多重ゼータ値

$\gdef\bk{\boldsymbol{k}}$ $\gdef\bl{\boldsymbol{l}}$ $\gdef\be{\boldsymbol{e}}$ $\gdef\bf{\boldsymbol{f}}$ $\gdef\II{\mathcal{I}}$ $\gdef\sh{\text{ш}}$ $\gdef\kak#1{\left(#1\right)}$ $\gdef\ue{\uparrow}$ 多重ゼータ値 (multiple zeta value, MZV) とは、多重級数

$$\zeta(k_1,\ldots,k_r)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}$$

によって定義される実数 $\zeta(k_1,\ldots,k_r)$ のことである。解析的整数論に由来する概念でありながら、量子群や結び目理論、数論幾何との関係など、分野の垣根を超えた奥深い対象として、定義されてからわずか30年の間に膨大な数の研究が積み重ねられている。

多重ゼータ値の定義と主予想

インデックスに関する記号

正整数 $N$ に対し

$$ J_N=\underbrace{\mathbb{Z}_{\ge 0}\times\cdots\times\mathbb{Z}_{\ge 0}}_N,\quad I_N=\underbrace{\mathbb{Z}_{\ge 1}\times\cdots\times\mathbb{Z}_{\ge 1}}_N, $$ $$ I'_N=\{(k_1,\dots,k_N)\in I_N \mid k_N\geq 2\} $$ とおき、 $J_0=I_0=I'_0\coloneqq\{\varnothing\}$ と定めておく。 さらに $$\mathcal{J}_0=\bigsqcup_{N=0}^{\infty}J_N\supset \mathcal{I}_0=\bigsqcup_{N=0}^{\infty}I_N\supset \mathcal{I}_0'=\bigsqcup_{N=0}^{\infty}I'_N, $$ $$ \mathcal{J}=\bigsqcup_{N=1}^{\infty}J_N\supset\mathcal{I}=\bigsqcup_{N=1}^{\infty}I_N\supset \mathcal{I}'=\bigsqcup_{N=1}^{\infty}I'_N$$ とおく。 $\be=(e_1,\ldots,e_r)\in J_r$ ($r\ge 0$) に対し、成分の個数 $r$ を 深さ (depth) といい、$\mathrm{dep}(\bk)$ と書く。また、成分の総和 $\sum_{i=1}^r e_i$ を 重さ (weight) といい、$\mathrm{wt}(\bk)$ と書く。

$\mathcal{I}_0$ の元を インデックス (index) といい、$I_0$ の唯一の元 $\varnothing$ を 空インデックス (empty index) という。$\mathcal{I}'$ の元を 許容インデックス (admissible index)、あるいはインデックスが 許容的である (admissible) という。

  • 許容インデックスを収束インデックスと呼ぶ流儀もある。
  • 空インデックスを許容インデックスとして扱うかどうかは文献による。後述のように、許容的という条件は多重ゼータ値の収束のために用いられるものであるが、$\zeta(\varnothing)=1$ としておくことによって簡潔に書ける概念・定理も存在するため、一概に決められることではない。

多重ゼータ値の定義

許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)\in\mathcal{I}'$ に対し

$$\zeta(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}$$

とおく。$\bk$ が許容的であることからこの級数は収束し、実数 $\zeta(\bk)$ を 多重ゼータ値 (multiple zeta values, MZV) と呼ぶ。

  • 必要ならば $\zeta(\varnothing)=1$ と定める。
  • 変数の順番を逆にした$$\zeta(k_1,\ldots,k_r)=\sum_{n_1>\cdots>n_r>0} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}$$を定義として採用する流儀もあり、この場合の収束条件は $k_1\ge 2$ である。

Zagierの次元予想

多重ゼータ値の張る空間

$2$ 以上の整数 $k$ に対し

$$\mathcal{Z}_k=\mathrm{span}_{\mathbb{Q}}\{\zeta(\bk)\mid \mathrm{wt}(\bk)=k\}$$

とおく。つまり、重さ $k$ の許容インデックスから生成される多重ゼータ値が $\mathbb{Q}$ 上張る空間が $\mathcal{Z}_k$ である。また、便宜上

$$\mathcal{Z}_0=\mathbb{Q},\qquad\mathcal{Z}_1=\{0\}$$

としておく。

Zagierの次元予想

形式的冪級数としての等式 $$\sum_{k=0}^{\infty} \left(\mathrm{dim}_{\mathbb{Q}}\mathcal{Z}_k\right)t^k=\frac{1}{1-t^2-t^3}$$ が成り立つであろう、という予想を Zagier の次元予想 という。

