速習「線形空間論」

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本稿においては関数解析やベクトル解析のために最低限必要と思われる線形空間論について述べる。以下の議論において体 $\mathbb{F}$ としては基本的に $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ が念頭にある。また、$\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$ とする。

1. 線形空間、多元環、*-環、行列化

定義1.1(線形空間)

$\mathbb{F}$ を体とする。空でない集合 $V$ に加法とスカラー倍と呼ばれる演算

  • 加法 $V\times V\ni (u,v)\mapsto u+v\in V$,
  • スカラー倍 $\mathbb{F}\times V\ni (\alpha, v)\mapsto \alpha v\in V$

が定義されており、加法に関して加法群をなし、

  • $(1)$ 任意の $v\in V$ に対し $1v=v$.
  • $(2)$ 任意の $\alpha,\beta\in\mathbb{F}$ と任意の $v\in V$ に対し $(\alpha\beta)v=\alpha(\beta v)$.
  • $(3)$ 任意の$\alpha,\beta\in \mathbb{F}$ と任意の $v\in V$ に対し $(\alpha+\beta)v=\alpha v+\beta v$.
  • $(4)$ 任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ と任意の $u,v\in V$ に対し $\alpha(u+v)=\alpha u+\alpha v$.

が成り立つとする。このとき $V$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間と言う。

命題1.2

$V$ を 体 $\mathbb{F}$ 上の線型空間とする。

  • $(1)$ 任意の $v\in V$ に対し $0v=0$であり、任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し $\alpha 0=0$.
  • $(2)$ $\alpha\in \mathbb{F}$、$v\in V$ が $\alpha v=0$ を満たすならば $\alpha=0$ か $v=0$ である。

証明

  • $(1)$ $v=(1+0)v=v+0v$ より $0v=0$ である。$\alpha 0=\alpha(0+0)=\alpha 0+\alpha 0$ より $\alpha 0=0$ である。
  • $(2)$ $\alpha\neq0$ ならば $0=\alpha^{-1}0=\alpha^{-1}(\alpha v)=(\alpha^{-1}\alpha )v=1v=v$ である。

例1.3 

ユークリッド空間 $\mathbb{R}^n$ は $\mathbb{R}$ 上の線形空間、ユニタリ空間 $\mathbb{C}^n$ は $\mathbb{C}$ 上の線形空間である。

定義1.4(多元環)

$V$を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$V$ に加法とスカラー倍に加えて、

  • 乗法 $V\times V\ni (u,v)\mapsto uv\in V$

が定義されており、加法と乗法に関して環をなし、

$$ \alpha(uv)=(\alpha u)v=u(\alpha v)\quad(\forall \alpha\in \mathbb{F},\forall u,v\in V) $$

が成り立つとき $V$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環と言う。

定義1.5(*-環)

$\mathbb{F}$ を $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ とし、$V$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環とする。$V$ に加法、スカラー倍、乗法に加えて対合と呼ばれる演算

  • 対合 $V\ni v\mapsto v^*\in V$

が定義されており、

  • $(1)$ 任意の$u,v\in V$ に対し $(u+v)^*=u^*+v^*$.
  • $(2)$ 任意の$\alpha\in \mathbb{F}$、$v\in V$ に対し $(\alpha v)^*=\overline{\alpha}v^*$.
  • $(3)$ 任意の $u,v\in V$ に対し $(uv)^*=v^*u^*$.
  • $(4)$ 任意の$v\in V$ に対し $v^{**}=v$.

が成り立つとき $V$ を $\mathbb{F}$ 上の*-環と言う。

定義1.6(各点ごとの演算)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $\mathbb{F}$ 上の線形空間(多元環、 *-環)$V_j$ が与えられているとする。このとき直積 $\prod_{j\in J}V_j$ は各成分ごとの演算

  • 加法 $(u_j)_{j\in J}+(v_j)_{j\in J}=(u_j+v_j)_{j\in J}$.
  • スカラー倍 $\alpha (v_j)_{j\in J}=(\alpha v_j)_{j\in J}$.
  • 乗法 $(u_j)_{j\in J}(v_j)_{j\in J}=(u_jv_j)_{j\in J}$.(各 $V_j$ が多元環である場合。).
  • 対合 $(v_j)_{j\in J}^*=(v_j^*)_{j\in J}$.($\mathbb{F}$ が $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ で各 $V_j$ が $\mathbb{F}$ 上の *-環である場合。)

により $\mathbb{F}$ 上の線形空間(多元環、*-環)である。

定義1.7(行列化)

$V$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$m,n\in\mathbb{N}$ に対し $V$ の元を成分とする $m\times n$ 行列全体 $\mathbb{M}_{m\times n}(V)$ は各成分ごとの演算により $\mathbb{F}$ 上の線形空間である.
$V$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環とする。$\ell,m,n\in \mathbb{N}$ とし、任意の $u=(u_{i,j})_{i,j}\in \mathbb{M}_{\ell\times m}(V)$ と $v=(v_{i,j})_{i,j}\in \mathbb{M}_{m\times n}(V)$ に対し、 $u,v$ の積 $$ uv:=\left(\sum_{k=1}^{m}u_{i,k}v_{k,j}\right)_{i,j}\in \mathbb{M}_{\ell\times n}(V) $$ を定義する。このとき任意の $\alpha\in \mathbb{F}$、$u,u_1,u_2\in \mathbb{M}_{\ell\times m}(V)$、$v,v_1,v_2\in \mathbb{M}_{m\times n}(V)$ に対し、 $$ \alpha(uv)=(\alpha u)v=u(\alpha v),\quad u(v+w)=uv+uw,\quad (u+v)w=uw+vw $$ である。よって特に任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、$V$ の元を成分とする $n\times n$ 行列全体 $\mathbb{M}_{n\times n}(V)$ は、 $$ \mathbb{M}_{n\times n}(V)\times \mathbb{M}_{n\times n}(V)\ni (u,v)\mapsto uv\in \mathbb{M}_{n\times n}(V) $$ を乗法として多元環をなす。もし $V$ が単位元 $1$ を持つならば、 $$ \delta_{i,j}:=\left\{\begin{array}{ll}1&(i=j)\\0&(i\neq j)\end{array}\right.\quad(i,j\in \{1,\ldots,N\}) $$ に対し $(\delta_{i,j})_{i,j}$ は$\mathbb{M}_{n\times n}(V)$の単位元である。$\mathbb{F}$ を $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、$V$ を $\mathbb{F}$ 上の *-環とする。$m,n\in \mathbb{N}$ とし、任意の $v=(v_{i,j})_{i,j}\in\mathbb{M}_{m\times n}(V)$ に対し、 $$ v^*:=(v_{j,i}^*)_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times m}(V) $$ を定義する。このとき $V$ の元を成分とする行列 $u,v$ と $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し、 $$ (\alpha v)^*=\overline{\alpha}v^*,\quad (uv)^*=v^*u^*,\quad (u+v)^*=u^*+v^*,\quad v^{**}=v $$ が成り立つ。よって特に任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $V$ の元を成分とする $n\times n$ 行列全体 $\mathbb{M}_{n\times n}(V)$ は、 $$ \mathbb{M}_{n\times n}(V)\ni v\mapsto v^*\in \mathbb{M}_{n\times n}(V) $$ を対合として*-環をなす。

