集合に複数の位相を考えていて混乱のおそれのある場合)には、「連続写像 $f\colon (X, \mathcal{O})\to (Y, \mathcal{O}')$」のような表現も用いる。

連続写像に関して、まず次の基本性質を挙げる。

命題 5.2 (恒等写像と合成)

次のことが成り立つ。

  • (1) 任意の位相空間 $X$ に対して、恒等写像 $\operatorname{id}_X\colon X\to X$ は連続である。
  • (2) $X, Y, Z$ が位相空間であり、 $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ が連続であるとき、合成写像 $g\circ f\colon X\to Z$ は連続である。

証明

(1) $V$ を $X$ の開集合とすると、 $\operatorname{id}_X^{-1}(V)=V$ なので $\operatorname{id}_X^{-1}(V)$ も $X$ の開集合である。よって、 $\operatorname{id}_X\colon X\to X$ は連続である。

(2) $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とし、 $W$ を $Z$ の開集合とする。すると、 $g^{-1}(W)$ は $Y$ の開集合であり、よって $f^{-1}(g^{-1}(W))$ は $X$ の開集合である。ところが、 $(g\circ f)^{-1}(V)=f^{-1}(g^{-1}(W))$ であるから、 $(g\circ f)^{-1}(W)$ は $X$ の開集合である。よって、 $g\circ f\colon X\to Z$ は連続である。 $\square$

写像 $f\colon X\to Y$ が定値写像(constant map)であるとは、ある $c\in Y$ が存在して、任意の $x\in X$ に対して $f(x)=c$ となることをいう。このとき、 $f$ を $c$ への定値写像という。

命題 5.3 (定値写像は連続)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。任意の定値写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。

証明

$f\colon X\to Y$ が $c$ への定値写像であるとする。 $V$ を $Y$ の開集合とすると、 $c\in V$ のとき $f^{-1}(V)=X$, $c\notin V$ のとき $f^{-1}(V)=\emptyset$ だから、いずれにしても $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。よって、 $f$ は連続である。 $\square$

連続写像の定義で、「開集合」を「閉集合」に変えても同じことである。すなわち、次が成り立つ。

命題 5.4 (連続写像の閉集合を用いた言いかえ)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) $Y$ の任意の閉集合 $F$ に対して、 $f^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f$ を連続写像とし、 $F$ を $Y$ の閉集合とする。すると、 $Y\setminus F$ は $Y$ の開集合なので、 $f$ が連続写像であることから $f^{-1}(Y\setminus F)$ は $X$ の開集合である。 $f^{-1}(Y\setminus F)=X\setminus f^{-1}(F)$ であるから、 $X\setminus f^{-1}(F)$ は $X$ の開集合であり、よって、 $f^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合である。

(2) $\Rightarrow$ (1) の証明は、 (1) $\Rightarrow$ (2) とほぼ同様であるので省略する。 $\square$

例 5.5 (離散空間・密着空間と連続写像)

$X$ が離散空間であるとき、任意の位相空間 $Y$ に対して、任意の写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。また、 $Y$ が密着空間であるとき、任意の位相空間 $X$ に対して、任意の写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。 $\square$

定義 5.6 (写像の点における連続性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $x\in X$ とする。写像 $f\colon X\to Y$ が $x$ において連続であるとは、 $f(x)$ の $Y$ における任意の近傍 $V$ に対して、 $x$ の $X$ における近傍 $U$ が存在して $f(U)\subset V$ となることをいう。 $\square$

写像の連続性を示すことは、次の命題により、点ごとの連続性を示すことに帰着される。これは連続性の証明でよく使われる手段である。

命題 5.7 (連続性と点における連続性との関係)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 任意の $x\in X$ に対して、 $f$ は $x$ において連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f\colon X\to Y$ が連続であるとして、 $x\in X$ とする。 $f$ が $x$ において連続であることを示そう。そこで、 $f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。近傍の定義から、 $f(x)\in V'\subset V$ となるような $Y$ の開集合 $V'$ が存在する。このとき、 $f$ の連続性から $f^{-1}(V')$ は $X$ の開集合である。 $f(x)\in V'$ により $x\in f^{-1}(V')$ であるから、 $U=f^{-1}(V')$ とおけば $U$ は $x$ の開近傍で、 $f(U)\subset V'\subset V$ を満たす。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) が成り立つとして、 $V$ を $Y$ の開集合とする。このとき、 $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せばよいが、そのために命題 2.4を使う。そこで、 $x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、 $f(x)\in V$ により $V$ は $f(x)$ の開近傍だから、(2) により $x$ の $X$ における近傍 $U$ であって $f(U)\subset V$ となるものが存在する。これは $U\subset f^{-1}(V)$ を意味する。こうして、任意の $x\in f^{-1}(V)$ に対して $x$ の近傍 $U$ であって $U\subset f^{-1}(V)$ となるものが存在すると分かったので、命題 2.4により $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。 $\square$

さらに、点における連続性を確かめるには、何らかの基本近傍系に属する近傍だけに着目する方法が有効である。

命題 5.8 (点における連続性の同値な言い換え)

$X,$ $Y$を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を写像とする。また、 $x\in X$ とし、 $\mathcal{U}$ を $x$ の $X$ における基本近傍系、 $\mathcal{V}$ を $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) 任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して、 $U\in\mathcal{U}$ が存在して、 $f(U)\subset V$ となる。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f$ が $x$ において連続であるとして、 $V\in\mathcal{V}$ とする。 $V$ は $f(x)$ の $Y$ における近傍であるから、 $x$ の $X$ における近傍 $U'$ が存在して、 $f(U')\subset V$ となる。 $\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、 $U\in\mathcal{U}$ が存在して $U\subset U'$ である。このとき、 $f(U)\subset f(U')\subset V$ である。これで (2) が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示すため、(2) が成り立つとする。 $f$ が $x$ において連続であることを示すため、 $f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。 $\mathcal{V}$ は $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系だから、 $V'\in\mathcal{V}$ で $V'\subset V$ となるものが存在する。(2) により、 $U\in\mathcal{U}$ が存在して $f(U)\subset V'$ となる。すると $U$ は $x$ の $X$ における近傍であって、 $f(U)\subset V$ である。 $\square$

命題 5.9 (距離空間の間の連続写像)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、 $\delta>0$ が存在して $f(B_d(x,\delta))\subset B_{d'}(f(x),\varepsilon)$ が成り立つ。 $\square$
  • (3) 任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、 $\delta>0$ が存在して、次が成り立つ。

    「$x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

証明

各 $x\in X$ に対して $x$ の基本近傍系として $\{B_d(x,r)\,|\,r>0\}$ が取れ、各 $y\in Y$ に対して $y$ の基本近傍系として $\{B_{d'}(Y,r)\,|\,r>0\}$ が取れるので、命題 5.7命題 5.8により (1) $\Rightarrow$ (2) が分かる。(3) は (2) の単純な言い換えである。 $\square$

この命題により、たとえばEuclid空間の間の写像については、微積分における $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた連続性の定義と、定義 5.1における連続写像の定義とが同値なものになっていることが分かる。 微積分において、多くの関数が連続であることを知っているが、これにより、さまざまな連続写像の例が得られる(例 5.11)。

ここで、Euclid空間の部分集合への写像が連続となることが、「座標ごとに連続」となることと同値であることを見ておく。これは具体例を扱うときにはしばしば無意識に用いられることが多い。

命題 5.10 (Euclid空間の部分集合への写像の連続性)

$X$ を距離空間、 $A$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合とする($A$ は注意 1.13の通り、Euclid距離の制限により距離空間と見なす)。写像 $f\colon X\to A$ に対して、 $f_i\colon X\to\mathbb{R}\,(i=1,\ldots, n)$ を $f(x)=(f_1(x),\ldots, f_n(x))\,(x\in X)$ で定まる写像とすると、次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to A$ は連続である。
  • (2) 各 $i=1,\ldots, n$ に対して、 $f_i\colon X\to\mathbb{R}$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f\colon X\to A$ を連続とし、 $i\in\{1,\ldots,n\}$ であるような $i$ を任意に与える。 $f_i\colon X\to \mathbb{R}$ が連続であることを、命題 5.9の条件(3)を用いて示す。そこで、 $x\in X$, $\varepsilon>0$ とする。 $f$ は連続だから、 $\delta>0$ が存在して、 $x'\in X,$ $d(x,x')<\delta$ のとき常に $\|f(x)-f(x')\|<\varepsilon$ となる。ここで、 $\|\phantom{x}\|$ は $\mathbb{R}^n$ のEuclidノルムを表す。 $|f_i(x)-f_i(x')|=\sqrt{(f_i(x)-f_i(x'))^2}\leq\sqrt{\sum_{j=1}^n (f_j(x)-f_j(x'))^2}=\|f(x)-f(x')\|$ であるから、 $d(x,x')<\delta$ のとき常に $|f_i(x)-f_i(x')|<\varepsilon$ となる。これで、 $f_i\colon X\to\mathbb{R}$ の連続性が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i=1,\ldots,n$ に対して $f_i\colon X\to\mathbb{R}$ が連続であるとする。 $f\colon X\to A$ が連続であることを、命題 5.9の条件(3)を用いて示す。そこで、 $x\in X$, $\varepsilon>0$ とする。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、 $f_i$ の連続性により $\delta_i>0$ であって $x'\in X,$ $d(x, x')<\delta_i$ のとき常に $|f_i(x)-f_i(x')|<\varepsilon/\sqrt{n}$ となるものが存在する。 $\delta=\min\{\delta_1,\ldots,\delta_n\}>0$ としよう。すると、 $x'\in X$, $d(x, x')<\delta$ のとき $$ \|f(x)-f(x')\|^2=\sum_{i=1}^n |f_i(x)-f_i(x')|<n\cdot(\varepsilon/\sqrt{n})^2=\varepsilon^2 $$ となるから、 $\|f(x)-f(x')|<\varepsilon$ である。これで、 $f\colon X\to A$ の連続性が示された。 $\square$

注意 5.11 (射影関数は連続)

$A$ を $\mathbb{R}^n$ の部分集合とするとき、各 $i=1,\ldots, n$ に対して、射影関数 $p_i\colon A\to\mathbb{R}$ を $$ p_i(x_1,\ldots, x_n)=x_i $$ によって定義できる。射影関数 $p_i$ は連続となる。実際、命題 5.10において $X$ を $A$ とし、 $f$ を恒等写像 $\operatorname{id}\colon A\to A$ とすれば、 $f$ は連続であり、 $f_i=p_i$ となるから、 $p_i$ は連続と分かる。 $\square$

例 5.12 (実数の四則演算、多項式関数などは連続)

微積分での連続性の知識から連続と分かる写像の例を挙げよう。 $\mathbb{R}$ の加法、減法、乗法はそれぞれ写像 $$ {+}\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x+y;\qquad-\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x-y;\qquad\cdot\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x\cdot y $$ を定めるが、これらの写像は連続である。より一般に、多項式関数は連続である。すなわち、任意の非負整数 $m$ および $a_1,\ldots, a_m\in\mathbb{R}$ に対して、 $$ f(x)=a_0+a_1 x+\cdots+a_mx^m $$ で定義される写像 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は連続である。このことは、加法 $+$ と乗法 $\cdot$ の連続性から論理的に導かれる。実際、次の命題が成り立つ。

命題 $X$ を距離空間とし、 $f, g\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、和 $f+g\colon X\to\mathbb{R}$ および積 $f\cdot g\colon X\to\mathbb{R}$ は再び連続関数である。ただし、 $(f+g)(x)=f(x)+g(x)$, $(f\cdot g)(x)=f(x)\cdot g(x)\,(x\in X)$ と定義する。

証明 どちらも証明は同様なので、 $f+g$ についてのみ示す。まず、 $F\colon X\to\mathbb{R}^2$ を $F(x)=(f(x), g(x))$ で定義する。命題 5.10により、 $F$ は連続である。すると、 $f+g$ は連続写像の合成として $f+g=+\circ F$ と表されるので、 $f+g$ は連続である。 $\square$

関数 $\operatorname{id}_\mathbb{R}\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto x$ は連続であり(命題 5.2)、定数 $a\in\mathbb{R}$ に対する $a$ への定値写像 $\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto a$ は連続である(命題 5.3)。多項式関数は、これらの関数の和や積を有限回繰り返し取ったものだから、連続である。

さらに一般に、多変数多項式関数も連続である。つまり、任意の $n\in\mathbb{N}$ と非負整数 $m$ および $a_{i_1,\ldots, i_n}\in\mathbb{R}\,(i_1,\ldots, i_n\geq 0,\, i_1+\cdots+i_n\leq m)$ に対して、 $$ f(x_1,\ldots, x_n)=\sum_{k=0}^m\,\sum_{\substack{i_1+\cdots+i_n=k \\ i_1,\ldots, i_n\geq 0}} a_{i_1,\ldots,i_n} x_1^{i_1}\cdots x_n^{i_n} $$ により定義される写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ は連続である。このことの証明は、 $+$ と $\cdot$ および射影関数 $p_i\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ の連続性(注意 5.11)に帰着される。

除法については、 $\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y\neq 0\}$ を定義域とする写像 $$ {/}\colon \mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x/y $$ が定まる。この写像も連続である。ただし、この場合は $\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ 上の距離としては $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離の制限を考える(注意 1.13参照)。

この他にも、指数関数、対数関数、三角関数、逆三角関数、絶対値 $|\phantom{x}|\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto |x|,$ 平方根 $\sqrt{\phantom{x}}\colon [0,\infty)\to [0,\infty),\, x\mapsto\sqrt{x}$ など様々な関数が連続であることを、微積分の知識として知っているであろう。 これらの関数は、命題 5.9により、そのまま位相空間の間の連続写像と考えることができる。さらに、いままで述べた関数を組み合わせたもの、例えば $$ (x,y,z)\mapsto \sin(x^2 y^3+|z-1|)+\sqrt{\log(1+x^4+y^2+e^{z^2})} $$ などの連続性も多項式関数の連続性を示したのと同様の論法で連続であることが分かる。もちろん、除法が関係する場合などは、定義域を適切に定めなければならない。

最後に、2 個の値の最大値および最小値を取る関数 $$ \max\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\,(x, y)\,\mapsto \max\{x, y\}, \quad\min\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\,(x, y)\,\mapsto \min\{x, y\} $$ も連続であることに注意しておく。実際、関数 $\max,$ $\min$ は $$ \max\{ x, y\}=\frac{1}{2}(x+y+|x-y|),\quad\min\{ x, y\}=\frac{1}{2}(x+y-|x-y|) $$ と、すでに連続であると知っている関数の組み合わせによって書けるからである。 $\square$

実数直線 $\mathbb{R}$ への連続写像は、慣習的に、連続関数(continuous function)という言葉で呼ぶことが多い。

命題 5.13 (等式や不等式で定義された集合)

$X$ を位相空間、 $f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、次の集合は $X$ の閉集合である。 $$ \{x\in X\,|\,f(x)=0\},\quad\{x\in X\,|\,f(x)\geq 0\} $$ また、次の集合は $X$ の開集合である。 $$ \{x\in X\,|\,f(x)>0\} $$

証明

$\{x\in X\,|\,f(x)=0\}=f^{-1}(\{0\})$ と書けることに注意する。 $\{0\}$ は $\mathbb{R}$ の閉集合だから、命題 5.4により、 $f^{-1}(\{0\})$ は $X$ の閉集合である。よって、 $\{x\in X\,|\,f(x)=0\}$ は $X$ の閉集合である。同様に、 $[0,+\infty)=\{t\in\mathbb{R}\,|\, t\geq 0\}$ が $\mathbb{R}$ の閉集合であることにより、 $f^{-1}([0,+\infty))=\{x\in X\,|\,f(x)\geq 0\}$ は $X$ の閉集合である。また、 $(0,+\infty)=\{t\in\mathbb{R}\,|\, t>0\}$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることにより、 $f^{-1}({}(0,+\infty){})=\{x\in X\,|\,f(x)>0\}$ は $X$ の開集合である。 $\square$

例 5.14 (Euclid空間の閉集合や開集合)

例 5.12命題 5.13を組み合わせれば、Euclid空間内のさまざまな図形が閉集合あるいは開集合になっていることが分かる。 たとえば、 $$ A_1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y\geq x^2\}=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y-x^2\geq 0\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。実際、 $f(x, y)=y-x^2$ で定義される関数 $f\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ は2変数の多項式関数だから、例 5.12によって連続である。このとき $A_1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,f(x, y)\geq 0\}$ だから、命題 5.13により $A_1$ は閉集合である。このほかにも、 $$ A_2=\{(x,y,z)\in\mathbb{R}^3\,|\,z=x^2-y^2\},\quad A_3=\left\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,\bigg|\,\sum_{i=1}^n x_i^2\leq 1,\,x_n\geq 0\right\} $$ はそれぞれ $\mathbb{R}^3,$ $\mathbb{R}^n$ の閉集合である($A_3$ については、 $\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,1-\sum_{i=1}^n x_i^2\geq 0\}$ と $\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\}$ の共通部分と考えればよい)。 一般に、Euclid空間において、その部分集合を定義する式がすべて多項式を等号 $=$ あるいは等号付き不等号 $\leq$, $\geq$ で結んだものである場合、その集合は閉集合となる。 また、 $$ A_4=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x+y>0,\,y>x^3,\,x^2+y^2<1\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である。一般に、Euclid空間において、その部分集合を定義する式の個数が有限個で、しかもそれらがすべて多項式を真の不等号 $<$, $>$ で結んだものである場合、その集合は開集合となる(ここで、なぜ有限個という条件が必要なのかを考えよ。式に無限個にしたときに開集合とならない具体例を考えてみよ)。 $\square$

写像の連続性を確かめるには、終域の開基あるいは準開基に属する開集合の逆像が開集合であれば十分である。

命題 5.15 (準開基を用いた連続性の判定)

$X,$ $Y$ を位相空間、 $\mathcal{S}$ を $Y$ の準開基とする。このとき、写像 $f\colon X\to Y$ に対して次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) 任意の $V\in\mathcal{S}$ に対して $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。

(蛇足ながら、開基は準開基であるので、この命題は $\mathcal{S}$ が $Y$ の開基であるときにも適用できる。)

証明

(1) $\Rightarrow$ (2)は、 $\mathcal{S}$ の要素がすべて $Y$ の開集合であることから明らかである。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定し、 $V$ を $Y$ の開集合とする。 $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示したい。準開基の定義から、 $\mathcal{S}$ の要素の有限個の共通部分の全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $Y$ の開基である。よって、命題 3.2により、 $V$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素の和集合として書ける。すなわち、 $\{B_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset \mathcal{B}_\mathcal{S}$ が存在して、 $V=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} B_\lamdba$ と書ける。よって $f^{-1}(V)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda}f^{-1}(B_\lambda)$ となるから、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $f^{-1}(B_\lambda)$ が $X$ の開集合であると分かればよい。したがって、初めから、 $V$ が $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素であるときに $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せば十分である。このときは、ある $S_1,\ldots, S_n \mathcal{S}$ によって $V=S_1\cap\cdots\cap S_n$ と書ける。すると、 $f^{-1}(V)=f^{-1}(S_1)\cap\cdots\cap f^{-1}(S_n)$ であるが、 $f^{-1}(S_1),\ldots, f^{-1}(S_n)$ はいま仮定している (2) により $X$ の開集合であるから、 $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。 $\square$

写像の連続性は、閉包の言葉を使って述べることもできる。

命題 5.16 (閉包を用いた連続性の特徴づけ)

$X$, $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) 任意の $A\subset X$ に対して、 $f(\operatorname{Cl}_X A)\subset \operatorname{Cl}_Y f(A)$ である。
  • (3) 任意の $B\subset Y$ に対して、 $\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)$ である。

(ここで、 $X$ と $Y$ の閉包作用素を区別のためにそれぞれ $\operatorname{Cl}_X,$ $\operatorname{Cl}_Y$で表した。)

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f$ を連続写像とし、 $A\subset X$ とする。 $\operatorname{Cl}_Y f(A)$ は $Y$ の閉集合であるから、 $f$ の連続性と命題 5.5により、 $f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ は $X$ の閉集合である。いま、 $A\subset f^{-1}(f(A))\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ であるから、命題 4.2により、 $\operatorname{Cl}_X A\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ である。これは、示すべき式 $f(\operatorname{Cl}_X A)\subset \operatorname{Cl}_Y f(A)$ を意味している。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。(2) を仮定し、 $B\subset Y$ とする。(2) において $A=f^{-1}(B)$ とすることにより、 $f(\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B))\subset \operatorname{Cl}_Y f(f^{-1}(B))$ を得る。これと $f(f^{-1}(B))\subset B$ および命題 4.4により、 $f(\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B))\subset \operatorname{Cl}_Y B$ である。これは、示すべき式 $\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)$ を意味している。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。(3) を仮定する。(1) つまり $f$ の連続性を示すために、命題 5.5を用いる。そこで、 $F$ を $Y$ の閉集合とする。(3)において $B=F$ とすれば、注意 4.3により、 $\operatorname{Cl}_X f^{-1}(F)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y F)=f^{-1}(F)$ である。よって、再び注意 4.3を用いることで、 $f^{-1}(F)$ が $X$ の閉集合であることが分かる。 $\square$

考えている空間が第一可算空間(たとえば、距離空間)の場合、連続性は点列の収束の言葉でも述べることができる。

命題 5.17 (点列を用いた点における連続性の特徴づけ)

$X$ を第一可算空間、 $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) $x$ に収束する $X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、 $Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f\colon X\to Y$ が $x$ において連続であるとし、 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束すると仮定する。このとき $Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $f(x)$ に収束することを示すため、 $f(x)$ の $Y$ における近傍 $V$ を任意に与える。 $f$ の $x$ における連続性から、 $x$ の近傍 $U$ が存在して、 $f(U)\subset V$ となる。 $x_n\to x$ であるから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、 $n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となり、したがって $f(x_n)\in V$ となる。よって、 $f(x_n)\to f(x)$ である。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。対偶を証明しよう。そこで、(1) の否定、つまり $f$ が $x$ において連続でないことを仮定する。 $X$ は第一可算だから、命題 2.15により、 $x$ の $X$ における基本近傍系 $\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ で各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_{n+1}\subset U_n$ となるもの(したがって、 $m\geq n$ のとき常に $U_m\subset U_n$ となるもの)が存在する。 $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系 $\mathcal{V}$ として、 $f(x)$ の $Y$ における近傍すべての集合をとると、命題 5.8(2)の否定が成り立つことにより、次が分かる。

