Hilbert空間上の作用素論

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本稿においては、Hilbert空間上の作用素論を展開する。特に量子力学の数学的構造に関わる関数解析学と相性の良い、Hilbert空間上の非有界線形作用素の理論、Hilbert空間上の射影値測度(projection-valued measure、PVM)による積分の一般論について詳しく論じる。射影値測度の典型例として、Hilbert空間上の(有界とは限らない)自己共役作用素に付随するスペクトル測度がある。このスペクトル測度による積分(Borel汎関数計算、Borel functional calculus)により、自己共役作用素 $T$ と $T$ のスペクトル $\sigma(T)$ 上で定義されたBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f(T)$ と表すに相応しい作用素が定義できる。こうして、例えば量子力学において基本的な位置作用素、運動量作用素、角運動量作用素、ハミルトニアンなどの自己共役作用素に対し、その関数で表される作用素が定義できる。また、境界条件の付いたラプラシアン(より一般には楕円型偏微分作用素)は自己共役作用素であるが、境界条件付きの波動方程式、熱方程式などの一般解を、そのラプラシアンの関数として表すことが可能である。本稿で仮定する知識は、Hilbert空間と有界線形作用素の初歩的な知識(位相線形空間1:ノルムと内積の内容)、セミノルム位相、汎弱位相の初歩的な知識(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の内容)、測度論(入門テキスト「測度と積分」の程度の内容)、$C^*$-環のスペクトルの初歩的な知識(Banach環とC*-環のスペクトル理論の程度の内容)である。本稿では Hilbert空間と言えば、特に断ることのない限り $\mathbb{C}$ 上のものとする。また、Hilbert空間の内積は第二変数に関して線形とし、$\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$、$\mathbb{Z}_+=\{0,1,2,3,\ldots\}$ とする。

1. $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の元の作用素としての特徴付け

定義1.1(Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の正規作用素、有界(非負)自己共役作用素、射影作用素、部分等長作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。位相線形空間1:ノルムと内積系7.5より $\mathcal{H}$ 上の有界線形作用素全体 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は単位的 $C^*$-環をなす(単位元は恒等作用素である)。$C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の正規元、自己共役元、非負元、射影、部分等長元(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義3.3定義7.2定義8.1定義8.4)をそれぞれ $\mathcal{H}$ 上の正規作用素、有界自己共役作用素、有界非負自己共役作用素、射影作用素、部分等長作用素と言う。すなわち、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が正規作用素であるとは $T^*T=TT^*$ が成り立つこと、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が有界自己共役作用素であるとは $T^*=T$ が成り立つこと、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が有界非負自己共役作用素であるとは $T^*=T$ かつ $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ が成り立つこと、$P\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が射影作用素であるとは $P^2=P$ かつ $P^*=P$ が成り立つこと、$V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が部分等長作用素であるとは $V^*V$ が射影作用素であることを言う。

注意1.2($C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のユニタリ元はユニタリ作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。共役作用素の定義(位相線形空間1:ノルムと内積定義7.3)より、$U:\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ に対し次は互いに同値である。

命題1.3($C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元の作用素としての特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は単位的 $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元である。
  • $(2)$ $T:\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射である。
  • $(3)$ ある $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert Tv\rVert\geq\epsilon\lVert v\rVert,\quad\lVert T^*v\rVert\geq \epsilon\lVert v\rVert\quad(\forall v\in\mathcal{H})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。$(2)\Rightarrow(1)$ は開写像定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定理18.2)による。$(1)$ が成り立つならば $T^*$ も $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元であり、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\lVert v\rVert=\lVert T^{-1}Tv\rVert\leq \lVert T^{-1}\rVert\lVert Tv\rVert,\\ &\lVert v\rVert=\lVert {T^*}^{-1}T^*v\rVert\leq \lVert {T^*}^{-1}\rVert\lVert T^*v\rVert \end{aligned} $$ となる。よって $(3)$ が成り立つ。$(3)\Rightarrow(2)$ を示す。$(3)$ が成り立つとする。このとき明らかに ${\rm Ker}(T)={\rm Ker}(T^*)=\{0\}$ であり、${\rm Ran}(T), {\rm Ran}(T^*)$ は閉である*1。よって位相線形空間1:ノルムと内積命題6.12命題7.4の $(6)$ より、 $$ \begin{aligned} &{\rm Ran}(T)=\overline{{\rm Ran}(T)}=({\rm Ran}(T))^{\perp\perp}=({\rm Ker}(T^*))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H},\\ &{\rm Ran}(T^*)=\overline{{\rm Ran}(T^*)}=({\rm Ran}(T^*))^{\perp\perp}=({\rm Ker}(T))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} \end{aligned} $$ である。ゆえに $(2)$ が成り立つ。

命題1.4(Hilbert空間上の有界(非負)自己共役作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき、

  • $(1)$ $T$ が有界自己共役作用素であるための必要十分条件は任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\in \mathbb{R}$ が成り立つことである。
  • $(2)$ $T$ が有界非負自己共役作用素であるための必要十分条件は任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\geq0$ が成り立つことである。

証明

  • $(1)$ $T$ が有界自己共役作用素ならば $T^*=T$ より任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)=(T^*v\mid v)=(Tv\mid v)=\overline{(v\mid Tv)}$ であるから $(v\mid Tv)\in\mathbb{R}$ である。逆に任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\in \mathbb{R}$、したがって $(v\mid Tv)=\overline{(v\mid Tv)}=(Tv\mid v)$ ならば、偏極恒等式(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義25.2)より 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid Tv)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid T(i^ku+v))=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(T(i^ku+v)\mid i^ku+v)=(Tu\mid v) $$ である。よって $T=T^*$ であるから $T$ は有界自己共役作用素である。
  • $(2)$ $T$ が有界非負自己共役作用素ならば Banach環とC*-環のスペクトル理論命題7.5より $T=\sqrt{T}^2$ なる有界非負自己共役作用素 $\sqrt{T}$ が取れるので、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)=(v\mid \sqrt{T}^2v)=(\sqrt{T}v\mid \sqrt{T}v)=\lVert \sqrt{T}v\rVert^2\geq0$ である。逆に任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\geq0$ が成り立つとして $T$ が有界非負自己共役作用素であることを示す。$(1)$ より $T$ は有界自己共役作用素であるので $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ が成り立つことを示せばよい。 $T$ は自己共役であるので $\sigma(T)\subset \mathbb{R}$ (Banach環とC*-環のスペクトル理論命題3.6)である。 そこで今、$\lambda\in \sigma(T)$ で $\lambda<0$ なるものが存在すると仮定して矛盾を導く。$\lambda-T$ は自己共役であり、可逆ではないので命題1.3より任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $v_{\epsilon}\in \mathcal{H}$ で、 $$ \lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert<\epsilon\lVert v_{\epsilon}\rVert $$ を満たすものが取れる。$-\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})\geq0$ より、 $$ \begin{aligned} \epsilon^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2>\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert^2 =\lvert\lambda\rvert^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2-2\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})+\lVert Tv_{\epsilon}\rVert^2\geq\lvert\lambda\rvert^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2 \end{aligned} $$ となり $\epsilon>\lvert\lambda\rvert$ を得る。$\epsilon\in (0,\infty)$ は任意であるからこれは $\lambda=0$ を意味し、$\lambda<0$ に矛盾する。よって $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ が成り立つ。