例1.8

$\mathbb{F}$ を $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ とすると、 $\mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ は $\mathbb{F}$ 上の単位的 *-環である。

2. 部分空間、イデアル

定義2.1(部分空間、部分多元環、部分*-環)

$V$ を線形空間(resp. 多元環、*-環)とする。空でない $M\subset V$ が $V$ の演算で閉じているとき $M$ を $V$ の(線形)部分空間(resp. 部分多元環、部分 *-環)と言う。このとき $M$ 自体、$V$ の演算を受け継いで $\mathbb{F}$ 上の線形空間(resp. 多元環、*-環)である。

定義2.2(イデアル、*-イデアル)

$V$を多元環(resp. *-環)とする。空でない $I\subset V$ が $V$ の演算で閉じており、さらに任意の $v\in V$ と $u\in I$ に対し $uv, vu\in I$ が成り立つとき $I$ を $V$ のイデアル(resp. *-イデアル)と言う。

3. 線形写像、準同型写像、$\mathbb{L}(V,W)$、$\mathbb{L}(V)$

定義3.1(線形写像、多元環準同型写像、*-環準同型写像)

$V,W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。写像 $T:V\rightarrow W$ が線形写像であるとは、 $$ T(v_1+v_2)=Tv_1+Tv_2,\quad T(\alpha v)=\alpha Tv\quad(\forall v,v_1,v_2\in V,\forall \alpha\in \mathbb{F}) $$ が成り立つこと(つまり加法とスカラー倍を保存すること)を言う。
$V,W$ を多元環とする。写像 $T:V\rightarrow W$ が多元環準同型写像であるとは線形写像であって、 $$ T(v_1v_2)=Tv_1Tv_2\quad(\forall v_1,v_2\in V) $$ が成り立つこと(つまり乗法を保存すること)を言う。
$V,W$ を *-環とする。写像 $T:V\rightarrow W$ が *-環準同型写像であるとは多元環準同型写像であって、 $$ Tv^*=(Tv)^*\quad(\forall v\in V) $$ が成り立つこと(つまり対合を保存すること)を言う。

定義3.2(準同型写像、同型写像)

一般に同じ代数構造(群、環、体、線形空間、多元環、*-環など)を持つ空間 $V,W$ に対し、写像 $T:V\rightarrow W$ がその演算を保存する場合、$T$ を準同型写像と言う。準同型写像 $T:V\rightarrow W$ が全単射である場合、$T$ を同型写像と言う。

線形写像は線形空間の準同型写像である。

定義3.3(線形写像の核と値域)

$V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$T:V\rightarrow W$ を線形写像とする。 $$ \text{Ker}(T):=\{v\in V:Tv=0\} $$ とおき、これを $T$ の核と言う。また $T$ の値域は、 $$ \text{Ran}(T)=T(V)=\{Tv:v\in V\} $$ と表すことがある(${\rm Im}(T)$ と表すこともある)。$\text{Ker}(T)$ は $V$ の部分空間、$\text{Ran}(T)$ は $W$ の部分空間である。$V,W$ を多元環(resp. *-環)とし、$T:V\rightarrow W$ を多元環準同型写像(resp. *-環準同型写像)とすると、$\text{Ker}(T)$ は $V$ のイデアル(resp. *-イデアル)であり、$\text{Ran}(T)$ は $W$ の部分多元環(resp. 部分 *-環)である。

注意3.4(線形写像の核と単射性)

線形写像 $T:V\rightarrow W$ に対し、$T$ が単射であることと $\text{Ker}(T)=\{0\}$ であることは同値である。

定義3.5(線形写像全体のなす線形空間 $\mathbb{L}(V,W)$ と多元環 $\mathbb{L}(V)$)

$V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$V\rightarrow W$ の線形写像全体を $\mathbb{L}(V,W)$ と表す。$\mathbb{L}(V,W)$ は各点ごとの演算で $\mathbb{F}$ 上の線形空間をなす。$U,V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$T\in \mathbb{L}(U,V)$、$S\in \mathbb{L}(V,W)$ とする。このとき合成写像 $S\circ T$ は $\mathbb{L}(U,W)$ に属する。線形写像の合成 $S\circ T$ は通常、$ST$ と表す。 $\mathbb{L}(V):=\mathbb{L}(V,V)$ と表す。 $\mathbb{L}(V)$ は、 $$ \mathbb{L}(V)\times \mathbb{L}(V)\ni (S,T)\mapsto ST\in \mathbb{L}(V) $$ を乗法、恒等写像を単位元として単位的多元環をなす。

3. 同値関係、商空間

定義3.1(同値関係, 商集合, 商写像)

集合 $X$ の二項関係 $\sim$ が $X$ の同値関係であるとは次が成り立つことを言う。

  • 反射律 任意の $x\in X$ に対し $x\sim x$.
  • 対称律 $x\sim y$ なる任意の $x,y\in X$ に対し $y\sim x$.
  • 推移律 $x\sim y$ かつ $y\sim z$ なる任意の $x,y,z\in X$ に対し $x\sim z$.

このとき任意の $x\in X$ に対し、 $$ [x]:=\{y\in X:y\sim x\} $$ を $x$ の同値類と言う。 任意の $x,y\in X$ に対し、 $$ [x]\cap [y]\neq \emptyset\quad\iff\quad x\sim y\quad \iff\quad [x]=[y] $$ である。$\sim$ に関する同値類全体からなる集合を、 $$ X/\sim:=\{[x]:x\in X\} $$ と表す。これを同値関係 $\sim$ による商集合と言う。$X$ から商集合への全射 $$ X\ni x\mapsto [x]\in X/\sim $$ を商写像と言う。

定義3.2(商線形空間)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線型空間、$M\subset V$ を部分空間とする。任意の $u,v\in V$ に対し、 $$ u\sim v\quad \iff \quad u-v\in M $$ と定義すると、$\sim$ は $V$ の同値関係である。この同値関係による商集合を、 $$ V/M:=V/\sim=\{[v]:v\in V\} $$ と表す。$V/M$ は、 $$ [u]+[v]:=[u+v],\quad \alpha[v]:=[\alpha v]\quad(\forall [u],[v]\in V/M, \forall \alpha\in \mathbb{F}) $$ を加法とスカラー倍として線形空間なす。この線形空間 $V/M$ を $M$ を法とする $V$ の商線形空間と言う。

定義3.3(商多元環、商 *-環)

$V$ を多元環、$I\subset V$ をイデアルとする。商線形空間 $V/I=\{[v]:v\in V\}$ に、 $$ [u][v]:=[uv]\quad(\forall [u],[v]\in V/I) $$ として乗法を定義すれば*1 $V/I$ は多元環をなす。この多元環 $V/I$ を $I$ を法とする $V$ の商多元環と言う。また $V$ が *-環で $I$ が *-イデアルならば商多元環 $V/I$ に、 $$ [v]^*:=[v^*]\quad(\forall [v]\in V/I) $$ として対合を定義すれば $V/I$ は *-環をなす。この *-環 $V/I$ を $I$ を法とする $V$ の商 *-環と言う。

注意3.4(商写像は全射準同型写像)