$f(x)$ の $Y$ における近傍 $V$ が存在して、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $f(U_n)\not\subset V$ となる。

そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n\in U_n$ を $f(x_n)\notin V$ となるように選ぶ。このとき、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。実際、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して、 $i\geq n$ のとき常に $x_i\in U_i\subset U_n$ となるので、命題 2.18により $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束することが分かる。ところが、 $Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $y$ に収束しない。実際、 $y$ の近傍として $V$ をとると、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $f(x_n)\notin V$ となるからである。このような $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が存在することは、(2) の否定が成り立つことを示している。 $\square$

命題 5.18 (点列を用いた点における連続性の特徴づけ)

$X,$ $Y$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) $x$ に収束する $X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、 $Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

距離空間は第一可算だから、これは命題 5.17の特別な場合である。 $\square$

同相写像の概念を定義する。これは線形代数や群論での同型写像に相当するものであり、位相空間 $X,$ $Y$ に対して同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するときに $X$ と $Y$ は「実質的に同じ」位相空間であると見なされる。

定義 5.19 (同相写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像(homeomorphism)であるとは、 $f$ が連続な全単射であって、かつ逆写像 $f^{-1}\colon Y\to X$ が連続であることをいう。同相写像 $f\colon X\to Y$ が少なくとも一つ存在するとき、位相空間 $X$ と $Y$ は同相(homeomorphic)であるといい、これを記号 $X\approx Y$ で表す。

位相空間が同相であることは、「図形を曲げたり伸ばしたり縮めたりして移り合うことができること」と説明されることがある。これはもちろん厳密な説明ではないが、以下の例では、 $X$ を伸び縮みさせて $Y$ にする様子が想像しやすいであろう。

例 5.20 (同相写像の例・その1)

$X=[0,1)$, $Y=[0,\infty)$ とする。これらを $\mathbb{R}$ のEuclid距離の制限(注意 1.13)により距離空間と考え、位相空間とみなす。 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=\frac{x}{1-x}\quad(x\in X) $$ で定めれば、 $f$ は連続である。さらに、 $g\colon Y\to X$ を $$ f^{-1}(y)=\frac{y}{y+1}\quad(y\in Y) $$ で定義すると、 $g$ も連続であり、 $g\circ f=\operatorname{id}_X,$ $f\circ g=\operatorname{id}_Y$ を満たすことが確認できる。よって、 $f$ は全単射であり、その逆写像 $f^{-1}$ は $g$ である。以上により、 $f\colon X\to Y$ は連続な全単射で、連続な逆写像 $f^{-1}=g\colon Y\to X$ をもつから、 $f$ は同相写像である。したがって、 $X=[0,1)$ と $Y=[0,\infty)$ は同相である。

例 5.21 (同相写像の例・その2)

$X$, $Y$ を平面 $\mathbb{R}^2$ の次のような部分集合とする。 $$ \begin{aligned} X&=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1\},\,\\ Y&=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}\,|\,-1\leq x_1\leq 1,\,-1\leq x_2\leq 1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,\max\{|x_1|, |x_2|\}\leq 1\} \end{aligned} $$ $X$ は原点を中心とする半径1の閉円板、 $Y$ は一辺2の(境界も含んだ)正方形である。 $X$ と $Y$ が同相であることを示そう。ここでも、 $X$ や $Y$ は $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離 $d$ の制限により距離空間と考え、位相空間とみなす。

まず、準備として、 $x=(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2$ に対して $$ \|x\|_2=\sqrt{x_1^2+x_2^2},\quad \|x\|_\infty=\max\{|x_1|, |x_2|\} $$ と定義する($\|\phantom{x}\|_2$ はEuclidノルムであり、 $d(x,0)=\|x\|_2$ を満たす)。これらはともに、性質 $$ \|cx\|_2=|c|\|x\|,\quad \|cx\|_\infty=|c|\|x\|_\infty\qquad(c\in\mathbb{R},\,x\in\mathbb{R}^2) \qquad(\star) $$ を満たす。また、不等式 $$ \|x\|_\infty\leq \|x\|_2\leq \sqrt{2}\|x\|_\infty \qquad(\star\star) $$ が成り立つことが、簡単な計算により示される。そして、 $X$, $Y$ は $$ X=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|_2\leq 1\},\quad Y=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|_\infty\leq 1\} $$ と表される。そこで、写像 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)= \begin{cases} \dfrac{\|x\|_2}{\|x\|_\infty}x & x\neq 0\text{ のとき}\\ 0 & x=0\text{ のとき} \end{cases} $$ で定義する。 $f$ が実際に $X$ の点を $Y$ の点に写していることは上で述べた性質 $(\star)$ を用いて確認できる。さらに、 $x\notin X\setminus\{0\}$ のとき、 $f$ が $x$ において連続であることは、微積分の知識によって分かる通りである。 $f$ が $0$ において連続であることを確認しよう。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。 $\delta=\varepsilon/\sqrt{2}>0$ とおき、 $d(x,0)=\|x\|_2<\delta$ となる $x\in X$ を任意に与える。もし、 $x=0$ ならば $d(f(x),f(0))=d(f(0),f(0))=0<\varepsilon$ である。 $x\neq 0$ とすると、不等式 $(\star\star)$ により $$ \|f(x)\|_2=\left\|\frac{\|x\|_2}{\|x\|_\infty}x\right\|_2=\frac{{\|x\|_2}^2}{\|x\|_\infty}\leq \frac{{\|x\|_2}^2}{\|x\|_2/\sqrt{2}}=\sqrt{2}\|x\|_2 $$ となるので、 $$ d(f(x), f(0))=d(f(x), 0)=\|f(x)\|_2\leq\sqrt{2}\|x\|_2<\sqrt{2}\delta=\varepsilon $$ を得る。これで、すべての点 $x\in X$ に対して $f$ は $x$ において連続と分かったので、命題 5.7により、 $f\colon X\to Y$ の連続性が確かめられた。

さらに、 $g\colon Y\to X$ が $$ g(y)= \begin{cases} \dfrac{\|y\|_\infty}{\|y\|_2}y & y\neq 0\text{ のとき}\\ 0 & y=0\text{ のとき} \end{cases} $$ によって定義されること(つまり、 $y\in Y$ に対して上の $g(y)$ が確かに $X$ の点であること)が示される。さらに $g$ が連続であることも、 $f$ の連続性と同様に示される。そして、 $g$ が $f$ の逆写像であることが確かめられる。こうして、 $f\colon X\to Y$ は連続全単射であって逆写像 $g=f^{-1}$ が連続だと分かったので、 $f$ は同相写像である。よって、 $X$ と $Y$ は同相である。 $\square$

注意 5.22 (連続全単射は同相写像とは限らない)

位相空間の間の写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像であることの定義で、「$f^{-1}\colon Y\to X$ が連続である」という条件を忘れてはならない。例えば、 $X$ と $Y$ は集合としてはともに $\mathbb{R}$ であるとし、 $X$ には離散位相を入れ、 $Y$ には通常のEuclid距離から定まる位相を入れる。そして、 $f\colon X\to Y$ を恒等写像 $\operatorname{id}_\mathbb{R}$ とすれば、 $f$ は確かに連続な全単射であるが、 $f^{-1}$ は連続ではない。したがって、 $f$ は同相写像ではない。全単射かつ連続な写像であっても逆写像は連続とは限らないのである。

線形代数を学んだ人は、 $V, W$ がベクトル空間で $f\colon V\to W$ が全単射かつ線形写像であれば、 $f^{-1}\colon W\to V$ も線形写像となることを知っているであろう。いま見たように、これに対応する事実は位相空間については成り立たないので注意が必要である。 $\square$

注意 5.23 (同相写像は開集合の一対一対応・位相的性質)

位相空間 $X,$ $Y$ の間の写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像であるという条件は

  • (i) $f\colon X\to Y$ は全単射である
  • (ii) $f\colon X\to Y$ は連続である
  • (iii) $f^{-1}\colon Y\to X$ は連続である

という三つの要素からなっている。(i)の条件は、 $f$ が $X$ の点と $Y$ の点との一対一対応を与えることを述べている。(ii)の条件は、連続写像の定義によれば

(1) $\,V\subset Y$ が開集合 $\Longrightarrow$ $f^{-1}(V)\subset X$ も開集合

が成り立つことなのであった。さらに (iii)の条件も、連続写像の定義に基づけば 「$U\subset X$ が開集合 $\Longrightarrow$ $(f^{-1})^{-1}(U)\subset Y$ も開集合」 と書けるが、 $f^{-1}$ による逆像 $(f^{-1})^{-1}(U)$ とは $f$ による像 $f(U)$ のことだから、結局これは、

(2) $\,U\subset X$ が開集合 $\Longrightarrow$ $f(U)\subset Y$ も開集合

ということを意味している。(1) は、 $Y$ の開集合を $f^{-1}$ で写せば $X$ の開集合になることを述べ、(2) は $X$ の開集合を $f$ で写せば $Y$ の開集合になることを述べている。よって、(1) と (2) が同時に成り立つということは、 $f$ が $X$ の開集合と $Y$ の開集合の間の一対一対応を与えているということである。つまり、同相写像 $f\colon X\to Y$ とは、

  • $X$ の点と $Y$ の点との一対一対応を与える写像(つまり、全単射)であって、
  • 同時に $X$ の開集合と $Y$ の開集合との一対一対応をも与えている写像

のことであるといえる。

そもそも位相空間は集合に開集合系(=どの部分集合が開集合かというデータ)を定めることで定義された。同相写像 $f\colon X\to Y$ があるということは、まさに、位相空間の定義に関係するすべてのデータを一斉に($f$ により)一対一対応させることができることを意味する。このことから、同相写像 $f\colon X\to Y$ があるとき、我々は $X$ と $Y$ とを( $X$ の点 $x$ を $Y$ の点 $f(x)$ と同じと思うことで)位相空間として同一視することが許される。

我々は位相空間において、閉集合、近傍、基本近傍系、開基、準開基、閉包、内部、境界という概念を定義してきた。これらは開集合の概念を出発点として、次々と派生してきたものである。同相写像はこのような諸概念の間にも一対一対応をもたらす。例えば、基本近傍系と閉包について、同相写像 $f\colon X\to Y$ がもたらす対応を具体的に見てみよう。

(基本近傍系の場合) $\mathcal{U}$ が点 $x(\in X)$ の $X$ における基本近傍系であるとしよう。このとき、 $\mathcal{U}$ を $f$ で写したもの、つまり $\{f(U)\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ は点 $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系である(このことを確かめよ)。また、同様に、 $\mathcal{V}$ が点 $y(\in Y)$ の $Y$ における基本近傍系であれば、それを $f^{-1}$ で写したもの $\{f^{-1}(V)\,|\,V\in\mathcal{V}\}$ は点 $f^{-1}(y)$ の $X$ における基本近傍系である。

(閉包の場合)この場合は一対一対応という言葉はふさわしくないかもしれないが、 $X$ で閉包をとる操作と $Y$ で閉包をとる操作が次のように $f$ を通して対応する。 $X,$ $Y$ における閉包作用素を $\operatorname{Cl}_X,$ $\operatorname{Cl}_Y$ で表す。このとき、任意の $A\subset X$ に対して $f(\operatorname{Cl}_X A)=\operatorname{Cl}_Y f(A)$ である。つまり、 $f$ による像をとる操作と閉包をとる操作が交換可能である。このことは、 $f$ が $X$ の閉集合と $Y$ の閉集合の間の一対一対応を与えていることと、閉包が閉集合のみを用いて定義される概念であることから分かる(詳細が気になる人は確かめてみよ)。同様に、 $B\subset Y$ に対して $f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)=\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)$ も成り立つ。

このように、同相写像 $f\colon X\to Y$ があるとき、 $f$ と $f^{-1}$ を用いて、 $X$ と $Y$ の一方で定義された概念を(より正確には、開集合を基にして定義された概念を)他方へと相互翻訳することができる。

位相空間の性質であって、同相写像によって保たれるようなものを位相的性質と呼ぶ。正確に述べれば、位相空間の性質 $\mathrm{P}$ が位相的性質(topological property)であるとは、位相空間 $X$ と $Y$ が同相であるとき(つまり同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき)、 $X$ が性質 $\mathrm{P}$ をもつならば、 $Y$ もまた性質 $\mathrm{P}$ をもつことをいう。位相的性質の例としては、いままでに述べたものの中でも、距離化可能性、第一可算性、第二可算性、可分性を挙げることができる。さらには、「離散空間であること」、「密着空間であること」も位相的性質である。一つの例として、次のことを確かめてみよう。

命題 可分性は位相的性質である。

証明 $X$ と $Y$ が同相な位相空間であるとし、 $X$ が可分であると仮定する。このとき $Y$ が可分であることを示そう。仮定から、同相写像 $f\colon X\to Y$ および高々可算な $X$ の稠密な部分集合 $A$ が存在する。稠密であることの定義により、 $\operatorname{Cl}_X A=X$ である。さきほど見た対応により、 $f(\operatorname{Cl}_X A)=\operatorname{Cl}_Y f(A)$ であるが、この左辺は $f(X)=Y$ であるから、 $\operatorname{Cl}_Y f(A)=Y$ を得る。これは、 $f(A)$ が $Y$ において稠密であることを意味する。 $A$ は高々可算で、 $f$ は全単射だから $f(A)$ も高々可算である。よって、 $Y$ は高々可算な稠密部分集合 $f(A)$ をもつので、可分である。

何らかの性質が位相的性質であることの証明は、その性質を定義する概念の一つ一つを同相写像を通して翻訳していくことに尽きる。同相写像は開集合を保つ写像だから、開集合の言葉だけで定義された概念は翻訳できる。また同相写像はそもそも全単射であるから、集合の濃度についての概念も翻訳できる(実際、上では高々可算という概念が現れた)。本稿で現れる位相空間についての性質は、基本的に位相的性質に限られるが、そのことの確認はいま述べたような単純な翻訳作業であるから省略する。ただし、距離空間についての性質には、位相的性質と勘違いしやすいものがあるので、必要に応じて注意を喚起することにする。例えば、距離空間には有界性という性質が次のように定義される。距離空間 $(M, d)$ が有界(bounded)であるとは、ある実数 $C>0$ が存在して、任意の $x,y\in M$ に対して $d(x,y)\leq C$ が成り立つことをいう。例 5.20における $X=[0,1)$ は有界であり、 $Y=[0,\infty)$ は有界でないが、それにもかかわらず $X$ と $Y$ は同相である。このことは有界性が位相的性質でないことを示している。いま見た現象は、有界性が距離を用いて定義された概念であることに関係している。距離は開集合を定めるが、開集合についての知識だけから距離を復元することはできない。そのため、距離を用いて定義された概念は、必ずしも位相的性質とならないのである。 $\square$

例 5.24 (位相的性質の比較による非同相の証明)

位相空間 $X,$ $Y$ が同相であることを証明するには、定義通りに考えて同相写像 $f\colon X\to Y$ を実際に構成するという方法がある。これに対して $X,$ $Y$ が同相でないことの証明には工夫が必要である。ここで有効となるのが、適切な位相的性質に着目するという考え方である。いま、ある位相的性質 $\mathrm{P}$ があって、位相空間 $X$ は性質 $\mathrm{P}$ をもち、 $Y$ は性質 $\mathrm{P}$ をもたないとしよう。このとき、 $X$ と $Y$ は同相ではあり得ないことが結論される。というのも、もし $X$ と $Y$ が同相であれば、 $X$ が位相的性質 $\mathrm{P}$ をもつことにより、 $Y$ も性質 $\mathrm{P}$ をもたなければならず矛盾するからである。 非同相の証明は、ほぼ常に、いま述べた「位相的性質の比較」という原理によってなされると言ってもよい。

一つの例として、通常の位相をもつ実数直線 $\mathbb{R}$ とSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$(例 3.12)が同相でないことを示そう。そのために、第二可算性という位相的性質に着目する。 $\mathbb{R}$ は第二可算であった(例 3.5)。これに対して、 $\mathbb{S}$ は第二可算ではない(例 3.12)。したがって、上に述べたことにより、 $\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ は同相でない。この他にも、今まで例に挙げた位相空間の位相的性質を比較することによって、様々な非同相性証明ができるはずである。

なお、上の例で $\mathbb{S}$ は集合としての $\mathbb{R}$ に特別な位相を入れたものであったから、恒等写像 $\operatorname{id}\colon \mathbb{R}\to\mathbb{S}$ がある。この $\operatorname{id}$ は連続写像ではないので(確かめよ)、同相写像ではないが、それだけでは $\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ が同相でないことの証明にはならないので注意する。いま示せたのは、単に $\mathbb{R}$ から $\mathbb{S}$ へのある一つの写像が同相写像でないということである。 $\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ が同相でないことをいうには、 $\mathbb{R}$ から $\mathbb{S}$ へのいかなる写像も同相写像になり得ないことが言えなければならない。 $\square$

最後に、開写像と閉写像の概念を導入し、同相写像との関係を述べよう。

定義 5.25 (開写像・閉写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を写像とする。 $f$ が開写像(open map)であるとは、 $X$ の任意の開集合 $U\subset X$ に対して、 $f(U)$ が $Y$ の開集合であることをいう。また、 $f$ が閉写像(closed map)であるとは、 $X$ の任意の閉集合 $F\subset X$ に対して、 $f(F)$ が $Y$ の閉集合であることをいう。

命題 5.26 (同相写像と開写像・閉写像)

$X$, $Y$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を写像とする。次は同値である。

  • (1) $f$ は同相写像である。
  • (2) $f$ は連続な全単射であって、かつ開写像である。
  • (3) $f$ は連続な全単射であって、かつ閉写像である。

証明 (1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f$ が同相写像であるとする。このとき、 $f$ は連続な全単射である。 $f$ が開写像であることをいうため、 $U$ を $X$ の開集合とする。いま、 $f^{-1}\colon Y\to X$ は連続であるから、 $(f^{-1})^{-1}(U)=f(U)$ は $Y$ の開集合である。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。 $f$ が連続な全単射であり、かつ開写像であるとする。 $f$ が閉写像であることをいうため、 $F$ を $X$ の閉集合とする。このとき、 $X\setminus F$ は $X$ の開集合であり、よって$f(X\setminus F)$ は $Y$ の開集合である。ところが、 $f\colon X\to Y$ は全単射であるから、 $f(X\setminus F)=f(X)\setminus f(F)=Y\setminus f(F)$ である。よって、 $Y\setminus f(F)$ は $Y$ の開集合だから $f(F)$ は $Y$ の閉集合である。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $f$ が連続な全単射であり、かつ閉写像であるとする。 このとき $f^{-1}\colon Y\to X$ が連続であることを示せばよい。そのために命題 5.4を使おう。そこで、 $F$ を $X$ の閉集合とする。 $f(F)$ は $Y$ の閉集合であるが、 $f(F)=(f^{-1})^{-1}(F)$ であるから、 $(f^{-1})^{-1}(F)$ は $Y$ の閉集合である。よって、命題 5.4により $f^{-1}$ は連続である。 $\square$

6. 相対位相

この節から始まる3つの節では、与えられた位相空間から新しい位相空間をつくる方法について取り上げる。まず、相対位相について述べる。これは、位相空間の部分集合に位相を定める標準的な方法であり、位相空間の最も基本的な構成法である。

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $X$ の位相を基にして $A$ に位相に定める良い方法を考えたい。いま、 $A$ と $X$ の間には、包含写像 $$ i\colon A\to X $$ が $i(a)=a\,(a\in A)$ により定義される。 $A$ に定める位相は、少なくともこの包含写像 $i$ が連続であるように決めるべきであろう。例えば、極端な場合として、 $A$ に離散位相(考え得る最も細かい位相)を入れれば、 $i\colon A\to X$ は連続である(例 5.5)。しかし、離散位相では $X$ の位相と $A$ の位相に関連性がないから不都合である。そこで、 $i$ が連続となるという制約のもとで、 $A$ の位相を可能な限り粗くすることを試みる。いま、 $i$ が連続であるという条件は、定義に従って書き下せば

$X$ の任意の開集合 $U$ に対して、 $i^{-1}(U)=U\cap A$ が $A$ の開集合である

となる。したがって、 $i$ が連続になることは、集合族 $$ \mathcal{O}_A=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{O}\} $$ の要素がすべて開集合であることと同値である。そこで、 $\mathcal{O}_A$ を開集合の全体として、 $A$ に位相を定めることができないかを考えてみる。それができれば、 $A$ は $i$ を連続とする必要最小限度の開集合だけをもつことになるだろう。言い換えれば、 $A$ は $i$ を連続とする最も粗い位相をもつことになるだろう。問題は、 $\mathcal{O}_A$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすかどうかであるが、それは以下の命題で見るように実際に成り立つ。

命題 6.1 (集合族 $\mathcal{O}_A$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ と部分集合 $A\subset X$ に対して、上で定義された $A$ の部分集合族 $\mathcal{O}_A$ は $A$ 上の位相を定める。すなわち、 $\mathcal{O}_A$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

(O1) を示すには、 $\emptyset,\, A\in\mathcal{O}_A$ を示せばよい。まず、 $\emptyset\in\mathcal{O}$ であり $\emptyset=\emptyset\cap A$ であるから、 $\emptyset\in\mathcal{O}_A$ である。また、 $X\in\mathcal{O}$ であり $A=X\cap A$ であるから、 $A\in\mathcal{O}_A$ である。

