複素解析の初歩

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本稿においては、関数解析学への応用を念頭に、複素解析のごく初歩的なこと(正則関数の解析性、Liouvilleの定理、一致の定理、Cauchyの積分公式、Cauchyの積分定理、Laurant展開、留数定理)について述べる。そしてこれらのBanach空間値関数への拡張について述べる。$\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$、$\mathbb{Z}_+=\{0,1,2,3,\ldots\}$ とする。

1. 複素微分、正則関数

定義1.1(複素微分、複素導関数)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$X$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間とする。関数 $f:\Omega\rightarrow X$ が $z_0\in \Omega$ において複素微分可能であるとは、ある $b\in X$ が存在し、 $$ \Omega\ni z\mapsto \left\{\begin{array}{cl}\frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0}&(z\neq z_0)\\b&(z=z_0)\end{array}\right\}\in X \text{ が } z_0\text{ において連続。}\quad\quad(*) $$ が成り立つことを言う。 $f$ が $z_0$ において複素微分可能であるとき $(*)$ を満たす $b\in X$ は唯一つである(次の命題1.2を参照)。そこでこの $b$ を $f'(z_0)\in X$ と表し、$f$ の $z_0$ における複素微分と言う。
各 $z\in \Omega$ に対し $f'(z)\in X$ が存在するとき $f':\Omega\ni z\mapsto f'(z)\in X$ なる関数が定義できる。これを $f$ の複素導関数、または $1$ 階複素導関数と言う。$f'=f^{(1)}$ とも表す。ある $n\in \mathbb{N}$ に対し $f$ の $n$ 階複素導関数 $f^{(n)}:\Omega\rightarrow X$ が定義されており、$f^{(n)}$ が複素導関数 ${f^{(n)}}':\Omega\rightarrow X$ を持つときそれを $f$ の $n+1$ 階複素導関数と言い、$f^{(n+1)}$ と表す。便宜上、$f$ 自体を $f$ の $0$ 階導関数と呼び、$f^{(0)}$と表す。

命題1.2

定義1.1における $(*)$ を満たす $b\in X$ は存在するならば唯一つである。

証明

$b_1,b_2\in X$ が共に定義1.1の $(*)$ を満たすとすると、任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $\delta\in (0,\infty)$ が存在し、 $$ \left\lVert \frac{f(z_0+h)-f(z_0)}{h}-b_1\right\rVert<\frac{\epsilon}{2},\quad \left\lVert \frac{f(z_0+h)-f(z_0)}{h}-b_2\right\rVert<\frac{\epsilon}{2} \quad(\forall h\in \mathbb{C}:0<\lvert h\rvert<\delta) $$ が成り立つ。よって三角不等式より $\lVert b_1-b_2\rVert<\epsilon$ であり、$\epsilon\in (0,\infty)$ は任意であるから $b_1=b_2$ が成り立つ。

命題1.3(複素微分可能な点における連続性)

$X$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間、$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合とする。$f:\Omega\rightarrow X$ が $z_0\in \Omega$ において複素微分可能ならば $f$ は $z_0$ において連続である。

証明

十分小さい $\delta\in (0,\infty)$ を取れば、 $$ \left\lVert \frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0}-f'(z_0)\right\rVert\leq1\quad(\forall z\in \mathbb{C}:0<\lvert z-z_0\rvert<\delta) $$ が成り立つ。よって、 $$ \lVert f(z)-f(z_0)\rVert\leq(1+\lVert f'(z_0)\rVert)\lvert z-z_0\rvert\quad(\forall z\in \mathbb{C}:0<\lvert z-z_0\rvert<\delta) $$ であるので、$f$ は $z_0$ において連続である。

定義1.4(複素Banach空間値正則関数)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$X$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間とする。関数 $f:\Omega\rightarrow X$ がBanach空間 $X$ 値正則関数であるとは $f$ が連続な複素導関数 $f':\Omega\rightarrow X$ を持つことを言う。$X=\mathbb{C}$ の場合は単に正則関数と言う。

注意1.5

正則関数は、複素導関数が存在することとして定義されることが多い。本稿においては便宜上、複素導関数が存在し、さらにその複素導関数が連続であることにより正則関数を定義した。このような定義は小平邦彦著の複素解析などに見られる。

定理1.6(Cauchy-Riemannの関係式)

$\Omega\subset\mathbb{C}$を開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ とする。同一視 $$ x_1+ix_2=(x_1,x_2),\quad\mathbb{C}=\mathbb{R}^2 $$ のもと、次は互いに同値である。

  • $(1)$ $f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は正則関数である。
  • $(2)$ $f:\Omega\ni (x_1,x_2)\mapsto (f_1(x_1,x_2),f_2(x_1,x_2))\in \mathbb{R}^2$ は $C^1$ 級であり、任意の $(x_1,x_2)\in \Omega$ に対し、 $$ \partial_1f_1(x_1,x_2)=\partial_2f_2(x_1,x_2),\quad \partial_1f_2(x_1,x_2)=-\partial_2f_1(x_1,x_2) $$ (これをCauchy-Riemannの関係式と言う)が成り立つ。

そして $(1),(2)$ が成り立つとき、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ の複素導関数を $f':\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ とおくと 、任意の $x_1+ix_2=(x_1,x_2)\in \Omega$ に対し、 $$ \begin{aligned} &{\rm Re}(f'(x_1+ix_2))=\partial_1f_1(x_1,x_2)=\partial_2f_2(x_1,x_2),\quad\quad(*)\\ &{\rm Im}(f'(x_1+ix_2))=\partial_1f_2(x_1,x_2)=-\partial_2f_1(x_1,x_2)\quad\quad(**) \end{aligned} $$ が成り立つ。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ の複素導関数を $f':\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ とすると、任意の $z=x_1+ix_2=(x_1,x_2)\in \Omega$ に対し、 $$ \begin{aligned} &f'(z)=\lim_{h\in\mathbb{R},h\rightarrow0}\frac{f(z+h)-f(z)}{h}=\partial_1f_1(x_1,x_2)+i\partial_1f_2(x_1,x_2),\\ &f'(z)=\lim_{h\in\mathbb{R},h\rightarrow0}\frac{f(z+ih)-f(z)}{ih}=\partial_2f_2(x_1,x_2)-i\partial_2f_1(x_1,x_2) \end{aligned} $$ であるから $(*),(**)$ が成り立つ。そして正則関数の定義(定義1.4)より複素導関数 $f':\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は連続であるので、各 $i,j\in \{1,2\}$ に対し $\partial_if_j:\Omega\rightarrow\mathbb{R}$ は連続である。よって $f$ は $C^1$ 級であるので $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。 $$ \Omega\ni (x_1,x_2)\mapsto (f_1(x_1,x_2),\text{ }f_2(x_1,x_2))\in \mathbb{R}^2\quad\quad(***) $$ は $C^1$ 級であるので、Euclid空間における微積分1命題6.1より、$(***)$ は各点で微分可能である。そして任意の $(x_1,x_2)\in \Omega$ に対し、$(x_1,x_2)$ における $(***)$ の微分(Euclid空間における微積分1定義1.1)を $m(x_1,x_2)\in \mathbb{M}_{2\times 2}(\mathbb{R})$ とおくと 、Euclid空間における微積分1命題1.3命題1.6より、 $$ m(x_1,x_2)=\begin{pmatrix}\partial_1f_1(x_1,x_2)&\partial_2f_1(x_1,x_2)\\\partial_1f_2(x_1,x_2)&\partial_2f_2(x_1,x_2)\end{pmatrix} $$ と表される。任意の $z=x_1+ix_2=(x_1,x_2)\in \Omega$ を取り固定する。 $$ a:=\partial_1f_1(x_1,x_2)=\partial_2f_2(x_1,x_2),\quad b:=\partial_1f_2(x_1,x_2)=-\partial_2f_1(x_1,x_2)\quad\quad(****) $$ とおくと、 $$ m(x_1,x_2)=\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix} $$ であるから、$h:=h_1+ih_2\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ m(x_1,x_2)\begin{pmatrix}h_1\\h_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}ah_1-bh_2\\ah_2+bh_1\end{pmatrix}=(a+ib)(h_1+ih_2)=(a+ib)h $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} &\left\lvert\frac{f(z+h)-f(z)}{h}-(a+ib)\right\rvert =\left\lvert\frac{f(z+h)-f(z)-(a+ib)h}{h}\right\rvert\\ &=\frac{1}{\lvert h\rvert} \left\lvert\begin{pmatrix}f_1(x_1+h_1,x_2+h_2)-f_1(x_1,x_2)\\f_2(x_1+h_1,x_2+h_2)-f_2(x_1,x_2)\end{pmatrix}-m(x_1,x_2)\begin{pmatrix}h_1\\h_2\end{pmatrix}\right\rvert\\ &\rightarrow0\quad(\lvert h\rvert\rightarrow0) \end{aligned} $$ であるから、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は $z=x_1+ix_2\in \Omega$ において複素微分可能であり、その複素微分は $f'(z)=a+ib$ である。$(****)$ より、 $$ f'(z)=\partial_1f_1(x_1,x_2)+i\partial_1f_2(x_1,x_2) $$ であり、これが任意の $z=x_1+ix_2=(x_1,x_2)\in \Omega$ に対して成り立つ。$f$ は $C^1$ 級なので $\partial_1f_1,\partial_1f_2:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は連続であるから、$f':\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は連続である。ゆえに $f$ は正則関数なので $(1)$ が成り立つ。

定理1.7(正則関数に関する逆関数定理)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とし、ある $a\in \Omega$ に対し $f'(a)\neq0$ が成り立つとする。 このとき $a\in \Omega$ の開近傍 $U\subset \Omega$ で次を満たすものが存在する。

  • $(1)$ $f(U)\subset \mathbb{C}$ は開集合。
  • $(2)$ $U\ni z\mapsto f(z)\in f(U)$ は全単射であり、この逆関数は正則関数である。

そして $U\ni z\mapsto f(z)\in f(U)$ の逆関数を $g:f(U)\rightarrow \mathbb{C}$ とおくと 、 $$ g'(w)=f'(g(w))^{-1}\quad(\forall w\in f(U)) $$ が成り立つ。

