測度と積分4:測度論の基本定理(2)

この章では、複素数値測度とRadon-Nikodymの定理について述べる。複素数値測度は $\sigma$-加法族上で定義された複素数値集合関数で、通常の測度のように $\sigma$-加法性を持つものである。最も基本的なものは、ある測度 $\mu$ に関する複素数値可積分関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ により $\nu(E)=\int_{E}f(x)d\mu(x)$ と表されるような $\nu$ である。(この章では $\mu_f$ と表している。)Radon-Nikodymの定理は一般の複素数値測度 $\nu$ について、$\nu$ が$\sigma$-有限な測度 $\mu$ に関して絶対連続であれば、$\nu=\mu_f$ なる $f$ が存在することを主張する。この $f$ を $\nu$ の $\mu$ に関するRadon-Nikodym微分と呼び、$\frac{d\nu}{d\mu}$ と表す。任意の複素数値測度 $\nu$ は、その全変動 $\lvert\nu\rvert$ に対し絶対連続であるので Radon-Nikodym微分 $\frac{d\nu}{d\lvert\nu\rvert}$ を持つ。これを用い、複素数値測度 $\nu$ による積分を $\int_{X}f(x)d\nu(x)=\int_{X}f(x)\frac{d\nu}{d\lvert\nu\rvert}(x)d\lvert\nu\rvert(x)$ と定義する。

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入門テキスト「測度と積分」

  • 測度と積分4:測度論の基本定理(2)

15. 複素数値(実数値)測度の定義と基本的性質

定義15.1(複素数値測度、実数値測度)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$(resp. $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$)が次の条件を満たすとき $\nu$ を $(X,\mathfrak{M})$ 上の複素数値測度(resp. 実数値測度)と言う。

  • $\sigma$-加法性)$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\nu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu(E_n)$.*1

命題15.2(複素数値測度の基本性質)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ $\nu(\emptyset)=0$.
  • $(2)$ (有限加法性) 互いに交わらない任意の有限個の $E_1,\ldots,E_n\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(\bigcup_{j=1}^{n}E_j)=\sum_{j=1}^{n}\nu(E_j)$.
  • $(3)$ (単調収束性) $\mathfrak{M}$ の任意の単調増加列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\nu(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n)$.
  • $(4)$ (単調収束性) $\mathfrak{M}$ の任意の単調減少列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\nu(\bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n)$.

証明

  • $(1)$ $\mathfrak{M}$ の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $E_n=\emptyset$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として定義すれば、 $$ \nu(\emptyset)=\nu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\right)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\nu(E_n)=\lim_{N\rightarrow\infty}N\nu(\emptyset) $$ であるから $\nu(\emptyset)=0$ である。
  • $(2)$ $(1)$ と $\sigma$-加法性による。
  • $(3)$ $E_0:=\emptyset$、$F_n:=E_n\backslash E_{n-1}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ とおくと $(F_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の非交叉列であり $\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n$ である。また有限加法性より $\nu(F_n)=\nu(E_n)-\nu(E_{n-1})$ である。よって $$\nu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\nu(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}F_n)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\nu(F_n)=\sum_{n\in\mathbb{N}}(\nu(E_n)-\nu(E_{n-1})=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n).$$
  • $(4)$ $(X\backslash E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調増加列であるから $(3)$ より、 $$ \nu\left(X\backslash \bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n\right) =\nu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}X\backslash E_n\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(X\backslash E_n) $$ である。また有限加法性より、 $$ \nu(X\backslash E_n)=\nu(X)-\nu(E_n)\quad(\forall n\in\mathbb{N}),\quad \nu\left(X\backslash \bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n\right)=\nu(X)-\nu(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n) $$ であるから、$\nu(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n)$ が成り立つ。

命題15.3(密度関数を持つ測度 $\mu_f$)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。

  • $(1)$ 任意の非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し、 $$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in [0,\infty] $$ は $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度である*2
  • $(2)$ 任意の $f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、 $$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{R} $$ は $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度である。
  • $(3)$ 任意の $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、 $$ \mu_f: \mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ は $(X,\mathfrak{M})$ 上の複素数値測度である。