命題1.5(Hilbert空間上の射影作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$P\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $P$ は $\mathcal{H}$ 上の射影作用素である。
  • $(2)$ $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}$ が存在し、直交分解 $\mathcal{H}=\mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}$(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.11)に対し、 $$ Pv=v_1\quad(\forall v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H}) $$ が成り立つ。

そして $(1),(2)$ が成り立つとき $\mathcal{K}={\rm Ran}(P)$、$\mathcal{K}^{\perp}={\rm Ran}(1-P)$ である。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとすると $P^2=P$ より ${\rm Ran}(P)={\rm Ker}(1-P)$ であるから ${\rm Ran}(P)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である。そして $1-P$ も射影作用素であるから、位相線形空間1:ノルムと内積命題7.4の $(6)$ より、 $$ {\rm Ran}(P)^{\perp}={\rm Ker}(P^*)={\rm Ker}(P)={\rm Ran}(1-P) $$ である。よって任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ v=Pv+(1-P)v\in {\rm Ran}(P)\oplus {\rm Ran}(P)^{\perp}=\mathcal{H} $$ であるから、$\mathcal{K}={\rm Ran}(P)$ とおけば $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ u=u_1+u_2,\quad v=v_1+v_2\quad(u_1,v_1\in\mathcal{K}, u_2,v_2\in\mathcal{K}^{\perp}) $$ と直交分解すると、 $$ (u\mid Pv)=(u\mid v_1)=(u_1\mid v_1)=(u_1\mid v)=(Pu\mid v) $$ であるから $P^*=P$ が成り立つ。また $P^2v=Pv_1=v_1=Pv$ であるから $P^2=P$ が成り立つ。よって $P$ は射影作用素である。

定義1.6(閉部分空間の上への射影作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$\mathcal{K}\subset \mathcal{H}$ を閉部分空間とする。命題1.5の $(2)\Rightarrow(1)$ の証明より、直交分解 $\mathcal{H}=\mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}$ に対し、 $$ Pv:=v_1\quad(\forall v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H}) $$ として射影作用素 $P\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が定まる。この $P$ を閉部分空間 $\mathcal{K}$ の上への射影作用素と言う。命題1.5より $1-P$ は $\mathcal{K}^{\perp}$ の上への射影作用素である。

命題1.7(Hilbert空間上の部分等長作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $V$ は $\mathcal{H}$ 上の部分等長作用素である。
  • $(2)$ $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}$ が存在し、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}),\quad {\rm Ker}(V)=\mathcal{K}^{\perp} $$ が成り立つ。

そして $(1),(2)$ が成り立つとき $V^*V$ は $\mathcal{K}$ の上への射影作用素である。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。$V^*V\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は命題1.5より $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}={\rm Ran}(V^*V)$ の上への射影作用素であるから、任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ \lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv)=(v\mid v)=\lVert v\rVert^2 $$ であり、任意の $v\in \mathcal{K}^{\perp}$ に対し、 $$ \lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv)=0 $$ である。よって、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}),\quad \mathcal{K}^{\perp}\subset {\rm Ker}(V) $$ である。任意の $v\in {\rm Ker}(V)$ に対し、 $$ v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H} $$ と直交分解すると、$\lVert Vv_1\rVert=\lVert v_1\rVert$、$Vv_2=0$ であるから、 $$ 0=\lVert Vv\rVert=\lVert Vv_1\rVert=\lVert v_1\rVert, $$ よって $v=v_2\in \mathcal{K}^{\perp}$ であるから ${\rm Ker}(V)=\mathcal{K}^{\perp}$ である。ゆえに $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ (v\mid v)=\lVert v\rVert^2=\lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv) $$ であるから、偏極恒等式(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義25.2)より 任意の $u,v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ (u\mid v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid i^ku+v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(V(i^ku+v)\mid V(i^ku+v))=(Vu\mid Vv) $$ である。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ u=u_1+u_2,\quad v=v_1+v_2\quad(u_1,v_1\in\mathcal{K}, u_2,v_2\in\mathcal{K}^{\perp}) $$ と直交分解すると、 $$ (u\mid V^*Vv)=(Vu\mid Vv)=(Vu_1\mid Vv_1)=(u_1\mid v_1)=(u\mid v_1) $$ となる。ゆえに $V^*Vv=v_1$ であるから、$V^*V$ は $\mathcal{K}$ の上への射影作用素であり、したがって $V$ は部分等長作用素である。

2. $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のWOT(weak operator topology)とSOT(strong operator topology)、射影作用素の直交族の(無限)和

この節ではセミノルム位相と汎弱位相の基本的な知識を自由に用いる。これらについては位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の8,9を参照されたい。

定義2.1($\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のWOT(weak operator topology)とSOT(strong operator topology))

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し線形空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数 $\varphi_{u,v}:\mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow\mathbb{C}$ とセミノルム $p_v:\mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow [0,\infty)$ を、 $$ \varphi_{u,v}(T):=(u\mid Tv),\quad p_v(T):=\lVert Tv\rVert\quad(\forall T\in\mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ として定義する。このとき $\{\varphi_{u,v}\}_{u,v\in\mathcal{H}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数の分離族、$\{p_v\}_{v\in\mathcal{H}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上のセミノルムの分離族である。$\{\varphi_{u,v}\}_{u,v\in\mathcal{H}}$ が誘導する $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の汎弱位相を $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のWOT(weak operator topology)と言い、$\{p_v\}_{v\in \mathcal{H}}$ が誘導する $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上のセミノルム位相を $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上のSOT(strong operator topology)と言う。セミノルム位相、汎弱位相による収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6の $(1)$、命題9.3の $(1)$)より、$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、 $$ \begin{aligned} T_{\lambda}\rightarrow T\quad(\text{ w.r.t. WOT })\quad&\iff\quad (u\mid T_{\lambda}v)\rightarrow (u\mid Tv)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}),\quad\quad(*)\\ T_{\lambda}\rightarrow T\quad(\text{ w.r.t. SOT })\quad&\iff\quad \lVert T_{\lambda}v-Tv\rVert\rightarrow0\quad(\forall v\in\mathcal{H})\quad\quad(**) \end{aligned} $$ である。

注意2.2($\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のノルム位相、SOT、WOTの強弱)

$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、$T_{\lambda}\rightarrow T$ がSOTに関して成り立つならばWOTに関して成り立つ(定義2.1の $(*),(**)$を参照)。よってネットの収束による連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)よりSOTはWOTより強い。また $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のノルムに関して収束する列はSOTに関して収束するので、ノルム位相はSOTより強い。