証明

定理1.6より同一視 $$ \mathbb{C}=\mathbb{R}^2,\quad x_1+ix_2=(x_1,x_2),\quad f(x_1+ix_2)=(f_1(x_1,x_2),f_2(x_1,x_2)) $$ によって、 $$ \Omega\ni (x_1,x_2)\mapsto (f_1(x_1,x_2),f_2(x_1,x_2))\in \mathbb{R}^2\quad\quad(*) $$ は $C^1$ 級であり、任意の $(x_1,x_2)\in \Omega$ における $(*)$ の微分を $m_f(x_1,x_2)\in\mathbb{M}_{2\times 2}(\mathbb{R})$ とおくと 、 $$ m_f(x_1,x_2)=\begin{pmatrix}{\rm Re}(f'(x_1+ix_2))&-{\rm Im}(f'(x_1+ix_2))\\{\rm Im}(f'(x_1+ix_2))&{\rm Re}(f'(x_1+ix_2))\end{pmatrix}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。よって $a=a_1+ia_2=(a_1,a_2)\in \mathbb{R}^2$ と表すと、 $$ 0<\lvert f'(a)\rvert={\rm Re}(f'(a))^2+{\rm Im}(f'(a))^2={\rm det}(m_f(a_1,a_2)) $$ が成り立つので、逆関数定理(Euclid空間における微積分1定理7.1)より $a\in \Omega$ の開近傍 $U\subset \Omega$ で、$f(U)$ が $\mathbb{C}$ の開集合であり、 $$ U\ni (x_1,x_2)\mapsto (f_1(x_1,x_2),f_2(x_1,x_2))\in f(U)\quad\quad(***) $$ が全単射で、$(***)$ の逆関数 $$ g:f(U)\rightarrow U $$ が $C^1$ 級であるようなものが取れる。そして任意の $(y_1,y_2)=f(x_1,x_2)\in f(U)$ における $g$ の微分を $m_g(y_1,y_2)\in \mathbb{M}_{2\times 2}(\mathbb{R})$ とおくと 、逆行列の余因子行列による表示(速習「線形空間論」命題5.10)と $(**)$ より、 $$ \begin{aligned} m_g(y_1,y_2)&=m_f(x_1,x_2)^{-1}=\frac{1}{{\rm det}(m_f(x_1,x_2))}{\rm Cof}(m_f(x_1,x_2))\\ &=\frac{1}{\lvert f'(x_1+ix_2)\rvert^2}\begin{pmatrix}{\rm Re}(f'(x_1+ix_2))&{\rm Im}(f'(x_1+ix_2))\\-{\rm Im}(f'(x_1+ix_2))&{\rm Re}(f'(x_1+ix_2))\end{pmatrix} \end{aligned} $$ となる。よって任意の $(y_1,y_2)=f(x_1,x_2)\in f(U)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\partial_1g_1(y_1,y_2)=\partial_2g_2(y_1,y_2)=\frac{1}{\lvert f'(x_1+ix_2)\rvert^2}{\rm Re}(f'(x_1+ix_2)),\\ &\partial_1g_2(y_1,y_2)=-\partial_2g_1(y_1,y_2)=-\frac{1}{\lvert f'(x_1+ix_2)\rvert^2}{\rm Im}(f'(x_1+ix_2)) \end{aligned} $$ であるから、定理1.6より $g:f(U)\ni f(z)\mapsto z\in \mathbb{C}$ は正則関数であり、任意の $w=f(z)\in f(U)$ における $g$ の複素微分は、 $$ g'(w)=\frac{1}{\lvert f'(z)\rvert^2}({\rm Re}(f('z))-i{\rm Im}(f'(z)))=\frac{1}{\lvert f'(z)\rvert^2}\overline{f'(z)}=f'(z)^{-1}=f'(g(w))^{-1} $$ である。

2. 冪級数関数

定義2.1(冪級数の収束半径)

$X$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間、$(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ を $X$ の点列とする。 $$ R:=\frac{1}{\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}}\in [0,\infty]\quad\quad(*) $$ (ただし右辺の分母が $0$ の場合は $R=\infty$とする。)を、$(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径と言う。この名称の妥当性については次の命題2.2 を参照。

命題2.2(冪級数の収束半径に関する基本的事実)

$\mathbb{C}$ 上のBanach空間 $X$ の点列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ に対して、定義2.1の $(*)$ によって定まる $R\in [0,\infty]$ について、次が成り立つ。

  • $(1)$ $\lvert \lambda\rvert<R$ を満たす任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ に対し $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n\lambda^n$ は絶対収束(位相線形空間1:ノルムと内積定義5.5)する。
  • $(2)$ $\lvert\lambda\rvert>R$ を満たす任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ に対し $(c_n\lambda^n)_{n\in\mathbb{Z}_+}$ は収束しない。(特に $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n\lambda^n$ は収束しない。)

証明

  • $(1)$ 

$$ \lvert \lambda\rvert<R=\frac{1}{\inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}}\quad\iff\quad \inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}<\frac{1}{\lvert \lambda\rvert} $$ より、$\lvert \lambda\rvert<R$ ならばある$\beta\in (0,1)$ に対し、 $$ \inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}<\frac{\beta}{\lvert\lambda\rvert} $$ が成り立つ。よって下限の定義より、 $$ \sup_{k\geq n_0}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}<\frac{\beta}{\lvert \lambda\rvert}\quad(\forall k\geq n_0) $$ を満たす $n_0\in \mathbb{N}$ が存在する。これより、 $$ \lVert c_k\lambda^k\rVert<\beta^k\quad(\forall k\geq n_0) $$ であり、$\beta\in (0,1)$ より、 $$ \sum_{k\geq n_0}\lVert c_k\lambda^k\rVert\leq\sum_{k\geq n_0}\beta^k<\infty $$ である。ゆえに $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n\lambda^n$ は絶対収束する。

  • $(2)$ $$ \lvert \lambda\rvert>R=\frac{1}{\inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}}\quad\iff\quad \inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}>\frac{1}{\lvert \lambda\rvert} $$ より、$\lvert \lambda\rvert>R$ ならば、 $$ \sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\lVert c_k\rVert}>\frac{1}{\lvert\lambda\rvert}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、上限の定義より任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $k\geq n$ で、 $$ \sqrt[k]{\lVert c_{k}\rVert}>\frac{1}{\lvert\lambda\rvert}, $$ すなわち、 $$ \lVert c_k\lambda^k\rVert>1 $$ を満たすものが取れる。よって $(c_n\lambda^n)_{n\in\mathbb{Z}_+}$ は収束しない。

命題2.3(ratioテスト)

$(0,\infty)$ の点列 $(a_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ に対し、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}\in [0,1) $$ が存在するとする。このとき $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}a_n$ は収束する。

証明

$$ \lim_{n\rightarrow\infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}<\alpha<1 $$ なる $\alpha$ を取る。十分大きい $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$ \frac{a_{n+1}}{a_n}<\alpha\quad(\forall n\geq n_0) $$ となるから、 $$ a_{n}<\alpha^{n-n_0}a_{n_0}\quad(\forall n\geq n_0) $$ である。 $$ \sum_{n\geq n_0}a_n\leq \sum_{n\geq n_0}\alpha^{n-n_0}a_{n_0}<\infty $$ であるから $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}a_n$ は収束する。

命題2.4(冪級数の収束半径の保存)

$\mathbb{C}$ 上のBanach空間 $X$ の点列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ に対し、 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径 $R$ と $((n+1)c_{n+1})_{n\in \mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径 $R'$ は一致する。

証明

$\lvert \lambda\rvert<R'$ なる任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ \lVert c_{n+1}\lambda^{n+1}\rVert\leq \lvert\lambda\rvert\lVert (n+1)c_{n+1}\lambda^n\rVert $$ であり命題2.3より右辺を第 $n$ 項とする級数は収束するので、$\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n\lambda^n$ は(絶対)収束する。よって命題2.2より $\lvert\lambda\rvert\leq R$ である。$\lambda$ の任意性より $R'\leq R$ が成り立つ。 $\lvert\lambda\rvert<R$ なる任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ を取り、$\lvert\lambda\rvert<r<R$ なる $r$ を取る。命題2.3より $(c_nr^n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ は収束するので、ある $M\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert c_n\rVert r^n\leq M\quad(\forall n\in \mathbb{Z}_+) $$ となる。よって、 $$ \lVert (n+1)c_{n+1}\lambda^n\rVert \leq M\frac{n+1}{r}\left(\frac{\lvert\lambda\rvert}{r}\right)^n\quad(\forall n\in \mathbb{Z}_+) $$ であり、命題2.3より $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}M\frac{n+1}{r}\left(\frac{\lvert\lambda\rvert}{r}\right)^n<\infty$ であるから $\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}(n+1)c_{n+1}\lambda^n$ は絶対収束する。ゆえに $\lvert\lambda\rvert\leq R'$ であるから $\lambda$ の任意性より $R\leq R'$ が成り立つ。

定理2.5(冪級数関数の複素微分可能性)

$\mathbb{C}$ 上のBanach空間 $X$ の点列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ に対し、 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径を $R\in (0,\infty]$ とおく。このとき、 $$ f(\lambda):=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n\lambda^n\quad(\forall \lambda\in B(0,R)=\{\lambda\in\mathbb{C}:\lvert\lambda\rvert<R\}) $$ として定義される関数 $f:B(0,R)\rightarrow X$ は任意の $k\in \mathbb{Z}_+$ に対し $k$ 階複素導関数 $f^{(k)}:B(0,R)\rightarrow X$ を持ち、 $$ f^{(k)}(\lambda)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(n+k)!}{n!}c_{n+k}\lambda^n\quad(\forall \lambda\in B(0,R)) $$ が成り立つ。(命題2.4より $(\frac{(n+k)!}{n!}c_{n+k})_{n\in \mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径は $R$ であることに注意。)

証明

$f$ が任意の点 $\lambda_0\in B(0,R)$ において複素微分可能であり、 $$ f'(\lambda_0)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}(n+1)c_{n+1}\lambda_0^n $$ が成り立つことを示せば十分である。$\lvert\lambda_0\rvert<r<R$ なる $r$ を取り、 $$ U:=B(\lambda_0,\text{ } r-\lvert \lambda_0\rvert)=\{\lambda\in \mathbb{C}: \lvert\lambda-\lambda_0\rvert<r-\lvert\lambda_0\rvert\}\subset B(0,r) $$ とおき、$F:U\rightarrow X$ を、 $$ F(\lambda):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f(\lambda)-f(\lambda_0)}{\lambda-\lambda_0}&(\lambda\neq\lambda_0)\\ \sum_{n\in \mathbb{Z}_+}(n+1)c_{n+1}\lambda_0^n&(\lambda=\lambda_0)\end{array}\right. $$ として定義する。$F$ が連続であることを示せばよい。$\lambda\neq\lambda_0$ のとき、 $$ F(\lambda)=\frac{1}{\lambda-\lambda_0}\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_{n+1}(\lambda^{n+1}-\lambda_0^{n+1})=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}c_{n+1}\sum_{k=0}^{n}\lambda^k\lambda_0^{n-k} $$ であるから、 $$ F(\lambda)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_{n+1}\sum_{k=0}^{n}\lambda^k\lambda_0^{n-k}\quad(\forall \lambda\in U) $$ である。そこで任意の $N\in \mathbb{N}$ に対し連続関数 $F_N:U\rightarrow X$ を、 $$ F_N(\lambda):=\sum_{n=0}^{N}c_{n+1}\sum_{k=0}^{n}\lambda^k\lambda_0^{n-k}\quad(\forall \lambda\in U) $$ として定義する。$N<M$ なる任意の $N,M\in \mathbb{N}$ と任意の $\lambda\in U$ に対し $\lvert\lambda\rvert\leq \lvert\lambda-\lambda_0\rvert+\lvert\lambda_0\rvert<r$ より、 $$ \begin{aligned} \sup_{\lambda\in U}\lvert F_M(\lambda)-F_N(\lambda)\rvert \leq \sum_{n=N+1}^{M}(n+1)\lVert c_{n+1}\rVert r^n \end{aligned} $$ であり、命題2.4より $\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}(n+1)c_{n+1}r^n$ は絶対収束するので $(F_N)_{N\in\mathbb{N}}$ は一様Cauchy条件を満たす。よって距離空間の位相の基本的性質命題8.5より $(F_N)_{N\in \mathbb{N}}$ は $F$ に一様収束するので、距離空間の位相の基本的性質命題8.3より $F$ は連続である。