  • これは次のように言い換えられる: 数列 $\{d_k\}_{k\ge 0}$ を$$d_0=1,\qquad d_1=0,\qquad d_2=1, \qquad d_{k+3}=d_{k+1}+d_k\quad(k\ge 0)$$で定めると$$\mathrm{dim}_{\mathbb{Q}}\mathcal{Z}_k=d_k$$であろう。

反復積分表示

$i=0,1$ に対し $$\omega_0(t)=\frac{1}{t},\qquad\omega_1(t)=\frac{dt}{1-t}$$ とおき、$\varepsilon_1,\ldots,\varepsilon_k\in\{0,1\}$ ($k\ge 1$) に対し $$I(\varepsilon_1,\ldots,\varepsilon_k)=\int_{0<t_1<\cdots<t_k<1} \prod_{i=1}^k \omega_i(t_i)$$ とおく。このとき許容インデックス $(k_1,\ldots,k_r)\in\mathcal{I}'$ に対し $$\zeta(k_1,\ldots,k_r)=I(1,\underbrace{0,\ldots,0}_{k_1-1},\ldots,1,\underbrace{0,\ldots,0}_{k_r-1})$$ が成り立つ。この表示を多重ゼータ値の 反復積分表示 という。

多重ゼータ値の関係式

動機

整数 $k\ge 2$ に対し、重さ $k$ の許容インデックスの個数は $2^{k-2}$ 個ある。これに比べると、Zagierの次元予想における予想的な次元 $d_k$ は一般に極めて小さく、予想が正しければその分だけ多重ゼータ値の間に線型関係式が成り立つということになる。したがって、多重ゼータ値の研究における主な目的は関係式を見つけることである。

  • 具体例として、重さ $3$ の許容インデックスは $(3),~(1,2)$ の二つであるが、$d_3=1$ なので、Zagier予想が正しければ $\zeta(3)$ と $\zeta(1,2)$ は有理数倍で写り合うということになる。これはEulerによって $\zeta(3)=\zeta(1,2)$ という等式の形で示されている。

Hoffman代数による定式化

Hoffman代数 $\mathfrak{H}$

有理係数二変数非可換多項式環 $\mathbb{Q}\langle x,y\rangle$ を $\mathfrak{H}$ と書き、その部分代数 $\mathfrak{H}^1$ と $\mathfrak{H}^0$ を $$\mathfrak{H}^1=\mathbb{Q}+y\mathfrak{H}\supset\mathfrak{H}^0=\mathbb{Q}+y\mathfrak{H}x$$ で定める。$i=0,1$ に対し $\mathfrak{H}^i$ のモニックな単項式全体の集合を $W^i$ と書くと、対応 $(k_1,\ldots,k_r)\leftrightarrow yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1}$ によって $\mathcal{I}$ と $W^1$ の間に全単射が得られる。以後は単項式とインデックスの対応といえばこの対応を指すこととする。このとき許容インデックスには $W^0$ の元が対応する。

evaluation map

線型写像 $Z:\mathfrak{H}^1\to\mathbb{R}$ を $$Z(1)=1,\qquad Z(yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1})=\zeta(k_1,\ldots,k_r)$$ で定める。ここで $(k_1,\ldots,k_r)\in\mathcal{I}'$ である。

複シャッフル関係式

調和積

双線形な積 $\ast:\mathfrak{H}^1\times\mathfrak{H}^1\to\mathfrak{H}^1$ を次の規則で帰納的に定める:

  • $w\in W^1$ に対し $1\ast w=w\ast 1=w$
  • $k,l\ge 1$ と $w_1,w_2\in W^1$ に対し$$w_1z_k\ast w_2z_l=(w_1\ast w_2z_l)z_k+(w_1z_k\ast w_2)z_l+(w_1\ast w_2)z_{k+l}$$

ここで $z_k=yx^{k-1}$ と書いた。このとき、積 $\ast$ を 調和積 (harmonic product, stuffle product) と呼び、$\ast$ を積として導入した $\mathbb{Q}$ 代数 $\mathfrak{H}^i$ ($i=0,1$) を $\mathfrak{H}^i_{\ast}$ と書く。