命題2.3($\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}, \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ はWOT閉)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。有界自己共役作用素全体 $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ と有界非負自己共役作用素全体 $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ はそれぞれ $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ においてWOT閉(したがってSOT閉、ノルム閉)である。

証明

$T$ を $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(resp. $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)のWOT閉包の元とすると、$\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(resp. $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)のネット $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ でWOTで $T$ に収束するものが取れる(ネットによる位相空間論命題2.4)。命題1.4より任意の $v\in \mathcal{H}$、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対し $(v\mid T_{\lambda}v)\in\mathbb{R}$(resp. $(v\mid T_{\lambda}v)\in [0,\infty)$)であるから、$(v\mid Tv)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)\in \mathbb{R}$(resp. $(v\mid Tv)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)\in [0,\infty)$)である。よって命題1.4より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(resp. $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)であるから $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(rsep. $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)はWOTに関して閉である。SOTとノルム位相はWOTより強いので、WOTに関して閉であることは、SOTとノルム位相に関しても閉であることを意味する。

定理2.4($\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の有界単調増加ネットの上限へのSOT収束)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ を $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の単調増加ネットとし($\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の順序に関してはBanach環とC*-環のスペクトル理論定義7.8を参照)、ある $M\in [0,\infty)$ に対し $\lVert T_{\lambda}\rVert\leq M$ $(\forall \lambda\in \Lambda)$ が成り立つとする。このとき $\sup_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ が存在し、$(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $\sup_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}$ にSOTで収束する。(WOTはSOTより弱いのでWOTでも収束する。)

証明

任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し、$( (v\mid T_{\lambda}v))_{\lambda\in\Lambda}$ は $\mathbb{R}$ の上に有界な単調増加ネットであるから上限に収束する。すなわち、 $$ \lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)=\sup_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v) $$ が成り立つ。偏極恒等式より任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid T_{\lambda}v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid T_{\lambda}(i^ku+v))\quad(\forall \lambda\in\Lambda) $$ であるから、$\mathbb{C}$ のネット $( (u\mid T_{\lambda}v))_{\lambda\in\Lambda}$ は収束する。そこで、 $$ \Phi:\mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \lim_{\lambda\in\Lambda}(u\mid T_{\lambda}v)\in \mathbb{C} $$ とおくと、$\Phi$ は準双線形汎関数(位相線形空間1:ノルムと内積定義6.4)であり、 $$ \lvert\Phi(u,v)\rvert=\lim_{\lambda\in\Lambda}\lvert (u\mid T_{\lambda}v)\rvert\leq M\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ より $\Phi$ は有界であり、そのノルムは $\lVert\Phi\rVert\leq M$ を満たす。よって位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ (u\mid Tv)=\Phi(u,v)\quad(\forall u,v\in\mathcal{H}),\quad \lVert T\rVert=\lVert\Phi\rVert\leq M $$ を満たすものが定まる。 $$ (v\mid Tv)=\Phi(v,v)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)=\sup_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ であるから、命題1.4より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ であり、$T\geq T_{\lambda}$ $(\forall \lambda\in\Lambda)$ である。また $S\geq T_{\lambda}$ $(\forall \lambda\in\Lambda)$ なる任意の $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ に対し、 $$ (v\mid Sv)\geq\sup_{\lambda}(v\mid T_{\lambda}v)=(v\mid Tv)\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ であるから、$S\geq T$ である。よって $T=\sup_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}$ である。後は $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $T$ にSOTで収束することを示せばよい。 Banach環とC*-環のスペクトル理論命題7.12より、 $$ 0\leq T-T_{\lambda}\leq \lVert T-T_{\lambda}\rVert\leq 2M\quad(\forall\lambda\in\Lambda) $$ であり、 $$ 0\leq (T-T_{\lambda})^2\leq \sqrt{T-T_{\lambda}}(T-T_{\lambda})\sqrt{T-T_{\lambda}}\leq 2M(T-T_{\lambda})\quad(\forall \lambda\in\Lambda) $$ である。よって任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert Tv-T_{\lambda}v\rVert^2=(v\mid(T-T_{\lambda})^2v)\leq 2M(v\mid(T-T_{\lambda})v)=2M( (v\mid Tv)-(v\mid T_{\lambda}v))\rightarrow0 $$ であるから、$(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $T$ にSOTで収束する。

命題2.5(射影作用素からなる単調増加ネットの上限(SOT(WOT)極限)は射影作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(P_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ を $\mathcal{H}$ 上の射影作用素の単調増加ネットとする。このとき $P:=\sup_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda}\in \mathbb(B)(\mathcal{H})_+$(定理2.4を参照)は射影作用素である。

証明

$P^2=P$ が成り立つことを示せばよい。任意の $\lambda_0\in\Lambda$ を取り固定する。任意の $\lambda\geq\lambda_0$ に対し $P_{\lambda}\geq P_{\lambda_0}$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題8.2の $(3)$ より、 $$ P_{\lambda_0}=P_{\lambda_0}P_{\lambda}\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0) $$ である。$(P_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $P$ にSOT収束するから、 $$ P_{\lambda_0}v=\lim_{\lambda\in\Lambda,\lambda\geq\lambda_0}P_{\lambda_0}P_{\lambda}v=P_{\lambda_0}Pv\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ である。$\lambda_0\in\Lambda$ は任意であるから $P_{\lambda}v=P_{\lambda}Pv$ $(\forall\lambda\in\Lambda,\forall v\in\mathcal{H})$ であるので、 $$ Pv=\lim_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda}v=\lim_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda}Pv=P^2v\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ である。ゆえに $P=P^2$ であるから $P$ は射影作用素である。

定義2.6(射影作用素の直交族の和)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$\mathcal{H}$ 上の射影作用素の族 $(P_j)_{j\in J}$ が直交族であるとは、$P_iP_j=0$ $(\forall i,j\in J:i\neq j)$ が成り立つことを言う。$(P_j)_{j\in J}$ を射影作用素の直交族とし、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れた有向集合とする。このとき $(\sum_{j\in F}P_j)_{F\in \mathcal{F}_J}$ は $\mathcal{H}$ 上の射影作用素からなる単調増加ネットであるから、命題2.5よりその上限(SOT極限)は射影作用素である。そこでこの射影作用素を射影作用素の直交族 $(P_j)_{j\in J}$ の和と言い、 $$ \sum_{j\in J}P_j:=\sup_{F\in \mathcal{F}_J}\sum_{j\in F}P_j=\text{SOT-}\lim_{F\in\mathcal{F}_J}\sum_{j\in J}P_j $$ と表す。