3. $\mathbb{C}$ 内の(閉)路、サイクル、複素線積分の定義

定義3.1($\mathbb{C}$ 内の曲線、路、閉路、サイクル, 跡)

$\mathbb{C}$ 内の曲線とは、ある有界閉区間 $I$ 上で定義された $\mathbb{C}$ 値連続関数 $c:I\rightarrow \mathbb{C}$ であって、$I$ を含む開区間上で定義された $C^1$ 級関数に拡張できるもののことを言う。$\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ とみなしたとき$\mathbb{C}$ 内の曲線は、ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.1における $\mathbb{R}^2$ 内の曲線( $1$ 次の曲方体)である。$\mathbb{C}$ 内の曲線 $c:[a,b]\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $c(a)$ を $c$ の始点、$c(b)$ を $c$ の終点と言う。
$\mathbb{C}$ 内の曲線の形式的な和 $c=c_1+\ldots+c_n$ が $\mathbb{C}$ 内の路であるとは、各 $k\in\{1,\ldots,n-1\}$ に対し $c_k$ の終点と $c_{k+1}$ の始点が一致する場合を言う。そしてさらに $c_n$ の終点と $c_1$ の始点が一致するならば $c$ を $\mathbb{C}$ 内の閉路と言う。
$\mathbb{C}$ 内の閉路の和のことをサイクルと言う。
$\mathbb{C}$ 内の曲線 $c:I\rightarrow \mathbb{C}$ に対し $c^*=c(I)$ を $c$ の跡と言う。$\mathbb{C}$ 内の曲線の和 $c=c_1+\ldots+c_n$ に対し、 $$ c^*=c_1^*\cup\ldots\cup c_n^* $$ を$c$の跡と言う。$\mathbb{C}$ の部分集合 $\Omega$ に対し $c^*\subset \Omega$ であるとき $c$ は $\Omega$ に含まれると言う。
曲線 $c$ と逆の曲線(ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.4)を $-c$ と表すことがある。

定義3.2(複素線積分)

$\mathbb{C}$ 内の曲線の和 $c=c_1+\ldots+c_n$と、その跡 $c^*$ 上で定義された連続関数 $f:c^*\rightarrow\mathbb{C}$ を考える。$f_1,f_2:c^*\rightarrow\mathbb{R}$ を $f$ の実部と虚部とし、$(x_1,x_2)$ を $\mathbb{R}^2$ の標準座標とする。$\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ とみなし、$c^*\subset \mathbb{R}^2$ 上で定義された $\mathbb{R}$ の $1$ 階連続微分形式 $$ f_1dx_1-f_2dx_2,\quad f_2dx_1+f_1dx_2 $$ の $c$ 上での積分(ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.2定義25.5を参照) $$ \begin{aligned} &\int_{c}(f_1dx_1-f_2dx_2)=\sum_{k=1}^{n}\int_{c_k}(f_1dx_1-f_2dx_2),\\ &\int_{c}(f_2dx_1+f_1dx_2)=\sum_{k=1}^{n}\int_{c_k}f_2dx_1+f_1dx_2) \end{aligned} $$ を考え、$f$ の $c$ 上での複素線積分を、 $$ \int_{c}f(z)dz:=\int_{c}(f_1dx_1-f_2dx_2)+i\int_{c}(f_2dx_1+f_1dx_2) $$ と定義する。 $$ \int_{c}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}\int_{c_k}f(z)dz $$ である。

注意3.3(複素線積分のパラメータ表示)

$\mathbb{C}$ 内の曲線 $c:I\rightarrow\mathbb{C}$ と連続関数 $f:c^*\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{c}f(z)dz=\int_{I}f(c(t))c'(t)dt $$ である。実際、$c^*\subset \mathbb{R}^2$ 上の $1$ 階微分形式 $f_1dx_1-f_2dx_2$ と $f_1dx_2+f_2dx_1$ の $c$ による引き戻し(ベクトル解析2:微分形式定義9.8ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.2を参照)は、 $$ \begin{aligned} &(c^*(f_1dx_1-f_2dx_2))_t=f_1(c(t))c_1'(t)dt-f_2(c(t))c_2'(t)dt={\rm Re}(f(t)c'(t))dt,\\ &(c^*(f_1dx_2+f_2dx_1))_t=f_1(c(t))c_2'(t)dt+f_2(c(t))c_1'(t)dt={\rm Im}(f(t)c'(t))dt \end{aligned} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} \int_{c}f(z)dz&=\int_{c}(f_1dx_1-f_2dx_2)+i\int_{c}(f_2dx_1+f_1dx_2)\\ &=\int_{I}{\rm Re}(f(t)c'(t))dt+i\int_{I}{\rm Im}(f(t)c'(t))dt\\ &=\int_{I}f(t)c'(t)dt \end{aligned} $$ である。

定義3.4(曲線の(和の)長さ)

$\mathbb{C}$ 内の曲線 $c:I\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $c$ の長さを、 $$ \ell(c):=\int_{I}\lvert c'(t)\rvert dt $$ と定義する。また $\mathbb{C}$ 内の曲線の和 $c=c_1+\ldots+c_n$ に対し $c$ の長さを、 $$ \ell(c):=\ell(c_1)+\ldots+\ell(c_n) $$ と定義する。

命題3.5(有界線形汎関数としての複素線積分)

$\mathbb{C}$ 内の曲線の和 $c$ に対し、 $$ C(c^*)\ni f\mapsto \int_{c}f(z)dz\in \mathbb{C} $$ (ただし $C(c^*)$ はコンパクト空間 $c^*$ 上の複素数値連続関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れたBanach空間である。)は有界線形汎関数であり、そのノルムは $c$ の長さ $\ell(c)$ 以下である。

証明

曲線 $c_k:I_k\rightarrow\mathbb{C}$ $(k=1,\ldots,n)$ に対し $c=c_1+\ldots+c_n$ とすると注意3.3より、 $$ \int_{c}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}\int_{c_k}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}\int_{I_k}f(c_k(t))c_k'(t)dt $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} \left\lvert\int_{c}f(z)dz\right\rvert&\leq \sum_{k=1}^{n}\left\lvert\int_{I_k}f(c_k(t))c_k'(t)dt\right\rvert \leq \sum_{k=1}^{n}\lVert f\rVert\int_{I_k}\lvert c_k'(t)\rvert dt=\lVert f\rVert\ell(c) \end{aligned} $$ である。これより $(*)$ は有界線形汎関数でノルムは $\ell(c)$ 以下である。

命題3.6(正則関数の複素導関数の複素線積分)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数(定義1.4)とする。このとき $\Omega$ に含まれる任意のサイクル $c$ (定義3.1)に対し、 $$ \int_{c}f'(z)dz=0 $$ が成り立つ。

証明

サイクルは閉路の和であるから、$c$ は閉路であるとして示せば十分である。曲線 $c_k:[a_k,b_k]\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $c=c_1+\ldots+c_n$ とし、 $$ c_k(b_k)=c_{k+1}(a_{k+1})\quad(k=1,\ldots,n-1),\quad c_n(b_n)=c_1(a_1) $$ とする。$(x_1,x_2)$ を $\mathbb{R}^2$ の標準座標、$f_1,f_2:\Omega\rightarrow\mathbb{R}$ を $f$ の実部と虚部とする。Cauchy-Riemannの関係式(定理1.6)より、 $$ \begin{aligned} &f'_1dx_1-f'_2dx_2=\frac{\partial f_1}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f_1}{\partial x_2}dx_2=df_1,\\ &f'_2dx_1+f'_1dx_2=\frac{\partial f_2}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f_2}{\partial x_2}dx_2=df_2 \end{aligned} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} \int_{c_k}f'(z)dz&=\int_{c_k}(f'_1dx_1-f'_2dx_2)+i\int_{c_k}(f'_2dx_1+f'_1dx_2)\\ &=\int_{c_k}df_1+i\int_{c_k}df_2\\ &=f(c_k(b_k))-f(c_k(a_k))\quad(k=1,\ldots,n) \end{aligned} $$ である。*1よって $(*)$ より、 $$ \int_{c}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}\int_{c_k}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}(f(c_k(b_k))-f(c_k(a_k))) =0 $$ である。

4. 凸開集合におけるCauchyの積分定理

定義4.1($\mathbb{C}$ における線分)

任意の $\alpha,\beta\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ [0,1]\ni t\mapsto \alpha+t(\beta-\alpha)\in \mathbb{C} $$ なる曲線を $\alpha$ を始点、$\beta$ を終点とする $\mathbb{C}$ の線分と言い、$[\alpha,\beta]$ と表す。

注意4.2

線分 $[\alpha,\beta]$ の長さ(定義3.4)は、 $$ \ell([\alpha,\beta])=\int_{[0,1]}\lvert \beta-\alpha\rvert dt=\lvert\beta-\alpha\rvert $$ である。また $[\alpha,\beta]$ と逆の曲線は $-[\alpha,\beta]=[\beta,\alpha]$ であり、跡 $[\alpha,\beta]^*=[\beta,\alpha]^*=\{\alpha+t(\beta-\alpha):t\in [0,1]\}$ 上で定義された任意の連続関数 $f:[\alpha,\beta]^*\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{[\beta,\alpha]}f(z)dz=\int_{-[\alpha,\beta]}f(z)dz=-\int_{[\alpha,\beta]}f(z)dz $$ である。

定義4.3(三角形閉路)

任意の $\alpha,\beta,\gamma\in \mathbb{C}$ に対し閉路 $$ \partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma):=[\alpha,\beta]+[\beta,\gamma]+[\gamma,\alpha] $$ を定義する。

注意4.4

三角形閉路 $\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)$ の長さ(定義3.4)は、 $$ \ell(\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma))=\ell([\alpha,\beta])+\ell([\beta,\gamma])+\ell([\gamma,\alpha])= \lvert\beta-\alpha\rvert+\lvert\gamma-\beta\rvert+\lvert \alpha-\gamma\rvert $$ である。また跡 $\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)=[\alpha,\beta]^*\cup[\beta,\gamma]^*\cup[\gamma,\alpha]^*$ 上で定義された任意の連続関数 $f:\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=\int_{[\alpha,\beta]}f(z)dz+\int_{[\beta,\gamma]}f(z)dz+\int_{[\gamma,\alpha]}f(z)dz $$ である。

定義4.5(原始関数)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合とする。$F:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ が $f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ の原始関数であるとは $F'(z)=f(z)$ $(\forall z\in \Omega)$ が成り立つことを言う。