証明

  • $(1)$ 単調収束定理(非負値可測関数列の和の項別積分)による。
  • $(2)$ $f$ の非負部分と非正部分 $f_{\pm}:X\rightarrow[0,\infty)$ (定義4.7)に対し $(1)$ より $\mu_{f_{\pm}}:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ は測度であり、 $$ \mu_f(E)=\mu_{f_+}(E)-\mu_{f_-}(E)\quad(\forall E\in\mathfrak{M}) $$ であるから、$\mu_f$ は $\sigma$-加法性を持つ。よって $\mu_f$ は実数値測度である。
  • $(3)$ $f$ の実部と虚部 $f_1,f_2\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $(2)$ より $\mu_{f_1},\mu_{f_2}:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ は実数値測度であり、 $$ \mu_f(E)=\mu_{f_1}(E)+i\mu_{f_2}(E)\quad(\forall E\in\mathfrak{M}) $$ であるから、$\mu_f$ は $\sigma$-加法性を持つ。よって $\mu_f$ は複素数測度である。

16. 実数値測度に関するHahn分解

定義16.1(実数値測度に関して非負(非正)な集合)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を実数値測度とする。$P\in \mathfrak{M}$ が $\nu$ に関して非負であるとは、$\nu(E\cap P)\geq0$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ が成り立つことを言う。また $N\in\mathfrak{M}$ が $\nu$ に関して非正であるとは、$\nu(E\cap N)\leq0$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ が成り立つことを言う。

命題16.2(実数値測度に関して非負な集合の可算合併は非負)

$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とし、$(P_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\nu$ に関して非負な集合の列とする。このとき $P:=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}P_n$ は $\nu$ に関して非負である。

証明

任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し、 $$ E_1:=E\cap P_1,\quad E_n:=(E\cap P_n)\backslash (P_1\cup\ldots\cup P_{n-1})\quad(\forall n\geq2) $$ とおくと $(E_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の非交叉列であり、 $E\cap P=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E\cap P_n=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n$ である。任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $E_n\subset P_n$ より $\nu(E_n)\geq0$ であるから、 $$ \nu(E\cap P)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\nu(E_n)\geq0 $$ である。よって $P$ は $\nu$ に関して非負である。

補題16.3

$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の $A\in \mathfrak{M}$と任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、$B\subset A$、$\nu(B)\geq\nu(A)$ なる $B\in \mathfrak{M} $ で、 $\nu(E)\geq-\epsilon$ $(\forall E\in \mathfrak{M}:E\subset B)$ を満たすものが存在する。
  • $(2)$ 任意の $A\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu$ に関して非負な $P\in \mathfrak{M}_A$ で $\nu(P)\geq \nu(A)$ を満たすものが存在する。
  • $(3)$ $\sup\{\nu(A): A\in \mathfrak{M}\}<\infty$.

証明

  • $(1)$ 背理法で示す。ある $A\in \mathfrak{M}$ と $\epsilon\in (0,\infty)$ に対しては、$B\subset A$、$\nu(B)\geq \nu(A)$ なるいかなる $B\in \mathfrak{M}$ を取っても、$E\subset B$、$\nu(E)<-\epsilon$ を満たす $E\in \mathfrak{M}$ が存在すると仮定して矛盾を導く。まず $B$ として $A$ 自身を考えれば、$E_1\subset A$、 $\nu(E_1)<-\epsilon$ を満たす $E_1\in \mathfrak{M}$ が取れる。次に $B$ として $A\backslash E_1$ を考えれば $E_2\subset A\backslash E_1$ で $\nu(E_2)<-\epsilon$ を満たす $E_2\in \mathfrak{M}$ が取れる。同様のことを繰り返すことによって $\mathfrak{M}$ の列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ E_{n+1}\subset A\backslash (E_1\cup\ldots \cup E_n),\quad \nu(E_n)<-\epsilon\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れることが分かる。このとき $(*)$ の左の式より $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は非交叉列であるから、$\nu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu(E_n)$ である。しかし $(*)$ の右の式より $\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu(E_n)$ は収束しないので矛盾する。
  • $(2)$ $A_1:=A\in \mathfrak{M}$ とおく。$(1)$ より $\mathfrak{M}$ の列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、任意の $n\geq 2$ に対し、 $$ A_{n}\subset A_{n-1},\quad \nu(A_{n})\geq \nu(A_{n-1}),\quad \nu(E)\geq -\frac{1}{n}\quad(\forall E\in \mathfrak{M}:E\subset A_n) $$ を満たすものが取れる。$P:=\bigcap_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathfrak{M}$ とおくと $P\subset A$ であり、$\nu$ の単調収束性(命題15.2)より、 $$ \nu(P)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(A_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\nu(A_n)\geq \nu(A) $$ である。そして $E\subset P$ なる任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(E)\geq -\frac{1}{n}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから $\nu(E)\geq0$ である。ゆえに $P$ は $\nu$ に関して非負である。
  • $(3)$ もし $\sup\{\nu(A):A\in \mathfrak{M}\}=\infty$ ならば、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、$n<\nu(A_n)$ なる $A_n\in \mathfrak{M}$ が取れる。そして $(2)$ より $\nu$ に関して非負な $P_n\in \mathfrak{M}$ で $\nu(P_n)\geq \nu(A_n)$ なるものが取れる。命題16.2 より $P:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}P_n$ は $\nu$ に関して非負であるから、 $$ \nu(P)=\nu(P_n)+\nu(P\backslash P_n)\geq \nu(P_n)\geq\nu(A_n)>n\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ となる。これは $\nu(P)=\infty$ を意味するので矛盾を得る。