3. Hilbert空間上の有界とは限らない線形作用素の定義と基本的性質

定義3.1(Hilbert空間上の有界とは限らない線形作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間とする。$T$ が $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素であると言うとき、$T$ は $\mathcal{H}$ 全体で定義されているとは限らず、$\mathcal{H}$ のある線形部分空間 $D(T)$ 上で定義され、$\mathcal{K}$ に値を取る線形作用素であることを意味することとする。$D(T)\subset \mathcal{H}$ を $T$ の定義域、${\rm Ran}(T)=T(D(T))\subset \mathcal{K}$ を $T$ の値域と言う。 そして直和Hilbert空間 $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義26.3)の線形部分空間 $$ G(T):=\{(v,Tv)\in \mathcal{H}\oplus \mathcal{K}:v\in D(T)\} $$ を $T$ のグラフと言う。
Hilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{H}$ への線形作用素のことを単にHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の線形作用素と言う。
$T$ がHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への有界線形作用素であると言うとき、それは $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ を意味することとする。すなわち $D(T)=\mathcal{H}$ かつ $G(T)\subset \mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ が閉であることを言う。(閉グラフ定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定理19.3)を参照。)

定義3.2(稠密に定義された線形作用素、閉線形作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。$T$ が稠密に定義されているとは、$D(T)$ が $\mathcal{H}$ で稠密であることを言う。また $T$ が閉であるとは $T$ のグラフ $G(T)$ が $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ において閉であることを言う。

定義3.3(線形作用素の包含関係)

$S,T$ をそれぞれHilbert空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。 $$ S\subset T\quad \iff\quad G(S)\subset G(T) $$ と定義する。これを $T$ は $S$ を包含する($S$ は $T$ に包含される)と言う。明らかにこの包含関係は $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素全体における順序である。

定義3.4(単射線形作用素の逆作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への単射線形作用素とする。このとき線形同型写像 $D(T)\ni v\mapsto Tv\in {\rm Ran}(T)$ の逆写像として定義される $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への線形作用素を、 $$ T^{-1}:D(T^{-1}):={\rm Ran}(T)\ni Tv\mapsto v\in \mathcal{H} $$ と表す。

定義3.5(線形作用素の和、スカラー倍、積)

$S,T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。このとき $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素 $S+T$ を、 $$ S+T:D(S+T):=D(S)\cap D(T)\ni v\mapsto Sv+Tv\in \mathcal{K} $$ と定義する。また $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素 $\alpha T$ を、 $$ \begin{aligned} &\alpha T:D(\alpha T):=D(T)\ni v\mapsto \alpha Tv\in \mathcal{K}\quad(\alpha\neq0\text{ の場合 }),\\ &\alpha T:D(\alpha T):=\mathcal{H}\ni v\mapsto 0\in \mathcal{K}\quad(\alpha=0\text{ の場合 }) \end{aligned} $$ と定義する。
$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ をそれぞれHilbert空間とし、$T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とする。このとき $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素 $ST$ を、 $$ ST:D(ST):=\{v\in D(T):Tv\in D(S)\}\ni v\mapsto STv\in \mathcal{L} $$ と定義する。

定義3.6(稠密に定義された線形作用素の共役作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とする。$\mathcal{K}$ の線形部分空間 $$ D:=\{v\in \mathcal{K}: D(T)\ni u\mapsto (v\mid Tu)\in \mathbb{C}\text{ は有界線形汎関数 }\} $$ を考える。任意の $v\in D$ に対し、有界線形汎関数 $D(T)\ni u\mapsto (v\mid Tu)\in \mathbb{C}$ は $\mathcal{H}=\overline{D(T)}$ 上の有界線形汎関数に一意拡張できる(位相線形空間1:ノルムと内積命題3.6)から、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より、$T^*v\in \mathcal{H}$ で、 $$ (v\mid Tu)=(T^*v\mid u)\quad(\forall u\in D(T)) $$ を満たすものが定まる。こうして定義される $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への線形作用素 $$ T^*:D(T^*):=D\ni v\mapsto T^*v\in \mathcal{H} $$ を $T$ の共役作用素と言う。この共役作用素の定義は有界線形作用素 $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ の共役作用素 $T^*\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ の定義(位相線形空間1:ノルムと内積定義7.3)と矛盾しない。

定義3.7(可閉線形作用素とその閉包)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。$T$ を包含する閉線形作用素が存在するとき、$T$ は可閉であると言う。 $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への可閉線形作用素とする。 $$ \pi:\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}\ni (v,w)\mapsto v\in \mathcal{H} $$ に対し、線形部分空間 $$ D:=\pi(\overline{G(T)})\subset \mathcal{H} $$ を定義する。このとき任意の $v\in D$ に対し $(v,w)\in \overline{G(T)}$ を満たす $w\in \mathcal{K}$ は唯一つである。実際、$T$ が可閉であることから $T\subset S$ を満たす閉線形作用素が存在し、$\overline{G(T)}\subset G(S)$ であるから、 $(v,w_1),(v,w_2)\in \overline{G(T)}$ ならば $w_1=Sv=w_2$ である。そこで任意の $v\in D$ に対し $(v,w)\in \overline{G(T)}$ として定まる $w$ に対し $w:=\overline{T}v$ とおき、線形作用素 $$ \overline{T}:D(\overline{T}):=D\ni v\mapsto \overline{T}\in \mathcal{K} $$ を定義する。このとき明らかに $G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ である。閉線形作用素 $\overline{T}$ を可閉線形作用素 $T$ の閉包と言う。$\overline{T}$ は $T$ を包含する閉線形作用素の中で最小のものとして特徴付けられる。

定義3.8(閉線形作用素の芯)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ から Hilbert空間 $\mathcal{K}$ への閉線形作用素とする。線形部分空間 $D\subset D(T)$ で、 $$ \overline{T|_D}=T $$ を満たすものを $T$ の芯と言う。ただし $T|_D$ は $T$ の $D$ 上への制限である。

命題3.9(Hilbert空間上の有界とは限らない線形作用素の基本的性質)

$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ をそれぞれHilbert空間とする。

  • $(1)$ $T_1,T_2$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とする。このとき、 $$ S(T_1+T_2)\supset ST_1+ST_2 $$ が成り立つ。また、$T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S_1,S_2$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とすると、 $$ (S_1+S_2)T=S_1T+S_2T $$ が成り立つ。
  • $(2)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とし、$\alpha\in \mathbb{C}\backslash \{0\}$ とすると、 $$ S(\alpha T)=(\alpha S)T=\alpha(ST) $$ が成り立つ。
  • $(3)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への単射線形作用素とし、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への単射線形作用素とすると、$ST$ は $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への単射線形作用素であり、 $$ (ST)^{-1}=T^{-1}S^{-1} $$ が成り立つ。
  • $(4)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$\alpha\in \mathbb{C}\backslash \{0\}$ とすると、 $$ (\alpha T)^*=\overline{\alpha}T^* $$ が成り立つ。
  • $(5)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とすると、 $$ ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ker}(T^*) $$ が成り立つ。
  • $(6)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とすると、$T^*$ は $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への閉線形作用素である。
  • $(7)$ $S,T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$S\subset T$ であるとすると、$T^*\subset S^*$ が成り立つ。
  • $(8)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された可閉線形作用素とすると、$(\overline{T})^*=T^*$ が成り立つ。
  • $(9)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$ST$ が $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への稠密に定義された線形作用素であるとすると、 $$ (ST)^*\supset T^*S^* $$ が成り立つ。またもし $S\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{L})$ であれば、 $$ (ST)^*=T^*S^* $$ が成り立つ。
  • $(10)$ $S,T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$S+T$ も $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素であるとすると、 $$ (S+T)^*\supset S^*+T^* $$ が成り立つ。またもし $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ であれば、 $$ (S+T)^*=S^*+T^* $$ が成り立つ。