命題4.6(凸開集合上の連続関数が原始関数を持つための条件)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を凸開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を連続関数とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $f$ は原始関数を持つ。
  • $(2)$ $\Omega$ 内の任意のサイクル $c$(定義3.1)に対し、 $$ \int_{c}f(z)dz=0 $$ が成り立つ。
  • $(3)$ 任意の $\alpha,\beta,\gamma\in\Omega$ に対し、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=0\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明 $(1)\Rightarrow(2)$ は命題3.6による。$(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。$(3)\Rightarrow(1)$ を示す。$(3)$ が成り立つとする。 任意の $\alpha\in \Omega$ を取り固定し、 $$ F(z):=\int_{[\alpha,z]}f(w)dw\quad(\forall z\in \Omega) $$ として $F:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。$(*)$ より、 $$ \begin{aligned} F(z)-F(z_0)&=\int_{[\alpha,z]}f(w)dw-\int_{[\alpha,z_0]}f(w)dw=\int_{[z_0,z]}f(w)dw\quad(\forall z_0,z\in \Omega) \end{aligned} $$ であるから、任意の $z_0,z\in\Omega$ に対し命題3.5より、 $$ \begin{aligned} \left\lvert \frac{F(z)-F(z_0)}{z-z_0}-f(z_0)\right\rvert =\frac{1}{\lvert z-z_0\rvert}\left\lvert\int_{[z_0,z]}f(w)-f(z_0)dw\right\rvert \leq \underset{w\in[z_0,z]^*}{\rm max}\lvert f(w)-f(z_0)\rvert \end{aligned} $$ である。ここで $f$ は $z_0$ において連続であるから、 $$ \lim_{z\rightarrow z_0}\underset{w\in[z_0,z]^*}{\rm max}\lvert f(w)-f(z_0)\rvert=0 $$ である。よって $F'(z_0)=f(z_0)$ であるから $F$ は $f$ の原始関数である。

定理4.7(凸開集合におけるCauchyの積分定理)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を凸開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を連続関数とする。そしてある $p\in \Omega$ に対し $\Omega\backslash \{p\}$ 上で $f$ は正則関数(定義1.4)であるとする。このとき $\Omega$ に含まれる任意のサイクル $c$(定義3.1)に対し、 $$ \int_{c}f(z)dz=0 $$ が成り立つ。

証明

命題4.6より、任意の $\alpha,\beta,\gamma\in\Omega$ に対し、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=0\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$\alpha,\beta,\gamma$ のうちのいずれかが等しい場合、もしくは $\alpha,\beta,\gamma$ のうちのいずれかが他の $2$ 点を端点とする線分上に乗っている場合、$(*)$ は明らかに成り立つので、それ以外の場合を考える。$\alpha,\beta,\gamma$ を頂点とする三角形を、 $$ K:=\{t_1\alpha+t_2\beta+t_3\gamma:t_1,t_2,t_3\geq0, t_1+t_2+t_3=1\}\subset \Omega $$ とおく*2

  • $(1)$ $p\in \Omega\backslash K$ の場合を示す。$\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ 内の $2$ 次の $C^\infty$ 級曲方体(ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.1) $$ c:[0,1]\times [0,1]\ni (s,t)\mapsto (1-t)((1-s)\alpha+s\beta)+t\gamma\in \mathbb{C} $$ を定義する。$c$ の跡は、 $$ c^*=c([0,1]\times [0,1])=K\subset \Omega\backslash \{p\} $$ である。$c$ の境界(ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.6)$\partial c$ は、 $$ \partial c=[\alpha,\beta]+[\beta,\gamma]-[\alpha,\gamma]+[\gamma,\gamma] $$ であるので、 $$ \int_{\partial c}f(z)dz=\int_{[\alpha,\beta]}f(z)dz+\int_{[\beta,\gamma]}f(z)dz+\int_{[\gamma,\alpha]}f(z)dz=\int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz $$ である。$c^*=K$ を含む開集合 $\Omega\backslash \{p\}$ 上で定義された $\mathbb{R}^2$ の $1$ 階微分形式 $$ f_1dx_1-f_2dx_2,\quad f_2dx_1+f_1dx_2 $$ は $C^1$ 級であり、外微分の定義(ベクトル解析2:微分形式定義9.5)とCauchy-Riemannの関係式(定理1.6)より、 $$ d(f_1dx_1-f_2dx_2)=\left(\frac{\partial f_2}{\partial x_1}+\frac{\partial f_1}{\partial x_2}\right)dx_1\wedge dx_2=0, $$ $$ d(f_2dx_1+f_1dx_2)=\left(-\frac{\partial f_2}{\partial x_2}+\frac{\partial f_1}{\partial x_1}\right)dx_1\wedge dx_2=0 $$ であるから、Stokesの定理(ベクトル解析6:Stokesの定理定理25.7)より、 $$ \int_{\partial c}(f_1dx_1-f_2dx_2)=\int_{c}d(f_1dx_1-f_2dx_2)=0, $$ $$ \int_{\partial c}(f_2dx_1+f_1dx_2)=\int_{c}d(f_2dx_1+f_1dx_2)=0 $$ である。ゆえに、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=\int_{\partial c}f(z)dz= \int_{\partial c}(f_1dx_1-f_2dx_2)+i\int_{\partial c}(f_2dx_1+f_1dx_2)=0 $$ であるから $(*)$ が成り立つ。
  • $(2)$ $p$ が三角形 $K$ の頂点にある場合を示す。$p=\alpha$ であるとして示せば十分である。任意の $\epsilon\in (0,1)$ を取り、 $$ \beta':=\alpha+\epsilon(\beta-\alpha),\quad \gamma':=\alpha+\epsilon(\gamma-\alpha) $$ を定義する。このとき、 $$ \partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)=\partial\Delta(\alpha,\beta',\gamma')+\partial\Delta(\beta',\beta,\gamma')+\partial\Delta(\beta,\gamma,\gamma') $$ であるから、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz= \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta',\gamma')}f(z)dz+\int_{\partial\Delta(\beta',\beta,\gamma)}f(z)dz+\int_{\partial\Delta(\beta,\gamma,\gamma')}f(z)dz $$ である。$(1)$ より右辺の第二項と第三項は $0$ なので、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=\int_{\partial\Delta(\alpha,\beta',\gamma')}f(z)dz $$ である。よって命題3.5より、 $$ \begin{aligned} \left\lvert\int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz\right\rvert &=\left\lvert \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta',\gamma')}f(z)dz\right\rvert \leq \underset{z\in K}{\rm max}\lvert f(z)\rvert\ell(\partial\Delta(\alpha,\beta',\gamma'))\\ &=\underset{z\in K}{\rm max}\lvert f(z)\rvert\left(\lvert\alpha-\beta'\rvert+\lvert\beta'-\gamma'\rvert+\lvert \alpha-\gamma'\rvert\right)\\ &=\epsilon\text{ }\underset{z\in K}{\rm max}\lvert f(z)\rvert\left(\lvert\alpha-\beta\rvert+\lvert\beta-\gamma\rvert+\lvert \alpha-\gamma\rvert\right) \end{aligned} $$ である。ここで $\epsilon\in(0,\infty)$ は任意であるので $(*)$ が成り立つ。
  • $(3)$ $p$ が三角形 $K$ の辺上にある場合を示す。$p\in [\alpha,\beta]^*$ の場合を示せば十分である。このとき、 $$ \partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)=\partial\Delta(\alpha,p,\gamma)+\partial\Delta(p,\beta,\gamma) $$ であるから、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=\int_{\partial\Delta(\alpha,p,\gamma)}f(z)dz+\int_{\partial\Delta(p,\beta,\gamma)}f(z)dz $$ であり、$(2)$ より右辺の項はいずれも $0$ である。よって $(*)$ が成り立つ。
  • $(4)$ $p$ が三角形 $K$ の内部にある場合を示す。このとき、 $$ \partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)= \partial\Delta(\alpha,\beta,p)+\partial\Delta(\beta,\gamma,p)+\partial(\gamma,\alpha,p) $$ であるから、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz= \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,p)}f(z)dz+\int_{\partial¥Delta(\beta,\gamma,p)}f(z)dz+\int_{\partial(\gamma,\alpha,p)}f(z)dz $$ である。$(2)$ より右辺の項はいずれも $0$ であるから $(*)$ が成り立つ。

5. サイクルの回転数

命題5.1(複素線積分の基本命題)

$\mathbb{C}$ 内の曲線の和 $c$ と任意の連続関数 $f:c^*\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \mathbb{C}\backslash c^*\ni z\mapsto \int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw\in \mathbb{C}\quad\quad(*) $$ は何回でも複素微分可能であり、任意の $a\in \mathbb{C}\backslash c^*$ と、 $$ B(a,r)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<r\}\subset \mathbb{C}\backslash c^*\quad\quad(**) $$ なる任意の $r\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\left(\int_{c}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,r))\quad\quad(***) $$ が成り立つ。

証明

定理2.5より冪級数関数は何回でも複素微分可能であるので $(**)$ を満たす任意の $a\in \mathbb{C}\backslash c^*$ と $r\in (0,\infty)$ に対し $(***)$ が成り立つことを示せば十分である。任意の $z\in B(a,r)$ を取り固定する。任意の $w\in c^*$ に対し $\lvert w-a\rvert\geq r$ であるから、 $$ \frac{\lvert z-a\rvert}{\lvert w-a\rvert}<1\quad(\forall w\in c^*) $$ である。よって任意の $w\in c^*$ に対し $\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{(z-a)^n}{(w-a)^{n+1}}$ は絶対収束し、 $$ \frac{1}{w-z}=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{(z-a)^n}{(w-a)^{n+1}}\quad(\forall w\in c^*)\quad\quad(****) $$ である。$c^*$ はコンパクトであるから $\underset{w\in c^*}{\rm max}\frac{\lvert z-a\rvert}{\lvert w-a\rvert}$ が存在するので、一様Cauchy条件より $(****)$ の右辺は $c^*$ 上一様収束する((距離空間の位相の基本的性質)の命題8.5)。よって命題3.5より、 $$ \int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw=\int_{c}f(w)\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{(z-a)^n}{(w-a)^{n+1}}dw =\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\left(\int_{c}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n $$ であるから $(***)$ が成り立つ。

定義5.2(サイクルの回転数)

$\mathbb{C}$ の任意のサイクル(定義3.1)$c$ と任意の $z\in\mathbb{C}\backslash c^*$ に対し、 $$ {\rm Ind}_c(z):=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{dw}{w-z} $$ を $c$ の $z$ における回転数と言う。次の命題5.3より ${\rm Ind}_c(z)$ は整数である。

命題5.3(サイクルの回転数の基本性質)

$\mathbb{C}$ の任意のサイクル $c$ に対し次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $z\in \mathbb{C}\backslash c^*$ に対し $c$ の $z$ における回転数 ${\rm Ind}_c(z)$ は整数である。
  • $(2)$  任意の $n\in \mathbb{Z}$ に対し $\{z\in \mathbb{C}\backslash c^*:{\rm Ind}_c(z)=n\}$ は $\mathbb{C}\backslash c^*$ の開かつ閉の集合である。
  • $(3)$ 任意の連結集合 $C\subset \mathbb{C}\backslash c^*$ に対し ${\rm Ind}_c(C)$ は一点集合である。
  • $(4)$ 十分大きい $R\in (0,\infty)$ を取れば $\lvert z\rvert\geq R$ を満たす任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し ${\rm Ind}_c(z)=0$ である。