商線形空間 $V/M$ に対し商写像 $V\ni v\mapsto [v]\in V/M$ は全射線形写像である。また商多元環(resp. *-環)$V/I$ に対し商写像 $V\ni v\mapsto [v]\in V/I$ は全射多元環準同型写像(resp. 全射 *-環準同型写像)である。

4. 線形独立性、線形空間の次元

定義4.1(線形包、線形結合)

$V$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。空でない $D\subset V$ に対し、 $$ \text{span}(D):=\left\{\sum_{j=1}^{n}\alpha_jv_j: n\in \mathbb{N},text{ }\alpha_1,\ldots,\alpha_n\in\mathbb{F},\text{ }v_1,\ldots,v_n\in D\right\} $$ とおくと、$\text{span}(D)$ は $D$ を含む $V$ の 線形部分空間の中で最小のものである。$\text{span}(D)$ を $D$ の 線形包と言う。$v\in \text{span}(D)$ であることを $v$ は $D$ 元の線形結合であると言う。

定義4.2(線形独立性)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。

  • $(1)$ 有限個の $v_1,\ldots,v_n\in V$ が線形独立であるとは、 $$ \mathbb{F}^n\ni (\alpha_1,\ldots,\alpha_n)\mapsto \sum_{j=1}^{n}\alpha_jv_j\in V $$ が単射であることを言う。
  • $(2)$ 空でない部分集合 $D\subset V$ が線形独立であることを、互いに異なる任意の有限個の $v_1,\ldots,v_n\in D$ に対し $v_1,\ldots,v_n$ が $(1)$ の意味で線形独立であることとして定義する。
  • $(3)$ 空でない集合 $J$ に対し、 $$ (v_j)_{j\in J}:J\ni j\mapsto v_j\in V $$ が線形独立であることを、互いに異なる有限個の $j_1,\ldots,j_n\in J$ に対し $v_{j_1},\ldots,v_{j_n}$ が $(1)$ の意味で線形独立であることとして定義する。

命題4.3

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$D\subset V$ を $D\backslash \{0\}\neq\emptyset$ なるものとする。このとき線形独立な $D_0\subset D$ で、 $$ \text{span}(D)=\text{span}(D_0) $$ を満たすものが存在する。

証明

$D\backslash \{0\}$ に含まれる線形独立な部分集合全体は集合の包含関係による順序によって帰納的順序集合である。よってZornの補題より極大なもの $D_0$ が取れる。もし $v\in D\backslash \text{span}(D_0)$ が存在するならば、$D_0\cup\{v\}$ は線形独立であるので $D_0$ の極大性に反する。よって $D\subset \text{span}(D_0)$ なので $\text{span}(D)=\text{span}(D_0)$ である。

命題4.4

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$B,C\subset V$ を線形独立な部分集合とし $\text{span}(B)=\text{span}(C)$ が成り立つとする。このとき集合 $B,C$ の濃度は等しい。

証明

  • $(1)$ $B$ が有限集合の場合。$B$ は $n$ 個の元からなるとして $B=\{b_1,\ldots,b_n\}$ とおく。 $C$ が $n+1$ 個の互いに異なる元 $c_1,\ldots,c_{n},c_{n+1}$ を持つと仮定する。このとき $b_1,\ldots,b_n$ の並び替え $b_{k(1)},\ldots,b_{k(n)}$ で、 $$ \begin{aligned} \text{span}(B)&=\text{span}\{b_{k(1)},\ldots,b_{k(n)}\}=\text{span}\{c_1,b_{k(2)},\ldots,b_{k(n)}\}\\ &=\text{span}\{c_1,c_2,b_{k(3)},\ldots,b_{k(n)}\}=\ldots =\text{span}\{c_1,\ldots,c_n\} \end{aligned} $$ なるものが取れ、 $$ c_{n+1}\in \text{span}(C)=\text{span}(B)=\text{span}\{c_1,\ldots,c_n\} $$ であるので、 $c_1,\ldots,c_n,c_{n+1}$ の線形独立性に矛盾する。よって $C$ の元の個数は $B$ の元の個数以下である。全く対称的な議論により $B$ の元の個数は $C$ の元の個数以下である。
  • $(2)$ $B$ が無限集合の場合。$(1)$ より $C$ も無限集合である。 任意の $b\in B$ に対し $b\in \text{span}(C)$ より $b=\text{span}(C_b)$ なる有限集合 $C_b\subset C$ が取れる。$C$ の線形独立性より $C=\bigcup_{b\in B}C_b$ が分かる。よって $B\times \mathbb{N}$ から $C$ への全射が存在する。$B$ は無限集合であるので、$B$ から $B\times \mathbb{N}$ への全単射が存在するので $B$ から $C$ への全射が存在する。全く対称的な議論により $C$ から $B$ への全射も存在する。よってBernsteinの定理より $B,C$ の濃度は等しい。

定義4.5(線形空間の次元、基底)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線型空間とする。$V$ の次元 $\text{dim}(V)\in \{0,1,2,\ldots\}\cup\{\infty\}$ を次のように定義する。 $V=\{0\}$ のとき $\text{dim}(V)=0$ とする。 $V\neq\{0\}$ のとき 命題4.3より線形独立な部分集合 $B\subset V$ で $V=\text{span}(B)$ なるものが取れる。このような $B$ を $V$ の基底と言う。命題4.4より $V$ の基底の濃度は一意的である。そこで $V$ の基底が $n\in\mathbb{N}$ 個の元からなるとき、$\text{dim}(V)=n$ と定義し、 基底が無限集合のとき $\text{dim}(V)=\infty$ と定義する。 $\text{dim}(V)<\infty$ のとき $V$ は有限次元であると言い、$\text{dim}(V)=\infty$ のとき $V$ は無限次元であると言う。

命題4.6(基底の拡張)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$B_0\subset V$ を線形独立な部分集合とする。 このとき $V$ の基底で $B_0$ を含むものが存在する。

証明

$B_0$ を含む線形独立な部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れたものは帰納的順序集合であるので、Zornの補題より極大なもの $B$ が取れる。もし$v\in V\backslash \text{span}(B)$ が存在するならば $B\cup\{v\}$ は 線形独立なので $B$ の極大性に矛盾する。よって $V=\text{span}(B)$ である。

命題4.7

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、 $M\subset V$ を部分空間とする。このとき, $$ \text{dim}(V)=\text{dim}(M)+\text{dim}(V/M) $$ が成り立つ。

証明

$M$ の基底 $B_0$ を取り、 $B_0$ を含む $V$ の基底 $B$ を取る(命題4.6)。 このとき、 $$ B\backslash B_0\ni b\mapsto [b]\in V/M $$ は単射であり、$\{[b]:b\in B\backslash B_0\}$ は $V/M$ の基底である。よって成り立つ。

命題4.8(次元定理)

$V,W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$T:V\rightarrow W$ を線形写像とする。このとき、 $$ \text{dim}(V)=\text{dim}(\text{Ker}(T))+\text{dim}(\text{Ran}(T)) $$ が成り立つ。