(O2) を示す。そのため、 $V_1,\,V_2\in\mathcal{O}_A$ とする。 $\mathcal{O}_A$ の定義により、各 $i=1, 2$ に対して、 $U_i\in\mathcal{O}$ であって $V_i=U_i\cap A$ となるものが存在する。すると、 $V_1\cap V_2=(U_1\cap A)\cap (U_2\cap A)=(U_1\cap U_2)\cap A$ であるが、 $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ であるから、 $V_1\cap V_2\in\mathcal{O}_A$ である。

最後に (O3) を示す。そのため、 $\{V_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}_A$ とする。 $\mathcal{O}_A$ の定義により、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して、 $U_\lambda\in \mathcal{O}$ を $U_\lambda\cap A=V_\lambda$ となるように選べる。すると、 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} (U_\lambda\cap A)=(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda)\cap A$ であるが、 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ であるから、 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda\in\mathcal{O}_A$ である。 $\square$

定義 6.2 (相対位相)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $A$ の部分集合族 $$ \mathcal{O}_A=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{O}\} $$ は命題 6.1により開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすから、 $(A, \mathcal{O}_A)$ は位相空間となる。このとき、 $\mathcal{O}_A$ を $A$ の $X$ からの相対位相(relative topology)といい、 $(A, \mathcal{O}_A)$ を $(X, \mathcal{O})$ の部分空間(subspace)という。

以下では、位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、特に断りのない限り、 $A$ を $X$ からの相対位相によって位相空間とみなす。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 6.3 (相対位相と包含写像)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $A$ の $X$ からの相対位相 $\mathcal{O}_A$ は、包含写像 $i\colon A\to X$ を連続とする $A$ 上の位相の中で、最も粗い位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • $i\colon A\to X$ は、 $(A, \mathcal{O}_A)$ から $(X, \mathcal{O})$ への連続写像となる。
  • $i$ が $(A, \mathcal{O}')$ から $(X, \mathcal{O})$ への連続写像となるような $A$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、 $\mathcal{O}_A\subset\mathcal{O}'$ である。 $\square$

命題 6.4 (連続写像の制限)

$X,$ $Y$ を位相空間、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $f\colon X\to Y$ が連続写像であるとき、制限 $f|_A\colon A\to Y$ も(相対位相に関して)連続である。

証明

命題 6.3により、包含写像 $i\colon A\to X$ は連続写像であり、 $f|_A=f\circ i$ であるから、 $f|_A$ は連続写像の合成となり、よって連続である。 $\square$

位相空間 $X$ において $B\subset A\subset X$ であるとき、 $B$ は $X$ の部分空間とも $A$ の部分空間とも考えることができるが、そのどちらで考えても位相は同じになる。すなわち、

命題 6.5 (部分空間の推移性)

$X$ を位相空間とし、 $B\subset A\subset X$ とする。 $B$ の $A$ からの相対位相 $\mathcal{O}_{A,B}$ と $B$ の $X$ からの相対位相 $\mathcal{O}_{X,B}$ は一致する。

証明

まず、 $\mathcal{O}_{A,B}\subset\mathcal{O}_{X,B}$ を示す。 $W\in\mathcal{O}_{A,B}$ とする。 $A$ のある開集合 $V$ に対して、 $W=V\cap B$ となる。さらに、 $X$ のある開集合 $U$ に対して、 $V=U\cap A$ となる。すると、 $W=V\cap B=(U\cap A)\cap B=U\cap B$ であるから、 $W\in\mathcal{O}_{X,B}$ である。次に、 $\mathcal{O}_{X,B}\subset\mathcal{O}_{A,B}$ を示す。 $W\in\mathcal{O}_{X,B}$ とする。 $X$ のある開集合 $U$ に対して、 $W=U\cap B$ である。このとき、 $V=U\cap A$ とおけば、 $V$ は $A$ の開集合であって、 $V\cap B=(U\cap A)\cap B=U\cap B=W$ である。よって、 $W\in\mathcal{O}_{A,B}$ である。 $\square$

上の命題 6.5は、特に断りなく暗黙のうちに使われることが多いので注意する。

命題 6.6 (相対位相に関する閉集合)

$X$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。部分空間 $A$ の閉集合全体の集合は $$ \mathcal{F}_A=\{F\cap A\,|\,F\text{ は }X\text{ の閉集合}\} $$ となる。

証明

$H$ を部分空間 $A$ の閉集合とすると、 $A\setminus H$ は $A$ の開集合であるから、 $X$ の開集合 $U$ が存在して、 $A\setminus H=U\cap A$ となる。このとき、 $F=X\setminus U$ とおけば、 $F$ は $X$ の閉集合であって、 $H=A\setminus (A\setminus H)=A\setminus (U\cap A)=A\setminus U=A\cap (X\setminus U)=A\cap F$ である。よって $H\in\mathcal{F}_A$ となる。

逆に、 $H\in\mathcal{F}_A$ とすると、 $X$ の閉集合 $F$ で $H=F\cap A$ となるものが存在する。 $U=X\setminus F$ とおくと、 $U$ は $X$ の開集合であって、 $U\cap A$ は $A$ の開集合である。ところが、 $H=F\cap A=(X\setminus U)\cap A=A\setminus U=A\setminus (U\cap A)$ であるから、 $H$ は $A$ の閉集合である。 $\square$

上の命題から、 $X$ の部分空間 $A$ とは、 $X$ の閉集合 $F$ を用いて $F\cap A$ の形で書ける集合を閉集合とする位相空間であるということもできる。部分空間における開集合・閉集合を扱うときには、次の二つの命題が基本的である。

命題 6.7 (開集合の開集合・閉集合の閉集合)

開集合の開集合は開集合であり、閉集合の閉集合は閉集合である。すなわち、 $U$ が位相空間 $X$ の開集合であり、 $V$ が部分空間 $U$ の開集合であるならば、 $V$ は $X$ の開集合となる。また、 $F$ が位相空間 $X$ の閉集合であり、 $H$ が部分空間 $F$ の閉集合であるならば、 $H$ は $X$ の閉集合である。

証明

$U$ を位相空間 $X$ の開集合、 $V$ を部分空間 $U$ の開集合とする。このとき、 $X$ の開集合 $V'$ が存在して、 $V=V'\cap U$ となる。 $V'$ も $U$ も $X$ の開集合なので、 $V'\cap U$ は $X$ の開集合であり、よって $V$ は $X$ の開集合となる。閉集合についての主張も、命題 6.6を用いれば同様に示される。 $\square$

命題 6.8 (部分空間と開集合・閉集合)

$X$ を位相空間とし、 $B\subset A\subset X$ とする。 $B$ が $X$ の開集合であれば、 $B$ は $A$ の開集合である。また、 $B$ が $X$ の閉集合であれば、 $B$ は $A$ の閉集合である。

証明

$B$ が $X$ の開集合とすると、 $B\subset A$ により $B=B\cap A$ であるから、 $B$ は $A$ の開集合である。閉集合についての主張も、命題 6.6を用いれば同様に示される。 $\square$

さて、 $(X, d)$ を距離空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。このとき、 $A$ に位相を定める自然な方法が二通りある。 一つ目は次のようなものである。距離空間 $(X, d)$ は位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ を定める(命題 1.17)ので、その相対位相を考えることで、 $A$ に位相 $(\mathcal{O}_d)_A$ が定まる。また、二つ目は次のようなものである。距離 $d$ の制限 $d_A=d|_{A\times A}$ は $A$ 上の距離となるから(注意 1.13)、距離空間 $(A, d_A)$ が得られ、これから $A$ に位相 $\mathcal{O}_{d_A}$ が定まる。ところが、実際にはこの二通りの位相は実際には一致するので、区別する必要がない。つまり、次が成り立つ。

命題 6.9 (距離空間の部分集合上の位相)

$(X, d)$ を距離空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $(X, d)$ が定める位相空間 $(X, \mathcal{O}_d)$ の部分空間 $(A, (\mathcal{O}_d)_A)$ と、 $d$ を制限することで得られる距離空間 $(A, d_A)$ が定める位相空間 $(A, \mathcal{O}_{d_A})$ に対して、 $$ (\mathcal{O}_d)_A=\mathcal{O}_{d_A} $$ である。

証明

まず、 $(\mathcal{O}_d)_A\subset \mathcal{O}_{d_A}$ を示す。そのため、 $V\in(\mathcal{O}_d)_A$ とする。すると、 $U\in\mathcal{O}_d$ であって $V=U\cap A$ となるものが存在する。 $x\in V$ を任意に与える。すると $x\in U$ だから、ある $r>0$ が存在して、 $B_d(x,r)\subset U$ である。距離の制限の定義 $d_A=d|_{A\times A}$ により、 $B_{d_A}(x,r)=B_d(x,r)\cap A$ となるから、 $B_{d_A}(x,r)\subset U\cap A=V$ である。これで、 $V\in\mathcal{O}_{d_A}$ が示された。

次に、 $\mathcal{O}_{d_A}\subset (\mathcal{O}_d)_A$ を示す。そのため、 $V\in\mathcal{O}_{d_A}$ とする。各 $x\in V$ に対して、 $r_x>0$ を $B_{d_A}(x, r_x)\subset V$ つまり $B_d(x, r_x)\cap A\subset V$ となるように選べる。 $U=\bigcup_{x\in V} B_d(x, r_x)$ とおくと $U\in\mathcal{O}_d$ である。さらに、 $U\cap A=(\bigcup_{x\in V} B_d(x, r_x))\cap A=\bigcup_{x\in V} (B_d(x, r_x)\cap A)\subset V$ である。一方、 $U$ の定義より $V\subset U$ であり、また $V\in\mathcal{O}_{d_A}$ から $V\subset A$ なので $V\subset U\cap A$ である。以上により、 $V=U\cap A$ であるから、 $V\in(\mathcal{O}_d)_A$ である。 $\square$

注意 6.10 (命題 6.9 の証明についての注意)

命題 6.9の証明の後半部分、つまり $\mathcal{O}_{d_A}\subset (\mathcal{O}_d)_A$ の証明は、以下のような方法もある。まず、 $(A, \mathcal{O}_{d_A})$ は $d_A$ に関する開球体の全体 $$ \mathcal{B}=\{B_{d_A}(x,r)\,|\,x\in A,\,r<0\} $$ を開基にもつことを思い出そう(例 3.4)。このとき、 $B_{d_A}(x,r)=B_d(x,r)\cap A$ により、 $\mathcal{B}\subset (\mathcal{O}_{d})_A$ であることがすぐに分かる。ところが、いま $\mathcal{O}_{d_A}$ は $\mathcal{B}$ を開基として生成される位相(注意 3.11)であるから、 $\mathcal{O}_{d_A}$ は $\mathcal{B}$ を含む最小の位相である。この最小性により、 $\mathcal{O}_{d_A}\subset (\mathcal{O}_{d})_A$ である。 $\square$

次の命題は、場合分けによって定義された写像の連続性を示すのに有用である。

命題 6.11 (連続写像の貼り合わせ)

$X,$ $Y$ を位相空間、 $f\colon X\to Y$ を写像とする。

  • (1) $\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}$ を $X$ の開集合からなる族で、 $X=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ を満たすものとする。このとき、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $f|_{U_\lambda}\colon U_\lambda\to Y$ が連続ならば、 $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) $\{F_1,\ldots, F_n\}$ を $X$ の閉集合からなる有限な族で、 $X=\bigcup_{i=1}^n F_i$ を満たすものとする。このとき、各 $i=1,\ldots, n$ に対して $f|_{F_i}\colon F_i\to Y$ が連続ならば、 $f\colon X\to Y$ は連続である。

証明

(1) $V$ を $Y$ の開集合とする。仮定から、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $(f|_{U_\lambda})^{-1}(V)=f^{-1}(V)\cap U_\lambda$ は $U_\lambda$ の開集合である。命題 6.7により、 $f^{-1}(V)\cap U_\lambda$ は $X$ の開集合となる。よって、和集合 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda}(f^{-1}(V)\cap U_\lambda)$ は $X$ の開集合である。ところが、 $f^{-1}(V)=f^{-1}(V)\cap X=f^{-1}(V)\cap(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda}(f^{-1}(V)\cap U_\lambda)$ であるから、 $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合となる。よって、 $f$ は連続である。

(2) 命題 5.4を用いて示す。 $H$ を $Y$ の閉集合とする。仮定から、任意の $i=1,\ldots,n$ に対して $(f|_{F_i})^{-1}(H)=f^{-1}(H)\cap F_i$ は $F_i$ の閉集合である。命題 6.7により、 $f^{-1}(H)\cap F_i$ は $X$ の閉集合となる。よって、有限和 $\bigcup_{i=1}^n (f^{-i}(H)\cap F_i)$ は $X$ の閉集合である。ところが、 $f^{-1}(H)=f^{-1}(H)\cap X=f^{-1}(H)\cap(\bigcup_{i=1}^n F_i)=\bigcup_{i=1}^n(f^{-1}(H)\cap F_i)$ であるから、 $f^{-1}(H)$ は $X$ の閉集合となる。よって、命題 5.4により、 $f$は連続である。 $\square$

例 6.12 (道の合成)

一般に位相空間 $X$ に対して、連続写像 $f\colon [0, 1]\to X$ を $X$ における(path)といい、 $f(0),$ $f(1)$ をそれぞれ道 $f$ の始点終点と呼ぶ。いま、二つの道 $f, g\colon [0,1]\to X$ に対して、 $f$ の終点と $g$ の始点が一致している、つまり、 $f(1)=g(0)$ であるとしよう。このとき、 $f$ と $g$ を「つなぐ」ことで、一つの道 $h\colon [0,1]\to X$ を次のように定義することができる。 $$ h(t)= \begin{cases} f(2t) & 0\leq t\leq 1/2\text{ のとき}\\ g(2t-1) & 1/2\leq t\leq 1\text{ のとき} \end{cases} $$ $t=1/2$ のとき $f(2t)=f(1)=g(0)=g(2t-1)$ であるからこの定義に問題はない。 $h$ の連続性は次のように示される。 $h|_{[0,1/2]}$ および $h|_{[1/2,1]}$ はそれぞれ連続写像の合成の形で与えられるから連続である。そして、 $[0,1]=[0,1/2]\cup [1/2,1]$ であって $[0,1/2]$ および $[1/2,1]$ は $[0,1]$ の閉集合であるから、命題 6.11(2)により $h$ は連続である。 $\square$

部分空間における閉包は、元の位相空間における閉包によって記述できる。

命題 6.13 (部分空間における閉包)

$X$ を位相空間とし、 $B\subset A\subset X$ とする。このとき、 $B$ について、部分空間 $A$ における閉包 $\operatorname{Cl}_A B$ と、 $X$ における閉包 $\operatorname{Cl}_X B$ を考えることができるが、これらの間に次の関係がある。 $$ \operatorname{Cl}_A B=A\cap \operatorname{Cl}_X B $$

証明

$\operatorname{Cl}_X B$ は $X$ の閉集合であるから、命題 6.6により、 $A\cap \operatorname{Cl}_X B$ は $A$ の閉集合である。一方、 $B\subset A$ かつ $B\subset\operatorname{Cl}_X B$ であるから、 $B\subset A\cap\operatorname{Cl}_X B$ である。したがって、部分空間 $A$ において命題 4.2を用いることで、 $\operatorname{Cl}_A B\subset A\cap\operatorname{Cl}_X B$ を得る。逆の包含 $A\cap\operatorname{Cl}_X B\subset\operatorname{Cl}_A B$ を示すため、 $x\in A\cap\operatorname{Cl}_X B$ とする。 $x\in\operatorname{Cl}_A B$ を、命題 4.5を用いて示そう。そのため $x$ の $A$ における開近傍 $V$ を任意に与える。すると、 $X$ における開集合 $U$ で $V=U\cap A$ となるものが存在する。このとき、 $U$ は $x$ の開近傍であり、 $x\in\operatorname{Cl}_X B$ であるから、命題 4.5により $U\cap B\neq\emptyset$ である。 $B\subset A$ なので $U\cap B=U\cap B\cap A=(U\cap A)\cap B=V\cap B$ であり、したがって、 $V\cap B\neq\emptyset$ である。これが $x$ の $A$ における任意の開近傍 $V$ について成り立つので、 $x\in\operatorname{Cl}_A B$ である。これで、 $A\cap\operatorname{Cl}_X B\subset\operatorname{Cl}_A B$ が示された。 $\square$

例 6.14 (部分空間における開集合・閉集合)

$\mathbb{R}$ の部分空間 $X=[-1, 1)$ を考える。このとき $X$ の部分集合として $$ A=[-1,0),\quad B=[0,1) $$ を考えよう。 $A$ は $\mathbb{R}$ の開集合ではないが、 $\mathbb{R}$ の開集合 $(-\infty, 0)$ を用いて $A=(-\infty, 0)\cap X$ と表されることから、 $A$ は $X$ の開集合である。また、 $B$ は $\mathbb{R}$ の閉集合ではないが、 $\mathbb{R}$ の閉集合 $[0,+\infty)$ を用いて $B=[0,\infty)\cap X$ と表されるので、 $B$ は $X$ の閉集合である。

また、 $$ C=\{-1+1/n\,|\,n\in\mathbb{N}\}\cup\{1-1/n\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ という $X$ の部分集合を考えよう。 $C$ の $\mathbb{R}$ における閉包は(命題 4.5を用いて分かるように) $\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}} C=C\cup\{-1, 1\}$ であるから、 $C$ の $X$ における閉包は、命題 6.13により $\operatorname{Cl}_X C=X\cap \operatorname{Cl}_{\mathbb{R}} C=X\cap (C\cup\{-1, 1\})=C\cup\{-1\}$ である。 $\square$

$A$ が位相空間 $X$ の部分空間であるとし、 $f\colon Y\to X$ を位相空間 $Y$ からの連続写像とする。このとき、 $f(Y)\subset A$ であれば、 $f$ の終域を $A$ に制限することによって、写像 $f^A\colon Y\to A$ が得られる(この $f^A$ のことも $f$ で表す場合が多いが、厳密にはこれらは区別されるべきものであり、ここではあえて別の記号を用いる)。このとき、 $f^A\colon Y\to A$ は、再び連続であると言えるだろうか。もし、これが成り立たなければ、写像の連続性を論じるときに終域をどの集合にとるかに注意を払う必要があることになるが、幸運にもそういうことはない。

命題 6.15 (部分空間の普遍性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分空間とする。連続写像 $f\colon Y\to X$ が $f(Y)\subset A$ を満たすとする。 $f$ の終域を $A$ に制限して得られる写像を $f^A\colon Y\to A$ とすると、 $f^A\colon Y\to A$ は連続である。

証明

$i\colon A\to X$ を包含写像とすると、 $i\circ f^A=f$ であることに注意する。 $f^A$ の連続性を示すため、 $V$ を $A$ の開集合とする。すると、 $X$ の開集合 $U$ で $U\cap A=V$ となるものが存在する。これは言い換えると $i^{-1}(U)=V$ である。よって、 $f_A^{-1}(V)=f_A^{-1}(i^{-1}(U))=(i\circ f^A)^{-1}(U)=f^{-1}(U)$ である。 $f$ は連続なので、 $f^{-1}(U)$ は $Y$ の開集合である。よって、 $f_A^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合となる。これで、 $f^A$ の連続性が示された。 $\square$

位相空間 $X,$ $Y$ について、実際には $X\subset Y$ ではないが $X$ を $Y$ の部分空間と同一視したいという状況がしばしばある。そのような状況で用いられる概念が以下で定義する埋め込みである。

定義 6.16 (埋め込み)

$X,$ $Y$ を位相空間、 $f\colon X\to Y$ を連続写像とする。 $f$ が埋め込み(embedding)であるとは、 $f$ が単射であって、 $f$ の終域を像 $f(X)$ に制限して得られる連続全単射 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ が同相写像となることをいう。

上の定義で「連続全単射 $\hat{f}$」と述べたが、ここでの $\hat{f}$ の連続性は命題 6.14から保証されていることである。なお、可微分多様体の理論などでは、「埋め込み」という語をより狭い意味で用いる。このことから、区別のためにここで定義した埋め込みを位相的埋め込み(topological embedding)と呼ぶこともある。

明らかな場合として、 $X$ が $Y$ の部分空間である場合、包含写像 $i\colon X\to Y$ は埋め込みとなる。以下では、図形的意味の分かりやすい $\mathbb{R}^2$ への埋め込みの例を挙げる。

例 6.17 (埋め込みの例)

(1) $X=[0,1],$ $Y=\mathbb{R}^2$ とする。 $f\colon X\to Y$ を $f(x)=(2x,3x)$ で定義すると、 $f$ は埋め込みであることを示そう。まず、 $f$ が連続な単射であることは明らかである。 $f$ の終域を制限して得られる全単射 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ が同相写像であることを示せばよいが、まず $\hat{f}$ は命題 6.14により連続である。あとは、 $\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ が連続であることが言えればよい。そのため $g\colon\mathbb{R}^2\to \mathbb{R}$ を $g(x,y)=x/2$ で定義しよう。 $g$ は連続であるから、 $g$ の制限 $g|_{f(X)}\colon f(X)\to\mathbb{R}$ は連続である(命題 6.4)。すぐに確かめられる通り、 $\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ は、この $g|_{f(X)}$ の終域を $X$ に制限したものだから、命題 6.14により連続である。これで $f\colon X\to Y$ は埋め込みであることが示された。

いまの議論は少し持って回った感じだが、 $\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ が連続であることを言うために、より広い定義域と終域をもった、連続であることが明らかな写像 $g\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を持ってきたという訳である。 $\hat{f}^{-1}$ が $\hat{f}^{-1}(x,y)=x/2$ という式で与えられていることが $\hat{f}^{-1}$ の連続性のいわば根本的な理由であり、定義域や終域の取り換えは形式を整えるためのものともいえる。以後、この種の議論は表に出さず、例えば「$\hat{f}^{-1}$ は定義式から連続である」のように書くことにしよう。

(2) (1) と同じく、 $X=[0,1]$, $Y=\mathbb{R}^2$ とする。もっと一般に、次のことが成り立つ。任意の $(a, b)\in\mathbb{R}^2$, $(v_1, v_2)\in\mathbb{R}^2\setminus\{(0,0)\}$ に対して、 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=(a+v_1 x, b+ v_2 x) $$ で定義すれば、 $f$ は埋め込みである(確かめよ)。