定理16.4(実数値測度に関するHahn分解の存在)

$\nu$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。このとき $X$ の可測分割 $P, N$ で、それぞれ $\nu$ に関して非負と非正であるようなものが存在する。

証明

$s:=\sup\{\nu(A):A\in \mathfrak{M}\}$ とおく。補題16.3の $(3)$ より $s<\infty$ であるから、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $s-\frac{1}{n}<\nu(A_n)$ なる $A_n\in \mathfrak{M}$ が取れ、補題16.3の $(2)$ より $\nu$ に関して非負な $P_n\in \mathfrak{M}$ で $\nu(P_n)\geq \nu(A_n)$ なるものが取れる。命題16.2 より $P:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}P_n$ は $\nu$ に関して非負であるから、 $$ \nu(P)=\nu(P_n)+\nu(P\backslash P_n)\geq \nu(P_n)\geq\nu(A_n)>s-\frac{1}{n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ である。よって $\nu(P)=s$ であるから $E\subset X\backslash P$ なる任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(E)+s=\nu(E)+\nu(P)=\nu(E\cup P)\leq s$ である。ゆえに $\nu(E)\leq0$ であるから $X\backslash P$ は非正である。

定義16.5(実数値測度に関するHahn分解)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を実数値測度とする。定理16.4 より、$X$ の可測分割 $P, N$ で、それぞれ $\nu$ に関して非負と非正であるようなものが存在する。この $P,N$ を $\nu$ に関する $X$ のHahn分解と言う。

17. 互いに特異な測度、実数値測度のJordan分解

定義17.1(互いに特異な測度)

$\mu_1,\mu_2$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度か複素数値測度とする。$\mu_1$ と $\mu_2$ が互いに特異であるとは、$X$ の可測分割 $A_1,A_2$ で、 $$\mu_1(E)=\mu_1(E\cap A_1),\quad \mu_2(E)=\mu_2(E\cap A_2)\quad(\forall E\in \mathfrak{M})$$ なるものが存在することを言う。また $\mu_1,\mu_2$ が互いに特異であることを $\mu_1\perp \mu_2$ と表す。

定理17.2(実数値測度のJordan分解)

$\nu$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。このとき有限測度の組 $\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu=\nu_+-\nu_-,\quad \nu_+\perp \nu_-\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

証明

$X$ の$\nu$ に関するHahn分解 $A_+,A_-$ に対し、有限測度 $\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ を、 $$ \nu_{\pm}(E)=\pm \nu(E\cap A_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M})\quad\quad(**) $$ として定義する。このとき $\nu_+,\nu_-$ は $(*)$ を満たす。一意性を示す。有限測度の組 $\mu_+,\mu_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ も、 $$ \nu=\mu_+-\mu_-,\quad \mu_+\perp \mu_- $$ を満たすとする。$\mu_+\perp \mu_-$ であるから、$X$ の可測分割 $B_+,B_-$ で、 $$ \mu_{\pm}(E)=\mu_{\pm}(E\cap B_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ なるものが取れる。$B_+\cap B_-=\emptyset$ より $\mu_{\pm}(B_{\mp})=0$ であるから、 $$ \nu(E\cap B_{\pm})=\pm \mu_{\pm}(E\cap B_{\pm})=\pm\mu_{\pm}(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M})\quad\quad(***) $$ である。よって $B_+,B_-$ はそれぞれ $\nu$ に関して非負、非正であるから、 $$ \nu(E\cap A_{\pm}\cap B_{\mp})=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であり、したがって、 $$ \nu(E\cap A_{\pm})=\nu(E\cap A_{\pm}\cap B_{\pm})=\nu(E\cap B_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。これと $(**),(***)$ より $\nu_{\pm}=\mu_{\pm}$ を得る。

定義17.3(実数値測度のJordan分解、非負部分、非正部分)

$\nu$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。定理17.2より有限測度の組 $\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu=\nu_+-\nu_-,\quad \nu_+\perp \nu_- $$ を満たすものが唯一つ存在する。$\nu_+,\nu_-$ を $\nu$ の非負部分、非正部分と言い、これらを $\nu$ のJordan分解と言う。定理17.2の証明より $\nu$ のJordan分解 $\nu_{+},\nu_-$ は、$\nu$ に関する $X$ のHahn分解 $A_{+},A_-$ により、 $$ \nu_{\pm}(E)=\pm \nu(E\cap A_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ と表される。