調和関係式

$w_1,w_2\in \mathfrak{H}^0$ に対し $Z(w_1\ast w_2)=Z(w_1)Z(w_2)$ が成り立つ。この事実を 調和関係式 (harmonic relation, stuffle relation) と呼ぶ。

シャッフル積

双線形な積 $\text{ш}:\mathfrak{H}\times\mathfrak{H}\to\mathfrak{H}$ を次の規則で帰納的に定める:

  • $w\in W$ に対し $1~\text{ш}~w=w~\text{ш}~1=w$
  • $u_1,u_2\in\{x,y\}$ と $w_1,w_2\in W$ に対し$$w_1u_1~\text{ш}~w_2u_2=(w_1u_1~\text{ш}~w_2)u_2+(w_1~\text{ш}~w_2u_2)u_1$$

このとき、積 $\text{ш}$ を シャッフル積 (shuffle product) と呼び、$\text{ш}$ を積として導入した $\mathbb{Q}$ 代数 $\mathfrak{H}^i$ ($i\in\{0,1,\varnothing\}$) を $\mathfrak{H}^i_{\text{ш}}$ と書く。

シャッフル関係式

$w_1,w_2\in \mathfrak{H}^0$ に対し $Z(w_1~\text{ш}~w_2)=Z(w_1)Z(w_2)$ が成り立つ。この事実を シャッフル関係式 (shuffle relation) と呼ぶ。

有限複シャッフル関係式

調和関係式とシャッフル関係式より等式$$Z(w_1\ast w_2)=Z(w_1~\text{ш}~w_2)\qquad (w_1,w_2\in\mathfrak{H}^0)$$が得られる。これを 有限複シャッフル関係式 (finite double shuffle relation) と呼ぶ。

正規化写像

$\bullet\in\{\ast,\text{ш}\}$ に対し、同型 $\mathfrak{H}^1_{\bullet}\simeq\mathfrak{H}^0_{\bullet}[y]$ が成り立つ。これによって $\bk\in\II$ に対応する単項式 $w\in\mathfrak{H}^1$ を $\mathfrak{H}^0$ 係数の $y$ の多項式として $$w=\sum_{i=0}^h w^{\bullet}_i\bullet\underbrace{y\bullet\cdots\bullet y}_i$$ と書いたとき、正規化多項式 を $$Z^{\bullet}_{\bk}(T)=\sum_{i=0}^h Z(w^{\bullet}_i)T^i$$ で定める。また同じ設定の下で $\mathrm{reg}_{\bullet}(w)=w_0^{\bullet}$ とおく。

正規化定理

$\mathbb{R}$-線型写像 $\rho:\mathbb{R}[T]\to\mathbb{R}[T]$ を $$\rho(T^n)=n!\times\kak{\exp\kak{Tu+\sum_{n=2}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n}\zeta(n)u^n}\text{の}u^n\text{の係数}}$$ で定めると $$Z^{\sh}_{\bk}(T)=\rho(Z^{\ast}_{\bk}(T))$$ である。

正規化複シャッフル関係式

$w_1\in\mathfrak{H}^1$ と $w_2\in\mathfrak{H}^0$ に対し $$(Z\circ\mathrm{reg}_{\ast})(w_1\ast w_2-w_1~\text{ш}~w_2)=(Z\circ\mathrm{reg}_{\text{ш}})(w_1\ast w_2-w_1~\text{ш}~w_2)=0$$ が成り立ち、これを 正規化複シャッフル関係式 (regularized double shuffle relation) という。

  • Extended double shuffle relationと呼ぶこともある。

川島関係式

Hoffman双対

$\bk\in\II$ に対応する単項式を $w$ とし、文字を入れ替える ($x\mapsto y,~y\mapsto x$) 写像を $T$ としたとき $yT(y^{-1}w)$ に対応するインデックスを $\bk^{\vee}$ と書き、Hoffman双対インデックス という。

川島関数

$\bk\in\II$ に対し川島関数 $F_{\bk}(z)$ を $$F_{\bk}(z)=\sum_{n=1}^{\infty} (-1)^{n-1}\kak{\sum_{0<n_1\le\cdots\le n_s\le n} \frac{1}{n_1^{l_1}\cdots n_r^{l_s}}}\binom{z}{n}$$ と定める。ここで $\binom{z}{n}=z\cdots(z+n-1)/n!$ は二項係数であり $(l_1,\ldots,l_s)$ は $\bk$ のHoffman双対インデックスとした。