証明

$$ V/\text{Ker}(T)\ni [v]\mapsto Tv\in \text{Ran}(T) $$ は明らかに線形同型写像であるから、 $$ \text{dim}(V/\text{Ker}(T))=\text{dim}(\text{Ran}(T)) $$ である。よって命題4.7より、 $$ \text{dim}(V)=\text{dim}(\text{Ker}(T))+\text{dim}(V/\text{Ker}(T))=\text{dim}(\text{Ker}(T))+\text{dim}(\text{Ran}(T)) $$ である。

5. 置換, 行列式, 行列表現

定義5.1(置換, 対称群)

$X$ を空でない集合とする。 $X$ から $X$ 自身へのの全単射を $X$ の置換と言う。$X$ の置換全体は写像の合成を乗法として群をなす。これを $X$ 上の対称群と言う。特に $n\in \mathbb{N}$ に対し $\{1,\ldots,n\}$ 上の対称群を $S_n$ と表し、$n$ 次の対称群と言う。$S_n$ の元を $n$ 次の置換と言う

定義5.2(置換の符号)

$n$ 次の置換 $\sigma\in S_n$ に対し、 $$ \{(i,j): i<j,\text{ }\sigma(j)<\sigma(i)\} $$ の元の個数を $\sigma$ の反転数と言う。そして $\sigma$ の反転数 $k$ に対し、 $$ {\rm sgn}(\sigma):=(-1)^k\in \{-1,1\} $$ を $\sigma$ の符号と言う。

命題5.3(置換の符号の基本性質)

任意の$\sigma,\tau\in S_n$ に対し、 $$ {\rm sgn}(\sigma\tau)={\rm sgn}(\sigma){\rm sgn}(\tau) $$ が成り立つ。

証明

$x_1<\ldots<x_n$ なる $x_1,\ldots,x_n\in \mathbb{R}$ を取り、 $$ \Delta:=\prod_{1\leq i<j\leq n}(x_j-x_i) $$ とおく。そして任意の $\sigma\in S_n$ に対し、 $$ \sigma(\Delta):=\prod_{1\leq i<j\leq n}(x_{\sigma(j)}-x_{\sigma(i)})={\rm sgn}(\sigma)\Delta $$ とおく。このとき任意の $\sigma,\tau\in S_n$ に対し、 $$ {\rm sgn}(\sigma\tau)\Delta= (\sigma\tau)(\Delta)=\prod_{1\leq i<j\leq n}(x_{\sigma\tau(j)}-x_{\sigma\tau(i)}) ={\rm sgn}(\tau)\prod_{1\leq i<j\leq n}(x_{\sigma(j)}-x_{\sigma(i)})={\rm sgn}(\tau){\rm sgn}(\sigma)\Delta $$ であるから ${\rm sgn}(\sigma\tau)={\rm sgn}(\sigma){\rm sgn}(\tau)$ が成り立つ。

定義5.4(行列式)

$\mathbb{F}$ を体とする。 任意の $A=(a_{i,j})_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ に対し、 $$ {\rm det}(A):=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)a_{1,\sigma(1)}\ldots a_{n,\sigma(n)} $$ を $A$ の行列式と言う。

定義5.5(多重線形写像)

$V_1,\ldots,V_n,W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 写像 $T:V_1\times\ldots\times V_n\rightarrow W$ が各成分ごと線形写像であるとき、$T$ は多重線形写像であることを言う。 $n=2$ の場合の多重線形写像を双線形写像と言う。

定義5.6(多重線形写像の反対称性)

$V,W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間, $T:V^n\rightarrow W$ を多重線形写像とする。 任意の$v_1,\ldots,v_n\in V$ と任意の $\sigma\in S_n$ に対し、 $$ T(v_{\sigma(1)},\ldots,v_{\sigma(n)})={\rm sgn}(\sigma)T(v_1,\ldots,v_n) $$ が成り立つとき $T$ は反対称であると言う。

定義5.7(転置行列)

行列 $A=(a_{i,j})_{i,j}\in \mathbb{M}_{m\times n}(\mathbb{F})$に対し $A^t:=(a_{j,i})_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times m}(\mathbb{F})$ を $A$ の転置行列と言う。

$\mathbb{F}=\mathbb{R}$ の場合は $A^t=A^*$ (定義1.7を参照)である。

定義5.8(行列式の基本性質)

$\mathbb{F}$ を体とする。行列式に関して次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $A\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ に対し ${\rm det}(A)={\rm det}(A^t)$.
  • $(2)$ $\mathbb{F}^n\times \ldots\times \mathbb{F}^n\ni (a_1,\ldots,a_n)\mapsto {\rm det}(a_1,\ldots,a_n)\in \mathbb{F}$ は反対称多重線形写像である。
  • $(3)$ 任意の $A,B\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ に対し ${\rm det}(AB)={\rm det}(A){\rm det}(B)$.

証明

  • $(1)$ ${\rm sgn}(\sigma^{-1})={\rm sgn}(\sigma)$ であるので、 $$ {\rm det}(A)=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)a_{1,\sigma(1)}\ldots a_{n,\sigma(n)}=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma^{-1})a_{\sigma^{-1}(1),1}\ldots a_{\sigma^{-1}(n),n}={\rm det}(A^t) $$ である。
  • $(2)$ 多重線形写像であることは明らかである。 任意の $\sigma,\tau\in S_n$ に対し ${\rm sgn}(\sigma\tau^{-1})={\rm sgn}(\tau){\rm sgn}(\sigma)$ であるので、 $$ \begin{aligned} {\rm det}(a_{\tau(1)},\ldots,a_{\tau(n)}) &=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)a_{\sigma(1),\tau(1)}\ldots a_{\sigma(n),\tau(n)}\\ &={\rm sgn}(\tau)\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma\tau^{-1})a_{\sigma\tau^{-1}(1),1}\ldots a_{\sigma\tau^{-1}(n),n} \\ &={\rm sgn}(\tau){\rm det}(a_1,\ldots,a_n) \end{aligned} $$ である。よって反対称である。
  • $(3)$ $(2)$ より $k_1,\ldots,k_n\in \{1,\ldots,n\}$ のうち互いに等しいものがある場合は、 $$ \sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)b_{k_1,\sigma(1)}\ldots b_{k_n,\sigma(n)}=0 $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} {\rm det}(AB)&=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)\sum_{k_1,\ldots,k_n=1}^{n}a_{1,k_1}\ldots a_{n,k_n}b_{k_1,\sigma(1)}\ldots b_{k_n,\sigma(n)}\\ &=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)\sum_{\tau\in S_n}a_{1,\tau(1)}\ldots a_{n,\tau(n)}b_{\tau(1),\sigma(1)}\ldots b_{\tau(n),\sigma(n)}\\ &=\sum_{\tau\in S_n}{\rm sgn}(\tau)a_{1,\tau(1)}\ldots a_{n,\tau(n)}\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma\tau^{-1})b_{1,\sigma\tau^{-1}(1)}\ldots b_{n,\sigma\tau^{-1}(n)}\\ &={\rm det}(A){\rm det}(B) \end{aligned} $$ である。

定義5.9(余因子行列)

$\mathbb{F}$ を体とする。 $A\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ の $i$ 行と $j$ 列を抜いた行列 $A_{i,j}\in \mathbb{M}_{n-1\times n-1}(\mathbb{F})$ に対し、 $$ {\rm Cof}(A):=( (-1)^{i+j}{\rm det}(A_{j,i}) )_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F}) $$ を $A$ の余因子行列と言う。