例17.4

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ とする。実数値測度 $$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in\mathbb{R} $$ に対し $(f\geq0), (f< 0)\in \mathfrak{M}$ は $\mu_f$ に関する$X$ のHahn分解であり、有限測度 $$ \mu_{f_{\pm}}:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f_{\pm}(x)d\mu(x)\in [0,\infty) $$ は、$f_+=f\chi_{(f\geq0)}$、$f_-=-f\chi_{(f<0)}$ より、 $$ \mu_{f_{+}}(E)=\mu_f(E\cap (f\geq0)),\quad \mu_{f_{-}}(E)=-\mu_f(E\cap (f<0))\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ を満たすので、$\mu_{f_+},\mu_{f_-}$ は $\mu_f$ のJordan分解である。

18. 絶対連続性、Radon-Nikodymの定理

定義18.1(絶対連続性)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$\nu$ を $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度か複素数値測度とする。$\nu$ が $\mu$ に関して絶対連続であるとは $\mu(E)=0$ なる任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(E)=0$ が成り立つことを言う。$\nu$ が $\mu$ に関して絶対連続であることを $\nu\ll \mu$ と表す。

例18.2

命題15.3における(複素数値)測度 $\mu_f$ は $\mu$ に関して絶対連続である。

補題18.3

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\mu,\nu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ を有限測度とする。このとき $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow[0,\infty)$ と有限測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$ を満たすものが存在する。

証明

$$ \mathcal{F}:=\left\{f:X\rightarrow [0,\infty):f \text{は可測関数で } \mu_f(E)\leq \nu(E)\text{ }(\forall E\in \mathfrak{M})\right\} $$ とおく。任意の $f,g\in \mathcal{F}$ に対し $\text{max}(f,g)\in \mathcal{F}$ である。実際、任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し、 $$ \begin{aligned} \mu_{\text{max}(f,g)}(E)=\mu_{f}(E\cap (f\geq g))+\mu_g(E\cap (f<g)) \leq \nu(E\cap (f\geq g))+\nu(E\cap (f<g))=\nu(E) \end{aligned} $$ である。今、 $$ s:=\sup\left\{\int_{X}f(x)d\mu(x): f\in \mathcal{F}\right\}\leq \nu(X)<\infty $$ とおき、$\mathcal{F}$ の列 $(g_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ s-\frac{1}{n}<\int_{X}g_n(x)d\mu(x)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ なるものを取る。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $f_n:=\text{max}(g_1,\ldots,g_n)$ とおけば、$f_{n+1}=\text{max}(f_n,g_{n+1})$ であるから、$(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathcal{F}$ の各点単調増加列である。よって $f:=\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n$ とおけば単調収束定理より、 $$ \mu_f(E)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\mu_{f_n}(E)\leq \nu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。 これより $f\in \mathcal{F}$ であり、*3 $$ s-\frac{1}{n}<\int_{X}g_n(x)d\mu(x)\leq \int_{X}f(x)d\mu(x)\leq s\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \int_{X}f(x)d\mu(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)=s\quad\quad(*) $$ である。有限測度 $\lambda:=\nu-\mu_f:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ が $\lambda\perp \mu$ を満たすことを示せば証明は終わる。そこで各 $n\in \mathbb{N}$ に対し実数値測度 $\lambda-\frac{1}{n}\mu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ に関する $X$ のHahn分解(定義16.5)を $P_n,N_n$ とおき、 $$ P:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}P_n,\quad N:=\bigcap_{n\in \mathbb{N}}N_n=X\backslash P $$ とおく。 $$ 0\leq \lambda(N)\leq \frac{1}{n}\mu(N)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから $\lambda(N)=0$ である。よって $\lambda\perp \mu$ を示すには $\mu(P)=0$ を示せばよい。$\mu(P)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(P_n)$ であるから任意の $n\in \mathbb{N}$ を取り $\mu(P_n)=0$ を示せばよい。可測関数 $h_n:=f+\frac{1}{n}\chi_{P_n}$ を考える。$P_n$ は $\lambda-\frac{1}{n}\mu$ に関して非負であるから、 $$ \mu_{h_n}(E)=\mu_f(E)+\frac{1}{n}\mu(E\cap P_n)\leq \mu_f(E)+\lambda(E)=\nu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。よって $h_n\in \mathcal{F}$ であるから $(*)$ より、 $$ s\geq \int_{X}h_n(x)d\mu(x)=\int_{X}f(x)d\mu(x)+\frac{1}{n}\mu(P_n)=s+\frac{1}{n}\mu(P_n) $$ である。ゆえに $\mu(P_n)=0$ である。