証明

$(1),(2)$ は線形作用素の和、スカラー倍、積の定義(定義3.5)より明らかである。$(3)$ は単射線形作用素の逆作用素の定義(定義3.4)より明らかである。$(4)$ は稠密に定義された線形作用素の共役作用素の定義(定義3.6)より明らかである。
$(5)$ を示す。任意の $v\in ({\rm Ran}(T))^{\perp}$ に対し、 $$ (v\mid Tu)=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから、$v\in D(T^*)$ であり、 $$ (T^*v\mid u)=(v\mid Tu)=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ である。$\overline{D(T)}=\mathcal{H}$ であるからこれは $v\in {\rm Ker}(T^*)$ を意味する。逆に $v\in {\rm Ker}(T^*)$ ならば、 $$ (v\mid Tu)=(T^*v\mid u)=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから $v\in ({\rm Ran}(T))^{\perp}$ である。
$(6)$ を示す。$\mathcal{K}\oplus \mathcal{H}$ において、 $$ (v_n,T^*v_n)\rightarrow (v,w)\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるとすると、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (w\mid u)=\lim_{n\rightarrow\infty}(T^*v_n\mid u)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n\mid Tu)=(v\mid Tu) $$ であるから $v\in D(T^*)$ であり、$w=T^*v$ である。よって $G(T^*)$ は $\mathcal{K}\oplus \mathcal{H}$ の閉部分空間なので $T^*$ は閉である。
$(7)$ を示す。任意の $v\in D(T^*)$ を取る。任意の $u\in D(S)$ に対し $Su=Tu$ であるから、 $$ (v\mid Su)=(v\mid Tu)=(T^*v\mid u) $$ である。よって $v\in D(S^*)$ であり、$S^*v=T^*v$ である。ゆえに $T^*\subset S^*$ である。
$(8)$ を示す。$(7)$ より $(\overline{T})^*\subset T^*$ であるから逆の包含関係を示す。任意の $u\in D(\overline{T})$ と任意の $v\in D(T^*)$ を取る。$(u,\overline{T}u)\in G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ より $D(T)$ の列 $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ (u_n,Tu_n)\rightarrow (u,\overline{T}u)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。これより、 $$ (T^*v\mid u)=\lim_{n\rightarrow\infty}(T^*v\mid u_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v\mid Tu_n)=(v\mid \overline{T}u) $$ であるから、$v\in D((\overline{T})^*)$ であり、$(\overline{T})^*v=T^*v$ である。よって $T^*\subset (\overline{T})^*$ が成り立つ。
$(9)$ を示す。任意の $v\in D(T^*S^*)$、任意の $u\in D(ST)$ に対し、 $$ (v\mid STu)=(S^*v\mid Tu)=(T^*S^*v\mid u) $$ であるから $v\in D((ST)^*)$ であり、$T^*S^*v=(ST)^*v$ である。よって $T^*S^*\subset (ST)^*$ が成り立つ。$S\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{L})$ であるとき逆の包含関係 $(ST)^*\subset T^*S^*$ が成り立つことを示す。任意の $v\in D(ST)^*$、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (S^*v\mid Tu)=(v\mid STu)=( (ST)^*v\mid u) $$ であるから、$S^*v\in D(T^*)$ であり、$T^*S^*v=(ST)^*v$ である。よって$(ST)^*\subset T^*S^*$ が成り立つ。
$(10)$ を示す。任意の $v\in D(S^*+T^*)=D(S^*)\cap D(T^*)$、任意の $u\in D(S+T)=D(S)\cap D(T)$ に対し、 $$ (v\mid (S+T)u)=(v\mid Su)+(v\mid Tu)=(S^*v\mid u)+(T^*v\mid u)=((S^*+T^*)v\mid u) $$ であるから、$v\in D( (S+T)^*)$ であり、$(S+T)^*v=(S^*+T^*)v$ である。よって $S^*+T^*\subset (S+T)^*$ が成り立つ。$S\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ であるとき逆の包含関係 $(S+T)^*\subset S^*+T^*$ が成り立つことを示す。任意の $v\in D( (S+T)^*)$、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (v\mid Tu)=(v\mid (S+T)u)-(v\mid Su)=( (S+T)^*v\mid u)-(S^*v\mid u) $$ であるから、$v\in D(T^*)=D(S^*)\cap D(T^*)=D(S^*+T^*)$ であり、$(S+T)^*v=S^*v+T^*v$ である。よって $(S+T)^*\subset S^*+T^*$ が成り立つ。

定理3.10(稠密に定義された閉線形作用素の性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への稠密に定義された閉線形作用素とする。このとき、