命題5.10(余因子行列と逆行列)

$\mathbb{F}$ を体とする。 $A=(a_{i,j})_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ に対し、 $$ A{\rm Cof}(A)={\rm Cof}(A)A={\rm det}(A)1 $$ が成り立つ。よって特に ${\rm det}(A)\neq 0$ であることと $A\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{F})$ が可逆であることは同値であり、${\rm det}(A)\neq0$ のとき $A$ の逆元は、 $$ A^{-1}=\frac{1}{{\rm det}(A)}{\rm Cof}(A) $$ である。

証明

行列式の反対称性より $A{\rm Cof}(A)$ の $i$ 行 $j$ 列成分は、 $$ \sum_{k=1}^{n}(-1)^{j+k}a_{i,k}{\rm det}(A_{j,k})=\delta_{i,j}{\rm det}(A) $$ であり、${\rm Cof}(A)A$ の $i$ 行 $j$ 列成分は、 $$ \sum_{k=1}^{n}(-1)^{i+k}{\rm det}(A_{k,i})a_{k,j}=\delta_{i,j}{\rm det}(A) $$ である。

定義5.11(添字付けられた基底、順序付けられた基底)

$V$ を線形空間とする。空でない集合 $J$ に対し線型独立(定義4.3の$(3)$の意味)な $$ (e_j)_{j\in J}:J\ni j\mapsto e_j\in V $$ が $V$ の添字付けられた基底であるとは $V=\text{span}\{e_j\}_{j\in J}$ であることを言う。特に添字集合 $J$ が $\mathbb{N}$や、ある $n\in \mathbb{N}$ に対し $\{1,\ldots,n\}$ である場合は順序付けられた基底と言う。

定義5.12(行列表現)

$V, W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の有限次元線形空間とし、$(e_1,\ldots,e_n)$、 $(f_1,\ldots,f_m)$ をそれぞれ $V,W$ の順序付けられた基底とする。線型写像 $T:V\rightarrow W$ に対し、 $$ Te_j=\sum_{i=1}^{m}T_{i,j}f_i\quad(j=1,\ldots,n) $$ として定まる行列 $(T_{i,j})_{i,j}\in \mathbb{M}_{m\times n}(\mathbb{F})$ を $T$ の $(e_1,\ldots,e_n)$、$(f_1,\ldots,f_m)$ に関する行列表現と言う。任意の $v=\sum_{j=1}^{n}v_je_j\in V$に対し、 $$ Tv=\sum_{j=1}^{n}v_jTe_j=\sum_{i=1}^{m}\left(\sum_{j=1}^{n}T_{i,j}v_j\right)f_i $$ であるから、成分の変換は行列の積による変換 $$ \mathbb{F}^n\ni (v_j)_{j}\mapsto (T_{i,j})_{i,j} (v_j)_{j}\in \mathbb{F}^m $$ である。

命題5.13

$U,V,W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の有限次元線形空間とし、$(e_1,\ldots,e_{\ell})$、$(f_1,\ldots,f_m)$、$(g_1,\ldots,g_n)$ をそれぞれ $U,V,W$ の順序付けられた基底とする。線型写像 $T:U\rightarrow V$ と $S:V\rightarrow W$ に対し $T$ の $(e_1,\ldots,e_{\ell})$、$(f_1,\ldots,f_m)$ に関する行列表現を $\widehat{T}\in \mathbb{M}_{m\times \ell}(\mathbb{F})$、$S$ の $(f_1,\ldots,f_m)$、$(g_1,\ldots,g_n)$ に関する行列表現を $\widehat{S}\in \mathbb{M}_{n\times m}(\mathbb{F})$ とし、$ST$ の $(e_1,\ldots,e_{\ell})$、$(g_1,\ldots,g_n)$ に関する行列表現を $\widehat{ST}\in \mathbb{M}_{n\times \ell}(\mathbb{F})$ とする。このとき、 $$ \widehat{ST}=\widehat{S}\widehat{T} $$ が成り立つ。

証明

$$ STe_j=\sum_{k=1}^{\ell}T_{k,j}Sf_k=\sum_{i=1}^{m}\left(\sum_{k=1}^{\ell}S_{i,k}T_{k,j}\right)g_i =\sum_{i=1}^{m}(\widehat{S}\widehat{T})_{i,j}g_i $$ であることによる。

6. 直和

定義6.1

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。部分空間 $M_1,\ldots,M_n\subset V$ に対し、 $$ M_1+\ldots+M_n:=\{v_1+\ldots+v_n: v_1\in M_1,\ldots,v_n\in M_n\} $$ なる部分空間を $M_1,\ldots,M_n$ の和と言う。全射線形写像 $$ M_1\times\ldots\times M_n\ni (v_1,\ldots,v_n)\mapsto v_1+\ldots+v_n\in M_1+\ldots+M_n $$ が単射(したがって線形同型写像)であるとき $M_1,\ldots,M_n$ の和は直和であると言い、このとき $M_1+\ldots+M_n$ を、 $$ M_1\oplus\ldots\oplus M_n $$ と表す。

命題6.2(線形独立性と直和)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$B_1,\ldots,B_n\subset V$ をそれぞれ空でない集合とし、$B_1\cup\ldots \cup B_n$ は線形独立であるとする。このとき、 $$ \text{span}(B_1\cup\ldots\cup B_n)=\text{span}(B_1)\oplus \ldots\oplus\text{span}(B_n) $$ が成り立つ。

証明

自明である。

7. 線形空間の双対空間

定義7.1(双対空間、線形汎関数)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$V^*:=\mathbb{L}(V,\mathbb{F})$ と表し、$V^*$ を線形空間 $V$ の双対空間、$V^*$ の元を $V$ 上の線形汎関数と言う。

命題7.2

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とし、$(e_j)_{j\in J}:J\ni j\mapsto e_j\in V$ が線形独立(定義4.3の$(3)$の意味)であるとする。このとき $(\varphi_j)_{j\in J}:J\ni j\mapsto \varphi_j\in V^*$ で、 $$ \varphi_i(e_j)=\delta_{i,j}=\left\{\begin{array}{ll}1&(i=j)\\0&(i\neq j)\end{array}\right.\quad\quad(*) $$ を満たすものが存在する。そして $(\varphi_j)_{j\in J}$ は線形独立である。

証明

任意の $i\in J$ を取り固定する。命題4.5より $\{e_j\}_{j\in J}$ を含む $V$ の基底 $B$ を取ると、 $$ V=\text{span}(B\backslash\{e_i\})\oplus \mathbb{F} e_i $$ であり、 $$ \varphi_i(v+\alpha e_i)=\alpha\quad(\forall v\in \text{span}(B\backslash\{e_i\}),\forall\alpha\in\mathbb{F}) $$ として $\varphi_i\in V^*$ が定義できる。このとき任意の $j\in J\backslash\{i\}$ に対し $e_j\in B\backslash \{e_i\}$ であるから $\varphi_i(e_j)=0$ であり、 $\varphi_i(e_i)=1$ である。 こうして $(*)$ を満たす $(\varphi_j)_{j\in J}:J\ni j\mapsto \varphi_j\in V^*$ が定義できる。互いに異なる有限個の $j_1,\ldots,j_n\in J$ に対し、 $$ \sum_{k=1}^{n}\alpha_k\varphi_{j_k}=0 $$ ならば任意の $l\in\{1,\ldots,n\}$ に対し、 $$ 0=\sum_{k=1}^{n}\alpha_k\varphi_{j_k}(e_{j_l})=\alpha_{j_l} $$ であるから $\varphi_{j_1},\ldots,\varphi_{j_n}$ は線形独立である。よって $(\varphi_j)_{j\in J}$ は線形独立である。