定理18.4(Radon-Nikodyimの定理($\sigma$-有限測度版))

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\mu,\nu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ を $\sigma$-有限測度とする。このとき非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty)$ と $\sigma$-有限測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ で、 $$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$ を満たすものが存在する。

証明

$\mu,\nu$ の $\sigma$-有限性より $\mathfrak{M}$ の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n,\quad \mu(A_n)<\infty,\quad\nu(A_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。そこで各 $n\in \mathbb{N}$ に対し有限測度 $$ \mu_n:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \mu(E\cap A_n)\in [0,\infty),\quad \nu_n:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \nu(E\cap A_n)\in [0,\infty) $$ を定義する。補題18.3より $\mu_n$ に関して可積分な $f_n:X\rightarrow[0,\infty)$ と有限測度 $\lambda_n:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu_n=\mu_{n,f_n}+\lambda_n,\quad \lambda_n\perp \mu_n $$ なるものが取れる。 $$ \lambda:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \sum_{m\in \mathbb{N}}\lambda_m(E)\in [0,\infty] $$ とおくと、$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、 $$ \lambda\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\right) =\sum_{m\in \mathbb{N}}\sum_{n\in \mathbb{N}} \lambda_m(E_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\sum_{m\in \mathbb{N}} \lambda_m(E_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\lambda(E_n) $$ であるから $\lambda$ は測度である。また $\mu_{m,f_m}\ll \mu_m$ $(\forall m\in\mathbb{N})$ より、 $$ \lambda_m(A_n)=\nu_m(A_n)-\mu_{m,f_m}(A_n)=0\quad(n\neq m) $$ であるから、 $$ \lambda(A_n)=\sum_{m\in \mathbb{N}}\lambda_m(A_n)=\lambda_n(A_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ である。よって $\lambda$ は $\sigma$-有限である。非負値可測関数 $$ f:X\ni x\mapsto \sum_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)\chi_{A_n}(x)\in [0,\infty) $$ を考えると、単調収束定理(非負値可測関数列の和の項別積分)より、 $$ \mu_f(E)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu_{f_n}(E\cap A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_{n,f_n}(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \mu_f(E)+\lambda(E)=\sum_{n\in \mathbb{N}}(\mu_{n,f_n}(E)+\lambda_n(E))=\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu_n(E)=\nu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。後は $\lambda\perp \mu$ を示せばよい。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $\lambda_n\perp \mu_n$ であるから $B_n,C_n\in \mathfrak{M}$ で、 $$ C_n=X\backslash B_n,\quad \mu_n(B_n)=0,\quad \lambda_n(C_n)=0 $$ なるものが取れる。 $$ B:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(B_n\cap A_n),\quad C:=X\backslash B=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(C_n\cup (X\backslash A_n)) $$ とおくと、 $$ \mu(B)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(B_n\cap A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_n(B_n)=0 $$ であり、$(*)$ より、 $$ \lambda(C)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\lambda_n(C)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}(\lambda_n(C_n)+ \lambda_n(X\backslash A_n))=0 $$ である。よって$\lambda\perp \mu$ が成り立つ。

定理18.5(Radon-Nikodyimの定理(実数値測度版))

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ を実数値測度とする。このとき $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow \mathbb{R}$ と実数値測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ で、 $$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$ を満たすものが存在する。

証明

$\nu$ のJordan分解(定義17.3)$\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ に対し、定理18.4より $\mu$ に関して可積分な $f^{+},f^{-}:X\rightarrow [0,\infty)$ と有限測度 $\lambda_+,\lambda_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu_{\pm}=\mu_{f^{\pm}}+\lambda_{\pm},\quad \lambda_{\pm}\perp \mu $$ を満たすものが取れる。これに対し $\mu$ に関して可積分な $f:=f^{+}-f^{-}:X\rightarrow \mathbb{R}$ と実数値測度 $\lambda=\lambda_+-\lambda_-:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を定義する。明らかに $\nu=\mu_f+\lambda$ である。$\lambda\perp \mu$ を示す。$\lambda_{\pm}\perp\mu$ より $B_{\pm},C_{\pm}\in \mathfrak{M}$ で、 $$ C_{\pm}=X\backslash B_{\pm},\quad \mu(B_{\pm})=0,\quad \lambda_{\pm}(C_{\pm})=0 $$ なるものが取れる。 $$ B:=B_+\cup B_-,\quad C:=C_+\cap C_-=X\backslash B $$ とおくと $\mu(B)\leq \mu(B_+)+\mu(B_-)=0$ であり、$\lambda_{\pm}(C)\leq \lambda_{\pm}(C_{\pm})=0$ より $\lambda(C)=\lambda_+(C)-\lambda_-(C)=0$ である。よって $\lambda\perp \mu$ である。