  • $(1)$ $D(T^*T)$ は $T$ の芯であり、$1+T^*T:D(T^*T)\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射である。
  • $(2)$ $T^*$ は $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への稠密に定義された閉線形作用素である。
  • $(3)$ $T^{**}=T$ が成り立つ。
  • $(4)$ $(T^*T)^*=T^*T$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ $T$ は閉線形作用素であるから $G(T)$ はHilbert空間 $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ の閉部分空間である。よって $G(T)$ は $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ の内積によりHilbert空間である。Hilbert空間 $G(T)$ からHilbert空間 $\mathcal{H}$ への有界線形作用素 $$ \pi:G(T)\ni (v,Tv)\mapsto v\in \mathcal{H} $$ を考える。$\pi$ は単射であるから命題3.9の $(5)$ より、 $$ (\pi^*(\mathcal{H}))^{\perp}={\rm Ker}(\pi)=\{0\} $$ である。よって、 $$ \overline{\pi^*(\mathcal{H})}=( (\pi^*(\mathcal{H}))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=G(T) $$ である(位相線形空間1:ノルムと内積命題6.12)。そこで、 $$ D:=\pi(\pi^*(\mathcal{H}))\subset D(T) $$ とおけば $G(T|_D)=\pi^*(\mathcal{H})$ であるから、 $$ \overline{G(T|_D)}=\overline{\pi^*(\mathcal{H})}=G(T) $$ である。よって $D$ は $T$ の芯である。今、任意の $v=\pi(\pi^*(w))\in \pi(\pi^*(\mathcal{H}))=D$ を取る。このとき $\pi^*(w)=(v,Tv)$ であるから、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (v\mid u)+(Tv\mid Tu)=( (v,Tv)\mid (u,Tu))=(\pi^*(w)\mid (u,Tu))=(w\mid u) $$ である。よって、 $$ (w-v\mid u)=(Tv\mid Tu)\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから、$v\in D(T^*T)$、$w=v+T^*Tv$ である。これより $D\subset D(T^*T)$ であるから $D(T^*T)$ も $T$ の芯であり、また $\mathcal{H}={\rm Ran}(1+T^*T)$ である。後は $1+T^*T$ が単射であることを示せばよい。そこで任意の $v\in {\rm Ker}(1+T^*T)$ を取る。 $$ 0=(v\mid (1+T^*T)v)=(v\mid v)+(v\mid T^*Tv)=\lVert v\rVert^2+\lVert Tv\rVert^2 $$ であるから $v=0$ である。ゆえに $1+T^*T$ は単射である。
  • $(2)$ $(1)$ より $D(T^*T)$ は $T$ の芯であるから任意の $v\in D(T)$ に対し $D(T^*T)$ の列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,Tv_n)\rightarrow (v,Tv)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。よって、 $$ Tv=\lim_{n\rightarrow\infty}Tv_n\in \overline{D(T^*)} $$ であるから、 $$ {\rm Ran}(T)\subset \overline{D(T^*)} $$ が成り立つ。これと命題3.9の $(5)$ より、 $$ (D(T^*))^{\perp}=(\overline{D(T^*)})^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ker}(T^*)\subset D(T^*) $$ であるから $(D(T^*))^{\perp}=\{0\}$ である。よって $$ \overline{D(T^*)}=( (D(T^*))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{K} $$ であるから $T^*$ は稠密に定義された線形作用素である。$T^*$ が閉であることは命題3.9の $(6)$ による。
  • $(3)$  $$ (u\mid T^*v)=(Tu\mid v)\quad(\forall v\in D(T^*),\forall u\in D(T)) $$ であるから $T\subset T^{**}$ である。同様に $T^*\subset T^{***}$ である。ここで $T\subset T^{**}$ と命題3.9の $(7)$ より $T^{***}\subset T^*$ であるので $T^*=T^{***}$ である。$T=T^{**}$ を示すにはHilbert空間 $G(T^{**})$ における閉部分空間 $G(T)$ の直交補空間 $G(T^{**})\cap (G(T))^{\perp}$ が $\{0\}$ であることを示せばよい。そこで任意の $(v,T^{**}v)\in G(T^{**})\cap (G(T))^{\perp}$ を取る。 $$ 0=( (u,Tu)\mid (v,T^{**}v))=(u\mid v)+(Tu\mid T^{**}v)\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから $v\in D(T^*T^{**})=D(T^{***}T^{**})$ であり、 $$ 0=(1+T^*T^{**})v=(1+T^{***}T^{**})v $$ である。$T^{**}$ は稠密に定義された閉線形作用素であるので $(1)$ より $1+T^{***}T^{**}$ は単射である。よって $v=0$、したがって $(v,T^{**}v)=0$ であるので $G(T^{**})\cap (G(T))^{\perp}=\{0\}$ である。ゆえに $T=T^{**}$ である。
  • $(4)$ $(1)$ より $T^*T$ は稠密に定義された線形作用素であり、 $$ (u\mid T^*Tv)=(Tu\mid Tv)=(T^*Tu\mid v)\quad(\forall u,v\in D(T^*T)) $$ であるから $T^*T\subset (T^*T)^*$ である。$T^*T=(T^*T)^*$ を示すには $D( (T^*T)^*)\subset D(T^*T)$ を示せばよい。任意の $w\in D( (T^*T)^*)=D( (1+T^*T)^*)$ を取る。$(1)$ より ${\rm Ran}(1+T^*T)=\mathcal{H}$ であるから、 $$ (1+T^*T)^*w=(1+T^*T)v $$ なる $v\in D(T^*T)$ が取れる。 $1+T^*T\subset (1+T^*T)^*$ なので、 $$ (1+T^*T)^*(w-v)=0 $$ である。よって命題3.9の $(5)$ より、 $$ w-v\in {\rm Ker}( (1+T^*T)^*)=({\rm Ran}(1+T^*T))^{\perp}=\mathcal{H}^{\perp}=\{0\} $$ である。ゆえに $w=v\in D(T^*T)$ であるので $D( (T^*T)^*)\subset D(T^*T)$ である。よって $T^*T=(T^*T)^*$ である。

4. 対称作用素、自己共役作用素、Cayley変換

定義4.1(対称作用素、自己共役作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された線形作用素とする。$T\subset T^*$ が成り立つとき $T$ を $\mathcal{H}$ 上の対称作用素と言う。また $T=T^*$ が成り立つとき $T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素と言う。

命題4.2(対称作用素の特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された線形作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は $\mathcal{H}$ 上の対称作用素(つまり $T\subset T^*$)である。
  • $(2)$ 任意の $u,v\in D(T)$ に対し $(u\mid Tv)=(Tu\mid v)$ が成り立つ。
  • $(3)$ 任意の $v\in D(T)$ に対し $(v\mid Tv)\in\mathbb{R}$ が成り立つ。
  • $(4)$ $G(T)\ni (v,Tv)\mapsto (T\pm i)v\in {\rm Ran}(T\pm i)$ は等長線形同型写像である。

証明

$(1)\Leftrightarrow(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。$(3)\Rightarrow(2)$ は偏極恒等式 $$ (u\mid Tv)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid T(i^ku+v))\quad(\forall u,v\in D(T)) $$ による。$(3)\Leftrightarrow(4)$ は、 $$ \lVert (T\pm i)v\rVert^2=\lVert Tv\rVert^2 \pm 2{\rm Im}(v\mid Tv)+\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in D(T)) $$ による。

命題4.3(対称作用素の閉包は対称作用素)

$T$ がHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素ならば $T$ は可閉であり、$\overline{T}$ も $\mathcal{H}$ 上の対称作用素である。また、 $$ {\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

命題3.9の $(6)$ より $T^*$ は閉である。よって $T\subset T^*$ より $T$ は可閉であり、$\overline{T}\subset T^*$ である。また命題3.9の $(8)$ より $(\overline{T})^*=T^*$ である。ゆえに $\overline{T}\subset (\overline{T})^*$ であるから $\overline{T}$ は対称作用素である。命題4.2より、 $$ \begin{aligned} &G(T)\ni (v,Tv)\mapsto (T\pm i)v\in {\rm Ran}(T\pm i),\\ &G(\overline{T})\ni (v,\overline{T}v)\mapsto (\overline{T}\pm i)v\in {\rm Ran}(\overline{T}\pm i) \end{aligned} $$ はそれぞれ等長線形同型写像であり、$T$ の閉包 $\overline{T}$ の定義より $G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ であるから $(*)$ が成り立つ。