川島関係式

$\bk,\bl\in\II$ に対し $$F_{\bk\bar{\ast}\bl}(z)=F_{\bk}(z)F_{\bl}(z)$$ が成り立つ。この等式を 川島関係式 (Kawashima relation) という。

和公式

正整数 $k,~r$ に対し $I_0(k,r)=\{\bk\in\II'_r\mid\mathrm{wt}(\bk)=k\}$ とおくと $k>r$ のとき $$\sum_{\bk\in I_0(k,r)}\zeta(\bk)=\zeta(k)$$ である。この等式を 和公式 '(sum formula) という。

巡回和公式

いずれかの成分が $2$ 以上であるインデックス $\bk$ に対し $$\sum_{i=0}^{r-1}\zeta(k_{i+1},\ldots,k_r,k_1,\ldots,k_i+1)=\sum_{i=0}^{r-1}\sum_{j=0}^{k_i-2}\zeta(j+1,k_{i+1},\ldots,k_r,k_1,\ldots,k_i-j)$$ が成り立つ。この等式を 巡回和公式 (cyclic sum formula) という。

双対性

双対インデックス

任意の許容インデックス $\bk$ は正整数 $s,a_1,b_1,\ldots,a_s,b_s$ を用いた一意な表示 $$\bk=(\{1\}^{a_1-1},b_1+1,\ldots,\{1\}^{a_s-1},b_s+1)$$ を持つ。ここで $\{1\}^N$ は $1$ を $N$ 個並べたものである。このとき、この表示から定まる許容インデックス $$\bk^{\dagger}=(\{1\}^{b_s-1},a_s+1,\ldots,\{1\}^{b_1-1},a_1+1)$$ を $\bk$ の 双対インデックス (dual index) と呼ぶ。

  • これはHoffman代数によって次のように記述できる: $\mathfrak{H}^0$ の反自己同型? $\tau$ を $\tau(x)=y$ と $\tau(y)=x$ で定める。このとき $\bk\in\mathcal{I}'$ に対応する単項式を $w\in W^0$ とすると $\tau(w)$ に対応する許容インデックスが $\bk^{\dagger}$ である。

双対性

任意の許容インデックス $\bk$ に対し $$\zeta(\bk)=\zeta(\bk^{\dagger})$$ が成り立つ。この等式を 双対性 (duality) または 双対関係式 (duality relation) と呼ぶ。

  • Hoffman代数を用いれば、双対性は任意の $w\in W^0$ に対し $\tau(w)-w\in\mathrm{Ker}~Z$ であるということができる。

大野関係式

大野関係式

非負整数 $h$ と許容インデックス $\bk$ に対し $$\sum_{\substack{\be\in J_{\mathrm{dep}(\bk)}\\\mathrm{wt}(\be)=h}}\zeta(\bk+\be)=\sum_{\substack{\bf\in J_{\mathrm{dep}(\bk^{\dagger})}\\\mathrm{wt}(\bf)=h}}\zeta(\bk^{\dagger}+\bf)$$ が成り立つ。

大野型関係式

非負整数 $h$ とインデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $$\sum_{\substack{\be\in J_{\mathrm{dep}(\bk)}\\\mathrm{wt}(\be)=h}}\zeta((\bk+\be)_{\ue})=\sum_{\substack{\bf\in J_{\mathrm{dep}(\bk^{\vee})}\\\mathrm{wt}(\bf)=h}}\zeta(((\bk^{\vee}+\bf)^{\vee})_{\ue})$$ が成り立つ。ここで $(a_1,\ldots,a_r)_{\ue}=(a_1,\ldots,a_r+1)$ である。

スター版大野型関係式

非負整数 $h$ と許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し $$\sum_{\substack{\be\in J_{\mathrm{dep}(\bk)}\\\mathrm{wt}(\be)=h}}b_1(\bk;\be)\zeta^{\star}(\bk+\be)=\sum_{\substack{\bf\in J_{\mathrm{dep}(\bk^{\dagger})}\\\mathrm{wt}(\bf)=h}}\zeta((\bk^{\dagger}+\bf)^{\dagger})$$ が成り立つ。ここで $$b_1(k_1,\ldots,k_r;e_1,\ldots,e_r)=\prod_{i=1}^r\binom{k_i+e_i+\delta_{i,1}-1}{e_i}$$ とおいた。