定理18.6(Radon-Nikodyimの定理(複素数値測度版))

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{C}$ を複素数値測度とする。このとき $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ と複素数値測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ で、 $$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$ を満たすものが存在する。

証明

実数値測度 $\nu_1,\nu_2:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$で $\nu=\nu_1+i\nu_2$ なるものを取る。このとき定理18.5より $\mu$ に関して可積分な $f_1,f_2:X\rightarrow\mathbb{R}$ と実数値測度 $\lambda_1,\lambda_2:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ で、 $$ \nu_j=\mu_{f_j}+\lambda_j,\quad \lambda_j\perp \mu\quad(j=1,2) $$ を満たすものが取れる。これに対し $\mu$ に関して可積分な $f:=f_1+if_2:X\rightarrow\mathbb{C}$ と複素数値測度 $\lambda:=\lambda_1+i\lambda_2:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。明らかに $\nu=\mu_f+\lambda$ である。$\lambda\perp \mu$ を示す。$\lambda_j\perp\mu$ より $B_j,C_j\in \mathfrak{M}$ $(j=1,2)$ で、 $$ \mu(B_j)=0,\quad \lambda_j(E\cap C_j)=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M},j=1,2) $$ なるものが取れる。 $$ B:=B_1\cup B_2,\quad C:=C_1\cap C_2=X\backslash B $$ とおくと $\mu(B) \leq \mu(B_1)+\mu(B_2)=0$ であり、 $$ \lambda(E\cap C)=\lambda_1(E\cap C\cap C_1)+i\lambda_2(E\cap C\cap C_2)=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから $\lambda\perp\mu$ である。

系18.7(Radon-Nikodymの定理(絶対連続版))

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間 を満たすとする。

  • $(1)$ $\sigma$-有限測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ が $\nu\ll\mu$ を満たすとき非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty)$ で $\nu=\mu_f$ を満たすものが取れる。
  • $(2)$ 実数値測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ が $\nu\ll\mu$ を満たすとき $\mu$に関して可積分な $f:X\rightarrow\mathbb{R}$ で $\nu=\mu_f$ を満たすものが取れる。
  • $(3)$ 複素数値測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ が $\nu\ll\mu$ を満たすとき $\mu$に関して可積分な $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ で $\nu=\mu_f$ を満たすものが取れる。

証明

$(1),(2),(3)$ に対しそれぞれ定理18.4定理18.5定理18.6を適用すればよい。$\nu\ll\mu$ であることから $\lambda$ は $\lambda\perp \mu$ かつ $\lambda\ll\mu$ を満たす。$\lambda\perp \mu$ より $X$ の可測分割 $A,B\in \mathfrak{M}$ で、任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\lambda(E)=\lambda(E\cap A)$、$\mu(E)=\mu(E\cap B)$ を満たすものが取れる。 $\mu(E\cap A)=\mu(E\cap A\cap B)=0$ であるから、 $\lambda\ll\mu$ より $\lambda(E)=\lambda(E\cap A)=0$ である。

定義18.8(Radon-Nikodym微分)

系18.7における $f$ を $\nu$ の $\mu$ に関するRadon-Nikodym微分と言う。$f_1,f_2$ が共に $\nu$ の $\mu$ に関するRadon-Nikodym微分ならば、命題10.5より $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f_1(x)=f_2(x)$ が成り立つ。

19. 複素数値測度の全変動、複素数値測度による積分

定義19.1(複素数値測度の全変動)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とし、$\lvert\nu\rvert:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \lvert \nu\rvert(E):=\sup\left\{\sum_{j=1}^{n}\lvert \nu(E_j)\rvert: E_1,\ldots,E_h\text{ は }E\text{ の有限可測分割} \right\} $$ として定義する。$\lvert\nu\rvert$ を $\nu$ の全変動と言う。次の系19.4で見るように $\lvert\nu\rvert$ は$(X,\mathfrak{M})$ 上の有限測度である。

注意19.2(実数値測度の全変動とJordan分解)