証明

  • $(1)$ サイクルは閉路の和である(定義3.1)から $c$ は閉路であるとして示せば十分である。そして適当にパラメータ変換することにより $c$ はある有界閉区間 $[a,b]$ 上で定義された区分的に $C^1$ 級の連続関数*3で $c(a)=c(b)$ なるものであるとしてよい。任意の $z\in \mathbb{C}\backslash c^*$ を取り固定する。ある $a=t_0<t_1<\ldots<t_n=b$ に対し $c$ は 各 $[t_{k-1},t_k]$ $(k=1,\ldots,n)$ 上で $C^1$ 級であり、 $$ \int_{c}\frac{dw}{w-z}=\sum_{k=1}^{n}\int_{t_{k-1}}^{t_k}\frac{c'(t)}{c(t)-z}dt =\int_{a}^{b}\frac{c'(t)}{c(t)-z}dt $$ である。そこで、 $$ f(t):=\int_{a}^{t}\frac{c'(s)}{c(s)-z}ds\quad(\forall t\in [a,b]) $$ とおく。このとき $f:[a,b]\ni t\mapsto f(t)\in \mathbb{C}$ は連続関数であり、各 $[t_{k-1},t_k]$ $(k=1,\ldots,n)$ 上で $C^1$ 級で、 $$ f'(t)=\frac{c'(t)}{c(t)-z}\quad(\forall t\in [t_{k-1},t_k],\text{ }k=1,\ldots,n) $$ である。よって、 $$ g(t):=\frac{\exp(f(t))}{c(t)-z}\quad(\forall t\in [a,b]) $$ とおくと、$g:[a,b]\rightarrow\mathbb{C}$ は連続関数であり、各 $[t_{k-1},t_k]$ $(k=1,\ldots,n)$ 上で $C^1$ 級で、 $$ g'(t)=f'(t)g(t)-\frac{c'(t)}{(c(t)-z)^2}g(t)=0\quad(\forall t\in [t_{k-1},t_k],\text{ }k=1,\ldots,n) $$ である。よって平均値の定理より、 $$ g(b)=g(t_n)=g(t_{n-1})=\ldots=g(t_0)=g(a) $$ であり、$c(a)=c(b)$ であることと合わせると、 $$ \exp\left(\int_{c}\frac{dw}{w-z}\right)=\exp(f(b))=\exp(f(a))=\exp(0)=1 $$ を得る。ゆえに、 $$ {\rm Ind}_c(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{dw}{w-z}\in \mathbb{Z} $$ が成り立つ。

$(2)$ 命題5.1より、 $$ {\rm Ind}_c:\mathbb{C}\backslash c^*\ni z\mapsto \frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{dw}{w-z}\in \mathbb{C}\quad\quad(*) $$ は連続関数であり、$(1)$ より任意の $n\in\mathbb{Z}$ に対し、 $$ \{z\in \mathbb{C}\backslash c^*:{\rm Ind}_c(z)=n\}=\{z\in \mathbb{C}\backslash c^*:n-1<{\rm Ind}_c(z)<n+1\} $$ である。よって $\{z\in \mathbb{C}\backslash c^*:{\rm Ind}_c(z)=n\}$ は $\mathbb{C}\backslash c^*$ の開かつ閉の集合である。

 
  • $(3)$ $(*)$ は連続関数であるから連結集合 $C\subset \mathbb{C}\backslash c^*$ に対し ${\rm Ind}_c(C)$ は連結である。よって $(1),(2)$ より ${\rm Ind}_c(C)$ は一点集合である。
  • $(4)$ $c$ の跡 $c^*$ はコンパクトであるから十分大きい $R_0\in (0,\infty)$ を取れば、 $$ z\in c^*\quad\Rightarrow\quad \lvert z\rvert\leq R_0 $$ となる。$\lvert z\rvert>R_0$ を満たす任意の $z\in \mathbb{C}$ と任意の $w\in c^*$ に対し、 $$ \lvert w-z\rvert\geq \lvert z\rvert-\lvert w\rvert\geq \lvert z\rvert-R_0 $$ であるから、 $$ z\in \mathbb{C},\quad \lvert z\rvert>R_0\quad\Rightarrow\quad \frac{1}{\lvert z-w\rvert}\leq\frac{1}{\lvert z\rvert-R_0} $$ である。よって命題3.5より、 $$ z\in \mathbb{C},\quad \lvert z\rvert>R_0\quad\Rightarrow\quad \lvert {\rm Ind}_c(z)\rvert =\left\lvert \frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{dw}{w-z}\right\rvert \leq\frac{\ell(c)}{2\pi}\frac{1}{\lvert z\rvert-R_0} $$ である。これより十分大きい $R\in (R_0,\infty)$ を取れば、 $$ z\in \mathbb{C},\quad \lvert z\rvert>R_0\quad\Rightarrow\quad \lvert {\rm Ind}_c(z)\rvert<\frac{\ell(c)}{2\pi}¥frac{1}{R-R_0}<1 $$ となる。$(1)$ よりこれは、 $$ z\in\mathbb{C},\quad \lvert z\rvert>R_0\quad\Rightarrow\quad \lvert {\rm Ind}_c(z)\rvert=0 $$ を意味する。

命題5.4(反時計周りの円周閉路の回転数)

任意の $\alpha\in\mathbb{C}$ と $r\in (0,\infty)$ に対し、 $$ c:[0,2\pi]\ni \theta\mapsto \alpha+re^{i\theta}\in \{z\in \mathbb{C}:\lvert z-\alpha\rvert=r\} $$ なる閉路の回転数は、 $$ {\rm Ind}_c(z)=\left\{\begin{array}{cl}1&(\lvert z-\alpha\rvert<r)\\ 0&(\lvert z-\alpha\rvert>r)\end{array}\right. $$ を満たす。

証明

$B(a,r)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-\alpha\rvert<r\}\subset \mathbb{C}\backslash c^*$ は連結であるから命題5.3の $(3)$ より任意の $z\in B(\alpha,r)$ に対し、 $$ {\rm Ind}_c(z)={\rm Ind}_c(\alpha)=\frac{1}{2\pi i}\int_{0}^{2\pi}\frac{c'(\theta)}{c(\theta)-\alpha}d\theta =\frac{1}{2\pi i}\int_{0}^{2\pi}\frac{ire^{i\theta}}{re^{i\theta}}d\theta=1 $$ である。また $\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-\alpha\rvert>r\}\subset \mathbb{C}\backslash c^*$ は非有界な連結集合であるから命題5.3の $(3),(4)$ より $\lvert z-a\rvert>r$ なる任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し ${\rm Ind}_c(z)=0$ である。

定義5.5(反時計周りの円周閉路に沿った複素線積分の表記)

任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ と $r\in (0,\infty)$ に対し閉路 $$ c:[0,2\pi]\ni \theta\mapsto \alpha+re^{i\theta}\in \{z\in \mathbb{C}:\lvert z-\alpha\rvert=r\} $$ なる閉路上の複素線積分を、 $$ \int_{\partial B(\alpha,r)}f(z)dz:=\int_{c}f(z)dz $$ と表す。

命題5.6(凸開集合におけるCauchyの積分公式)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を凸開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。このとき $\Omega$ に含まれる任意のサイクル $c$ と任意の $z\in \Omega\backslash c^*$ に対し、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw=f(z){\rm Ind}_c(z) $$ が成り立つ。

証明

任意の $z\in \Omega\backslash c^*$ に対し $g:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(w):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f(w)-f(z)}{w-z}&(w\neq z)\\ f'(w)&(w=z)\end{array}\right. $$ と定義すると $g$ は連続関数であり $\Omega\backslash \{z\}$ 上で正則関数である。よって定理4.7より、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw-f(z){\rm Ind}_c(z)= \frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)-f(z)}{w-z}dw= \int_{c}g(w)dw=0 $$ である。

6. 正則関数の解析性、Liouvilleの定理、一致の定理

定理6.1(正則関数の解析性)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。このとき $f$ は $\Omega$ 上で何回でも複素微分可能であり、$\Omega$ に含まれる $\mathbb{C}$ の任意の開球 $$ B(a,R)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<R\}\subset \Omega $$ に対し、 $$ f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,R))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。また、 $$ \lvert f^{(n)}(a)\rvert\leq \frac{n!}{R^n}\sup_{z\in B(a,R)}\lvert f(z)\rvert\quad(\forall n\in\mathbb{Z}_+)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。

証明

$\Omega$ に含まれる $\mathbb{C}$ の任意の開球 $B(a,R)$ と任意の $r\in (0,R)$ を取る。$f$ が $\Omega$ 上で何回でも複素微分可能であることを示すには $B(a,r)$ 上で $f$ が何回でも複素微分可能であることを示せば十分である。$a$ を中心とする半径 $r$ の円周に沿った反時計回りの円周閉路は $B(a,R)$ に含まれるから、凸開集合におけるCauchyの積分公式(命題5.6)と命題5.4より、 $$ f(z)={\rm Ind}_{\partial B(a,r)}f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw\quad(\forall z\in B(a,r))\quad\quad(***) $$ が成り立つ。任意の $z\in B(a,r)$ に対し、 $$ \frac{\lvert z-a\rvert}{\lvert w-a\rvert}<1\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ であるから、絶対収束で、 $$ \frac{1}{w-z}=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{(z-a)^n}{(w-a)^{n+1}}\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ であり、 一様Cauchy条件より右辺は $\partial B(a,r)$ 上で一様収束する(距離空間の位相の基本的性質命題8.5)。よって命題3.5より、 $$ f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw= \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,r))\quad\quad(****) $$ が成り立つ。冪級数関数は何回でも複素微分可能である(定理2.5)から $f$ は $B(a,r)$ 上(したがって $\Omega$ 上)で何回でも複素微分可能である。そして定理2.5と $(****)$ より、 $$ \frac{f^{(n)}(a)}{n!}=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\quad(\forall n\in\mathbb{Z}_+)\quad\quad(*****) $$ であり、 $$ f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,r))\quad\quad(******) $$ である。ここで $(******)$ と $r\in (0,R)$ の任意性より $(*)$ が成り立つ。また $(*****)$ より任意の $n\in\mathbb{Z}_+$ に対し、 $$ \begin{aligned} \lvert f^{(n)}(a)\rvert&=\frac{n!}{2\pi}\left\lvert \int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right\rvert\leq \frac{n!}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}\left\lvert\frac{f(a+re^{i\theta})}{r^{n+1}}ire^{i\theta}\right\rvert d\theta\\ &\leq \frac{n!}{2\pi}\sup_{z\in B(a,R)}\lvert f(z)\rvert \frac{2\pi}{r^n}=\frac{n!}{r^n}\sup_{z\in B(a,R)}\lvert f(z)\rvert \end{aligned} $$ であり、$r\in (0,R)$ は任意であるから $(**)$ が成り立つ。

系6.2(Moreraの定理)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を凸開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を連続関数とする。もし任意の $\alpha,\beta,\gamma\in\Omega$ に対し、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}f(z)dz=0 $$ が成り立つならば $f$ は正則関数である。

証明

命題4.6より $f$ は原始関数 $F:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を持つ。このとき $F$ は正則関数であるから定理6.1より何回でも複素微分可能である。よって $f=F'$ は何回でも複素微分可能であるので正則関数である。

定義6.3(整関数)