命題7.3(有限次元線形空間の順序付けられた基底に対する双対基底)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の有限次元線形空間とし、$(e_1,\ldots,e_n)$ を $V$ の順序付けられた基底とする。このとき $V^*$ の順序付けられた基底 $(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)$ で、 $$ \varphi_i(e_j)=\delta_{i,j}\quad(\forall i,j\in \{1,\ldots,n\})\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

証明

$(*)$ により線形独立な $\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in V^*$ が定義される。任意の $v=\sum_{j=1}^{N}v_je_j\in V$ に対し、 $$ \varphi_j(v)=v_j\quad(j=1,\ldots,n) $$ であるから、任意の $\psi\in V^*$ に対し、 $$ \psi(v)=\sum_{j=1}^{n}v_j\psi(e_j)=\sum_{j=1}^{n}\psi(e_j)\varphi_j(v) $$ である。よって、 $$ \psi=\sum_{j=1}^{n}\psi(e_j)\varphi_j $$ なので、$(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)$ は $V^*$ の順序付けられた基底である。

命題7.3における $(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)$ を $(e_1,\ldots,e_n)$ に対する双対基底と言う。

定義7.4(線形空間の第二双対空間への自然な埋め込み)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$V^{**}$ を $V^*$ の双対空間($V$の第二双対空間)とする。任意の $v\in V$ に対し、 $$ \iota(v):V^*\ni \varphi\mapsto \varphi(v)\in \mathbb{F} $$ として $\iota(v)\in V^{**}$ を定義することにより、 $$ \iota: V\ni v\mapsto \iota(v)\in V^{**}\quad\quad(*) $$ なる線形写像が定義できる。命題7.2より $(*)$ は単射である*2。 $(*)$ を 線形空間 $V$ の第二双対空間 $V^{**}$ への自然な埋め込みと言う。以後、しばしば $v$ と $\iota(v)$ を同一視することで $V=\iota(V)\subset V^{**}$ とみなす。

8. 線形空間のテンソル積、テンソル積の普遍性

定義8.1 

$V_1,\ldots,V_n$ をそれぞれ体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$\prod_{j=1}^{n}V_j^*\rightarrow \mathbb{F}$ の多重線形写像全体 $ML(\prod_{j=1}^{n}V_j^*,\mathbb{F})$ は各点ごとの演算により $\mathbb{F}$ 上の線形空間をなす。任意の $v_1\in V_1,\ldots, v_n\in V_n$ に対し、 $$ v_1\otimes\ldots\otimes v_n:\prod_{j=1}^{n}V_j^*\ni (\varphi_1,\ldots,\varphi_n)\mapsto \varphi_1(v_1)\ldots\varphi_n(v_n)\in \mathbb{F} $$ は $ML(\prod_{j=1}^{n}V_j^*,\mathbb{F})$ に属する。そこで $\mathbb{F}$ 上の線形空間 $$ V_1\otimes\ldots\otimes V_n:=\text{span} \{v_1\otimes\ldots\otimes v_n: v_1\in V_1,\ldots,v_n\in V_n\} $$ を定義する。これを $V_1,\ldots,V_n$ のテンソル積線形空間と呼ぶ。

$$ V_1\times\ldots\times V_n\ni (v_1,\ldots,v_n)\mapsto v_1\otimes\ldots\otimes v_n\ni V_1\otimes\ldots\otimes V_n $$ は明らかに多重線形写像である。

命題8.2(有限次元線形空間のテンソル積)

$V_1,\ldots,V_n$ が全て有限次元であるとすると、 $$ V_1\otimes\ldots\otimes V_n=ML(\prod_{j=1}^{n}V_j^*,\text{ }\mathbb{F}) $$ である。

証明

各$V_j$ の順序付けられた基底 $(e_{j,1},\ldots,e_{j,m(j)})$ を取り、その双対基底を $(\varphi_{j,1},\ldots,\varphi_{j,m(j)})$ とする。このとき任意の $\psi_j\in V_j^*$ に対し、 $$ \psi_j=\sum_{k=1}^{m(j)}\psi_j(e_{j,k})\varphi_{j,k} $$ が成り立つ(命題7.3の証明を参照)。 よって任意の $T\in ML(\prod_{j=1}^{n}V_j^*,\text{ }\mathbb{F})$ と任意の $(\psi_1,\ldots,\psi_n)\in V_1^*\times\ldots\times V_n^*$ に対し、 $$ \begin{aligned} T(\psi_1,\ldots,\psi_n)&=\sum_{k_1,\ldots,k_n}\psi_1(e_{1,k_1})\ldots\psi_N(e_{n,k_n})T(e_{1,k_1},\ldots,e_{n,k_n})\\ &=\sum_{k_1,\ldots,k_n}T(e_{1,k_1},\ldots,e_{n,k_n})(e_{1,k_1}\otimes\ldots\otimes e_{n,k_n})(\psi_1,\ldots,\psi_n) \end{aligned} $$ である。ゆえに、 $$ T=\sum_{k_1,\ldots,k_n}T(e_{1,k_1},\ldots,e_{n,k_n})(e_{1,k_1}\otimes\ldots\otimes e_{n,k_n})\in V_1\otimes\ldots\otimes V_n $$ である。

命題8.3

$V_1,\ldots,V_n$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とし、$J_k\ni j\mapsto e_{k,j}\in V_k$ $(k=1,\ldots,n)$ をそれぞれ線型独立とする。このとき、 $$ J_1\times\ldots\times j_n\ni (j_1,\ldots,j_n)\mapsto e_{1,j_1}\otimes\ldots\otimes e_{n,j_n}\in V_1\otimes\ldots\otimes V_n\quad\quad(*) $$ は線形独立(定義4.2の$(3)$の意味)である。

証明

命題7.2より各 $k$ について線形独立な $J_k\ni j\mapsto \varphi_{k,j}\in V_k^*$ で $\varphi_{k,j}(e_{k,i})=\delta_{i,j}$ $(\forall i,j\in J_k)$ を満たすものが取れる。このとき任意の $(i_1,\ldots,i_n)$, $(j_1,\ldots,j_n)\in J_1\times\ldots\times J_n$ に対し、 $$ (e_{1,j_1}\otimes\ldots\otimes e_{n,j_n})(\varphi_{1,i_1},\ldots,\varphi_{n,i_n})=\delta_{(i_1,\ldots,i_n),(j_1,\ldots,j_n)} $$ である。よって命題7.2の証明の後半より $(*)$ は線形独立である。

定理8.4(テンソル積の普遍性)

$V_1,\ldots,V_n,W$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とし、 $$ \Phi: V_1\times\ldots\times V_n\rightarrow W $$ を多重線形写像とする。このとき線形写像 $$ \Psi:V_1\otimes\ldots\otimes V_n\rightarrow W $$ で、 $$ \Psi(v_1\otimes\ldots\otimes v_n)=\Phi(v_1,\ldots,v_n) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

