選択公理 (Axiom of Choice, $\mathsf{AC}$ ) は集合論の公理の一つであり、空でない集合からなる空でない集合 $A$ に対し、選択関数 (choice function) 、すなわち $f\colon A\to \bigcup A$ で任意の $x\in A$ に対し $f(x)\in x$ を満たすようなものが存在することを主張するものである。 概要 †現代数学に於ける選択公理の立場 †選択公理は非直観的な結果を齎すことが知られている。例えばLebesgue非可測な実数の部分集合の存在などが挙げられる。それ故に過去には選択公理を仮定しないほうが良い、とされることがあった。しかし選択公理は現代数学に於いて仮定されるのが一般的である。その理由としては以下の理由が挙げられよう。
もちろん、これは選択公理を仮定すべきだ、という主張をしているわけではない。選択公理の否定を導き、かつ数学的に重要な結果を齎すような、「全ての実数の部分集合がLebesgue可測である」、「全ての実数の部分集合が完全集合性を持つ」や、決定性公理? $\mathsf{AD}$ などを仮定する数学なども考えられる。これらの原理も適当な巨大基数公理の仮定のもとで、$\mathsf{ZFC} $上でモデルの存在、完全性定理より無矛盾性を示せる。 また既存の数学的結果のうち、どれが選択公理を用いずに示せるか、などの試みはよく行われている。古典的な逆数学などでは二階算術?上で $\mathsf{ZF}$ で示せるくらいとても弱い形で定式化した選択公理などの分析も行われている。 選択公理と同値な命題の例 †たくさん存在するので一例をあげよう。またalg-d氏による選択公理の記事alg-d.comは纏まっている。
任意の空でない集合による直積集合は空でない。
任意の集合に対して、その上の整列順序が存在する。
帰納的半順序は極大元を持つ。
有限性を満たす空でない集合族は包含関係に対する極大元を持つ。 弱い選択公理 †選択公理を弱めて得られる命題はたくさん存在するが、以下では有名なものを例として挙げる。
非空な集合 $X$ 上の二項関係 $R$ が左全域である、すなわち「任意の $x\in X$ に対して、ある $y$ が存在し $x\mathrel{R} y$ である」とする。このとき $X$ 上の点列 $\{x_n\}_{b\in\mathbb{N}}$ が存在し、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $x_n\mathrel{R}x_{n+1}$ である。
空でない集合からなる空でない可算集合は選択関数を持つ。 選択公理の否定 †決定性公理? $\mathsf{AD}$ やReinherdt基数?やBarkeley基数?などの一部の集合論に於ける公理は選択公理の否定を導くことが知られている。また選択公理やそれに類する公理の否定単体を仮定したとき、面白い結果はあまり知られていない。しかし以下のような結果もある。 Herrlichの定理 †$\mathsf{ZF}$ 上で以下は同値である。
ここで $\mathsf{CC}(\mathbb{R})$ は「任意の $\mathbb{R}$ の空でない部分集合族 $\{X_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ に対して、直積 $\prod_{n\in\mathbb{N}}X_n$ も空でない」という主張である。明らかに $\mathsf{AC}$ から $\mathsf{CC}(\mathbb{R})$ は従う。 選択公理と無矛盾性、保存性 †GödelとCohenによる選択公理の独立性 †選択公理は $\mathsf{ZF}$ 上独立である。すなわち $\mathsf{ZF}$ に於いて選択公理は証明も反証もできない。従って $\mathsf{ZF},\mathsf{ZF}+\lnot\mathsf{AC},\mathsf{ZFC}$ は互いに無矛盾同値である。 Gödelは構成可能宇宙?の理論を用いて選択公理の無矛盾性を示した。正確に言えば $\mathsf{ZF}$ のモデルとなる構成可能宇宙 $L$ と、 $L$ 上の整列順序を定義することで、選択公理の無矛盾性と示した。 一方Cohenは強制法?を用いて選択公理を満たさないようなモデルを構成した。 Shoenfield–Lévyの絶対性定理との関係 †ShoenfieldとLévyは選択公理を含意する構成可能性公理? $V=L$ が $\mathsf{ZF}$ で解析的階層に於ける $\Pi^1_3$-文が保存される、すなわち $\mathsf{ZF}+V=L$ で証明可能な $\Sigma^1_3$-文は、また $\mathsf{ZF}$ でも証明可能であることを示した。またLévy階層に於ける $\Pi_1$-文も保存することも示している。また明らかにこの定理を $\mathsf{ZF}+V=L$ を $\mathsf{ZFC}$ に置き換えても成り立つ。多くの初等的な自然数や整数、微積分に関する基本的な命題は $\Pi^1_3$-文となることを注意しておく。 Aczel–Carlsonの定理 †$\mathsf{ZFC}$ で示せる $\Pi_1$-文 は $\mathsf{ZF}$ で示せることが分かったが、これより強く $\Delta_2^\mathsf{ZF}$-文では成り立たないことが知られている、具体的には「 $\mathbb{R}$ 上の整列順序が存在する」が $\mathsf{ZF}$ で証明不能な $\Delta_2^\mathsf{ZF}$-文となるからである。よってその中間の論理式、$\Delta_0$-論理式 $\varphi(x,y)$ に対して $(\forall x)(\exists !y)\varphi(x,y)$ という形をした論理式は保存する、という予想をAczelは提起した。これをCarlsonは強制法を用いて肯定的に解決し、また $\mathsf{ZF}$ 以外でどのような集合論でこの予想を満たす十分条件を与えた。 算術や型理論に於ける選択公理 †参考文献 †
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