$\mathbb{C}$ 上で定義された正則関数を整関数と言う。

定理6.4(Liouvilleの定理)

有界な整関数は定数関数である。

証明

$f:\mathbb{C}\rightarrow\mathbb{C}$ を有界な整関数とする。定理6.1の $(*)$ より、 $$ f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{f^{(n)}(0)}{n!}z^n\quad(\forall z\in \mathbb{C}) $$ が成り立つ。また定理6.1の $(**)$ より任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \lvert f^{(n)}(0)\rvert\leq \frac{n!}{R^n}\sup_{z\in \mathbb{C}}\lvert f(z)\rvert\quad(\forall R\in (0,\infty)) $$ であり $f$ は有界であるから $f^{(n)}(0)=0$ である。よって $f(z)=f(0)$ $(\forall z\in \mathbb{C})$ であるから $f$ は定数関数である。

補題6.5

$\Omega\subset\mathbb{C}$ を連結開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。もしある $a\in \Omega$ に対し $f^{(n)}(a)=0$ $(\forall n\in\mathbb{Z}_+)$ が成り立つならば $f(z)=0$ $(\forall z\in \Omega)$ が成り立つ。

証明

$$ U:=\bigcap_{n\in\mathbb{Z}_+}\{z\in \Omega:f^{(n)}(z)=0\}\neq\emptyset $$ とおく。各 $f^{(n)}$ は連続であるから $U$ は $\Omega$ の閉集合である。また任意の $a\in U$ に対し $B(a,r)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<r\}\subset\Omega$ なる $r\in (0,\infty)$ を取ると、定理6.1より、 $$ f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n=0\quad(\forall z\in B(a,r)) $$ であるから $B(a,r)\subset U$ である。よって $U$ は $\Omega$ の開集合でもある。ゆえに $\Omega$ の連結性より $\Omega=U$ であるから $f(z)=0$ $(\forall z\in \Omega)$ である。

定理6.6(一致の定理)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を連結開集合、$f,g:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。そして次を満たすような $\Omega$ の点列 $(z_n)_{n\in\mathbb{N}}$ と $a\in \Omega$ が存在すると仮定する。

  • $(1)$ 任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $f(z_n)=g(z_n)$.
  • $(2)$ $\lim_{n\rightarrow\infty}z_n=a$.
  • $(3)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $z_n\neq a$.

このとき $f(z)=g(z)$ $(\forall z\in \Omega)$ が成り立つ。

証明

$h=f-g:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ とおく。補題6.5より $h^{(n)}(a)=0$ $(\forall n\in\mathbb{Z}_+)$ が成り立つことを示せばよい。そこで $h^{(n)}(a)\neq0$ なる $n\in\mathbb{Z}_+$ が存在すると仮定して矛盾を導く。$h^{(n)}(a)\neq0$ なる $n\in \mathbb{Z}_+$ で最小のものを $m$ とおく。$(1),(2)$ より $h^{(0)}(a)=h(a)=0$ であるから $m\geq1$ である。定理6.1より $B(a,r)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<r\}\subset \Omega$ なる $r\in (0,\infty)$ を取れば、 $$ h(z)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{h^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n=\sum_{n\geq m}\frac{h^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,r)) $$ と表される。そこで $k:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ k(z):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{h(z)}{(z-a)^m}&(z\neq a)\\ h^{(m)}(a)&(z=a)\end{array}\right. $$ として定義すると、 $$ k(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{h^{(m+n)}(a)}{(m+n)!}(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,r)) $$ であるから $k$ は正則関数である。$(1),(3)$ より、 $$ k(z_n)=\frac{h(z_n)}{(z-a)^m}=0\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから $(2)$ より、 $$ h^{(m)}(a)=k(a)=\lim_{n\rightarrow\infty}k(z_n)=0 $$ である。よって $h^{(m)}(a)\neq0$ に矛盾する。

7. Cauchyの積分公式とCauchyの積分定理

補題7.1

$c$ を $\mathbb{C}$ 内の曲線の和とし、$K\subset \mathbb{C}$ をコンパクト集合とする。そして $f:K\times c^*\rightarrow\mathbb{C}$ を連続関数とする。このとき、 $$ K\ni z\mapsto \int_{c}f(z,w)dw\in \mathbb{C}\quad\quad(*) $$ は連続である。

証明

$K\times c^*$ はコンパクトであるから $f:K\times c^*\rightarrow\mathbb{C}$ は一様連続(距離空間の位相の基本的性質定理7.3)である。また命題3.5より任意の $z_1,z_2\in K$ に対し、 $$ \left\lvert \int_{c}f(z_1,w)dw-\int_{c}f(z_2,w)dw\right\rvert =\left\lvert\int_{c}(f(z_1,w)-f(z_2,w))dw\right\rvert \leq \ell(c)\underset{w\in c^*}{\rm max}\lvert f(z_1,w)-f(z_2,w)\rvert $$ である。よって $(*)$ は連続である。

補題7.2(二重複素線積分の順序の入れ替え)

$c_1,c_2$ をそれぞれ $\mathbb{C}$ 内の曲線の和とし、$f:c_1^*\times c_2^*\rightarrow\mathbb{C}$ を連続関数とする。このとき、 $$ c_1^*\ni z\mapsto\int_{c_2}f(z,w)dw\in \mathbb{C},\quad\quad(*) $$ $$ c_2^*\ni w\mapsto \int_{c_1}f(z,w)dz\in \mathbb{C}\quad\quad(**) $$ はそれぞれ連続関数であり、 $$ \int_{c_1}\left(\int_{c_2}f(z,w)dw\right)dz=\int_{c_2}\left(\int_{c_1}f(z,w)dz\right)dw\quad\quad(***) $$ が成り立つ。

証明

$(*), (**)$ が連続関数であることは補題7.1による。今、任意の連続関数 $\varphi_k:c_k^*\rightarrow\mathbb{C}$ $(k=1,2)$ に対し、 $$ \varphi_1\otimes\varphi_2:c_1^*\times c_2^*\ni (z,w)\mapsto \varphi_1(z)\varphi_2(w)\in\mathbb{C} $$ なる連続関数を定義し、このような連続関数の線形結合全体 $$ \text{span}\{\varphi_1\otimes\varphi_2:\varphi_k:c_k^*\rightarrow\mathbb{C}\text{ } (k=1,2)\text{ は連続関数 }\}\subset C(c_1^*\times c_2^*)\quad\quad(****) $$ を考える。$(***)$ は $(****)$ の元に対しては明らかに成り立つ。そしてUrysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理27.6)とStone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理35.4)より $(****)$ は $C(c_1^*\times c_2^*)$ において稠密である。よって命題3.5より $(***)$ は任意の $f\in C(c_1^*\times c_2^*)$ に対して成り立つ。

補題7.3

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。そして $g:\Omega\times\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(z,w):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f(w)-f(z)}{w-z}&(z\neq w)\\f'(z)&(z=w)\end{array}\right. $$ と定義する。このとき $g$ は連続関数である。

証明

$z\neq w$ なる任意の $(z,w)\in \Omega\times \Omega$ において $g$ が連続であることは明らかである。そこで任意の $z_0\in\Omega$ を取り $(z_0,z_0)\in\Omega\times \Omega$ において $g$ が連続であることを示す。$f$ は正則なので $f$ の複素導関数 $f':\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は連続である。よって任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $z_0$ を中心とする $\mathbb{C}$ の開球 $$ B(z_0,\delta):=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-z_0\rvert<\delta\}\subset \Omega $$ が存在し、 $$ \lvert f'(z)-f'(z_0)\rvert\leq\epsilon\quad\quad(*) $$ が成り立つ。任意の $z,w\in B(z_0,\delta)$ に対し微積分学の基本定理より、 $$ g(z,w)=\int_{0}^{1}f'(w+t(z-w))dt $$ であるから、 $$ g(z,w)-g(z_0,z_0)=\int_{0}^{1}\left(f'(w+t(z-w))-f'(z_0)\right)dt $$ である。そして $B(z_0,\delta)$ は凸集合なので $w+t(z-w)\in B(z_0,\delta)$ $(\forall t\in [0,1])$ であるから $(*)$ より、 $$ \lvert g(z,w)-g(z_0,z_0)\rvert\leq \int_{0}^{1}\lvert f'(w+t(z-w))-f'(z_0)\rvert dt\leq\epsilon $$ である。よって $g$ は $(z_0,z_0)\in\Omega\times \Omega$に おいて連続である。

定理7.4(Cauchyの積分公式)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$c$ を $\Omega$ に含まれるサイクルとし、回転数(定義5.2)について、 $$ {\rm Ind}_c(z)=0\quad(\forall z\in \mathbb{C}\backslash \Omega)\quad\quad(*) $$ が成り立つと仮定する。このとき任意の正則関数 $f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw=f(z){\rm Ind}_c(z)\quad(\forall z\in \Omega\backslash c^*)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。

証明

$g:\Omega\times \Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(z,w):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f(w)-f(z)}{w-z}&(z\neq w)\\f'(z)&(z=w)\end{array}\right. $$ と定義すると、補題7.3より $g$は連続関数である。よって $h:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ h(z):=\int_{c}g(z,w)dw\quad(\forall z\in \Omega) $$ と定義すると、補題7.1より $h$ は連続関数である。 $$ h(z)=\int_{c}\frac{f(w)-f(z)}{w-z}dw=\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw-2\pi if(z){\rm Ind}_c(z)\quad(\forall z\in \Omega\backslash c^*) $$ であるから、$(**)$ を示すには $h(z)=0$ $(\forall z\in \Omega)$ であることを示せばよい。まず $h:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ が正則関数であることを示す。 そのためにはMoreraの定理(系6.2)より $\Omega$ に含まれる任意の凸開集合 $U$ と任意の $\alpha,\beta,\gamma\in U$ を取り、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}h(z)dz=0\quad\quad(***) $$ が成り立つことを示せばよい。補題7.2より、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}h(z)dz=\int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}\left(\int_{c}g(z,w)dw\right)dz =\int_{c}\left(\int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}g(z,w)dz\right)dw\quad\quad(****) $$ である。そして任意の $w\in c^*$ に対し連続関数 $U\ni z\mapsto g(z,w)\in \mathbb{C}$ は $U\backslash \{w\}$ において正則関数であるから、定理4.7より、 $$ \int_{\partial\Delta(\alpha,\beta,\gamma)}g(z,w)dz=0\quad(\forall w\in c^*) $$ である。よって $(****)$ より $(***)$ は成り立つので、$h:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ は正則関数である。今、 $$ \Omega_1:=\{z\in \mathbb{C}\backslash c^*: {\rm Ind}_c(z)=0\} $$ とおき、 $$ h_1:\Omega_1\ni z\mapsto \int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw\in \mathbb{C} $$ とおく。命題5.3の $(2)$ より $\Omega_1$ は開集合であり、命題5.1より $h_1$ は正則関数である。そして $(*)$ より $\mathbb{C}=\Omega\cup\Omega_1$ であり、任意の $z\in \Omega\cap \Omega_1$ に対し、 $$ h(z)=\int_{c}\frac{f(w)-f(z)}{w-z}dw=\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw-2\pi if(z){\rm Ind}_c(z)=h_1(z) $$ であるから、 $$ \widetilde{h}(z):=\left\{\begin{array}{cl}h(z)&(z\in \Omega)\\h_1(z)&(z\in \Omega_1)\end{array}\right. $$ として整関数 $\widetilde{h}:\mathbb{C}\rightarrow\mathbb{C}$ が定義できる。命題5.3の $(4)$ より十分大きい $R\in (0,\infty)$ を取れば $\lvert z\rvert>R$ を満たす任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し $z\in \Omega_1$ であり、命題3.5より、 $$ \lvert \widetilde{h}(z)\rvert=\lvert h_1(z)\rvert\leq \ell(c)\underset{w\in c^*}{\rm max}\left\lvert \frac{f(w)}{w-z}\right\rvert\leq \ell(c)\underset{w\in c^*}{\rm max}\lvert f(w)\rvert\frac{1}{\lvert z\rvert-R} $$ である。よって $\lim_{\lvert z\rvert\rightarrow\infty}\lvert \widetilde{h}(z)\rvert=0$ であるからLiouvilleの定理(定理6.4)より $\widetilde{h}(z)=0$ $(\forall z\in \mathbb{C})$ が成り立つ。ゆえに $h(z)=\widetilde{h}(z)=0$ $(\forall z\in \Omega)$ であるから $(**)$ が成り立つ。