$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ が実数値測度の場合、$\nu$ のJordan分解 $\nu_+,\nu_-$ (定義17.3)は $\nu$ に関する $X$ のHahn分解 $A_+,A_-$ により、 $$ \nu_{\pm}(E)=\pm\nu(E\cap A_{\pm})=\lvert\nu(E\cap A_{\pm})\rvert\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ で与えられるから、 $$ \nu_+(E)+\nu_-(E)\leq \lvert\nu\rvert(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。また、 $$ \lvert\nu(E)\rvert=\lvert\nu_+(E)-\nu_-(E)\rvert\leq \nu_+(E)+\nu_-(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \lvert\nu\rvert(E)=\nu_+(E)+\nu_-(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。

命題19.3($\mu_f$ の全変動は $\mu_{\lvert f\rvert}$)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ とする。このとき複素数値測度 $$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ の全変動 $\lvert\mu_f\rvert$ は有限測度 $$ \mu_{\lvert f\rvert}:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)\in[0,\infty) $$ と一致する。

証明

積分の絶対不等式より $\lvert\mu_f(E)\rvert\leq\mu_{\lvert f\rvert}(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから、全変動の定義より $\lvert\mu_f\rvert (E)\leq \mu_{\lvert f\rvert}(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ である。逆の不等式を示す。可測関数 $\omega:X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ \omega(x):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{\lvert f(x)\rvert}{f(x)}&(x\in (\lvert f\rvert>0))\\1&(x\in (\lvert f\rvert=0))\end{array}\right. $$ として定義すると、 $$ f(x)\omega(x)=\lvert f(x)\rvert,\quad \lvert \omega(x)\rvert=1\quad(\forall x\in X) $$ である。$\omega_1,\omega_2:X\rightarrow\mathbb{R}$ を $\omega$ の実部と虚部とし、$\omega_{j,+},\omega_{j,-}:X\rightarrow [0,1]$ をそれぞれの非負部分と非正部分とする。$\omega_{j,\pm}$ は有界な非負値可測関数であるから定理5.5の証明より、$\omega_{j,\pm}$ に一様収束する非負値可測単関数の各点単調増加列 $(s_{j,\pm,n})_{n\in \mathbb{N}}$ が取れる。 $$ s_n:=(s_{1,+,n}-s_{1,-,n})+i(s_{2,+,n}-s_{2,-,n})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ として可測単関数列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定義すると、 $s_{j,\pm,n}(x)\leq \omega_{j,\pm}(x)$ より、 $$ \lvert s_{j,+,n}(x)-s_{j,-,n}(x)\rvert\leq \lvert \omega_{j,+}(x)-\omega_{j,-}(x)\rvert=\lvert \omega_j(x)\rvert\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N}, j=1,2) $$ であるから、 $$ \lvert s_n(x)\rvert\leq \lvert\omega(x)\rvert=1\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ である。また、 $$ \lvert f(x)\rvert=f(x)\omega(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}f(x)s_n(x)\quad(\forall x\in X) $$ であるからLebesgue優収束定理より、 $$ \mu_{\lvert f\rvert}(E)=\int_{E}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left\lvert\int_{X}f(x)s_n(x)d\mu(x)\right\rvert\quad(\forall E\in \mathfrak{M})\quad\quad(**) $$ である。ここで任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $(*)$ より $s_n$ は $X$ の可測分割 $A_{n,1},\ldots,A_{n,m(n)}\in \mathfrak{M}$ と絶対値が $1$ 以下の $\alpha_{n,1},\ldots,\alpha_{n,m(n)}\in \mathbb{C}$ により、 $$ s_n(x)=\sum_{j=1}^{m(n)}\alpha_{n,j}\chi_{A_{n,j}}(x)\quad(\forall x\in X) $$ と表せるから任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し、 $$ \left\lvert\int_{E}f(x)s_n(x)d\mu(x)\right\rvert\leq \sum_{j=1}^{m(n)}\lvert\alpha_{n,j}\rvert\lvert \mu_f(E\cap A_{n,j})\rvert\leq \lvert\mu_f\rvert(E) $$ である。よって $(**)$ より $\mu_{\lvert f\rvert}(E)\leq \lvert\mu_f\rvert(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ である。

系19.4(複素数値測度の全変動は有限測度)

複素数値測度の全変動は有限測度である。

証明

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とする。$\nu$ の実部と虚部を $\nu_1,\nu_2:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ とおき、それらのJordan分解を $\nu_{j,+},\nu_{j,-}$ $(j=1,2)$とおく。有限測度 $$ \mu:=\nu_{1,+}+\nu_{1,-}+\nu_{2,+}+\nu_{2,-}:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty) $$ に対し $\lvert \nu(E)\rvert \leq \mu(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから $\nu$ は $\mu$ に関して絶対連続である。よってRadon-Nikodymの定理より $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ で $\nu=\mu_f$ なるものが取れる。命題19.3より $\lvert \nu\rvert=\mu_{\lvert f\rvert}$ であるから $\lvert \nu\rvert$ は有限測度である。