証明

一意性は線形性より自明である。 存在を示す。 そのためには、 $$ \sum_{a=1}^{p}v_{a,1}\otimes\ldots\otimes v_{a,n}=\sum_{b=1}^{q}u_{b,1}\otimes\ldots\otimes u_{b,n}\quad\quad(*) $$ であるとして、 $$ \sum_{a=1}^{p}\Psi(v_{a,1},\ldots,v_{a,n})=\sum_{b=1}^{q}\Psi(u_{b,1},\ldots,u_{b,n})\quad\quad(**) $$ が成り立つことを示せばよい。 各 $j\in \{1,\ldots,n\}$ に対し $M_j:=\text{span}\{v_{1,j},\ldots,v_{p,j},u_{1,j},\ldots,u_{q,j}\}\subset V_j$ とおき $M_j$ の基底を $e_{j,1},\ldots,e_{j,m(j)}$ とする。このとき、 $$ v_{a,j}=\sum_{k=1}^{m(j)}v_{a,j}^ke_{j,k},\quad u_{b,j}=\sum_{k=1}^{m(j)}u_{b,j}^ke_{j,k} $$ と表せるから、 $$ \alpha_{k_1,\ldots,k_n}:=\sum_{a=1}^{p}v_{a,1}^{k_1}\ldots v_{a,n}^{k_n}, \quad \beta_{k_1,\ldots,k_n}:=\sum_{b=1}^{q}u_{b,1}^{k_1}\ldots u_{b,n}^{k_n} $$ とおくと、 $$ \sum_{a=1}^{p}v_{a,1}\otimes\ldots\otimes v_{a,n} =\sum_{k_1,\ldots,k_n}\alpha_{k_1,\ldots,k_n}e_{1,k_1}\otimes\ldots\otimes e_{n,k_n}, $$ $$ \sum_{b=1}^{q}u_{b,1}\otimes\ldots\otimes u_{b,n} =\sum_{k_1,\ldots,k_n}\beta_{k_1,\ldots,k_n}e_{1,k_1}\otimes\ldots\otimes e_{n,k_n} $$ である。よって $(*)$ と命題8.3より 各 $k_1,\ldots,k_n$ に対し、 $$ \alpha_{k_1,\ldots,k_n}=\beta_{k_1,\ldots,k_n} $$ が成り立つ。また、 $$ \sum_{a=1}^{p}\Psi(v_{a,1},\ldots,v_{a,n})=\sum_{k_1,\ldots,k_n}\alpha_{k_1,\ldots,k_n}\Psi(e_{1,k_1},\ldots,e_{n,k_n}), $$ $$ \sum_{b=1}^{q}\Psi(u_{b,1},\ldots,u_{b,n})=\sum_{k_1,\ldots,k_n}\beta_{k_1,\ldots,k_n}\Psi(e_{1,k_1},\ldots,e_{n,k_n}) $$ であるから $(**)$ が成り立つ。

定義8.5(線形写像のテンソル積)

$V_1,\ldots,V_n$、$W_1,\ldots,W_n$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とし、$T_k\in \mathbb{L}(V_k,W_k)$ $(k=1,\ldots,n)$ とする。このとき、 $$ V_1\times\ldots \times V_n\ni (v_1,\ldots,v_n)\mapsto T_1v_1\otimes\ldots\otimes T_nv_n\in W_1\otimes\ldots\otimes W_n $$ は多重線形写像であるから、定理8.4より線形写像 $$ T_1\otimes\ldots\otimes T_n: V_1\otimes\ldots\otimes V_n\ni v_1\otimes\ldots\otimes v_n\mapsto Tv_1\otimes\ldots\otimes v_n\in W_1\otimes\ldots\otimes W_n $$ が定まる。これを $T_1,\ldots,T_n$ のテンソル積と言う。

定義8.6(テンソル積線形空間のテンソル積)

$V_1,\ldots,V_n$、$W_1,\ldots, W_m$ をそれぞれ体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $$ V:=V_1\otimes\ldots\otimes V_n,\quad W:=W_1\otimes\ldots\otimes W_m $$ $$ L:=V_1\otimes\ldots\otimes V_n\otimes W_1\otimes \ldots\otimes W_m $$ とおくと、 $$ V\times W\ni (v_1\otimes\ldots\otimes v_n, \text{ }w_1\otimes\ldots\otimes w_m) \mapsto v_1\otimes\ldots\otimes v_n\otimes w_1\otimes\ldots\otimes w_m\in L $$ なる双線形写像が定義できる。よって定理8.4より全射線形写像 $$ V\otimes W\ni (v_1\otimes\ldots\otimes v_n)\otimes (w_1\otimes\ldots\otimes w_m) \mapsto v_1\otimes\ldots\otimes v_n\otimes w_1\otimes\ldots\otimes w_m\in L $$ ができる。この線形写像は命題8.3より線形同型写像である。そこで以後、 $$ (v_1\otimes\ldots\otimes v_n)\otimes (w_1\otimes\ldots\otimes w_m) =v_1\otimes\ldots\otimes v_n\otimes w_1\otimes\ldots\otimes w_m, $$ $$ (V_1\otimes\ldots\otimes V_n)\otimes (W_1\otimes \ldots\otimes W_m)= V_1\otimes\ldots\otimes V_n\otimes W_1\otimes\ldots\otimes W_m $$ なる同一視をする。$3$ 個以上のテンソル積線形空間のテンソル積線形空間も同様にして $1$ 個のテンソル積線形空間と同一視する。

9. 反対称テンソル積線形空間、外積

定義9.1(置換作用素、反対称化作用素、反対称テンソル積線形空間)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$n\in\mathbb{N}$ とする。任意の $\sigma\in S_n$ に対し定理8.4より線形写像 $$ P_{\sigma}:\bigotimes^NV\ni v_1\otimes\ldots\otimes v_n\mapsto v_{\sigma(1)}\otimes\ldots\otimes v_{\sigma(n)}\in \bigotimes^nV $$ が定まる。$P_{\sigma}$ を $\sigma\in S_n$ による $\bigotimes^nV$ 上の置換作用素と言う。置換作用素は明らかに線形同型写像であり、 $$ P_{\sigma}P_{\tau}=P_{\tau\sigma},\quad P_{\sigma^{-1}}=P_{\sigma}^{-1}\quad(\forall \sigma,\tau\in S_N)\quad\quad(*) $$ を満たすので、 $$ A_n:=\frac{1}{n!}\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)P_{\sigma}\in \mathbb{L}(\bigotimes^nV) $$ とおくと、 $$ P_{\sigma}A_n=A_nP_{\sigma}={\rm sgn}(\sigma)A_n,\quad A_n^2=A_n\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$A_n$ を $\bigotimes^nV$ 上の反対称化作用素と言い、 $$ \bigwedge^nV:=A_n(\bigotimes^nV)\subset \bigotimes^nV $$ を $V$ の $N$ 階反対称テンソル積線形空間と言う。

命題9.2(反対称テンソル積線形空間の特徴付け)