二重大野関係式

非負整数 $d,n_0,\ldots,n_{2d}$ に対し $$\bk=(\{2\}^{n_0},1,\{2\}^{n_1},3,\ldots,\{2\}^{n_{2d-2}},1,\{2\}^{n_{2d-1}},3,\{2\}^{n_{2d}})$$ とおくと、非負整数 $h_1,h_2$ に対し $$\sum_{\substack{\be_1,\be_2\in J_{\mathrm{dep}(\bk)}\\\mathrm{wt}(\be_1)=h_1\\\mathrm{wt}(\be_2)=h_2}}\zeta(\bk+\be_1+\be_2)=\sum_{\substack{\bf_1,\bf_2\in J_{\mathrm{dep}(\bk^{\dagger})}\\\mathrm{wt}(\bf_1)=h_1\\\mathrm{wt}(\bf_2)=h_2}}\zeta(\bk^{\dagger}+\bf_1+\bf_2)$$ が成り立つ。

導分関係式

正整数 $h$ に対し $\mathfrak{H}$ の導分 $\partial_h$ を $$\partial_h(x)=y(y+x)^{h-1}x,\qquad\partial_h(y)=-y(y+x)^{h-1}x$$ とおくと、任意の $w\in\mathfrak{H}^0$ に対し $$(Z\circ\partial_h)(w)=0$$ となる。この等式を 導分関係式 (derivation relation) という。

積分級数等式

2色半順序集合

有限半順序集合? $(X,\prec)$ に対し写像 $\delta:X\to\{0,1\}$ を labeling map といい、組 $(X,\prec,\delta)$ を 2色半順序集合 (2-labeled partially oredered set, 2-poset) という。

山本積分

2-poset $(X,\prec,\delta)$ に付随した積分を $$I(X)=\int_{\Delta(X)} \prod_{x\in X}\omega_{\delta(x)}(t_x)$$ で定める。ここで $$\Delta(X)=\{(t_1,\ldots,t_{|X|}\in(0,1)^{|X|}\mid x\prec y\Rightarrow t_x<t_y\}$$ である。

山本積分の基本操作

  • 半順序集合 $X$ の比較不可能な元 $a,b$ に対し、$a\prec b$ を追加した新たな半順序集合を $X_a^b$ と書くことにすると、任意の比較不可能な $X$ の元の対 $a,b$ に対し$$I(X)=I(X_a^b)+I(X_b^a)$$である。
  • 2-poset $X$ に対し、新しい半順序 $x\prec^{\dagger}y\Leftrightarrow y\prec x$ と新しいlabeling map $\delta^{\dagger}(x)=1-\delta(x)$ を備えた2-poset $(X,\prec^{\dagger},\delta^{\dagger})$ を $X^{\dagger}$ と書くと、$$I(X)=I(X^{\dagger})$$ である。

金子-山本の積分級数等式

インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ に対し2-poset $X_{\bk;\bl}$ を次で定める:

  • 台集合は $X=\{x_i\mid 1\le i\le k\}\cup\{y_{i,k_j}\mid 1\le j\le s,~1\le i\le k_j\}$ である。ここで $\bk$ の重さを $k$ とした。
  • 半順序 $\prec$ を次の要件を満たすよう定める:
    • 任意の $1\le i\le k-1$ に対し $x_i\prec x_{i+1}$
    • $x_k\prec y_{1,l_s}$
    • 任意の $1\le j\le s$ と $1\le i\le l_j-1$ に対し $y_{i,l_j}\prec y_{i+1,l_j}$
    • 任意の $1\le j\le s-1$ に対し $y_{1,l_j}\prec y_{l_{j+1},l_{j+1}}$
  • labeling mapを次の要件を満たすよう定める:
    • $1\le i\le k$ に対し $\displaystyle\delta(x_i)=\begin{cases}1 & (i\in \{1,k_1+1,\ldots,k_{r-1}+1\})\\0 & (i\notin \{1,k_1+1,\ldots,k_{r-1}+1\})\end{cases}$
    • $1\le j\le s$ と $1\le i\le k_j$ に対し $\displaystyle\delta(y_{i,l_j})=\begin{cases}1 & (i=1)\\0 & (i\neq 1)\end{cases}$

以上の条件のもと、インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r),~\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ に対し $$\zeta((k_1,\ldots,k_{r-1})\ast(l_1,\ldots,l_{s-1}),k_r+l_s)=I(X_{\bk;\bl})$$ が成り立つ。この等式を 積分級数等式 (integral-series identity) という。

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Last-modified: 2020-10-14 (水) 00:52:09 (15d)