(3) $X=\mathbb{R}$, $Y=\mathbb{R}^2$ とする。 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=\left(\frac{2x}{x^2+1}, \frac{x^2-1}{x^2+1}\right) $$ で定義すると、 $f$ は埋め込みであることを示そう。この写像の図形的意味は以下の通りである。平面 $\mathbb{R}^2$ 内で単位円周 $S^1=\{(x, y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ とその点 $p_0=(0,1)$ を考える。 $x\in\mathbb{R}$ に対して点 $(x,0)\in\mathbb{R}^2$ を考え、 $(x,0)$ と $p_0$ を通る直線を $\ell$ とすると、 $\ell$ と $S^1$ との $p_0$ 以外の交点が $f(x)$ である(確かめよ)。

$f$ が連続となることは、定義式から直ちに分かる。また、 $f(X)=S^1\setminus\{p_0\}$ である。実際、上の定義(あるいは、図形的意味)から任意の $x\in\mathbb{R}=X$ に対して $f(x)\in S^1\setminus\{p_0\}$ であるので、 $f(X)\subset S^1\setminus\{p_0\}$ である。他方、 $g\colon S^1\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}$ を $$ g(x,y)=\frac{x}{1-y} $$ で定めれば、任意の $(x,y)\in S^1\setminus\{p_0\}$ に対して $f(g(x,y))=(x,y)$ が成り立つ。よって、 $S^1\setminus\{p_0\}\subset f(X)$ も成り立ち、 $f(X)=S^1\setminus\{p_0\}$ が示された。すぐに検証できるように任意の $x\in\mathbb{R}$ に対して $g(f(x))=x$ であるから、 $f$ は単射であって(実際、 $x, x'\in \mathbb{R}$ に対して $f(x)=f(x')$ ならば $x=g(f(x))=g(f(x'))=x'$ となるので)、その終域を像に制限して得られる全単射 $\hat{f}\colon \mathbb{R}\to S^1\setminus\{p_0\}$ に対して $\hat{f}^{-1}=g\colon S^1\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}$ である。 $g$ は定義式から連続であるので、 $\hat{f}^{-1}$ は連続である。

ここで、 $\hat{f}^{-1}\colon S^1\setminus\{p_0\}\to\mathbb{R}$ が連続であることを図形的に奇異に感じる人もいるかもしれない。実際、この写像は $p_0$ の近くの点を $\mathbb{R}$ の「左の彼方」と「右の彼方」にある遠く隔たった点に写している。しかし、 $\hat{f}^{-1}$ の定義域からはそもそも $p_0$ が除かれているので、 $\hat{f}^{-1}$ の連続性を言うために $p_0$ における連続性は問題にならないのである。 $\square$

例 6.18 (埋め込みでない例)

連続な単射であるが埋め込みになっていない例を挙げよう。 $X=[0,1),$ $Y=\mathbb{R}^2$ とする。 $f\colon X\to Y$ を、 $f(x)=(\cos 2\pi x, \sin 2\pi x)$ で定義すると、 $f$ は連続な単射であって、像 $f(X)$ は単位円周 $S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ となる。そこで、 $f$ の終域を $f(X)=S^1$ に制限することで、連続な全単射 $\hat{f}\colon [0,1)\to S^1$ が得られる。このとき、逆 $\hat{f}^{-1}\colon S^1\to [0,1)$ は点 $a=(1,0)$ において連続でない。これは直観的に見やすいことであるが、ここでは命題 5.18を用いて示そう。 $S^1$ の点列 $(p_n)_{n=1}^\infty$ を、 $$ p_n=(\cos(2\pi(1-1/n)), \sin(2\pi(1-1/n)) $$ で定める。すると、 $2\pi(1-1/n)\to 2\pi$ であることと $\cos,$ $\sin$ の連続性、命題 5.18、および命題 2.20により、 $(p_n)_{n=1}^\infty$ は $(\cos 2\pi, \sin 2\pi)=(1,0)=a$ に収束することが分かる。しかし、 $\hat{f}^{-1}(p_n)=1-1/n$ であるから、点列 $(\hat{f}^{-1}(p_n))_{n=1}^\infty$ は $\hat{f}^{-1}(a)=0$ には収束しない。したがって、命題 5.18によって、 $\hat{f}^{-1}\colon S^1\to [0,1)$ は$a$ において連続でなく、したがって $\hat{f}^{-1}$ は連続でないことが示された。よって、 $f\colon X\to Y$ は埋め込みではない連続な単射である。

なお、 $\hat{f}\colon [0,1)\to S^1$ は連続な全単射だが同相写像ではない例となっていることに注意する(注意 5.22参照)。 $\square$

命題 6.19 (埋め込みの特徴づけ)

$X,$ $Y$ を位相空間、 $f\colon X\to Y$ を連続な単射とするとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は埋め込みである。
  • (2) $X$ の任意の開集合 $U$ に対して、 $f(U)$ は $f(X)$ の開集合である。
  • (3) $X$ の任意の閉集合 $F$ に対して、 $f(F)$ は $f(X)$ の閉集合である。
  • (4) 任意の位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Z\to X$ に対して、 $f\circ g\colon Z\to Y$ が連続ならば $g$ も連続である。

証明

$\hat{f}\colon X\to f(X)$ を、 $f$ の終域を $f(X)$ に制限して得られる連続全単射とする。このとき、定義により、 $f$ が埋め込みであることは $\hat{f}$ が同相写像であることと同値である。(2), (3) の条件はそれぞれ、 $\hat{f}$ が開写像、閉写像であることを述べている。よって、命題 5.26により、(1)-(3) の同値性が分かる。

(1) $\Rightarrow$ (4) を示す。 $f$ を埋め込みとすると、 $\hat{f}\colon X\to f(X)$ は同相写像である。 $Z$ を位相空間、 $g\colon Z\to X$ を写像とし、 $f\circ g\colon Z\to Y$ が連続になるとする。 $f\circ g(Z)=f(g(Z))\subset f(X)$ だから、 $f\circ g$ の終域を $f(X)$ に制限することで連続写像 $h\colon Z\to f(X)$ を得る。すると、連続写像の合成として $\hat{f}^{-1}\circ h\colon Z\to X$ は連続だが、この $\hat{f}^{-1}\circ h$ は定義から $g$ と一致する。よって、 $g$ は連続である。

最後に、(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) が成り立つとしよう。このとき $\hat{f}\colon X\to f(X)$ が同相写像であることを示せばよく、それには $\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ が連続だと言えればよい。そこで、 $Z=f(X),$ $g=\hat{f}^{-1}$ に対して (4) を適用する。いま、 $f\circ\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to Y$ は包含写像に一致するから連続である。よって、 $\hat{f}^{-1}\colon f(X)\to X$ は連続である。 $\square$

命題 6.20 (写像の合成と埋め込み)

$X,$ $Y,$ $Z$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とする。このとき、次が成り立つ。

  • (1) $f,$ $g$ が埋め込みならば、 $g\circ f$ も埋め込みである。
  • (2) $g\circ f$ が埋め込みならば、 $f$ も埋め込みである。

証明

(1) を示す。 $f,$ $g$ を埋め込みとする。 $f,$ $g$ は連続な単射であるから、 $g\circ f\colon X\to Z$ も連続な単射である。命題 6.19の条件(4)を用いて、 $g\circ f$ が埋め込みであることを示そう。そこで、 $W$ を任意の位相空間とし、写像 $h\colon W\to X$ に対して $g\circ f\circ h\colon W\to Z$ が連続であると仮定する。 $g$ は埋め込みだから、命題 6.19(1) $\Rightarrow$ (4)により $f\circ h\colon W\to Y$ は連続である。さらに、 $f$ は埋め込みだから、再び命題 6.19(1) $\Rightarrow$ (4)により $h\colon W\to X$ は連続である。したがって、命題 6.19(4) $\Rightarrow$ (1)により $g\circ f\colon X\to Z$ は埋め込みである。

(2) を示す。 $g\circ f$ を埋め込みとする。このとき $g\circ f$ は単射であるが、このことから $f\colon X\to Y$ は単射と分かる。実際、 $x, x'\in X$ に対して $f(x)=f(x')$ であるとすると、 $g\circ f(x)=g\circ f(x')$ であるから、 $g\circ f$ の単射性から $x=x'$ となる。したがって、 $f$ は連続な単射である。命題 6.19の条件(4)を用いて、 $f$ が埋め込みであることを示そう。そこで、 $W$ を任意の位相空間とし、写像 $h\colon W\to X$ に対して $f\circ h\colon W\to Y$ が連続であるとする。すると、 $g\circ f\circ h\colon W\to Z$ も連続である。 $g\circ f$ は埋め込みだから、命題 6.19(1) $\Rightarrow$ (4)により$h\colon W\to Z$ は連続である。したがって、命題 6.19(4) $\Rightarrow$ (1)により $f\colon X\to Y$ は埋め込みである。 $\square$

命題 6.21 (開写像・閉写像と埋め込み)

$f\colon X\to Y$ を連続な単射とする。 $f\colon X\to Y$ が開写像あるいは閉写像であるならば、 $f$ は埋め込みである。

証明

$f\colon X\to Y$ が連続な単射であって、 $f$ が開写像であるとする。命題 6.19(2)の条件を用いて、 $f$ が埋め込みであることを示そう。 $U$ を $X$ の開集合とする。 $f$ は開写像なので、 $f(U)$ は $Y$ の開集合である。 $f(U)=f(U)\cap f(X)$ なので、 $f(U)$ は $f(X)$ の開集合でもある。よって、命題 6.19(2) $\Rightarrow$ (1)により、 $f$ は埋め込みである。同様に、 $f$ が閉写像のときも命題 6.19(3)の条件から $f$ が埋め込みであることが示される。 $\square$

定義 6.22 (開埋め込み・閉埋め込み)

連続な単射 $f\colon X\to Y$ が開写像あるいは閉写像であるとき、 $f\colon X\to Y$ を開埋め込み(open embedding)あるいは閉埋め込み(closed embedding)という。これらは命題 6.21により埋め込みである。 $\square$

例 6.17 (1)(2) は閉埋め込みの例である。例 6.17 (3) は開埋め込みでも閉埋め込みでもない埋め込みの例を与えている。ここで、開写像と閉写像という概念は終域をどこにとるかに依存することに注意しておこう。埋め込み $f\colon X\to Y$ は、例 6.17 (3) のように一般には開写像でも閉写像でもないのであるが、終域を制限した $\hat{f}\colon X\to f(X)$ は、命題 5.26により、開写像かつ閉写像となる。 $\square$

7. 商位相

続いて、商位相について述べよう。商位相は、位相空間を「貼り合わせて」新しい位相空間を作るのに必要な概念である。はじめに、同値関係と商集合について復習しておく。

$\sim$ を $X$ 上の二項関係とする。すなわち、任意の $x, y\in X$ に対して、 $x\sim y$ であるか、そうでないかが定まっているとする。 $\sim$ が $X$ 上の同値関係(equivalence relation)であるとは、次の三性質が成り立つことである。

  • $x\sim x$
  • $x\sim y$ ならば $y\sim x$
  • $x\sim y$, $y\sim z$ ならば $x\sim z$

このとき、各 $x\in X$ に対して、 $X$ の部分集合 $\{y\in X\,|\,x\sim y\}$ を $x$ の $\sim$ に関する同値類(equivalence class)といい、 $[x]$ で表す。このとき、同値類全体の集合 $\{[x]\,|\,x\in X\}$ を $X$ の $\sim$ による商集合(quotient set)といい、 $X/\mathord{\sim}$ で表す。全射 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ が $p(x)=[x]$ で定義され、この $p$ を射影と呼ぶ。

さて、以下では $(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、 $X$ 上の同値関係 $\sim$ が与えられたとする。このとき、 $X$ の位相を基にして商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ に位相を定める良い方法を考えたい。そのような位相は、少なくとも射影 $p\colon X\to \overline{X}$ が連続であるように定めるべきであろう。そこで、極端な場合として、 $\overline{X}$ に密着位相(考え得る最も粗い位相)を入れれば、 $p$ は連続である(例 5.5)。しかし、密着位相では $X$ の位相が何も反映されていない。そこで、 $p$ が連続となるという制約のもとで、 $\overline{X}$ の位相を可能な限り細かくすることを考える。いま、 $p$ が連続であるという条件は、定義により

$\overline{X}$ の任意の開集合 $V$ に対して、 $p^{-1}(V)$ が $X$ の開集合である

という条件である。したがって、 $p$ が連続であることは、 $\overline{X}$ のすべての開集合が集合族 $$ \overline{\mathcal{O}}=\{V\subset \overline{X}\,|\,p^{-1}(V)\in\mathcal{O}\} $$ に属していることと同値である。そこで、 $\overline{\mathcal{O}}$ を開集合の全体として、 $\overline{X}$ に位相を定めることができないかを考えてみる。それができれば、 $\overline{X}$ は $p$ を連続とする最も細かい位相をもつことになるだろう(実際、 $\overline{X}$ の開集合のうちに $\overline{\mathcal{O}}$ に属していないものがあれば、 $p$ は連続とはなり得ないから)。問題は、 $\overline{\mathcal{O}}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすかどうかであるが、それは以下の命題で見るように実際に成り立つ。

命題 7.1 (集合族 $\overline{\mathcal{O}}$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間 $(X, \mathcal{O})$ と $X$ 上の同値関係 $\sim$ に対して、上で定義された $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ の部分集合族 $\overline{\mathcal{O}}$ は $\overline{X}$ 上の位相を定める。すなわち、 $\overline{\mathcal{O}}$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

$p\colon X\to \overline{X}$ を射影とする。まず、(O1) を示す。 $p^{-1}(\emptyset)=\emptyset\in\mathcal{O}$ であるから、 $\emptyset\in\overline{\mathcal{O}}$ である。また、 $p^{-1}(\overline{X})=X\in\mathcal{O}$ であるから、 $\overline{X}\in\overline{\mathcal{O}}$ である。

次に、(O2) を示すため、 $V_1, V_2\in\overline{\mathcal{O}}$ とする。すると $p^{-1}(V_1), p^{-1}(V_2)\in\mathcal{O}$ であるから、 $p^{-1}(V_1\cap V_2)=p^{-1}(V_1)\cap p^{-1}(V_2)\in\mathcal{O}$ である。よって、 $V_1\cap V_2\in\overline{\mathcal{O}}$ である。

最後に、(O3) を示すため、 $\{V_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\overline{\mathcal{O}}$ とする。すると、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して、 $p^{-1}(V_\lambda)\in\mathcal{O}$ であるから、 $p^{-1}(\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} p^{-1}(V_\lambda)\in\mathcal{O}$ である。よって、 $\bigcup_{\lambda\in \Lambda} V_\lambda\in\overline{\mathcal{O}}$ である。 $\square$

定義 7.2 (商位相)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、 $\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ の部分集合族 $$ \overline{\mathcal{O}}=\{V\subset\overline{X}\,|\,p^{-1}(V)\in\mathcal{O}\} $$ は命題 7.1により開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすから、 $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ は位相空間となる。ただし、 $p\colon X\to\overline{X}$ は射影とする。このとき、 $\overline{\mathcal{O}}$ を $\overline{X}$ 上の商位相(quotient topology)といい、 $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ を $(X, \mathcal{O})$ の商空間(quotient space)という。

以下では、位相空間 $X$ 上の同値関係 $\sim$ に対して、商集合 $X/\mathord{\sim}$ は、特に断りのない限り商位相によって位相空間とみなす。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 7.3 (商位相と射影)

$(X, \mathcal{O})$ を位相空間とし、 $\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。商集合 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ 上の商位相 $\overline{\mathcal{O}}$ は、射影 $p\colon X\to\overline{X}$ を連続とする $\overline{X}$ 上の位相の中で、最も細かい位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • $p\colon X\to \overline{X}$ は、 $(X, \mathcal{O})$ から $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}})$ への連続写像となる。
  • $p$ が $(X, \mathcal{O})$ から $(\overline{X}, \overline{\mathcal{O}}')$ への連続写像となるような $\overline{X}$ 上の任意の位相 $\overline{\mathcal{O}}'$ に対して、 $\overline{\mathcal{O}}'\subset\overline{\mathcal{O}}$ である。 $\square$

命題 7.4 (商位相に関する閉集合)

$X$ を位相空間とし、 $\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とすると、商空間 $X/\mathord{\sim}$ の閉集合全体の集合は $$ \overline{\mathcal{F}}=\{F\subset\overline{X}\,|\,p^{-1}(F)\text{ は }X\text{ の閉集合}\} $$ となる。

証明

$F$ を商空間 $\overline{X}$ の閉集合とすると、 $\overline{X}\setminus F$ は $\overline{X}$ の開集合だから、 $p^{-1}(\overline{X}\setminus F)$ は $X$ の開集合である。 $X\setminus p^{-1}(F)=p^{-1}(\overline{X}\setminus F)$ だから、 $X\setminus p^{-1}(F)$ は $X$ の開集合であり、よって $p^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合だから、 $F\in\overline{\mathcal{F}}$ である。この議論を逆にたどることにより、 $F\in\overline{\mathcal{F}}$ ならば $F$ が $\overline{X}$ の閉集合となることも分かる。 $\square$

上の命題から、 $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ 上の商位相は、 $p^{-1}(F)$ が $X$ の閉集合であるような $\overline{X}$ の部分集合 $F$ を閉集合とする位相であるということもできる。

商集合からの写像の定め方について復習しておこう。 $X,$ $Y$ を集合とし、 $\sim$ を $X$ 上の同値関係とする。写像 $f\colon X\to Y$ が次の条件を満たすとする。

$x\sim x'$ ならば $f(x)=f(x')$ である。

このとき、商集合 $X/\mathord{\sim}$ からの写像 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}\to Y$ を $$ \overline{f}([x])=f(x)\quad (x\in X) $$ により定義することができる(ただし、 $[x]$ は $x$ の $\sim$ に関する同値類を表す)。これは、 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とするときに、 $\overline{f}$ を $\overline{f}\circ p=f$ となる唯一の写像 $\overline{f}$ として定義したと言ってもよい。この $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}\to Y$ を $f$ により誘導される写像という。

命題 7.5 (商空間の普遍性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $\sim$ を $X$ 上の同値関係として $\overline{X}=X/\mathord{\sim}$ を商空間とする。連続写像 $f\colon X\to Y$ が条件「$x\sim x'$ ならば $f(x)=f(x')$」を満たすとする。このとき、 $f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ が $\overline{f}([x])=f(x)\,(x\in X)$ により定まるが、この $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ は連続である。

証明

$p\colon X\to \overline{X}$ を射影とすると、定義により、 $\overline{f}\circ p=f$ であることに注意する。 $\overline{f}\colon \overline{X}\to Y$ の連続性を示すため、 $V$ を $Y$ の開集合とする。すると、 $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合であるが、 $f^{-1}(V)=(\overline{f}\circ p)^{-1}(V)=p^{-1}(\overline{f}^{-1}(V))$ であるから、 $p^{-1}(\overline{f}^{-1}(V))$ は $X$ の開集合である。よって、商位相の定義により、 $\overline{f}^{-1}(V)$ は $\overline{X}$ の開集合である。これで、 $\overline{f}$ の連続性が示された。 $\square$

例 7.6 (商空間の普遍性による連続写像の構成)

単位閉区間 $[0,1]$ 上の同値関係 $\sim$ を $$ s\sim t \Longleftrightarrow s=t\text{ または }\{s, t\}=\{0, 1\} $$ により定義しよう。すると、 $[0, 1]/\mathord{\sim}$ は直観的には、 $[0, 1]$ の両端点 $0,$ $1$ を「くっつけた」ものである。 $S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ を単位円周とするとき、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ を $f(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ により定義すると、 $f(0)=(1,0)=f(1)$ であるから、条件「$s\sim t$ ならば $f(s)=f(t)$」が成り立つ。よって、 $f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ が定義され、しかも命題 7.5により $\overline{f}$ は連続となる。 このように、商空間を定義域とする連続写像を構成するときは、命題 7.5が非常によく使用される。

さらに、三角関数の性質から確かめられるように、 $\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ は実際には全単射となる。この連続全単射 $\overline{f}$ は、実際には同相写像となるのだが、それを示すにはさらなる概念を用意した方が効率的なので、後に第9章で証明することにしたい。ともあれ、この事実を認めれば、「区間 $[0,1]$ の両端をくっつけた」ものである $[0,1]/\mathord{\sim}$ が円周 $S^1$ と同一視されることになり、直観ともよく調和する。 $\square$

例 7.7 (実数直線の距離化可能でない商空間)

実数直線 $\mathbb{R}$ 上の次のような同値関係 $\sim$ を考える。 $$ x\sim y \Longleftrightarrow x=y\text{ または }x, y\in\mathbb{Z} $$ $X=\mathbb{R}/\mathord{\sim}$ とし、 $p\colon \mathbb{R}\to X$ を射影とする。 $p(\mathbb{Z})$ は $X$ のただ一つの点からなるが、その点を $p_0$ と書くことにしよう。 $X$ は $\mathbb{Z}$ を一点 $p_0$ に同一視して得られる $\mathbb{R}$ の商空間である。

このとき、 $X$ が第一可算でないことを示そう。もし、 $X$ が第一可算であれば、 $p_0$ の高々可算な基本近傍系 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が存在する。各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n$ は開集合であるとしてよい。すると、 $p^{-1}(V_n)$ は $\mathbb{R}$ の開集合で $\mathbb{Z}\subset p^{-1}(V_n)$ である。よって、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $0<r_n<1/2$ となる $r_n$ であって $[n-r_n, n+r_n]\subset p^{-1}(V_n)$ を満たすようなものが存在する。 $W=(-\infty, 1/2)\cup\bigcup_{n=1}^\infty (n-r_n, n+r_n)$ とおくと、 $p^{-1}(p(W))$ だから、 $p(W)$ は $X$ の開集合で、 $p_0$ の開近傍となる。 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は $p_0$ の基本近傍系なので、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n\subset p(W)$ であり、したがって $p^{-1}(V_n)\subset p^{-1}(p(W))=W$ である。ところが、 $n+r_n\in p^{-1}(V_n)\setminus W$ であるから矛盾する。これで、 $X$ が第一可算でないこと(より詳しく、 $p_0$ が高々可算な基本近傍系をもたないこと)が示された。よって、 $X$ は、距離空間 $\mathbb{R}$ の商空間であるにもかかわらず、距離化可能ではない。 $\square$