$V$を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間, $n\in\mathbb{N}$ とする。 $T\in \bigotimes^nV$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T\in \bigwedge^nV$.
  • $(2)$ 任意の $\sigma\in S_n$ に対し $P_{\sigma}(T)={\rm sgn}(\sigma)T$.
  • $(3)$ $V^*\times\ldots\times V^*\ni (\varphi_1,\ldots,\varphi_n)\mapsto T(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)\in \mathbb{F}$ は反対称である。

証明

$(1)\Leftrightarrow(2)$ が成り立つことは定義9.1の $(*)$ による。

$$ T=\sum_{k=1}^{m}v_{k,1}\otimes\ldots\otimes v_{k,n} $$ とすると、 $$ P_{\sigma}(T)=\sum_{k=1}^{m}v_{k,\sigma(1)}\otimes\ldots\otimes v_{k,\sigma(n)} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} P_{\sigma}(T)(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)&=\sum_{k=1}^{m}\varphi_1(v_{k,\sigma(1)})\ldots\varphi_n(v_{k,\sigma(n)}) =\sum_{k=1}^{m}v_{1}\otimes\ldots\otimes v_n(\varphi_{\sigma^{-1}(1)},\ldots,\varphi_{\sigma^{-1}(n)}\\ &=T(\varphi_{\sigma^{-1}(1)},\ldots,\varphi_{\sigma^{-1}(n)})\quad(\forall \varphi_1,\ldots,\varphi_n\in V^*) \end{aligned} $$ である。これより $(2)\Leftrightarrow(3)$ が成り立つ。

定義9.3(外積)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$n_1,n_2\in\mathbb{N}$ とする。任意の$T_1\in \bigwedge^{n_1}V$、$T_2\in \bigwedge^{n_2}V$ に対し、 $$ T_1\wedge T_2:=\frac{(n_1+n_2)!}{n_1!n_2!}A_{n_1+n_2}(T_1\otimes T_2)\in \bigwedge^{n_1+n_2}V $$ を $T_1,T_2$ の外積と言う。$3$ 個以上の $n_1,\ldots,n_m\in \mathbb{N}$ と反対称テンソル $T_k\in \bigwedge^{N_k}V$ $(k=1,\ldots,m)$ に対し、 $$ T_1\wedge \ldots\wedge T_m:=(T_1\wedge \ldots\wedge T_{m-1})\wedge T_m\in \bigwedge^{n_1+\ldots+n_m}V $$ と定義する。

命題9.4(外積の結合法則)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$T_k\in \bigwedge^{n_k}V$ $(k=1,\ldots,m)$ に対し、 $$ (T_1\wedge T_2)\wedge T_3=T_1\wedge (T_2\wedge T_3) =\frac{(n_1+n_2+n_3)!}{n_1!n_2!n_3!}A_{n_1+n_2+n_3}(T_1\otimes T_2\otimes T_3),\quad\quad(*) $$ $$ T_1\wedge \ldots\wedge T_m=\frac{(n_1+\ldots+n_m)!}{n_1!\ldots n_m!}A_{n_1+\ldots+n_m}(T_1\otimes\ldots\otimes T_m)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。

証明

任意の $n,m\in \mathbb{N}$ と任意の $\sigma\in S_n, \tau\in S_m$ に対し置換作用素と反対称化作用素の定義より、 $$ A_{n+m}(P_{\sigma}\otimes 1)={\rm sgn}(\sigma)A_{n+m},\quad\quad(***) $$ $$ A_{n+m}(1\otimes P_{\sigma})={\rm sgn}(\tau)A_{n+m} $$ が成り立つ。よって、 $$ A_{n_1+n_2+n_3}((T_1\wedge T_2)\otimes T_3)=A_{n_1+n_2+n_3}(T_1\otimes T_2\otimes T_3), $$ $$ A_{n_1+n_2+n_3}(T_1\otimes(T_2\wedge T_3))=A_{n_1+n_2+n_3}(T_1\otimes T_2\otimes T_3) $$ であり、これより $(*)$ が成り立つ。$(**)$ は帰納法と $(***)$ より分かる。

注意9.5(ベクトルの外積)

任意の $v_1,\ldots,v_n\in V=\bigotimes^1V$ に対し命題9.4より、 $$ v_1\wedge \ldots\wedge v_n=n!A_n(v_1\otimes\ldots\otimes v_n)=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)v_{\sigma(1)}\otimes\ldots\otimes v_{\sigma(n)} \in \bigwedge^NV $$ である。

命題9.6(外積の反対称性)

$V$ を体 $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 任意の $v_1,\ldots,v_n\in V$ と $\sigma\in S_n$ に対し、 $$ v_{\sigma(1)}\wedge \ldots\wedge v_{\sigma(n)}={\rm sgn}(\sigma)(v_1\wedge\ldots\wedge v_n) $$ が成り立つ。

証明

命題9.4と $A_NP_{\sigma}={\rm sgn}(\sigma)A_N$ より、 $$ \begin{aligned} &v_{\sigma(1)}\wedge \ldots\wedge v_{\sigma(n)}= n!A_n(v_{\sigma(1)}\otimes\ldots\otimes v_{\sigma(n)})\\ &=n!A_nP_{\sigma}(v_1\otimes\ldots\otimes v_n) ={\rm sgn}(\sigma)(v_1\wedge\ldots\wedge v_n). \end{aligned} $$

命題9.7(外積と線形独立性)

$V$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $v_1,\ldots,v_n\in V$ に対し $v_1\wedge\ldots\wedge v_n\neq0$ であることと $v_1,\ldots,v_n$ が線形独立であることは同値である。

証明

$v_1,\ldots,v_n$ が線形独立ではないならば、ある $j\in \{1,\ldots,n\}$ に対し、 $$ v_j\in \text{span}\{v_1,\ldots,v_{j-1},v_{j+1},\ldots,v_n\} $$ であるから命題9.6より $v_1\wedge \ldots\wedge v_n=0$ である。 $v_1,\ldots,v_n\in V$ が線形独立ならば命題7.2より $\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in V^*$ で $\varphi_i(e_j)=\delta_{i,j}$ なるものが取れる。よって注意9.5より、 $$ \begin{aligned} &(v_1\wedge\ldots\wedge v_n)(\varphi_1,\ldots,\varphi_n) =\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)(v_{\sigma(1)}\otimes\ldots\otimes v_{\sigma(n)})(\varphi_1,\ldots,\varphi_n)\\ &=\sum_{\sigma\in S_n}{\rm sgn}(\sigma)\varphi_1(v_{\sigma(1)})\ldots\varphi_n(v_{\sigma(n)})={\rm det}(\delta_{i,j})_{i,j}=1 \end{aligned} $$ であるから $v_1\wedge \ldots\wedge v_n\neq0$ である。



*1 $[u_1]=[u_2]$, $[v_1]=[v_2]$ ならば $u_1v_1-u_2v_2=u_1(v_1-v_2)+(u_1-u_2)v_2\in I$ であるから $[u_1v_1]=[u_2v_2]$ である。
*2 実際、$v\neq0$ ならば命題7.2より $\varphi(v)=1$ を満たす $\varphi\in V^*$ が存在するので $\iota(v)\neq0$である。

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Last-modified: 2020-10-29 (木) 22:45:50 (35d)