定義4.4(対称作用素のCayley変換)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。このとき命題4.2より、 $$ C(T):=(T-i)(T+i)^{-1}:{\rm Ran}(T+i)\ni (T+i)v\mapsto (T-i)v\in \mathcal{H} $$ なる等長線形作用素が定義できる。$C(T)$ を $T$ のCayley変換と言う。$C(T)$ の定義域は $D(C(T))={\rm Ran}(T+i)$、値域は ${\rm Ran}(C(T))={\rm Ran}(T-i)$ である。

命題4.5(対称作用素のCayley変換からの再現)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。$T$ のCayley変換 $C(T)=(T-i)(T+i)^{-1}$ に対し $1-C(T)$ は単射であり、${\rm Ran}(1-C(T))=D(T)$ である。そして、 $$ T=i(1+C(T))(1-C(T))^{-1} $$ が成り立つ。

証明

任意の $(T+i)v\in {\rm Ran}(T+i)=D(C(T))$ に対し、 $$ (1-C(T))(T+i)v=(T+i)v-(T-i)v=2iv $$ であるから、${\rm Ran}(1-C(T))=D(T)$ であり、$1-C(T)$ は単射である。そして任意の $v\in D(T)$ に対し、 $$ (1+C(T))(1-C(T))^{-1}2iv=(1+C(T))(T+i)v=(T+i)v+(T-i)v=2Tv $$ であるから、 $$ (1+C(T))(1-C(T))^{-1}=T $$ である。

定理4.6(自己共役作用素のCayley変換)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素、$C(T)$ を $T$ のCayley変換とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素である。
  • $(2)$ $C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素である。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つならば $T=T^*$ であるから、命題3.9の $(5)$ より、 $$ ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}={\rm Ker}(T^*\mp i)={\rm Ker}(T\mp i)=\{0\} $$ であり、命題3.9の $(6)$ より $T=T^*$ は閉なので、命題4.3より、 $$ {\rm Ran}(T\pm i)={\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)} =( ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。よって $D(C(T))={\rm Ran}(T+i)=\mathcal{H}$、${\rm Ran}(C(T))={\rm Ran}(T-i)=\mathcal{H}$ であり、$C(T)$ は等長であるから、$C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素である。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つならば ${\rm Ran}(T\pm i)=\mathcal{H}$ であるから、任意の $v\in D(T^*)$ に対し、 $$ (T^*+i)v=(T+i)u $$ を満たす $u\in D(T)$ が取れる。$T\subset T^*$ より $T+i\subset T^*+i$ であるから、 $$ (T^*+i)(v-u)=0 $$ である。命題3.9の $(5)$ より、 $$ {\rm Ker}(T^*+i)=({\rm Ran}(T-i))^{\perp}=\mathcal{H}^{\perp}=\{0\} $$ であるから、$v=u\in D(T)$ である。よって $D(T^*)=D(T)$ であるので $T=T^*$ である。

定義4.7(対称作用素の自己共役拡張)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。$\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $S$ で、$T\subset S$ なるものを $T$ の自己共役拡張と言う。そして対称作用素 $T$ が自己共役拡張を持つとき、$T$ は自己共役拡張可能と言う。

定義4.8(対称作用素の本質的自己共役性)

Hilbert空間上の対称作用素 $T$ が本質的に自己共役であるとは、$T$ の閉包 $\overline{T}$ が自己共役作用素であることを言う。$T$ が本質的に自己共役であるならば、$T$ の自己共役拡張は $\overline{T}$ のみである。実際 $S$ が $T$ の自己共役拡張ならば、命題3.9の $(6),(7)$ より、 $$ \overline{T}\subset S=S^*\subset \overline{T}^*=\overline{T} $$ であるから、$S=\overline{T}$ である。

定理4.9(対称作用素が自己共役拡張可能であるための条件)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は自己共役拡張可能である。
  • $(2)$ $({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ の等長線形同型写像が存在する。

そして $(2)$ が成り立つとき、各等長線形同型写像 $V:({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ に対し、ユニタリ作用素 $$ \begin{aligned} U:=C(\overline{T})\oplus V:\mathcal{H}={\rm Ran}(\overline{T}+i)\oplus ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}&\rightarrow {\rm Ran}(\overline{T}-i)\oplus ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}=\mathcal{H}\\ (\overline{T}+i)v+u&\mapsto (\overline{T}-i)v+Vu\quad\quad(*) \end{aligned} $$ (命題4.3より $({\rm Ran}(T\pm i) )^{\perp}=(\overline{{\rm Ran}(T\pm i)})^{\perp}=({\rm Ran}(\overline{T}\pm i) )^{\perp}$ であることに注意)をCayley変換とする $T$ の自己共役拡張が存在する。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとし、$S$ を $T$ の自己共役拡張とする。定理4.6より $S$ のCayley変換 $C(S)=(S-i)(S+i)^{-1}$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素であり、 $$ C(S)^*=C(S)^{-1}=(S+i)(S-i)^{-1} $$ である。よって任意の $v\in ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}$ と任意の $(T-i)u\in {\rm Ran}(T-i)$ に対し、 $$ (C(S)v\mid (T-i)u)=(v\mid C(S)^*(S-i)u)=(v\mid (S+i)u)=(v\mid (T+i)u)=0 $$ であるから、 $$ C(S)({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T-i))^{\perp} $$ である。また任意の $v\in ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ と任意の $(T+i)u\in {\rm Ran}(T+i)$ に対し、 $$ (C(S)^*v\mid (T+i)u)=(v\mid C(S)(S+i)u)=(v\mid (S-i)u)=(v\mid (T-i)u)=0 $$ であるから、 $$ C(S)^*({\rm Ran}(T-i))^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}, $$ すなわち、 $$ ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}\subset C(S)({\rm Ran}(T+i))^{\perp} $$ である。よって、 $$ ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\ni v\mapsto C(S)v\in ({\rm Ran}(T-i))^{\perp} $$ は等長線形同型写像であるから、$(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。$V:({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ を等長線形同型写像とし、$(*)$ におけるユニタリ作用素 $U=C(\overline{T})\oplus V$ を考える。まず $1-U$ が単射であることを示す。そこで $(\overline{T}+i)u\in {\rm Ran}(\overline{T}+i)$ と $v\in ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}$ が $(1-U)( (\overline{T}+i)u+v)=0$ を満たすとする。このとき、 $$ 0=(1-U)( (\overline{T}+i)u+v)=(\overline{T}+i)u+v-(\overline{T}-i)u-Vv=2iu+(1-V)v $$ であり、$v\in ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}={\rm Ker}(T^*-i)$、$Vv\in ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}={\rm Ker}(T^*+i)$(命題3.9の $(5)$ )であるから、 $$ 0=(T^*+i)(2iu+(1-V)v)=2i(\overline{T}+i)u+(T^*-i)v+2iv-(T^*+i)Vv=2i(\overline{T}+i)u+2iv $$ である。よって、 $$ v=-(\overline{T}+i)u\in {\rm Ran}(\overline{T}+i)\cap ({\rm Ran}(\overline{T}+i))^{\perp}=\{0\} $$ であるから $(\overline{T}+i)u+v=0$ である。ゆえに $1-U$ は単射である。 $$ S:=i(1+U)(1-U)^{-1} $$ とおく。$C(\overline{T})\subset U$ であるから、 $$ S(1-C(\overline{T}))=i(1+C(\overline{T})) $$ であるので、命題4.5より、 $$ \overline{T}=i(1+C(\overline{T}))(1-C(\overline{T}))^{-1}\subset S\quad\quad(**) $$ である。任意の $u=(1-U)v\in {\rm Ran}(1-U)=D(S)$ に対し、 $$ (u\mid Su)=( (1-U)v\mid i(1+U)v)=i( (v\mid Uv)-(Uv\mid v) )\in \mathbb{R} $$ であるから、命題4.2より $S$ は対称作用素である。そして、 $$ \begin{aligned} &(S+i)(1-U)v=i(1+U)v+i(1-U)v=2iv\quad(\forall v\in \mathcal{H}),\\ &(S-i)(1-U)v=i(1+U)v-i(1-U)v=2iUv\quad(\forall v\in\mathcal{H}) \end{aligned} $$ であるから、$S$ のCayley変換は $C(S)=(S-i)(S+i)^{-1}=U$ である。よって $C(S)$ はユニタリ作用素であるから定理4.6より $S$ は自己共役作用素であり、$(**)$ より $S$ は $T$ の自己共役拡張である。