上の例は、距離空間の商空間が必ずしも距離化可能でないことを示している。これは距離空間の範囲内にとどまる限り(少なくともいまのような商空間の定義のもとでは)自由に商空間を考えることはできないことを示している。また、距離空間 $(X, d)$ の商空間が「運よく」距離化可能になったとしても、その位相を定める距離を $d$ をもとに構成することは容易でないことが多い。このような事情は、距離空間に限らず一般の位相空間を考える積極的な動機の一つとなっている。

位相空間 $X,$ $Y$ について、 $Y=X/\mathord{\sim}$ の形でない場合でも、適切な全射 $f\colon X\to Y$ があるとき、 $Y$ を $X$ の商空間であるかのように考え、 $f$ を射影であるかのように考えたいことがある。このときの「適切な全射」を定式化したのが、商写像の概念である。

商写像を定義する前に、次の考察をしておく。一般に集合の間の写像 $f\colon X\to Y$ が与えられたとき、 $X$ 上の同値関係 $\sim_f$ を $$ x\sim_f x' \Longleftrightarrow f(x)=f(x') $$ により定義すると、 $f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\to Y$ が定まり、この $\overline{f}$ は単射である。さらに、 $f$ が全射であれば、 $\overline{f}$ は全単射となる。

定義 7.8 (商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を連続写像とする。 $f$ が商写像(quotient map)であるとは、 $f$ が全射であって、上で定義した連続全単射 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\to Y$ が同相写像となることをいう。

上の定義で「連続全単射 $\overline{f}$」と述べたが、 $\overline{f}$ の連続性は命題 7.5により保証されていることである。明らかな場合として、 $\sim$ が $X$ 上の同値関係のとき $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とすると、 $p$ は商写像である。実際、このとき同値関係 $\sim_p$ は $\sim$ と一致し、しかも連続全単射 $\overline{p}\colon X/\mathord{\sim}_p\to X/\mathord{\sim}$ は単なる恒等写像だから $\overline{p}$ は同相写像となっている。

商写像を上の定義のまま扱うのは少々難しいので、次にその言い換えを述べよう。

命題 7.9 (商写像の特徴づけ)

$X,$ $Y$ を位相空間、 $f\colon X\to Y$ を連続な全射とするとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は商写像である。
  • (2) $Y$ の任意の部分集合 $A$ に対して、 $f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合ならば $A$ は $Y$ の開集合である。
  • (3) $Y$ の任意の部分集合 $A$ に対して、 $f^{-1}(A)$ が $X$ の閉集合ならば $A$ は $Y$ の閉集合である。
  • (4) 任意の位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Y\to Z$ に対して、 $g\circ f\colon X\to Z$ が連続ならば $g$ も連続である。

証明

$\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ を前に定義した通り、 $f$ により誘導される連続全単射とする。すると、 $p_f\colon X\to X/\mathord{\sim}_f$ を射影とするとき $\overline{f}\circ p_f=f$ である。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $f$ を商写像として、 $A\subset Y$ とし、 $f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であると仮定する。いま、 $f^{-1}(A)=(\overline{f}\circ p_f)^{-1}(A)=p_f^{-1}(\overline{f}^{-1}(A))$ であるから、 $p_f^{-1}(\overline{f}^{-1}(A))$ は $X$ の開集合であり、よって、商位相の定義により、 $\overline{f}^{-1}(A)$ は $X/\mathord{\sim}_f$ の開集合である。 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ は同相写像なので、とくに開写像であり(命題 5.26)、よって $A=\overline{f}(\overline{f}^{-1}(A))$ は $Y$ の開集合である。

(2) $\Leftrightarrow$ (3) は、任意の $A\subset Y$ について成り立つ式 $f^{-1}(Y\setminus A)=X\setminus f^{-1}(A)$ から簡単に示される。

(2) $\Rightarrow$ (4) を示す。(2) を仮定し、位相空間 $Z$ と写像 $g\colon Y\to Z$ で $g\circ f\colon X\to Z$ が連続となるものを任意に与える。このとき、 $g$ が連続となることを示せばよい。そこで、 $Z$ の開集合 $V$ を任意に与える。いま、 $g\circ f$ の連続性により $f^{-1}(g^{-1}(V))=(g\circ f)^{-1}(V)$ は開集合なので、(2) により $g^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合である。よって、 $g$ は連続である。

(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。(4) を仮定するとき、連続全単射 $\overline{f}\colon X/\mathord{\sim}_f\colon Y$ が同相写像であることを示せばよい。それには、 $\overline{f}^{-1}\colon Y\to X/\mathord{\sim}_f$ が連続といえればよい。ところが、合成 $\overline{f}^{-1}\circ f\colon X\to X/\mathord{\sim}_f$ は定義により $p_f$ に等しいから、連続である。よっていま仮定している (4) により、 $\overline{f}^{-1}$ は連続である。 $\square$

ここでは商写像の定義を埋め込みとの双対性を重視した形で与えたが、他の多くの文献では、商写像の定義として命題 7.9の条件(2)あるいは(3)を用いている。証明に用いるのにはこの形の方が便利であろう。

命題 7.10 (写像の合成と商写像)

$X,$ $Y,$ $Z$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とする。このとき、次が成り立つ。

  • (1) $f,$ $g$ が商写像ならば、 $g\circ f$ も商写像である。
  • (2) $g\circ f$ が商写像ならば、 $g$ も商写像である。

証明

(1) $f,$ $g$ を商写像とする。命題 7.9の条件(2)を用いて、 $g\circ f\colon X\to Z$ が商写像であることを示そう。 $f,$ $g$ は連続な全射だから、 $g\circ f$ は連続な全射である。 $A\subset Z$ として、 $(g\circ f)^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であるとする。 $(g\circ f)^{-1}(A)=f^{-1}(g^{-1}(A))$ であって $f$ は商写像なので、 $g^{-1}(A)$ は $Y$ の開集合である。 $g$ は商写像なので、 $A$ は $Z$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、 $g\circ f$ は商写像である。

(2) $g\circ f\colon X\to Z$ を商写像とする。このとき、 $g\colon Y\to Z$ は全射である。実際、任意に $z\in Z$ を与えると、 $g\circ f$ の全射性により $x\in X$ が存在して $z=g\circ f(x)=g(f(x))$ となるからである。命題 7.9の条件(2)を用いて、 $g\colon Y\to Z$ が商写像であることを示そう。 $A\subset Z$ として、 $g^{-1}(A)$ が $Y$ の開集合であるとする。 $f$ は商写像だから、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (2)により、 $(g\circ f)^{-1}(A)=f^{-1}(g^{-1}(A))$ は $X$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、 $g\circ f$ は商写像である。 $\square$

命題 7.11 (開写像・閉写像と商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を連続な全射とする。 $f$ が開写像あるいは閉写像であるならば、 $f$ は商写像である。

証明

$f\colon X\to Y$ を連続な全射とする。 $f$ が開写像であるとして、命題 7.9の条件(2)を用いて $f$ が商写像であることを示そう。 $A\subset Y$ として、 $f^{-1}(A)$ が $X$ の開集合であるとする。このとき、 $f$ の全射性より $A=f(f^{-1}(A))$ であるが、 $f$ は開写像であるから、 $f(f^{-1}(A))$ は $Y$ の開集合である。よって、 $A$ は $Y$ の開集合である。命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、 $f$ は商写像である。 $f$ が閉写像である場合も、命題 7.9の条件(3)を用いることで、同様に $f$ が商写像であることが示される。 $\square$

例 7.12 (開写像として得られる商写像)

連続写像 $f\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を $f(x,y)=x$ で定義する。 $f$ は明らかに全射である。この $f$ が開写像であり、したがって商写像にもなることを示そう。そこで、 $U\subset\mathbb{R}^2$ を開集合とする。 $f(U)$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることを示すため、 $x\in f(U)$ を任意に与える。すると、 $f$ の定義によりある $y\in \mathbb{R}$ が存在して $(x,y)\in U$ となる。 $U$ は開集合なので、 $B((x,y),r)\subset U$ となるような $r>0$ が存在する。すると $B(x,r)=f(B{(}(x,y),r{)})\subset f(U)$ である。よって、命題 2.4により、 $f(U)$ は $\mathbb{R}$ の開集合である。これで、 $f$ が開写像であることが分かり、よって命題 7.11により $f$ が商写像であることが分かった。 $\square$

最後に、部分空間をとる操作と商写像との関係について述べる。 $f\colon X\to Y$ を商写像とし、 $A$ を $X$ の部分空間とする。このとき、 $f|_A\colon A\to Y$ の終域を $f(A)$ に制限したものを、ここでは $f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ と表すことにしよう。このとき $f|_A^{f(A)}$ は連続な全射であるが、これが再び商写像になるかどうかを考える。

命題 7.13 (部分空間と商写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を商写像として、 $A\subset X$ とする。次の各場合に、 $f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ は商写像となる。

  • (1) $f$ が開写像で、 $A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (2) $f$ が閉写像で、 $A$ が $X$ の閉集合である場合。
  • (3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、 $A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (4) $A=f^{-1}(f(A))$ で、 $A$ が $X$ の閉集合である場合。

証明

(1) 商写像 $f\colon X\to Y$ が開写像であるとし、 $A\subset X$ を開集合とする。このとき、 $f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ が開写像であることを示そう。 $U$ を $A$ の開集合とすると、命題 6.7により、 $U$ は $X$ の開集合でもある。 $f$ は開写像なので、 $f(U)$ は $Y$ の開集合である。よって、 $f|_A^{f(A)}(U)=f(U)=f(U)\cap f(A)$ は $f(A)$ の開集合である。よって、 $f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ は開写像であるから、命題 7.11により、商写像となる。

(2) (1) と同様である。

(3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、 $A$ が $X$ の開集合であるとする。 $g=f|_A^{f(A)}\colon A\to f(A)$ が商写像であることを示すため、 $B\subset f(A)$ とし、 $g^{-1}(B)$ が $A$ の開集合であると仮定する。 $g$ の定義から、 $g^{-1}(B)=f^{-1}(B)\cap A=f^{-1}(B)\cap f^{-1}(f(A))=f^{-1}(B\cap f(A))=f^{-1}(B)$ であるので、 $f^{-1}(B)$ は $A$ の開集合である。 $f$ は商写像であるから、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (2)により、 $B$ は $Y$ の開集合である。 $B\subset f(A)$ なので、命題 6.8により $B$ は $f(A)$ の開集合である。よって、命題 7.9(2) $\Rightarrow$ (1)により、 $g=f|_A^{f(A)}$ は商写像である。

(4) (3) と同様である。命題 7.9 の (2) の代わりに (3) の条件を使えばよい。 $\square$

例 7.14 (部分空間と商写像が交換しない例)

$f\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ を、例 7.12の通り、 $f(x,y)=x$ で定義される連続写像とする。この $f$ は商写像となるのであった。 $A$ を、次のような $\mathbb{R}^2$ の部分集合とする。 $$ A=\{(0,0)\}\cup\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1,\,x\geq 0\} $$ このとき、 $f(A)=[0,\infty)$ であるが、 $g=f|_A^{f(A)}\colon A\to [0,\infty)$ は商写像ではない。それを示すため、 $B=f(A)\setminus\{0\}=(0,\infty)$ という $f(A)$ の部分集合を考えよう。 $$ g^{-1}(B)=f^{-1}(B)\cap A=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1,\,x\geq 0\} $$ であるので、 $g^{-1}(B)$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。 $g^{-1}(B)\subset A$ なので、命題 6.8により $g^{-1}(B)$ は $A$ の閉集合でもある。もし、 $g$ が商写像であれば、命題 7.9(1) $\Rightarrow$ (3)により、 $B=(0,\infty)$ は $f(A)=[0,\infty)$ の閉集合でなければならないが、すると命題 6.13により$0\in f(A)\cap \operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=\operatorname{Cl}_{f(A)} B=B$ となるから矛盾する。 $\square$

注意 7.15 (同値関係の場合)

$X$ を位相空間、 $\sim$ を $X$ 上の同値関係として、 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とする。 $A$ を $X$ の部分集合とすると、 $\sim$ を $A$ に制限することで、 $A$ 上の同値関係 $\sim_A$ が得られる(つまり、 $a, b\in A$ に対して、 $a\sim_A b$ であるのは $a\sim b$ のときと定義すれば、 $\sim_A$ は $A$ 上の同値関係となる)。このとき自然な全単射 $$ \varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A) $$ が、 $a\in A$ の $\sim_A$ に関する同値類を、 $a$ の $\sim$ に関する同値類に写すことによって定義される。

命題 この全単射 $\varphi$ は連続である。

証明 包含写像 $i\colon A\to X$ について、合成 $p\circ i\colon A\to X/\mathord{\sim}$ を考えると、これは連続であって、 $a, a'\in A$ に対して「$a\sim_A a'\Longrightarrow p\circ i(a)=p\circ i(a')$」を満たすので、 $p\circ i$ により誘導される写像 $\tilde{\varphi}\colon A/\mathord{\sim}_A\to X/\mathord{\sim}$ がある。命題 7.5により $\tilde{\varphi}$ は連続であるが、定義から $\varphi$ は $\tilde{\varphi}$ の終域を $p(A)$ に制限したものなので、命題 6.15により $\varphi$ は連続である。

$p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ は商写像であるので、 $q=p|_A^{p(A)}\colon A\to p(A)$ を考えれば、これが商写像であるための条件は命題 7.13によって与えられる。ところで、 $q$ が商写像であるということは、定義により $q$ が誘導する写像 $\bar{q}\colon A/\mathord{\sim}_q\to p(A)$ が同相写像であるということであるが、このとき定義から $\sim_q$ は $\sim_A$ と一致し、 $\bar{q}$ は $\varphi$ と一致する。つまり $q=p|_A^{p(A)}\colon A\to p(A)$ が商写像であることは、上の自然な連続全単射 $\varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A)$ が同相写像であることと同値である。

そこで、いま考察した場合について命題 7.13を述べれば以下のようになる。

命題 7.16 (部分空間と商空間との交換)

$\sim$ を位相空間 $X$ 上の同値関係とし、 $\sim$ を $X$ の部分集合 $A$ に制限したものを $\sim_A$ とする。 $p\colon X\to X/\mathord{\sim}$ を射影とする。注意 7.15における自然な連続全単射 $\varphi\colon A/\mathord{\sim}_A\to p(A)$ は、次の各場合に同相写像となる。

  • (1) $f$ が開写像で、 $A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (2) $f$ が閉写像で、 $A$ が $X$ の閉集合である場合。
  • (3) $A=f^{-1}(f(A))$ で、 $A$ が $X$ の開集合である場合。
  • (4) $A=f^{-1}(f(A))$ で、 $A$ が $X$ の閉集合である場合。 $\square$

$\varphi$ の定義域 $A/\mathord{\sim}_A$ は、 $X$ の部分空間 $A$ の商空間であり、終域 $p(A)$ は、 $X$ の商空間 $X/\mathord{\sim}$ の部分空間である。 $\varphi$ が同相写像であるということは、この二つが同一視できるということである。したがって、上の命題は、部分空間と商空間とが交換可能となるための十分条件を述べていると解釈できる。

8. 直積位相と直和位相

いくつかの位相空間が与えられたとき、その直積に位相を定める方法について述べよう。まず、扱いが易しい有限個の位相空間の直積について説明したのち、一般の直積について述べることにする。

有限個の位相空間 $(X_1, \mathcal{O}_1),\ldots, (X_n, \mathcal{O}_n)\,(n\in\mathbb{N})$ が与えられたとする。このとき、直積集合 $$ X=X_1\times\cdots\times X_n=\{(x_1,\ldots, x_n)\,|\,x_1\in X_1,\ldots, x_n\in X_n\} $$ に位相を与える方法を考えよう。 各 $i=1,\ldots, n$ に対して、 $X$ から $X_i$ への射影 $p_i\colon X\to X_i$ が $p_i(x_1,\ldots,x_n)=x_i$ により定まる。直積集合 $X$ の位相は、これらの射影 $p_i\,(i=1,\ldots,n)$ がすべて連続となるように入れるべきであろう。最も極端な場合として、 $X$ に離散位相を入れればその要請は満たされるが、それでは $X_i$ の位相が反映されないから、 $p_i$ がすべて連続であるという制約のもとで、 $X$ の位相を可能な限り粗くすることを試みる。

射影 $p_i\,(i=1,\ldots,n)$ がすべて連続であるという条件は、集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_i^{-1}(U)\,|\,i\in\{1,\ldots, n\},\,U\in\mathcal{O}_i\} $$ の要素が、すべて $X$ の開集合であるという条件と同値である。そこで、 $X$ の開集合の全体を $\mathcal{S}$ として $X$ に位相を定めることができると都合が良いのであるが、相対位相や商位相の場合とは異なり、 $\mathcal{S}$ はそれ自身では開集合系の公理 (O1)-(O3) を必ずしも満たさない。しかし、 $\mathcal{S}$ は命題 3.15の性質(SB)を明らかに満たしているので、命題 3.16により、 $\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ を考えることができる。この $\mathcal{O}$ が、 $X$ 上の直積位相と呼ばれるものである。この位相 $\mathcal{O}$ は、 $\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とするとき、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ を開基として生成される位相のことであった(注意 3.17)。 $\mathcal{O}_i$ が有限個の共通部分について閉じていることと、逆像 $p_i^{-1}$ をとる操作が共通部分と交換することから、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $$ \begin{aligned} \mathcal{B}_\mathcal{S}&=\left\{\bigcap_{i=1}^n p_i^{-1}(U_i)\,\bigg|\,\mathcal{O}_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}_n\right\}\\ &=\{U_1\times\cdots\times U_n\,|\,U_1\in\mathcal{O}_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}_n\} \end{aligned} $$ と表される(確かめよ)。以上を正式な定義の形にまとめよう。

定義 8.1 (有限個の空間の直積位相)

$n\in\mathbb{N}$ とし、 $(X_1 ,\mathcal{O}_1),\ldots, (X_n, \mathcal{O}_n)$ を位相空間とする。直積集合 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ の部分集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_i^{-1}(U)\,|\,i\in\{1,\ldots, n\},\,U\in\mathcal{O}_i\} $$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ を $X$ 上の直積位相(product topology)といい、このときの位相空間 $(X, \mathcal{O})$ を $X_1,\ldots, X_n$ の直積空間(product space)という。この直積位相 $\mathcal{O}$ は、 $p_i\colon X\to X_i$ を射影とするとき、 $X$ の部分集合族 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\{U_1\times\cdots\times U_n\,|\,U_1\in\mathcal{O}_1,\ldots, U_n\in\mathcal{O}_n\} $$ を開基として生成される位相でもある。 $\square$

以下では断りのない限り、有限個の位相空間 $(X_i, \mathcal{O}_i)\,(i=1,\ldots, n)$ に対して、直積集合 $X_1\times\cdots\times X_n$ にはこの直積位相を入れるものとする。

注意 8.2 (直積空間の開集合)

上の定義から、直積空間 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ において、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素、つまり $$ U_1\times\cdots\times U_n\text{(ただし } U_i\text{ は }X_i\text{ の開集合)} $$ という形の集合はすべて開集合である。このような集合の全体が直積空間 $X$ の開基をなすのだから、命題 3.2から、 $X$ の任意の開集合は上のような形の開集合の(一般には無限個の)和集合として表される。したがって、 $X$ の開集合の一般的な形は $$ \bigcup_{\lambda\in\Lambda} (U_{\lambda, 1}\times\cdots\times U_{\lambda, n})\text{(ただし } U_{\lambda, i}\text{ は }X_i\text{ の開集合)} $$ のようになる。

命題 8.3 (直積位相と射影)

$(X_1, \mathcal{O}_1),\ldots, (X_n, \mathcal{O}_n)$ を位相空間とする。直積集合 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ 上の直積位相 $\mathcal{O}$ は、すべての $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して射影 $p_i\colon X\to X_i$ を連続とする $X$ 上の位相の中で、最も粗い位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • すべての $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して、 $p_i$ は $(X, \mathcal{O})$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となる。
  • すべての $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して $p_i$ が $(X, \mathcal{O}')$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となるような $X$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、 $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。

証明

定義 8.1およびその前の議論で用いていた記号をそのまま用いる。 $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ であるから、定義 8.1の前の議論により、各 $i$ に対して $p_i\colon X\to X_i$ は $(X, \mathcal{O})$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となる。よって、第一の性質が成り立つ。第二の性質を示すため、 $\mathcal{O}'$ を、すべての $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $p_i$ が $(X, \mathcal{O}')$ から $(X_i, \mathcal{O}_i)$ への連続写像となるような $X$ 上の位相とする。すると、定義 8.1の前の議論により、 $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}'$ であるが、注意 3.17でみたように、 $\mathcal{O}$ は $\mathcal{S}$ を含む最小の位相であったので、 $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。 $\square$

直積空間 $X$ の部分集合が開集合であるかを判定するには、次の事実が良く用いられる。

命題 8.4 (直積空間での開集合の判定条件)

$X_1,\ldots, X_n$ を位相空間とする。直積空間 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ の部分集合 $U$ に対して、次は同値である。

  • (1) $U$ は開集合である。
  • (2) 任意の $(x_1,\ldots, x_n)\in U$ に対して、 $x_i\in U_i$ となる $X_i$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して $U_1\times\cdots\times U_n\subset U$ となる。