系7.5(Cauchyの積分定理)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$c$ を $\Omega$ に含まれるサイクルとし、回転数について、 $$ {\rm Ind}_c(z)=0\quad(\forall z\in \mathbb{C}\backslash \Omega) $$ が成り立つと仮定する。このとき任意の正則関数 $f:\Omega\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{c}f(z)dz=0\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

任意の $z\in \Omega$ を取り固定する。$F:\Omega\ni w\mapsto f(w)(w-z)\in \mathbb{C}$ は正則関数であるからCauchyの積分公式より、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}f(w)dw=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{F(w)}{w-z}dw={\rm Ind}_c(z)F(z)=0 $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

注意7.6

凸開集合 $\Omega\subset \mathbb{C}$ と、$\Omega$ に含まれる任意のサイクル $c$ を取る。このとき任意の $z\in \mathbb{C}\backslash \Omega$ に対し、 $$ \Omega\ni w\mapsto \frac{1}{w-z}\in \mathbb{C} $$ は正則関数であるから、定理4.7より、 $$ {\rm Ind}_c(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{dw}{w-z}=0 $$ である。ゆえに定理7.4のCauchyの積分公式は、凸開集合におけるCauchyの積分公式(命題4.7)の拡張である。

8. Laurant展開、留数定理

定理8.1(Laurant展開)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$a\in \Omega$ とし、$f:\Omega\backslash\{a\}\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。 $$ \overline{B(a,R)}=\{z\in\mathbb{C}:\lvert z-a\rvert\leq R\}\subset \Omega $$ なる $R\in (0,\infty)$ を取る。このとき、 $$ f(z)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n(z-a)^n+\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{c_{-n}}{(z-a)^n}\quad(\forall B(a,R)\backslash \{a\})\quad\quad(*) $$ (ただし右辺の二項はそれぞれ収束し、$B(a,R)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<R\}$ である)を満たす複素数列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}}$ が唯一つ存在する。そしてそれは、 $$ c_n=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\quad(\forall n\in \mathbb{Z})\quad\quad(**) $$ (ただし右辺は反時計周りの円周閉路に沿った複素線積分(定義5.5))と表される。

証明

まず $(*)$ を満たす複素数列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}}$ の一意性を示す。そのためには複素数列 $(d_n)_{n\in \mathbb{Z}}$ が、 $$ \sum_{n\in \mathbb{Z}_+}d_n(z-a)^n+\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{d_{-n}}{(z-a)^n}=0\quad(\forall B(a,R)\backslash \{a\}) $$ (左辺の二項はそれぞれ収束する)を満たすとして $d_n=0$ $(\forall n\in \mathbb{Z})$ が成り立つことを示せばよい。任意の $z\in B(a,R)$ に対し、 $$ \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{d_{-n}}{(z-a)^n} $$ は収束し、$\lim_{\lvert z-a\rvert\rightarrow +0}\frac{1}{\lvert z-a\rvert}=\infty$ であるから命題2.2より $(d_{-n})_{n\in \mathbb{N}}$ を係数とする冪級数の収束半径は $\infty$ である。そこで正則関数 $g:B(a,R)\rightarrow\mathbb{C}$ と整関数 $h:\mathbb{C}\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(z):=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}d_n(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,R)), $$ $$ h(w):=\sum_{n\in \mathbb{N}}d_{-n}w^n\quad(\forall w\in \mathbb{C}) $$ として定義する。$r\in (0,R)$ を取る。$\overline{B(a,r)}$、$\overline{CB(0,r^{-1})}$ はコンパクトであるから、 $$ \lvert g(z)\rvert\leq M\quad(\forall z\in \overline{B(a,r)}),\quad \lvert h(w)\rvert\leq M\quad(\forall w\in \overline{B(0,r^{-1})}) $$ を満たす $M\in (0,\infty)$ が存在する。$\lvert w\rvert\geq r^{-1}$ を満たす任意の $w\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ w=\frac{1}{z-a} $$ なる $z\in \overline{B(a,r)}$ が取れ、$h(w)=-g(z)$ であるので、 $$ \lvert h(w)\rvert=\lvert g(z)\rvert\leq M $$ である。よって $h:\mathbb{C}\rightarrow \mathbb{C}$ は有界な整関数であるからLiouvilleの定理(定理6.4)より $h(w)=h(0)=0$ $(\forall w\in \mathbb{C})$ である。ゆえに $d_{-n}=0$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ が成り立ち、 $$ g(z)=h\left(\frac{1}{z-a}\right)=0\quad(\forall z\in B(a,R)\backslash \{a\}) $$ であるから $d_n=0$ $(\forall n\in \mathbb{Z}_+)$ が成り立つ。これで $(*)$ を満たす複素数列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}}$ の一意性が示せた。
$(**)$ なる $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}}$ に対し $(*)$ が成り立つことを示す。任意の $z\in B(a,R)\backslash\{a\}$ を取り固定する。$0<r<\lvert z-a\rvert<R$ を満たす $r$ を取る。このとき反時計周りの円周閉路 $\partial B(a,R)$ と時計回りの円周閉路 $-\partial B(a,r)$ の和としてのサイクル $c:=\partial B(a,R)-\partial B(a,r)$ は $\Omega\backslash \{a\}$ に含まれ、命題5.4より、 $$ {\rm Ind}_c(w)=0\quad(\forall w\in \mathbb{C}\backslash(\Omega\backslash \{a\}) ),\quad {\rm Ind}_c(z)=1 $$ である。よってCauchyの積分公式(定理7.4)より、 $$ f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{w-z}dw-\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw\quad\quad(***) $$ が成り立つ。 $$ \frac{\lvert z-a\rvert}{\lvert w-a\rvert}=\frac{\lvert z-a\rvert}{R}<1\quad(w\in \partial B(a,r)) $$ であるから、 $$ \frac{1}{w-z}=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(z-a)^n}{(w-a)^{n+1}}\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ であり、一様Cauchy条件より右辺は $w\in \partial B(a,r)$ に関して一様収束する(距離空間の位相の基本的性質命題8.5)。よって命題3.5より、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{w-z}dw= \sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n\quad\quad(****) $$ である。また、 $$ \frac{\lvert w-a\rvert}{\lvert z-a\rvert}=\frac{r}{\lvert z-a\rvert}<1\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ であるから、 $$-\frac{1}{w-z}=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(w-a)^n}{(z-a)^{n+1}}\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ は一様収束し、 $$ \begin{aligned}-\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw &=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}f(w)(w-a)^ndw\right)\frac{1}{(z-a)^{n+1}}\\ &=\sum_{n\in\mathbb{N}}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}dw\right)\frac{1}{(z-a)^n}\quad\quad(*****) \end{aligned} $$ である。任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し正則関数 $\Omega\backslash \{a\}\ni w\mapsto \frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}\in \mathbb{C}$ とサイクル $c=\partial B(a,R)-\partial B(a,r)$ に対しCauchyの積分定理(系7.5)を適用すると、 $$ 0=\int_{c}\frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}dw=\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}dw-\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}dw $$ となるから $(*****)$ より、 $$-\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw=\sum_{n\in\mathbb{N}}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}dw\right)\frac{1}{(z-a)^n}\quad\quad(******) $$ である。よって $(***),(****), (*****)$ より、 $$ f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n+\sum_{n\in\mathbb{N}}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,R)}\frac{f(w)}{(w-a)^{-n+1}}dw\right)\frac{1}{(z-a)^n} $$ である。

定義8.2(特異点の主要部、留数)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$a\in \Omega$ とし、$f:\Omega\backslash \{a\}\rightarrow\mathbb{C}$ を正則関数とする。このとき複素数列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}}$ で、 $$ \{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert\leq R\}\subset \Omega $$ なる任意の $R\in (0,\infty)$ に対し、 $$ f(z)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n(z-a)^n+\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{c_{-n}}{(z-a)^n}\quad(\forall z\in \mathbb{C}:0<\lvert z-a\rvert<R ) $$ を満たすようなものが定まる。任意の $z\in B(a,R)\backslash \{a\}$ に対し、 $$ \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{c_{-n}}{(z-a)^{n}} $$ は収束し、$\lim_{\lvert z-a\rvert\rightarrow+0}\frac{1}{\lvert z-a\rvert}=\infty$ であるから、命題2.2より $(c_{-n})_{n\in \mathbb{N}}$ を係数とする冪級数の収束半径は $\infty$ である。 そこで正則関数 $$ \mathbb{C}\backslash \{a\}\ni z\mapsto \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{c_{-n}}{(z-a)^{n}}\in \mathbb{C} $$ を $f$ の $a$ における主要部と言う。また $c_{-1}$ を $f$ の $a$ における留数と言い、 $$ {\rm Res}(f,a):=c_{-1} $$ と表す。定理8.1より、 $$ {\rm Res}(f,a)=\int_{\partial B(a,R)}f(z)dz $$ である。

補題8.3

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$a\in \Omega$ とし、$f:\Omega\backslash \{a\}\rightarrow \mathbb{C}$ を正則関数とする。そして $f$ の $a$ における主要部を、 $$ p:\mathbb{C}\backslash\{a\}\ni z\mapsto \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{c_{-n}}{(z-a)^n}\in\mathbb{C} $$ とする。このとき、