定義19.5(複素数値測度による積分)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とする。全変動 $\lvert \nu\rvert:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ に対し $\lvert\nu(E)\rvert\leq \lvert \nu\rvert (E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから $\nu$ は $\lvert\nu\rvert$ に関して絶対連続である。よって $\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分 $ h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ が取れる。$h$ を $\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分とすると $\nu=\lvert \nu\rvert_{h}$ であるから、命題19.3より $\lvert\nu\rvert=\lvert \nu\rvert_{\lvert h\rvert}$ である。よって命題10.5より、 $$ \lvert h(x)\rvert=1\quad(\lvert\nu\rvert \text{-a.e.} x\in X ) $$ である。そこで任意の $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ に対し $f$ の $\nu$ による積分を、$\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分 $h$ を用いて、 $$ \int_{X}f(x)d\nu(x):=\int_{X}f(x)h(x)d\lvert\nu\rvert(x) $$ と定義する。

命題19.6($\mu_f$ による積分)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。

  • $(1)$ 非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し測度 $\mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in [0,\infty]$ を考える。このとき任意の非負値可測関数 $g:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\mu_f(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。
  • $(2)$ $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し複素数値測度 $\mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C}$ を考える。このとき任意の可測関数 $g:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)\quad\Leftrightarrow\quad fg\in\mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)\quad\quad(*) $$ であり、任意の $g\in \mathcal{L^1}(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\mu_f(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。
  • $(3)$ 複素数値測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ と $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ に対し複素数値測度 $\nu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\nu(x)\in \mathbb{C}$ を考える。このとき、 $$ g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu_f\rvert)\quad\Leftrightarrow\quad fg\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert \nu\rvert)\quad\quad(**) $$ であり、任意の $g\in \mathcal{L^1}(X,\mathfrak{M},\lvert\nu_f\rvert)$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\nu_f(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\nu(x) $$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ $g$ が非負値可測単関数の場合は明らかに成り立つ。$g$ が一般の非負値可測関数の場合は、$g$ を非負値可測単関数の各点単調増加列で近似し単調収束定理を用いれば成り立つことが分かる。
  • $(2)$ 命題19.3より $\lvert \mu_f\rvert=\mu_{\lvert f\rvert}$ であるから $(1)$ より $(*)$ が成り立つ。$\mu_f$ の $\lvert\mu_f\rvert=\mu_{\lvert f\rvert}$ に関するRadon-Nikodym微分を $h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)$ とすると、 $$ \int_{E}f(x)d\mu(x)=\mu_f(E)=(\mu_{\lvert f\rvert})_h(E)=\int_{E}h(x)\lvert f(x)\rvert d\mu(x)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)=h(x)\lvert f(x)\rvert$ が成り立つ(命題10.5)。よって任意の $g\in \mathcal{L^1}(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\mu_f(x)=\int_{X}g(x)h(x)d\mu_{\lvert f\rvert}(x)=\int_{X}g(x)h(x)\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x) $$ である。
  • $(3)$ $\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分を $h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ とすると、 $$ \nu_f(E)=\int_{E}f(x)d\nu(x)=\int_{E}f(x)h(x)d\lvert\nu\rvert(x)=\lvert\nu\rvert_{fh}(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから命題19.3より $\lvert\nu_f\rvert=\lvert\nu\rvert_{\lvert fh\rvert}=\lvert\nu\rvert_{\lvert f\rvert}$ である。($\lvert\nu\rvert$-a.e. $x\in X$ で $\lvert h(x)\rvert=1$ であることに注意。)よって $(1)$ より $(**)$ が成り立つ。また任意の $g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu_f\rvert)$ に対し $(2)$ より、 $$ \int_{X}g(x)d\nu_f(x)=\int_{X}g(x)d\lvert\nu\rvert_{fh}(x) =\int_{X}f(x)g(x)h(x)d\lvert\nu\rvert(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\nu(x) $$ である。

次に読む

関連項目



*1 右辺の総和 $\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n)$ については位相線形空間1:ノルムと内積の5を参照。
*2 ただし、 $\int_E f(x) d\mu(x) = \int_X f(x)\chi_E(x) d\mu(x)$ である。
*3 $f$ は $\mu$に関して可積分であるので $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)<\infty$ である(命題9.4)。よって必要ならば $f$ を $f\chi_{(f<\infty)}$ に置き換えて任意の $x\in X$ に対し $f(x)<\infty$としてよい。

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Last-modified: 2020-10-27 (火) 12:47:16 (10h)