証明

定義 8.1およびその前の議論で用いていた記号をそのまま用いる。

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $U$ を $X$ の開集合とし、 $x=(x_1,\ldots, x_n)\in U$ とする。 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $X$ の開基だから、ある $V\in\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に対して $x\in V\subset U$ となるが、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の定義により、 $X_i$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して、 $V=U_1\times\cdots\times U_n$ である。この $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が条件を満たす。

(2) $\Rightarrow$ (1) は、 $U_1\times\cdots\times U_n$($U_i$ は $X_i$ の開集合)の形の集合が $X$ の開集合であることに注意すれば、命題 2.4からすぐに分かる。 $\square$

直積空間について、次の事実は基本的である。

命題 8.5 (直積空間の普遍性)

$X=X_1\times\cdots\times X_n$ を直積空間とし、 $Y$ を位相空間とする。 $p_i\colon X\to X_i\,(i=1,\ldots, n)$ を射影とするとき、写像 $f\colon Y\to X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 各 $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して、 $p_i\circ f\colon Y\to X_i$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、射影 $p_i$ の連続性(命題 8.3)と、連続写像の合成が連続であることから分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i$ に対して $p_i\circ f\colon Y\to X_i$ が連続であるとする。 命題 5.15によれば、 $f\colon Y\to X$ が連続であることを示すには、定義 8.1における $X$ の準開基 $\mathcal{S}$ に属する $V$ について、 $f^{-1}(V)$ が $Y$ の開集合になることを示せば十分である。すなわち、ある $i\in\{1,\ldots,n\}$ と $X_i$ の開集合 $U$ に対して $V=p_i^{-1}(U)$ と表されるような $V$ に対して、 $f^{-1}(V)$ が $Y$ の開集合となることを示せばよい。 いま、 $$ f^{-1}(V)=f^{-1}(p_i^{-1}(U))=(p_i\circ f)^{-1}(U) $$ であるが、 $p_i\circ f$ は仮定から連続なので、 $(p_i\circ f)^{-1}(U)$ は $Y$ の開集合となる。よって、 $f^{-1}(V)$ は $Y$ の開集合である。 $\square$

注意 8.6 (直積空間への連続写像のつくり方)

命題 8.5は、実際には、次のような形で使われることが多い。 $f_i\colon Y\to X_i\,(i=1,\ldots, n)$ を連続写像とする。このとき写像 $f\colon Y\to X$ が $$ f(y)=(f_1(y),\ldots, f_n(y))\quad(y\in Y) $$ により定義されるが、このとき $f\colon Y\to X$ は連続となる。実際、定義により各 $i$ に対して $p_i\circ f=f_i$ であり、これは連続であるから、命題 8.5の(2) $\Rightarrow$ (1)により $f$ は連続となる。 $\square$

距離空間の有限個の直積空間は、次の命題で分かるように距離化可能な位相空間となる。

命題 8.7 (距離空間の有限個の直積)

$(X_1, d_1),\ldots, (X_n, d_n)$ を距離空間とする。このとき、次で定義される $d^{(1)}, d^{(2)}, d^{(\infty)}$ はいずれも直積集合 $X=X_1\times\cdots\times X_n$ 上の距離となる。 $$ \begin{aligned} d^{(1)}(x, y)&=\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)\\ d^{(2)}(x, y)&=\sqrt{\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)^2}\\ d^{(\infty)}(x, y)&=\max\{d_i(x_i, y_i)\,|\,i=1,\ldots, n\}\\ \end{aligned} $$ ただし、 $x=(x_1,\ldots, x_n)$, $y=(y_1,\ldots, y_n)$ とする。さらに、これらの距離が定める $X$ 上の位相は、いずれも直積位相に一致する。

証明

まず、 $d^{(1)}, d^{(2)}, d^{(\infty)}$ がそれぞれ $X$ 上の距離となることを示す。いずれも、距離の満たすべき性質のうち三角不等式以外は明らかに満たしているので、三角不等式のみを証明しよう。 $d^{(1)}, d^{(\infty)}$ については三角不等式も簡単である。実際、 $d^{(1)}$ に関しては、 $x=(x_1,\ldots, x_n),\, y=(y_1,\ldots, y_n),\, z=(z_1,\ldots, z_n)\in X$ に対して、 $d_i$ が三角不等式を満たすことより $$ d^{(1)}(x,z)=\sum_{i=1}^n d_i(x_i, z_i)\leq \sum_{i=1}^n (d_i(x_i, y_i)+d_i(y_i, z_i))=\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)+\sum_{i=1}^n d_i(y_i, z_i)=d^{(1)}(x,y)+d^{(1)}(y, z) $$ となるから三角不等式は成り立つ。 次に $d^{(\infty)}$ については、各 $i$ に対して、 $d_i(x_i, y_i)\leq d_i(x_i, y_i)+d_i(y_i, z_i)\leq d^{(\infty)}(x, y)+d^{(\infty)}(y, z)$ となることに注意すれば、 $$ d^{(\infty)}(x,y)=\max\{d(x_i, y_i)\,|\,i=1,\ldots, n\}\leq d^{(\infty)}(x, y)+d^{(\infty)}(y, z) $$ となり、やはり三角不等式は成り立つ。問題は $d^{(2)}$ についてである。まず、Cauchy-Schwarz の不等式(命題 0.1)により、 $$ \sum_{i=1}^n d(x_i, y_i)d(y_i, z_i)\leq \sqrt{\left(\sum_{i=1}^n d(x_i, y_i)^2\right)\left(\sum_{i=1}^n d(y_i, z_i)^2\right)}=d^{(2)}(x,y)d^{(2)}(y,z) $$ であることに注意しよう。これを用いると、 $$ \begin{aligned} &\phantom{=}(d^{(2)}(x, y)+d^{(2)}(y, z))^2-(d^{(2)}(x, z))^2\\ &= \sum_{i=1}^n (d_i(x_i, y_i)^2+d_i(y_i, z_i)^2)+2d^{(2)}(x,y)d^{(2)}(y,z)-\sum_{i=1}^n d_i(x_i, z_i)^2\\ &= \sum_{i=1}^n (d_i(x_i, y_i)+d_i(y_i, z_i))^2-\sum_{i=1}^n d_i(x_i, z_i)^2+2\left(d^{(2)}(x,y)d^{(2)}(y,z)-\sum_{i=1}^n d_i(x_i, y_i)d_i(y_i, z_i)\right)\\ &\geq 0 \end{aligned} $$ となるから、 $d^{(2)}(x, y)+d^{(2)}(y, z)\geq d^{(2)}(x, z)$ であり、 $d^{(2)}$ についても三角不等式は成り立つ。

さらに、これらの距離が定める位相がすべて直積位相に一致することを示そう。まず、 $$ d^{(\infty)}(x, y)\leq d^{(1)}(x,y)\leq n d^{(\infty)}(x,y) $$ が成り立つことから、恒等写像 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(1)})\to (X, d^{(\infty)})$ および $\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, d^{(1)})$ が連続であることが分かる。これは、 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(1)})\to (X, d^{(\infty)})$ が同相写像であることを示しているから、 $d^{(1)}$ と $d^{(\infty)}$ の定める $X$ 上の位相は等しい。また、 $$ d^{(\infty)}(x, y)\leq d^{(2)}(x,y)\leq \sqrt{n} d^{(\infty)}(x,y) $$ が成り立つことから、同様にして、 $d^{(2)}$ と $d^{(\infty)}$ の定める $X$ 上の位相が等しいことも分かる。これで、 $d^{(1)}, d^{(2)}, d^{(\infty)}$ の定める $X$ 上の位相がすべて一致することが分かった。あとは、この位相(たとえば、 $d^{(\infty)}$ の定める位相)が、 $X$ 上の直積位相 $\mathcal{O}$ に一致することを言えばよい。

各 $i$ に対して、 $$ d_i(p_i(x), p_i(y))=d_i(x_i, y_i)\leq d^{(\infty)}(x, y)\quad(x, y\in X) $$ という不等式が成り立つので、射影 $p_i\colon (X, d^{(\infty)})\to (X_i, d_i)$ は連続である。これは、 $f$ を恒等写像 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, \mathcal{O})$ とすれば、 $p_i\circ f\colon (X, d^{(\infty)})\to (X_i, d_i)$ が各 $i$ について連続となることを意味している。よって、命題 8.5により、 $f$ は連続である。すなわち、 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, \mathcal{O})$ は連続である。

あとは、逆向きの恒等写像 $$ \operatorname{id}\colon (X, \mathcal{O})\to (X, d^{(\infty)})\quad(\star) $$ が連続であると言えればよい。この連続性を示すため、命題 5.15を用いることにしよう。 $(X, d^{(\infty)})$ の開基としては開球体の全体 $$ \{B_{d^{(\infty)}}(x,r)\,|\,x\in X, r>0\} $$ が取れるのであった(例 3.4)。よって、 $(\star)$ が連続であることを言うためには、任意の $x\in X$ と $r>0$ に対して $\operatorname{id}^{-1}(B_{d^{(\infty)}}(x,r))=B_{d^{(\infty)}}(x,r)$ が直積空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合であると言えればよい。そこで、 $x=(x_1,\ldots, x_n)\in X$ および $r>0$ を任意に与える。このとき $y=(y_1,\ldots, y_n)\in X$ に対して $$ \begin{aligned} d^{(\infty)}(x, y)<r &\Longleftrightarrow \max\{d_i(x_i, y_i)\,|\,i=1,\ldots,n\}<r \\ &\Longleftrightarrow \text{すべての }i\in\{1,\ldots,n\}\text{ に対して }d_i(x_i, y_i)<r \end{aligned} $$ となるから、 $$ \begin{aligned} B_{d^{(\infty)}}(x,r)&=\{y\in X\,|\,d^{(\infty)}(x, y)<r\}\\ &=\{y\in X\,|\, \text{すべての }i\in\{1,\ldots,n\}\text{ に対して }d_i(x_i, y_i)<r\}\\ &=B_{d_1}(x_1,r)\times\cdots\times B_{d_n}(x_n,r) \end{aligned} $$ である。この最右辺は、 $(X_i, d_i)$ の開集合の直積の形だから、確かに直積空間 $(X, \mathcal{O})$ の開集合である(注意 8.2)。よって、 $B_{d^{(\infty)}}(x,r)$ は $(X, \mathcal{O})$ の開集合である。これで、 $(\star)$ が連続であることが示され、 $\operatorname{id}\colon (X, d^{(\infty)})\to (X, \mathcal{O})$ が同相写像であることが分かった。したがって、 $d^{(\infty)}$ が定める位相は直積位相 $\mathcal{O}$ と一致することが分かり、これですべての証明が終わった。 $\square$

命題 8.8 ($\mathbb{R}^n$ のEuclid位相は直積位相と一致)

$\mathbb{R}^n$ のEuclid距離から定まる位相は、 $\mathbb{R}^n=\mathbb{R}\times\cdots\times\mathbb{R}$ と見たときの直積位相と一致する。

証明

$\mathbb{R}$ の通常の距離を $d$ で表す。命題 8.7において $(X_i, d_i)=(\mathbb{R}, d)\,(i=1,\ldots,n)$ としたときの $\mathbb{R}^n=\mathbb{R}\times\cdots\times\mathbb{R}$ 上の距離 $d^{(2)}$ は直ちに分かるようにEuclid距離と一致する。したがって、命題 8.7により、 $\mathbb{R}^n$ 上のEuclid距離が定める位相は、直積位相と一致する。 $\square$

注意 8.9 ($\mathbb{R}^n$ のいくつかの距離)

命題 8.8の証明では、実数直線の通常の距離 $d$ をもとに、命題 8.7の距離 $d^{(2)}$ として $\mathbb{R}^n$ 上のEuclid距離が得られることを用いたが、その代わりに距離 $d^{(1)}$ や $d^{(\infty)}$ を考えると、それぞれ $\mathbb{R}^n$ 上の距離として $$ d^{(1)}(x,y)=\sum_{i=1}^n |x_i-y_i|,\quad d_\infty(x,y)=\max \{|x_i-y_i|\,|\,i=1,\ldots,n\} $$ が得られる。ここで、 $x=(x_1,\ldots, x_n),\,y=(y_1,\ldots, y_n)\in\mathbb{R}^n$ とする。これらの距離 $d^{(1)}$, $d^{(\infty)}$ の定める位相も、 $\mathbb{R}^n$ の直積位相に等しい。 $\square$

続いて、有限と限らない個数の位相空間の直積について述べよう。 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を、位相空間の(添字付けられた)族とするとき、直積集合 $$ X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda=\{(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\,|\,\text{ すべての }\lambda\in\Lambda\text{ に対して }x_\lambda\in X_\lambda\} $$ に位相を入れることを考える。この場合も、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ が $p_\lambda((x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda})=x_\lambda$ により定義される。つまり、 $p_\lambda$ は直積集合 $X$ の要素にその第 $\lambda$ 成分を対応させる写像である。有限個の直積のときと同様、 $X$ 上の直積位相は射影 $p_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ をすべて連続するような最も粗い位相として定義される。具体的には、 $X$ の部分集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_\lambda^{-1}(U)\,|\,\lambda\in\Lambda,\,U\text{ は }X_\lambda\text{ の開集合}\} $$ を考えれば、 $p_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ がすべて連続であることと $\mathcal{S}$ の要素がすべて $X$ の開集合であることが同値となり、しかも $\mathcal{S}$ は条件(SB)を明らかに満たすので、 $\mathcal{S}$ を準開基として生成される位相 $\mathcal{O}$ を考える。この $\mathcal{O}$ が直積位相である。改めて述べれば、

定義 8.10 (一般の直積位相)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ をその直積集合として、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。このとき、 $X$ の部分集合族 $$ \mathcal{S}=\{p_\lambda^{-1}(U)\,|\,\lambda\in\Lambda,\,U\text{ は }X_\lambda\text{ の開集合}\} $$ を準開基として生成される $X$ 上の位相を直積位相といい、この位相を入れて得られる位相空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間という。

今後断りのない限り、位相空間の族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して直積集合 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ には直積位相を導入する。 $\Lambda=\{1, \ldots, n\}$ の場合は、上の直積位相の定義は、いままでの有限個の直積位相の定義と一致する。

注意 8.11 (一般の直積位相の開基)

準開基の定義により、 $\mathcal{S}$ の有限個の要素の共通部分の全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ の開基となる。 具体的には、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は次のような集合となる(確かめよ)。 $$ \mathcal{B}_\mathcal{S}=\left\{\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\,\bigg|\,n\in\mathbb{N},\,\lambda_i\in\Lambda,\,U_i\text{ は }X_{\lambda_i}\text{ の開集合}\right\} $$ つまり、 $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は、有限個の添字 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ を選び、各 $i\in\{1,\ldots, n\}$ に対して $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i$ を選ぶと $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)$ と書けるような集合の全体である。これは有限個の直積の場合よりも複雑となっているので注意が必要である。

特に注意したいのは、 $U_\lambda$ を $X_\lambda$ の開集合とするときに $\prod_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ という形の集合が必ずしも直積空間 $X$ の開集合ではないことである(ただし、有限個の $\lambda$ を除いて $U_\lambda=X_\lambda$ であるときは、この集合は上の $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ に属するので開集合となる)。これは少々不自然に感じられるかもしれないが、この位相の定め方によって直積空間は非常に良い性質を満たすものになっている。

次の三つの命題(命題 8.12-8.14)の証明は、有限個の直積の場合(命題 8.3-8.5)と同様にして示されるので、証明を省略する。読者自身で確かめてほしい。

命題 8.12 (一般の直積位相と射影)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とする。直積集合 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ 上の直積位相 $\mathcal{O}$ は、すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を連続とする $X$ 上の位相の中で、最も粗い位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $p_\lambda$ は $(X, \mathcal{O})$ から $X_\lambda$ への連続写像となる。
  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda$ が $(X, \mathcal{O}')$ から $X_\lambda$ への連続写像となるような $X$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、 $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}'$ である。 $\square$

命題 8.13 (一般の直積空間での開集合の判定条件)

直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda}$ の部分集合 $U$ に対して、次は同値である。

  • (1) $U$ は開集合である。
  • (2) 任意の $x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in U$ に対して、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ および $x_{\lambda_i}\in U_i$ となる $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset U$ となる。 $\square$

命題 8.14 (一般の直積空間の普遍性)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、 $Y$ を位相空間とする。 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ を射影とするとき、写像 $f\colon Y\to X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $p_\lambda\circ f\colon Y\to X_\lambda$ は連続である。 $\square$

注意 8.15 (一般の直積空間への連続写像のつくり方)

命題 8.14は実際には、次のような形で使われることが多い。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して連続写像 $f_\lambda\colon Y\to X_\lambda$ が与えられているとする。このとき写像 $f\colon Y\to X$ が $$ f(y)=(f_\lambda(y))_{\lambda\in\Lambda} \quad(y\in Y) $$ により定義されるが、このとき $f\colon Y\to X$ は連続となる。実際、定義により各 $\lambda$ に対して $p_\lambda\circ f=f_\lambda$ であり、これは連続であるから、命題 8.14の(2) $\Rightarrow$ (1)により $f$ は連続となる。 $\square$

命題 8.16 (直積からの射影は開写像)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とするとき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ は開写像である。

証明

$U$ を直積空間 $X$ の開集合とし、 $V=p_\lambda(U)$ とする。 $V$ が $X_\lambda$ の開集合であることを示すために、 $u\in V$ を任意に与える。ある $x=(x_\mu)_{\mu\in\Lambda}\in U$ が存在して、 $p_\lambda(x)=u$ となる。つまり、 $x_\lambda=u$ となる。 $U$ は直積空間 $X$ の開集合なので、命題 8.13により、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ と $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i\,(i=1,\ldots, n)$ が存在して、 $W=\bigcap_{i=1}^np_{\lambda_i}^{-1}(U_i)$ とおくとき $x\in W\subset U$ となる。すると $$ u=p_{\lambda}(x)\in p_\lambda(W)\subset p_\lambda(U)\quad (\star) $$ である。ここから、(1) ある $i$ について $\lambda=\lambda_i$ である場合、(2) $\lambda\notin\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}$ である場合の二通りに場合分けする。

(1) の場合、 $p_\lambda(W)=p_{\lambda_i}(W)=U_i$ となるから、 $(\star)$ により $u\in U_i\subset p_\lambda(U)$ である。

(2) の場合、 $p_\lambda(W)=X_\lambda$ となるから、 $(\star)$ により $u\in X_\lambda\subset p_\lambda(U)$ である。

結局、(1) の場合 $O=U_i$ とし、(2) の場合 $O=X_\lambda$ とすれば、 $O$ は $u$ の $X_\lambda$ における開近傍であって、 $O\subset p_\lambda(U)$ となる。よって、命題 2.4により $p_\lambda(U)$ は $X_\lambda$ の開集合である。 $\square$

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ の部分集合 $A_\lambda$ が与えられているとする。このとき、直積集合 $\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ には二通りの位相の入れ方がある。一つは、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ の部分空間として位相を入れる方法で、もう一つは、 $A_\lambda$ を $X_\lambda$ の部分空間とみて、その直積空間として位相を入れる方法である。この二つの位相は、次の命題のとおり、実際には一致するので区別の必要がない。

命題 8.17 (直積位相と相対位相の交換可能性)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $A_\lambda\subset X_\lambda$ が与えられているとする。このとき、直積集合 $A=\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ には、直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ からの相対位相 $\mathcal{O}_1$ と、 $X_\lambda$ からの相対位相をもつ $A_\lambda$ の直積空間としての位相 $\mathcal{O}_2$ をもつが、このとき $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ である。

証明

恒等写像 $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ および $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ の連続性を示せばよい。

まず、 $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ の連続性を示す。 $\mathcal{O}_1$ は直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ からの相対位相なので、包含写像 $i\colon (A, \mathcal{O}_1)\to X$ は連続である。また、射影 $p_{\lambda}\colon X\to X_\lambda$ も連続である。よって、合成 $p_{\lambda}\circ i\colon (A, \mathcal{O}_1)\to X_\lambda$ は連続である。ところが、定義からこの合成 $p_{\lambda}\circ i$ の像は $X_\lambda$ の部分空間 $A_\lambda$ に含まれているので、 $p_{\lambda}\circ i$ の終域を $A_\lambda$ に制限したものを $f_\lambda\colon (A, \mathcal{O}_1)\to A_\lambda$ と書けば、命題 6.15により $f_\lambda$ も連続となる。そこで、 $f\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ を $f(a)=(f_\lambda(a))\,(a\in A)$ により定義すれば、 $\mathcal{O}_2$ が $A=\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ 上の直積位相であったことから、注意 8.15によって $f\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ は連続である。しかし、定義をさかのぼると分かるように、この $f$ は恒等写像 $\operatorname{id}$ に他ならない。よって、 $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_1)\to (A, \mathcal{O}_2)$ は連続である。

次に、 $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ の連続性を示す。いま、 $\mathcal{O}_2$ は $A=\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ 上の直積位相なので、射影 $p'_\lambda\colon (A, \mathcal{O}_2)\to A_\lambda$ は連続である。また、包含写像 $i_\lambda\colon A_\lambda\to X_\lambda$ も連続である。したがって、合成 $i_\lambda\circ p'_\lambda\colon (A, \mathcal{O}_2)\to X_\lambda$ は連続である。そこで、 $g\colon (A, \mathcal{O}_2)\to X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を $g(a)=(i_\lambda\circ p'_\lambda(a))$ で定義すれば、注意 8.15によって $g$ は連続となる。定義により、 $g$ の像は $A$ に含まれているので、 $g$ の終域を $A$ に制限した $g^A$ を考えることができるが、 $A$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$ は $X$ からの相対位相であったから、 $g^A\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ は連続となる。ところが、定義をさかのぼると、 $g^A$ は恒等写像 $\operatorname{id}$ に他ならない。 よって、 $\operatorname{id}\colon (A, \mathcal{O}_2)\to (A, \mathcal{O}_1)$ は連続である。 $\square$

上の命題 8.17は、今後は特に断りなく、暗黙のうちに使われることがあるので注意しておく。

注意 8.11で述べたように、無限個の位相空間の直積空間 $X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ においては、開集合 $U_\lambda\subset X_\lambda\,(\lambda\in\Lambda)$ の直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ は必ずしも開集合とはならない。しかし、閉集合の直積については、次の命題のとおり閉集合となる。