  • $(1)$ $f-p:\Omega\backslash \{a\}\ni z\mapsto f(z)-p(z)\in \mathbb{C}$ は $\Omega$ 上の正則関数に拡張できる。
  • $(2)$ $\Omega\backslash \{a\}$ に含まれる任意のサイクル $c$(定義3.1)に対し、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}p(z)dz={\rm Res}(f,a){\rm Ind}_c(a) $$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ $\overline{B(a,R)}=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert\leq R\}\subset \Omega$ なる $R\in (0,\infty)$ を取れば、定理8.1よりある複素数列 $(c_n)_{n\in \mathbb{Z}_+}$ に対し、 $$ f(z)-p(z)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,R)\backslash \{a\}) $$ と表せる。$B(a,R)\ni z\mapsto \sum_{n\in \mathbb{Z}_+}c_n(z-a)^n\in \mathbb{C}$ は正則関数であるから $f-p:\Omega\backslash \{a\}\rightarrow\mathbb{C}$ は $\Omega$ 上の正則関数に拡張できる。
  • $(2)$ $$ \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{c_{-n}}{(z-a)^n}\quad (\forall z\in c^*) $$ はコンパクト集合 $c^*\subset \Omega\backslash \{a\}$ 上で一様収束するから命題3.5より、 $$ \int_{c}p(z)dz=\sum_{n\in \mathbb{N}}c_{-n}\int_c\frac{dz}{(z-a)^n} $$ が成り立つ。任意の $n\geq2$ に対し、 $$ \mathbb{C}\backslash \{a\}\ni z\mapsto \frac{1}{(z-a)^n}\in\mathbb{C} $$ は原始関数を持つので、命題3.6より、 $$ \int_{c}\frac{dz}{(z-a)^n}=0\quad(\forall n\geq2) $$ である。よって $(*)$ より、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}p(z)dz=c_{-1}\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{dz}{z-a}={\rm Res}(f,a){\rm Ind}_c(a) $$ である。

定理8.4(留数定理)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合、$a_1,\ldots,a_n\in \Omega$ を互いに異なる有限個の点とし、$f:\Omega\backslash \{a_1,\ldots,a_n\}\rightarrow \mathbb{C}$ を正則関数とする。そして $c$ を $\Omega\backslash\{a_1,\ldots,a_n\}$ に含まれるサイクル(定義3.1)で、 $$ {\rm Ind}_c(z)=0\quad(\forall z\in \mathbb{C}\backslash \Omega) $$ を満たすものとする。このとき、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}{\rm Res}(f,a_k){\rm Ind}_c(a_k) $$ が成り立つ。

証明

$f$ の $a_1,\ldots,a_n$ における主要部をそれぞれ、 $$ p_k:\mathbb{C}\backslash \{a_k\}\rightarrow\mathbb{C}\quad(k=1,\ldots,n) $$ とおく。補題8.3の $(1)$ より、 $$ f-\sum_{k=1}^{n}p_k:\Omega\backslash \{a_1,\ldots,a_n\}\ni z\mapsto f(z)-\sum_{k=1}^{n}p_k(z)\in \mathbb{C} $$ は $\Omega$ 上の正則関数に拡張できる。よってCauchyの積分定理(系7.5)より、 $$ \int_{c}f(z)dz-\sum_{k=1}^{n}\int_{c}p_k(z)dz= \int_{c}f(z)-\sum_{k=1}^{n}p_k(z)dz= 0 $$ であるから、補題8.3の $(2)$ より、 $$ \frac{1}{2\pi i}\int_{c}f(z)dz=\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{2\pi i}\int_{c}p_k(z)dz =\sum_{k=1}^{n}{\rm Res}(f,a_k){\rm Ind}_c(a_k) $$ である。

9. 複素Banach空間値正則関数の特徴付け

命題9.1

$B$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間とし、曲線 $c_k:I_k\rightarrow \mathbb{C}$ $(k=1,\ldots,n)$ の和、$c=c_1+\ldots+c_n$ と、その跡 $c^*=c_1(I_1)\cup\ldots\cup c_n(I_n)$(定義3.1)上で定義された $B$ 値連続関数 $f:c^*\rightarrow B$ を考える。このとき $I_c(f)\in B$ で、 $$ \varphi\left(I_c(f)\right)=\int_{c}\varphi(f(z))dz\quad(\forall \varphi\in B^*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そして、 $$ I_c(f)=\sum_{k=1}^{n}\int_{I_k}f(c_k(t))c_k'(t)dt\quad\quad(*) $$ であり*4、 $$ \lVert I_c(f)\rVert\leq \ell(c)\underset{z\in c^*}{\rm max}\lVert f(z)\rVert\quad\quad(**) $$ が成り立つ。ただし $\ell(c)$ は $c$ の長さ(定義3.4)である。

証明

一意性はノルム空間の第二双対空間への埋め込みの単射性(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理定義12.1を参照)による。存在と $(*)$ は注意3.3より、 $$ \begin{aligned} \int_c\varphi(f(z))dz= \sum_{k=1}^{n}\int_{I_k}\varphi(f(c_k(t)))c_k'(t)dt=\varphi\left(\sum_{k=1}^{n}\int_{I_k}f(c_k(t))c_k'(t)dt\right)\quad(\forall \varphi\in B^*) \end{aligned} $$ であることによる。ノルム空間の第二双対空間への埋め込みの等長性(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理定義12.1を参照)より、 $$ \left\lVert I_c(f)\right\rVert=\sup_{\varphi\in B^*,\lVert\varphi\rVert\leq1}\left\lvert\int_{c}\varphi(f(z))dz\right\rvert\leq \ell(c)\underset{z\in c^*}{\rm max}\lVert f(z)\rVert $$ であるから $(**)$ が成り立つ。

定義9.2(複素Banach空間値関数の複素線積分)

$B$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間とする。$\mathbb{C}$ 内の曲線の和 $c$ と、その跡 $c^*$ 上で定義された連続関数 $f:c^*\rightarrow B$ に対し、命題9.1における $I_c(f)\in B$ を $f$ の $c$ 上での複素線積分と言い、 $$ I_c(f):=\int_{c}f(z)dz $$ と表す。

注意9.3(有界線形汎関数としてのBanach空間値複素線積分)

命題9.1より、 $$ \varphi\left(\int_{c}f(z)dz\right)=\int_{c}\varphi(f(z))dz\quad(\forall \varphi\in B^*) $$ であり、 $$ C(c^*,B)\ni f\mapsto \int_{c}f(z)dz\in B $$ は、作用素ノルムが $\ell(c)$ 以下の有界線形作用素である。ここで $C(c^*,B)$ はコンパクト空間 $c^*$ 上で定義された $B$ 値連続関数全体に $\sup$ ノルムを入れたBanach空間である。

定理9.4(複素Banach空間値正則関数の特徴付け)

$\Omega\subset \mathbb{C}$ を開集合とし、$B$ を $\mathbb{C}$ 上のBanach空間とする。連続関数 $f:\Omega\rightarrow B$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $f$ はBanach空間値正則関数(定義1.4)である、
  • $(2)$ 任意の $\varphi\in B^*$ に対し $\varphi\circ f:\Omega\ni z\mapsto \varphi(f(z))\in \mathbb{C}$ は正則関数である。
  • $(3)$ $\Omega$ に含まれるサイクル $c$(定義3.1)で ${\rm Ind}_c(z)=0$ $(\forall z\in \mathbb{C}\backslash \Omega)$ を満たすものに対し、 $$ {\rm Ind}_c(z)f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw\quad(\forall z\in \Omega\backslash c^*)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。
  • $(4)$ $f$ は($B$ のノルムに関して)何回でも複素微分可能である。そして $\Omega$ に含まれる任意の $\mathbb{C}$ の開球 $B(a,R)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<R\}\subset \Omega$ に対し、 $$ f(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,R))\quad\quad(**) $$ が成り立つ。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$、$(4)\Rightarrow(1)$ は自明である。
$(2)$ が成り立つとするとCauchyの積分公式(定理7.4)より、 $$ {\rm Ind}_c(z)\varphi(f(z))=\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{\varphi(f(w))}{w-z}dw =\varphi\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{c}\frac{f(w)}{w-z}dw\right)\quad(\forall z\in \Omega\backslash c^*,\forall \varphi\in B^*) $$ であるからノルム空間の第二双対空間への埋め込みの単射性(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理定義12.1を参照)よ り $(*)$ が成り立つ。よって $(2)\Rightarrow(3)$ が成り立つ。
$(3)$ が成り立つとして $(4)$ が成り立つことを示す。任意の $r\in (0,R)$ を取る。$f:\Omega\rightarrow B$ が何回でも複素微分可能であることを示すには $B(a,r)=\{z\in \mathbb{C}:\lvert z-a\rvert<r\}\subset\Omega$ 上で $f$ が何回でも複素微分可能であることを示せば十分である。任意の $z\in B(a,r)$ に対し反時計周りの円周閉路 $\partial B(a,r)$ に対し、 $$ f(z)={\rm Ind}_{\partial B(a,r)}(z)f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw $$ であり、 $$ \frac{\lvert z-a\rvert}{\lvert w-a\rvert}<1\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ であるから、 $$ \frac{f(w)}{w-z}=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}(z-a)^n\quad(\forall w\in \partial B(a,r)) $$ である。 一様Cauchy条件より右辺は一様収束(距離空間の位相の基本的性質命題8.5)であるから注意9.3より、 $$ f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{w-z}dw =\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n $$ が成り立つ。定理2.5より冪級数関数は何回でも複素微分可能であるから $f$ は何回でも複素微分可能であり、 $$ f(z)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\left(\frac{1}{2\pi i}\int_{\partial B(a,r)}\frac{f(w)}{(w-a)^{n+1}}dw\right)(z-a)^n\quad(\forall z\in B(a,r)) $$ が成り立つ。$r\in (0,R)$ は任意であるから $(**)$ が成り立つ。よって $(3)\Rightarrow(4)$ が成り立つ。

注意9.5(複素Banach空間値正則関数の解析性、Liouvilleの定理、一致の定理、Cauchyの積分公式、Cauchyの積分定理、Laurant展開、留数定理)

定理9.4より複素Banach空間値正則関数は普通の正則関数と同様に解析性(定理6.1に相当)を持つ。したがって複素Banach空間値整関数($\mathbb{C}$ 上で定義された複素Banach空間値正則関数)に対するLiouvilleの定理(定理6.4に相当)、連結開集合上で定義された複素Banach空間値正則関数に対する一致の定理(定理6.6に相当)が成り立つ。
また定理9.4より複素Banach空間値正則関数に対してCauchyの積分公式(定理7.4に相当)が成り立つことから、Cauchyの積分定理(定理7.5に相当)も成り立ち、Laurant展開(定理8.1に相当)、留数定理(定理8.4に相当)も成り立つ。



*1 $c_k^*df_j=d(f_j\circ c_k)=\frac{d(f_j\circ c_k)}{dt}dt$であるから、ベクトル解析6:Stokesの定理定義25.2より、$\int_{c_k}df_j=\int_{a_k}^{b_k}\frac{d(f_j\circ c_k)}{dt}(t)dt=f_j(c_k(b_k) )-f_j(c_k(a_k) )$ である。
*2 $K$ はコンパクト集合 $\{(t_1,t_2,t_3)\in [0,1]^3:t_1+t_2+t_3=1\}$ の連続写像による像であるからコンパクトである。
*3 $[a,b]$ を有限個の閉区間に分割すると各閉区間上で $C^1$ 級であるような連続関数。
*4 ただし $\int_{I_k}f(c_k(t) )c_k'(t)dt$ は連続関数 $I_k\ni t\mapsto f(c_k(t) )c_k'(t)dt\in B$ のRiemann積分(合成積とFourier変換21を参照)であリ、Lebesgue測度に関するBochner積分(測度と積分9:Bochner積分定義44.1)である。

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Last-modified: 2020-11-17 (火) 03:39:13 (17d)