命題 8.18 (閉集合の直積は閉集合)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $F_\lambda$ は $X_\lambda$ の閉集合であるとする。このとき、 $\prod_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda$ は $X$ の閉集合である。

証明

射影 $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ は連続だから、 $p_\lambda^{-1}(F_\lambda)$ は各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X$ の閉集合となる。 $\prod_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda=\bigcap_{\lambda\in\Lambda} p_\lambda^{-1}(F_\lambda)$ なので $\prod_{\lambda\in\Lambda} F_\lambda$ も $X$ の閉集合である。 $\square$

命題 8.19 (直積と閉包との関係)

$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直積空間とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ の部分集合 $A_\lambda$ が与えられているとする。このとき、 $$ \operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda=\prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda $$ である。

証明

右辺 $\prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ は命題 8.18により $X$ の閉集合であって $\prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を含んでいるから、命題 4.2により、 $\operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\subset \prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ である。

逆の包含を示すため、 $x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in \prod_{\lambda\in\Lambda} \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ を任意に与える。 $x\in \operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を示すため、命題 4.5を用いよう。 $x$ の $X$ における開近傍 $V$ を任意に与える。注意 8.11(における直積空間の開基の記述)により、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ と $X_{\lambda_i}$ の開集合 $U_i$ が存在して、 $x\in\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset V$ となる。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、 $U_i$ は $x_{\lambda_i}$ の開近傍であり、 $x_{\lambda_i}\in \operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}} A_{\lambda_i}$ であるから、命題 4.5により $U_i\cap A_{\lambda_i}\neq\emptyset$ である。よって、点 $a_{\lambda_i}\in U_i\cap A_{\lambda_i}$ を選ぶことができる。また、 $\lambda\in\Lambda\setminus\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}$ のとき、 $x_\lambda\in \operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda$ なので、とくに $\operatorname{Cl}_{X_\lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ であり、よって $A_\lambda\neq\emptyset$ なので点 $a_\lambda\in A_\lambda$ を選ぶことができる。こうして、 $a=(a_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が得られるが、つくり方から $a\in \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\cap \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ である。よって、 $a\in V\cap \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ なので $V\cap \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ である。よって、命題 4.5により $x\in\operatorname{Cl}_X \prod_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ である。 $\square$

最後に、直和位相について述べよう。まず、直和集合について復習する。集合の(添字づけられた)族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、直和集合 $\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とは、次で定義される集合である。 $$ \coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} (X_\lambda\times\{\lambda\}) $$ この定義は、「$X_\lambda$ たちが互いに交わっていたとしても、交わりがないと思って和集合をとる」ということを意図している。上の定義での $X_\lambda\times\{\lambda\}$ は $X_\lambda$ のいわばコピーである。 $\lambda\neq\mu$ のとき $X_\lambda\times\{\lambda\}$ と $X_\mu\times\{\mu\}$ は交わらないことに注意すれば、 $X_\lambda$ のコピーたちは互いに交わらないから、あとはその和集合をとれば直和集合の定義が完成する。いま $X_\lambda$ を $X_\lambda\times\{\lambda\}$ に置き換えたのは、交わりをなくすための一つの便利な方法であるに過ぎず、この方法を使う必然性は特にない。直和集合の定義で重要なのは、 $X_\lambda$ のコピーと考えられる集合たちの、互いに交わりのない和集合になっていることである。

直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ に対しては写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ が $$ i_\lambda (x)=(x,\lambda) $$ により定義される。この $i_\lambda$ を包含写像(inclusion)と呼ぶ。これは厳密にはいままでの意味での包含写像とは異なる概念だが、混乱のおそれはないであろう。

さて、この状況で、 $X_\lambda$ が位相空間になっている場合を考える。このとき、直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ に適切な方法で位相を定めたい。例によって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して包含写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ が連続となるという条件を課すが、この条件は $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{ すべての }\lambda\in\Lambda\text{ に対して }i_\lambda^{-1}(U)\text{ が }X_\lambda\text{ の開集合 }\} $$ という $X$ の部分集合族を考えたとき、 $X$ の開集合がすべて $\mathcal{O}$ に属していることと同値である。そこで、 $\mathcal{O}$ を $X$ の開集合の全体として $X$ に位相を定めることができれば、 $X$ は $i_\lambda$ をすべて連続とするような最も細かい位相をもつことになる。次の命題で見るように、 $\mathcal{O}$ は実際に開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たし、これが直和位相と呼ばれるものである。

命題 8.20 (集合族 $\mathcal{O}$ は開集合系の公理を満たす)

位相空間の族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を考えるとき、上で定めた $X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ は $X$ 上の位相を定める。すなわち、 $\mathcal{O}$ は開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たす。

証明

(O1) を示す。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(\emptyset)=\emptyset$ および $i_\lambda^{-1}(X)=X_\lambda$ は $X_\lambda$ の開集合なので、 $\emptyset, X\in\mathcal{O}$ である。

(O2) を示すため、 $U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。すると、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(U_1),$ $i_\lambda^{-1}(U_2)$ は $X_\lambda$ の開集合であるから、 $i_\lambda^{-1}(U_1\cap U_2)=i_\lambda^{-1}(U_1)\cap i_\lambda^{-1}(U_2)$ も $X_\lambda$ の開集合である。よって、 $U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ である。

(O3) を示すため、 $\{U_j\,|\,j\in I\}\subset\mathcal{O}$ とする。すると、各 $\lambda\in\Lambda$ および $j\in I$ に対して $i_\lambda^{-1}(U_j)$ は $X_\lambda$ の開集合である。よって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(\bigcup_{j\in I} U_j)=\bigcup_{j\in I}i_\lambda^{-1}(U_j)$ は $X_\lambda$ の開集合であるので、 $\bigcup_{j\in I} U_j\in\mathcal{O}$ である。 $\square$

定義 8.21 (直和位相)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とし、 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ をその直和集合として、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ を包含写像とする。このとき、 $X$ の部分集合族 $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{ すべての }\lambda\in\Lambda\text{ に対して }i_\lambda^{-1}(U)\text{ が }X_\lambda\text{ の開集合 }\} $$ は命題 8.20により $X$ 上の位相を定める。この位相 $\mathcal{O}$ を $X$ 上の直和位相といい、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ を直和空間(topological sum)という。

直観的には、位相空間 $X_\lambda$ たちを「互いに交わらないように並べた」ものが直和空間 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ である。上の定義は、直和空間 $X$ の開集合とは、元々の各空間 $X_\lambda$ の開集合を並べたものであるということを述べている。いままでの議論から、次が成り立つ。

命題 8.22 (直和位相と包含写像)

$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を位相空間の族とする。直和集合 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ 上の直和位相 $\mathcal{O}$ は、すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して包含写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ を連続とするような $X$ 上の位相の中で、最も細かい位相である。つまり、次の二つが成り立つ。

  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ は $X_\lambda$ から $(X, \mathcal{O})$ への連続写像となる。
  • すべての $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda$ が $X_\lambda$ から $(X, \mathcal{O}')$ への連続写像となるような $X$ 上の任意の位相 $\mathcal{O}'$ に対して、 $\mathcal{O}'\subset\mathcal{O}$ である。 $\square$

次の命題で分かるように、開集合の時と同様に、直和空間の閉集合も各空間の閉集合を並べたものになる。

命題 8.23 (直和空間の閉集合)

直和空間 $X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ の部分集合 $F$ に対して、次は同値である。

  • (1) $F$ は $X$ の閉集合である。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $i_\lambda^{-1}(F)$ は $X_\lambda$ の閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $F$ を $X$ の閉集合とする。このとき $X\setminus F$ は $X$ の開集合なので、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda\setminus i_\lambda^{-1}(F)=i_\lambda^{-1}(X\setminus F)$ は $X_\lambda$ の開集合であり、よって $i_\lambda^{-1}(F)$ は $X_\lambda$ の閉集合である。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(F)$ が $X_\lambda$ の閉集合であるとする。このとき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $i_\lambda^{-1}(X\setminus F)=X_\lambda\setminus i_\lambda^{-1}(F)$ は $X_\lambda$ の開集合であるから、 $X\setminus F$ は $X$ の開集合である。よって、 $F$ は $X$ の閉集合である。 $\square$

直和空間についての次の性質は基本的である。

命題 8.24 (直和空間の普遍性)

$X=\coprod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ を直和空間とし、 $Y$ を位相空間とする。 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X\,(\lambda\in\Lambda)$ を包含写像とするとき、写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $f\circ i_\lambda \colon X_\lambda \to Y$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、包含写像 $i_\lambda\colon X_\lambda\to X$ が連続であることと、連続写像の合成が連続であることから分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $f\colon X\to Y$ に対して (2) を仮定し、 $V$ を $Y$ の開集合とする。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $$ i_\lambda^{-1}(f^{-1}(V))=(f\circ i_\lambda)^{-1}(V) $$ であるが、いま仮定している (2) により $(f\circ i_\lambda)^{-1}(V)$ は $X_\lambda$ の開集合である。よって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 $i_\lambda^{-1}(f^{-1}(V))$ は $X_\lambda$ の開集合である。したがって、 $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。これで、 $f$ の連続性が示された。 $\square$

注意 8.25 (直和空間からの連続写像のつくり方)

命題 8.24は実際には、次のような形で使われることが多い。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して連続写像 $f_\lambda\colon X_\lambda\to Y$ が与えられているとする。このとき写像 $f\colon X\to Y$ が $$ f(x, \lambda)=f_\lambda(x)\quad(\lambda\in\Lambda,\,x\in X_\lambda) $$ により定義されるが、このとき $f\colon X\to Y$ は連続となる。実際、定義により各 $\lambda$ に対して $f\circ i_\lambda=f_\lambda$ であり、これは連続であるから、命題 8.24の(2) $\Rightarrow$ (1)により $f$ は連続となる。 $\square$

9. コンパクト性

コンパクト性は、位相空間がある意味で「有限な大きさをもつ」ことを表した概念であり、位相空間論でも最も重要な位置を占めるものである。例えば、Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分空間に関しては、コンパクトであることと有界な閉集合であることが同値になることが示される。

コンパクト性の定義を述べるため、まず、位相空間の被覆の定義を述べる。

定義 9.1 (被覆)

$X$ を位相空間とする。 $X$ の部分集合族 $\mathcal{A}$ が $X$ の被覆(cover)であるとは、 $\mathcal{A}$ の要素すべての和集合が $X$ に一致すること、すなわち$X=\bigcup_{A\in\mathcal{A}} A$ が成り立つことをいう。被覆 $\mathcal{A}$ の要素がすべて $X$ の開集合であるとき、 $\mathcal{A}$ を $X$ の開被覆(open cover)であるといい、被覆 $\mathcal{A}$ の要素がすべて $X$ の閉集合であるとき、 $\mathcal{A}$ を $X$ の閉被覆(closed cover)であるという。被覆 $\mathcal{A}$ の部分集合 $\mathcal{B}$ が再び $X$ の被覆であるとき、 $\mathcal{B}$ を $\mathcal{A}$ の部分被覆(subcover)という。 $\square$

上で述べた中で、特に重要なものが開被覆の概念である。改めて述べれば、位相空間 $X$ の開被覆とは、 $X$ の開集合からなる族 $\mathcal{U}$ であって、 $X=\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ となるようなもののことである。これを用いて、位相空間のコンパクト性は次のように定義される。

定義 9.2 (コンパクト性)

位相空間 $X$ がコンパクト(compact)であるとは、 $X$ の任意の開被覆に対して、その有限な部分被覆が存在することをいう。 $\square$

すなわち、位相空間 $X$ がコンパクトであるとは、開被覆 $\mathcal{U}$ が任意に与えられたとき、 $\mathcal{U}$ の有限個の要素 $U_1, \ldots, U_n$ を取り出し $\{U_1,\ldots, U_n\}$ が $X$ の被覆であるようにできること、つまり $X=\bigcup_{i=1}^n U_i$ となるようにできることをいう。なお、コンパクト性は、開集合の言葉で書かれていることから分かるように位相的性質(注意 5.23)である。つまり、 $X,$ $Y$ が同相な位相空間であって $X$ がコンパクトならば $Y$ もコンパクトとなる。コンパクトな位相空間をコンパクト空間(compact space)という。(以下では、位相空間を単に空間(space)と呼ぶこともある。例えば、第二可算な空間、距離化可能空間、などのように言う。)

例 9.3 (有限な位相空間はコンパクト)

位相空間 $X$ が集合として有限集合であれば、 $X$ はコンパクトである。実際、このときある $n$ に対して $X=\{x_1,\ldots, x_n\}$ と表すことができる。 $X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与えると、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $U_i\in\mathcal{U}$ を $x_i\in U_i$ となるように取れる。このとき、 $\{U_1,\ldots, U_n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。したがって、 $X$ はコンパクトである。 $\square$

位相空間の部分集合には、断りのない限り相対位相を考えるのであった。このことから、位相空間の部分集合についても、自動的にコンパクト性の概念が定義されていることになる。すなわち、位相空間 $X$ の部分集合 $K$ がコンパクトであるとは、 $K$ が $X$ からの相対位相についてコンパクトになることである。このような状況では、 $K$ は $X$ のコンパクト集合(compact set)である、という言い方をすることもある。

例 9.4 (補有限位相はコンパクト)

$X$ を集合とし、これを補有限位相(例 1.8)により位相空間とみなす。このとき、$X$ がコンパクトとなることを示そう。 そこで、 $X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示したい。空集合 $\emptyset$ が $\mathcal{U}$ に属している場合は、$\mathcal{U}\setminus\{\emptyset}$ ももちろん $X$ の開被覆となるから、はじめから $\emptyset\notin\mathcal{U}$ としてよい。このとき、補有限位相の定義より、 $$ \mathcal{U}=\{X\setminus F_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\} $$ と表すことができる。ただし、 $F_\lambda$ は $X$ の有限部分集合である。$\Lambda=\emptyset$ の場合は $\mathcal{U}$ が $X$ の被覆であることにより $X=\emptyset$ なので、$\emptyset (\subset\mathcal{U})$ が $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。よって、 $\Lambda\neq\emptyset$ としてよいので、一つ $\lambda\in\Lambda$ を取り固定する。このとき、 $F_\lambda=\{x_1,\ldots, x_n\}$ と表すことができる。 $\mathcal{U}$ は $X$ の被覆なので、各 $i=1,\ldots, n$ に対して $x_i\in X\setminus F_{\lambda_i}$ となるような $\lambda_i\in\Lambda$ が取れる。そこで、 $$ \mathcal{U}'=\{X\setminus F_\lambda\}\cup\{X\setminus F_{\lambda_i}\,|\,i=1,\ldots,n\} $$ とおけば、 $\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。これで $X$ がコンパクトとなることが示された。$\square$

定義 9.5 (部分集合の被覆)

$X$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。 $\mathcal{U}$ が $A$ の $X$ における開被覆であるとは、 $\mathcal{U}$ の要素がすべて $X$ の開集合であって、かつ $A\subset\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ となることをいう。また、 $\mathcal{U}$ が $A$ の $X$ における開被覆であるとき、 $\mathcal{V}$ が $\mathcal{U}$ の部分被覆であるとは、 $\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$ であって、かつ $\mathcal{V}$ が $A$ の $X$ における開被覆であることをいう。 $\square$

この用語は少々紛らわしいので注意する。位相空間 $X$ の部分集合 $A$ に対して、「$A$ の開被覆」と言った場合、その要素は部分空間 $A$ の開集合であるが、「$A$ の $X$ における開被覆」と言った場合は、その要素は $X$ の開集合である。

命題 9.6 (部分集合のコンパクト性の特徴づけ)

$X$ を位相空間とし、 $A$ を $X$ の部分集合とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $A$ は($X$ からの相対位相について)コンパクトである。
  • (2) $A$ の $X$ における任意の開被覆は、有限な部分被覆をもつ。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) $A$ がコンパクトであるとする。(2) を示すため、 $\mathcal{U}$ を $A$ の $X$ における開被覆とする。このとき、 $\mathcal{V}=\{U\cap A\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ とおけば、 $\mathcal{V}$ は $A$ の開被覆である。よって、 $A$ のコンパクト性から $\mathcal{V}$ は有限部分被覆 $\mathcal{V}'=\{V_1,\ldots, V_n\}$ をもつ。 $\mathcal{V}'\subset\mathcal{V}$ だから、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $V_i$ はある $U_i\in\mathcal{U}$ を用いて $V_i=U_i\cap A$ と表される。いま $(\bigcup_{i=1}^n U_i)\cap A=\bigcup_{i=1}^n (U_i\cap A)=\bigcup_{i=1}^n V_i=A$ なので、 $A\subset \bigcup_{i=1}^n U_i$ である。よって、 $\{U_1,\ldots,U_n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆であるから、これで (2) が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) $X$ の部分集合 $A$ に対して (2) が成り立つとする。 $A$ がコンパクトであることをいうため、 $A$ の開被覆 $\mathcal{V}$ を任意に与える。 $\mathcal{V}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と添字づければ、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $V_\lambda$ は部分空間 $A$ の開集合だから、 $X$ の開集合 $U_\lambda$ を選んで $U_\lambda\cap A=V_\lambda$ とできる。このとき、 $A\subset\bigcup_{\lambda\in\Lambda} U_\lambda$ なので $\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ は $A$ の $X$ における開被覆である。よって、(2) により、 $\mathcal{U}$ の有限個の要素 $U_{\lambda_1},\ldots, U_{\lambda_n}$ で $A\subset \bigcup_{i=1}^n U_{\lambda_i}$ となるものが存在する。このとき $\mathcal{V}'=\{U_{\lambda_i}\cap A\,|\,i=1,\ldots,n\}=\{V_{\lambda_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ とおくと、 $\mathcal{V}'$ は $\mathcal{V}$ の有限な部分被覆である。 $\square$

命題 9.7 (コンパクト集合の有限和はコンパクト)

$X$ を位相空間とし、$K_1,\ldots, K_n\subset X$ がそれぞれコンパクトであるとする。このとき、$\bigcup_{i=1}^n K_i$ はコンパクトである。

証明

$n=1$ の場合は明らかである。$n=2$ の場合を示せば、あとは帰納法で一般の場合が示されるから $n=2$ としてよい。命題 9.6を用いて、$K_1\cup K_2$ がコンパクトとなることを示そう。$\mathcal{U}$ を $K_1\cup K_2$ の $X$ における開被覆とする。すると、$\mathcal{U}$ は $K_1$ の $X$ における開被覆だから、命題 9.6により有限個の $U_1,\ldots, U_k\in\mathcal{U}$ が存在して、$K_1\subset \bigcup_{i=1}^k U_i$ となる。同様に、有限個の $V_1,\ldots, V_l\in\mathcal{U}$ が存在して、$K_2\subset \bigcup_{j=1}^l V_j$ となる。このとき、$K_1\cup K_2\subset \bigcup_{i=1}^k U_i\cup\bigcup_{j=1}^l V_j$ である。よって、命題 9.6により、 $K_1\cup K_2$ はコンパクトである。$\square$

命題 9.8 (コンパクト空間の閉集合はコンパクト)

$X$ をコンパクト空間とし、 $F$ を $X$ の閉集合とする。このとき、 $F$ はコンパクトである。

証明

$F$ をコンパクト空間 $X$ の閉集合とする。命題 9.6を用いて、 $F$ がコンパクトとなることを示そう。 $\mathcal{U}$ を $F$ の $X$ における開被覆とする。このとき、 $\mathcal{V}=\mathcal{U}\cup\{X\setminus F\}$ は $X$ の開被覆である。よって、 $X$ のコンパクト性により、 $\mathcal{V}$ の有限部分被覆 $\mathcal{V}'$ が存在する。 $\mathcal{U}'=\mathcal{V}'\setminus\{X\setminus F\}$ とおけば、 $\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆である。よって 命題 9.6により、 $F$ はコンパクトである。 $\square$

命題 9.9 (コンパクト空間の連続像はコンパクト)

$X$ をコンパクト空間、 $Y$ を位相空間とし、 $f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、 $f(X)$ はコンパクトである。

証明

$f\colon X\to Y$ をコンパクト空間 $X$ からの連続写像とする。命題 9.9を用いて、 $f(X)$ がコンパクトとなることを示そう。 $\mathcal{U}=\{U_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $f(X)$ の $Y$ における開被覆とする。すると、 $\{f^{-1}(U_\lambda)\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ は $X$ の開被覆となるから、その有限な部分被覆 $\{f^{-1}(U_{\lambda_1}),\ldots, f^{-1}(U_{\lambda_n})\}$ が存在する。このとき、すぐに確かめられるように、 $\{U_{\lambda_1},\ldots, U_{\lambda_n}\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆を与えている。よって、命題 9.9により $f(X)$ はコンパクトである。 $\square$

コンパクト性は開被覆の言葉で定義されたが、場合によっては補集合をとって閉集合によって定式化するのが便利である。それを述べるための用語を定義する。

定義 9.10 (有限交叉的な集合族)

$X$ を位相空間とし、 $\mathcal{A}$ をその部分集合族とする。 $\mathcal{A}$ が有限交叉的である、あるいは有限交叉性(finite intersection property)をもつとは、任意の有限部分集合 $\mathcal{A}'\subset\mathcal{A}$ に対して $\bigcap_{A\in\mathcal{A}'} A\neq\emptyset$ となることをいう。 $\square$

命題 9.11 (コンパクト性と有限交叉的な閉集合族)

位相空間 $X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $X$ の閉集合からなる任意の有限交叉的な族 $\mathcal{F}$ に対して、 $\bigcap_{F\in\mathcal{F}}F\neq\emptyset$ である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。 $X$ をコンパクト空間とし、 $\mathcal{F}$ を $X$ の閉集合からなる有限交叉的な族とする。 $\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ であったとして矛盾を導こう。このとき $\bigcup_{F\in\mathcal{F}} (X\setminus F)=X\setminus \bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=X\setminus\emptyset=X$ であるから、 $\mathcal{U}=\{X\setminus F\,|\,F\in\mathcal{F}\}$ は $X$ の開被覆である。 $X$ はコンパクトであるから、 $\mathcal{U}$ は有限な部分被覆 $\mathcal{U}'$ をもつが、 $\mathcal{U}'$ は $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ を用いて $\mathcal{U}'=\{X\setminus F_i\,|\,i=1,\ldots,n\}$ という形に表される。すると $X\setminus \bigcap_{i=1}^n F_i=\bigcup_{i=1}^n (X\setminus F_i)=X$ であるから、 $\bigcap_{i=1}^n F_i=\emptyset$ である。これは、 $\mathcal{F}$ が有限交叉的であることに反する。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定し、 $X$ がコンパクトでないとして矛盾を導こう。このとき開被覆 $\mathcal{U}$ であって、有限な部分被覆をもたないようなものが存在する。 $\mathcal{F}=\{X\setminus U\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ は閉集合からなる族である。いま、有限個の $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}$ を任意に与えると、ある $U_i\in\mathcal{U}$ に対して $F_i=X\setminus U_i\,(i=1,\ldots,n)$ となるが、このとき $\mathcal{U}$ の取り方から $\bigcup_{i=1}^n U_n\neq X$ なので、 $\bigcap_{i=1}^n F_i=\bigcap_{i=1}^n (X\setminus U_i)=X\setminus \bigcup_{i=1}^n U_i\neq\emptyset$ となる。したがって、 $\mathcal{F}$ は有限交叉的な族であるから、(2) により、 $\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ である。すると、 $X\setminus \bigcup_{U\in\mathcal{U}} U=\bigcap_{U\in\mathcal{U}} (X\setminus U)=\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F\neq\emptyset$ であるから、 $\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U\neq X$ であり、これは $\mathcal{U}$ が $X$ の被覆であることに反する。 $\square$

位相空間の開基が与えられているとき、コンパクト性を判定するには、開基の要素による被覆だけを考慮すれば十分である。

命題 9.12 (開基と部分集合のコンパクト性)

$X$ を位相空間とし、 $A$ をその部分集合とする。 $\mathcal{B}$ を $X$ の開基とするとき、以下は同値である。

  • (1) $A$ はコンパクトである。
  • (2) $\mathcal{V}\subset\mathcal{B}$ であるような $A$ の $X$ における任意の開被覆 $\mathcal{V}$ は有限な部分被覆をもつ。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は命題 9.6から明らかである。(2) $\Rightarrow$ (1) を示そう。(2) を仮定し、 $A$ の $X$ における開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。各 $x\in A$ に対して、 $x\in U_x$ であるような $U_x\in\mathcal{U}$ を選び、さらに $x\in B_x\subset U_x$ となるような $B_x\in\mathcal{B}$ を選ぶ。このとき、 $\mathcal{V}=\{B_x\,|\,x\in X\}$ は $A$ の $X$ における開被覆だから、 (2) により有限な部分被覆 $\{B_{x_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ をもつ。このとき、 $\{U_{x_i}\,|\,i=1,\ldots,n\}$ は $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆となる。したがって、命題 9.6により、 $A$ はコンパクトである。 $\square$

上で $A=X$ の場合を考えると、次を得る。

命題 9.13 (開基とコンパクト性)

$\mathcal{B}$ を位相空間 $X$ の開基とするとき、以下は同値である。

  • (1) $X$ はコンパクトである。
  • (2) $\mathcal{V}\subset\mathcal{B}$ であるような $X$ の任意の開被覆 $\mathcal{V}$ は有限な部分被覆をもつ。 $\square$

実数直線において有界閉区間がコンパクトになることを示そう。この事実はコンパクト空間の様々な例の基盤をなしているものであり、証明にもそれなりの手数がかかる。そこで、いままでの「命題」にかえて「定理」の題名をつけることにしよう。

定理 9.14 (有界閉区間はコンパクト)

$a,$ $b$ を $a<b$ であるような実数とする。このとき、有界閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ はコンパクトである。

証明

命題 9.6を用いて証明しよう。 そこで、 $[a, b]$ の $\mathbb{R}$ における開被覆 $\mathcal{V}$ を任意に与える。閉区間 $[a, x]$ が $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われているような $x\in [a,b]$ の全体を $S$ としよう。すなわち、 $$ S=\left\{x\in [a, b]\,\bigg|\, \mathcal{V}\text{ の有限部分集合 }\mathcal{V}'\text{ で }[a, x]\subset \bigcup_{V\in\mathcal{V}'} V\text{ となるものが存在する}\right\} $$ とする。ただし、ここでは $[a,a]=\{a\}$ と定義する。このとき、 $b\in S$ であることを示せばよい。

$a\in S$ であるから、 $S\neq\emptyset$ である。そこで、 $x_0=\sup S$ とすると、 $a\leq x_0\leq b$ である。 $a\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、 $a<a'\leq b$ となる $a'$ で $[a, a']\subset V$ となるものが存在する。このとき $[a, a']$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているから、 $a'\in S$ となり、よって $x_0=\sup S\geq a'>a$ である。したがって、 $a<x_0\leq b$ である。

次に、 $x_0=b$ であることを示そう。そうでないとすると、 $a<x_0<b$ である。 $x_0\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、 $a<a'<x_0<b'<b$ かつ $[a', b']\subset V$ となるような $a', b'$ が存在する。このとき、 $x_0$ は $S$ の上界だが $a'$ は $S$ の上界ではないので、ある $a'<a^{\prime\prime}\leq x_0$ となる $a^{\prime\prime}$ が存在して、 $[a, a^{\prime\prime}]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。ところが、 $[a', b']$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているので、 $[a, a^{\prime\prime}]\cup[a', b']=[a, b']$ も $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。したがって、 $b'\in S$ となる。よって、 $x_0<b'\leq \sup S=x_0$ となり、矛盾する。これで、 $x_0=b$ が示された。

最後に、 $b\in S$ を示そう。これは、ほぼ前段落の議論の繰り返しである。 $b\in V$ となるような $V\in\mathcal{V}$ を選ぶと、 $a<b'<b(=x_0)$ となる $b'$ で $[b', b]\subset V$ となるものが存在する。このとき $b'$ は $S$ の上界ではなく $b$ は $S$ の上界だから、ある $b'<b^{\prime\prime}\leq b$ となる $b^{\prime\prime}$ が存在して、 $[a, b^{\prime\prime}]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。ところが、 $[b', b]$ は $\mathcal{V}$ の一個の要素 $V$ で覆われているので、 $[a, b^{\prime\prime}]\cup[b', b]=[a, b]$ は $\mathcal{V}$ の有限個の要素で覆われる。したがって、 $b\in S$ である。 $\square$

二つのコンパクト空間の直積がコンパクトになることを示そう。

定理 9.15 (二個のコンパクト空間の直積はコンパクト)

$X,$ $Y$ がコンパクト空間であるとき、直積空間 $X\times Y$ はコンパクトである。

証明

$X,$ $Y$ をコンパクト空間とする。 $X\times Y$ は開基として $$ \mathcal{B}=\{U\times V\,|\,U\text{ は }X\text{ の開集合, }V\text{ は }Y\text{ の開集合 }\} $$ をもつのであった。したがって、命題 9.13によれば、 $X\times Y$ のコンパクト性を示すには、 $\mathcal{B}$ の要素からなる任意の開被覆が有限な部分被覆をもつと言えれば十分である。そこで、 $\mathcal{U}$ を $$ \mathcal{U}=\{U_\lambda\times V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\} $$ という形の $X\times Y$ の開被覆とする。ここで、 $U_\lambda,$ $V_\lambda$ はそれぞれ $X,$ $Y$ の開集合とする。このとき、 $\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示せばよい。

さて、 $x\in X$ を固定すると、 $\{x\}\times Y$ は $Y$ と同相なのでコンパクトであり、 $\mathcal{U}$ は $\{x\}\times Y$ の $X\times Y$ における開被覆である。よって、命題 9.6により、有限個の $\lambda_{x,1},\ldots,\lambda_{x,n(x)}\in\Lambda$ を選んで $$ \{x\}\times Y\subset \bigcup_{i=1}^{n(x)} (U_{\lambda_{x,i}}\times V_{\lambda_{x,i}}) $$ とできる。このとき、すべての $i\in\{1,\ldots,n(x)\}$ に対して $(U_{\lambda_{x,i}}\times V_{\lambda_{x,i}})\cap(\{x\}\times Y)\neq\emptyset$ であるとしてよい。すると、 $U_x=\bigcap_{i=1}^{n(x)} U_{\lambda_{x,i}}$ とおくとき $U_x$ は $x$ の開近傍となる。 $\{U_x\,|\,x\in X\}$ はコンパクト空間 $X$ の開被覆だから、有限個の $x_1,\ldots, x_n\in X$ が存在して、 $X=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ となる。このとき $$ \mathcal{U}'=\{U_{\lambda_{x_i, j}}\times V_{\lambda_{x_i, j}}\,|\,i\in\{1,\ldots, n\}, j\in\{1,\ldots, n(x_i)\}\} $$ とおけば、 $\mathcal{U}'$ が $\mathcal{U}$ の有限な部分被覆であることを示そう。定義から、 $\mathcal{U}'$ が $\mathcal{U}$ の有限部分集合であることは明らかである。したがって、 $\mathcal{U}'$ が $X\times Y$ の被覆であることを示せばよい。そこで、 $(x,y)\in X\times Y$ とする。 $X=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ なので、ある $i\in\{1,\ldots, n\}$ が存在して、 $x\in U_{x_i}$ である。 $\{x_i\}\times Y\subset \bigcup_{j=1}^{n(x_i)} (U_{\lambda_{x_i,j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}})$ なので、ある $j\in\{1,\ldots, n(x_i)\}$ が存在して、 $(x_i, y)\in U_{\lambda_{x_i,j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}}$ となる。とくに、 $y\in V_{\lambda_{x_i, j}}$ である。一方、 $U_{x_i}$ の定義により $U_{x_i}\subset U_{\lambda_{x_i, j}}$ なので、 $x\in U_{\lambda_{x_i, j}}$ である。したがって、 $(x, y)\in U_{\lambda_{x_i, j}}\times V_{\lambda_{x_i,j}}\in\mathcal{U}'$ となる。これで、 $\mathcal{U}'$ は被覆となることが分かり、したがって $\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆となることが分かった。以上で、 $X\times Y$ のコンパクト性が示された。 $\square$

系 9.16 (有限個のコンパクト空間の直積はコンパクト)

$X_1,\ldots, X_n$ をコンパクト空間とするとき、直積空間 $X_1\times\cdots\times X_n$ はコンパクトである。

証明

$X_1\times\cdots\times X_{n+1}$ と $(X_1\times\cdots\times X_n)\times X_{n+1}$ は、対応 $$ (x_1,\ldots, x_{n+1})\mapsto ((x_1,\ldots, x_n), x_{n+1}) $$ により同相となる(この事実を示すには、注意 8.6を用いて、この対応とその逆対応とがそれぞれ連続写像であることを確認すればよい)。このことを用いれば、示すべき主張は定理 9.15から $n$ についての帰納法によって証明される。 $\square$

Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ が有界(bounded)であるとは、ある $R>0$ が存在して、原点 $0$ を中心とする半径 $R$ の開球体 $B(0,R)$ に $A$ が含まれることをいう。

定理 9.17 ($\mathbb{R}^n$ のコンパクト集合)

$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ に対して、次は同値である。

  • (1) $A$ はコンパクトである。
  • (2) $A$ は $\mathbb{R}^n$ の有界な閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶をとり、 $A$ が有界でないかまたは $A$ が閉集合でないならば、 $A$ がコンパクトでないことを示そう。まず、 $A$ が有界でないとする。このときは $$ \{B(0,i)\,|\,i\in\mathbb{N}\} $$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆で、有限な部分被覆をもたない。よって、 $A$ はコンパクトでない。次に、 $A$ が $\mathbb{R}^n$ の閉集合でないとする。このときは 点 $p\in\operatorname{Cl} A\setminus A$ が存在する。 $p\notin A$ であることから $$ \mathcal{U}=\{\mathbb{R}^n\setminus \overline{B}(p,1/i)\,|\,i\in\mathbb{N}\} $$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆となる。しかも、 $\mathcal{U}$ は有限な部分被覆をもたない。実際、もし $\mathcal{U}$ が有限部分被覆をもったとすれば、ある $i\in\mathbb{N}$ に対して $A\subset \mathbb{R}^n\setminus\overline{B}(p,1/i)$ である。これから $A\cap B(p,1/i)=\emptyset$ でなければならないが、これは命題 4.5により $p\in\operatorname{Cl} A$ であることに反する。よって、 $\mathcal{U}$ は $A$ の $\mathbb{R}^n$ における開被覆であって有限な部分被覆をもたないから、 $A$ はコンパクトでない。以上で、 $A$ が有界でないときも、 $A$ が閉集合でないときも、 $A$ はコンパクトでないことが示された。よって、(1) $\Rightarrow$ (2) の対偶が証明された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。 $A$ を $\mathbb{R}^n$ の有界閉集合とする。このとき、 $A$ は有界だから、ある $R>0$ が存在して、 $A\subset B(0,R)$ である。さらに、 $B(0, R)$ は閉区間 $[-R, R]$ を $n$ 個直積した $[-R, R]^n=[-R, R]\times\cdots\times [-R, R]$ に含まれるから、 $A\subset [-R, R]^n$ である。定理 9.14により、 $[-R, R]$ はコンパクトであるから、系 9.16 により $[-R, R]^n$ はコンパクトである。 $A$ は $\mathbb{R}^n$ の閉集合であるから、命題 6.8により、 $A$ は $[-R, R]^n$ の閉集合である。したがって、命題 9.8により、 $A$ はコンパクトである。 $\square$

次の命題の証明には、定理 9.15の証明と似た議論が含まれていることに注意しよう。

命題 9.18 (コンパクト空間に沿った射影は閉写像)

$X$ を位相空間、 $Y$ をコンパクト空間とする。このとき、直積空間 $X\times Y$ からの射影 $p\colon X\times Y\to X$ は閉写像である。

証明

$F\subset X\times Y$ を閉集合とする。 $p(F)$ が $X$ の閉集合であることを示そう。そのためには $X\setminus p(F)$ が開集合であることを示せばよい。そこで、 $x\in X\setminus p(F)$ を任意に与える。すると、 $(\{x\}\times Y)\cap F=p^{-1}(x)\cap F=\emptyset$ であるから、 $\{x\}\times Y\subset (X\times Y)\setminus F$ である。よって、各 $y\in Y$ に対して、 $(x,y)$ は直積空間 $X\times Y$ の開集合 $(X\times Y)\setminus F$ の要素であるから、 $X$ の開集合 $U_y$ と $Y$ の開集合 $V_y$ を $$ (x,y)\in U_y\times V_y\subset (X\times Y)\setminus F $$ となるように選べる。すると、 $\{x\}\times Y\subset\bigcup_{y\in Y} (U_y\times V_y)$ であるから、 $\{x\}\times Y$ のコンパクト性により、有限個の $y_1,\ldots, y_n\in Y$ を $$ \{x\}\times Y\subset \bigcup_{i=1}^n (U_{y_i}\times V_{y_i}) $$ となるように取れる。すると $Y=\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ である。また、 $U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i}$ とおけば、 $U$ は $x$ の開近傍である。さらに、 $$ p^{-1}(U)=U\times Y\subset \bigcup_{i=1}^n (U_{y_i}\times V_{y_i})\subset\bigcup_{y\in Y} (U_y\times V_y)\subset (X\times Y)\setminus F $$ である。よって、 $U\cap p(F)=\emptyset$ つまり $U\subset X\setminus p(F)$ であるから、 $X\setminus p(F)$ が $X$ の開集合、つまり $p(F)$ が $X$ の閉集合であることが示された。 $\square$

実は、上の命題 9.18 で述べた性質は、コンパクト性を特徴づけている。つまり、次のことが成り立つ。

定理 9.19 (閉写像によるコンパクト性の特徴づけ)

位相空間 $Y$ に対して、次の二つの条件は同値である。

  • (1) $Y$ はコンパクト空間である。
  • (2) 任意の位相空間 $X$ に対して、射影 $p\colon X\times Y\to X$ は閉写像である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は、命題 9.18そのものである。

(2) $\Rightarrow$ (1) を、対偶をとることで証明する。そこで、 $Y$ をコンパクトでない空間とする。目標は、位相空間 $X$ と閉集合 $A\subset X\times Y$ であって、射影 $p\colon X\times Y\to X$ について $p(A)$ が $X$ の閉集合でないものを構成することである。 $Y$ はコンパクトでないから、命題 9.11により、 $Y$ の閉集合からなる有限交叉的な族 $\mathcal{F}$ であって、 $\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ となるものが存在する。 $\mathcal{F}$ の要素の有限個の共通部分全体を $\mathcal{F}'$ とすると、 $\mathcal{F}'$ も有限交叉的であって、 $\bigcap_{F\in\mathcal{F}'} F=\emptyset$ である。さらに、 $\mathcal{F}'$ は有限個の共通部分について閉じている。つまり、 $F_1,\ldots, F_n\in\mathcal{F}'$ ならば $\bigcap_{i=1}^n F_i\in\mathcal{F}'$ である。そこで、 $\mathcal{F}$ を $\mathcal{F}'$ に置き換えて、はじめから、 $\mathcal{F}$ は有限個の共通部分について閉じているとしてよい。

$\mathcal{F}$ に属していない点 $\infty$ を考え、集合 $X=\mathcal{F}\cup\{\infty\}$ を考える。この $X$ に位相を導入して位相空間を作ろう。ただし、このままでは記号が少し分かりにくいので、 $F\in\mathcal{F}$ を $X$ の点と思うときは $p_F$ と書くことにしよう。この記号によれば $X=\{p_F\,|\,F\in\mathcal{F}\}\cup\{\infty\}$ である。各 $F\in\mathcal{F}$ に対して、 $X$ の部分集合 $U_F$ を $$ U_F=\{p_{F'}\,|\,F'\in\mathcal{F},\,F'\subset F\}\cup\{\infty\} $$ で定義する。その上で、 $X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ を $$ \mathcal{B}=\{\{p_F\}\,|\,F\in\mathcal{F}\}\cup\{U_F\,|\,F\in\mathcal{F}\} $$ で定義する。いま、 $\mathcal{F}$ は有限個の共通部分について閉じていたから、 $F, F'\in\mathcal{F}$ に対して $U_{F\cap F'}$ が定義され、しかも簡単に確かめられるように $U_F\cap U_{F'}=U_{F\cap F'}$ となる。よって、 $\mathcal{B}$ は命題 3.9の条件(OB)を満たすことが分かる。そこで、 $\mathcal{B}$ を開基として生成される位相を $X$ に与える(命題 3.10)。このとき、直積空間 $X\times Y$ の次のような部分集合 $A$ を考える。 $$ A=\{(p_F, y)\,|\,F\in\mathcal{F},\, y\in F\} $$ このとき、 $A$ が $X\times Y$ の閉集合であることを示そう。そのためには $(X\times Y)\setminus A$ が開集合であるといえればよい。そこで $u\in (X\times Y)\setminus A$ を任意に与える。このとき、(i) $u=(p_F, y)$ の形であるか、(ii) $u=(\infty, y)$ の形であるかで場合分けしよう。

(i) の場合、 $y\notin F$ なので、 $V=\{p_F\}\times (X\setminus F)$ とおけば $V$ は $u$ の開近傍で、 $V\subset (X\times Y)\setminus A$ を満たす。

(ii) の場合、 $\bigcap_{F\in\mathcal{F}} F=\emptyset$ であったことから、 $F\in\mathcal{F}$ であって $y\notin F$ となるものが存在する。そこで、 $V=U_F\times (X\setminus F)$ とおけば $V$ は $u$ の開近傍である。さらに、 $V\subset (X\times Y)\setminus A$ となることもすぐに確かめられる。

以上により、いずれにしても $u$ の開近傍 $V$ で $V\subset (X\times Y)\setminus A$ となるものが存在することが分かったので、 $(X\times Y)\setminus A$ は $X\times Y$ の開集合、つまり $A$ は $X\times Y$ の閉集合であると分かった。

$\mathcal{F}$ は有限交叉的であるから、 $\emptyset\notin\mathcal{F}$ である。このことから、射影 $p\colon X\times Y\to X$ について $p(A)=\{p_F\,|\,F\in\mathcal{F}\}=X\setminus\{\infty\}$ である。あとは、 $X\setminus\{\infty\}$ が $X$ の閉集合でないこと、つまり $\{\infty\}$ が $X$ の開集合でないことを示せば証明が終わる。もし、 $\{\infty\}$ が $X$ の開集合なら、ある $F\in\mathcal{F}$ が存在して、 $\{\infty\}=U_F$ となる。しかし、 $p_F\in U_F\setminus\{\infty\}$ であるからこれは成り立ち得ない。よって、$\{\infty\}$ は $X$ の開集合ではなく、これで証明が終わった。 $\square$

注意 9.21 (集合に新しい点を付加できること)

上の議論では、 $\mathcal{F}$ に属していない点 $\infty$ を新たに付け加えるという操作を行ったが、このような $\infty$ が実際に存在することを証明しておこう。一般に集合 $S$ が与えられたときに、ある集合 $u$ であって $u\notin S$ となるものが存在することを示せばよい。いま、 $S$ の冪集合 $\mathcal{P}(S)$ を考えると、集合論でよく知られているように $\mathcal{P}(S)$ は $S$ よりも濃度が大きいから、 $\mathcal{P}(S)\not\subset S$ である。そこで、 $\mathcal{P}(S)\setminus S$ から一つ要素を取ってそれを $u$ とすればよい。 $\square$

10. 連結性

11. 分離公理 (1)

12. 分離公理 (2)

13. 距離空間の位相 (1)

14. 距離空間の位相 (2)

15. 局所コンパクト空間

16. Tychonoff の定理



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Last-modified: 2020-10-22 (木) 17:08:08 (5d)