系4.10(対称作用素が本質的に自己共役であるための条件)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は本質的に自己共役である。
  • $(2)$ $T$ の自己共役拡張が唯一つ存在する。

また、$T$ が自己共役拡張可能であり、本質的に自己共役ではないならば、$T$ の自己共役拡張は非可算無限個存在する。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ は定義4.8で述べてある。$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。このとき定理4.9より $({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ の等長線形同型写像が存在する。 $({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}\neq\{0\}$ であると仮定し、等長線形同型写像 $V_0:({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ と $\theta\in [0,2\pi)$ に対し、 等長線形同型写像 $V_{\theta}:=e^{i\theta}V_0:({\rm Ran}(T+i) )^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i) )^{\perp}$ を定義する。定理4.9より、各 $\theta\in [0,2\pi)$ に対し、$T$ の自己共役拡張 $S_{\theta}$ で、Cayley変換が $C(S_{\theta})=C(\overline{T})\oplus V_{\theta}$ であるものが取れる。 $\theta_1,\theta_2\in [0,2\pi)$ が $\theta_1\neq\theta_2$ である限り、$V_{\theta_1}\neq V_{\theta_2}$ であるから $C(S_{\theta_1})\neq C(S_{\theta_2})$、したがって $S_{\theta_1}\neq S_{\theta_2}$ である。よって $T$ の自己共役拡張は非可算無限個存在することになり、$(2)$ が成り立つことに矛盾する。ゆえに $({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}=\{0\}$ であるから、 $$ {\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)}=( ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。これより $\overline{T}$ のCayley変換 $C(\overline{T})$ はユニタリ作用素であるから、定理4.6より $\overline{T}$ は自己共役作用素、すなわち $T$ は本質的に自己共役である。

5. Hilbert空間上の閉線形作用素のスペクトルとレゾルベント集合

定義5.1(Hilbert空間上の閉線形作用素のスペクトル、レゾルベント集合、点スペクトル、固有値、固有ベクトル)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素とする。このとき、 $$ \rho(T):=\{\lambda\in \mathbb{C}: \lambda-T:D(T)\rightarrow\mathcal{H}\text{ は全単射}\} $$ を $T$ のレゾルベント集合と言い、 $$ \sigma(T):=\mathbb{C}\backslash\rho(T) $$ を $T$ のスペクトルと言う。そして $T$ のスペクトルの部分集合 $$ \sigma_{\rm p}(T):=\{\lambda\in \mathbb{C}:{\rm Ker}(\lambda-T)\neq\{0\}\} $$ を $T$ の点スペクトルと言い、$\sigma_{\rm p}(T)$ の元を $T$ の固有値と言う。$T$ の固有値 $\lambda\in \sigma_{\rm p}(T)$ に対し、${\rm Ker}(\lambda-T)$ を $T$ の固有値 $\lambda$ に対する固有空間と言い、${\rm Ker}(\lambda-T)$ の $0$ ではない元を $T$ の固有値 $\lambda$ に対する固有ベクトルと言う。

定義5.2(Hilbert空間上の閉線形作用素のレゾルベント)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素、$\rho(T)$ を $T$ のレゾルベント集合とする。任意の $\lambda\in \rho(T)$ に対し閉線形作用素 $\lambda-T$ のグラフ $G(\lambda-T)$ は $(\lambda-T)^{-1}$ のグラフ $G( (\lambda-T)^{-1})$ と等長線形同型であるから $G( (\lambda-T)^{-1})$ は閉である。よって $(\lambda-T)^{-1}:\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ は閉線形作用素であるので、閉グラフ定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定理19.3)より $(\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ である。 $$ \rho(T)\ni \lambda-\mapsto (\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ を $T$ のレゾルベントと言う。

注意5.3

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素のスペクトルとレゾルベント集合の定義は $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の元のスペクトルとレゾルベント集合の定義(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義1.5)と矛盾しない。

定義5.4(レゾルベント等式)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素、$\rho(T)$ を $T$ のレゾルベント集合とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の $\lambda_1,\lambda_2\in \rho(T)$ に対し、 $$ (\lambda_1-T)^{-1}-(\lambda_2-T)^{-1}=(\lambda_2-\lambda_1)(\lambda_1-T)^{-1}(\lambda_2-T)^{-1} $$ が成り立つ。
  • $(2)$ $\rho(T)$ は $\mathbb{C}$ の開集合であり、レゾルベント $$ \rho(T)\ni \lambda\mapsto (\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ はBanach空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 値正則関数である。

証明

  • $(1)$ 任意の $\lambda_1,\lambda_2\in \rho(\mathbb{C})$ に対し、 $$ \begin{aligned} (\lambda_1-T)^{-1}-(\lambda_2-T)^{-1}&=(\lambda_1-T)^{-1}( (\lambda_2-T)-(\lambda_1-T))(\lambda_2-T)^{-1}\\ &=(\lambda_2-\lambda_1)(\lambda_1-T)^{-1}(\lambda_2-T)^{-1}. \end{aligned} $$
  • $(2)$ 任意の $\lambda_0\in \rho(T)$ と $\lvert \lambda-\lambda_0\rvert\leq \lVert (\lambda_0-T)^{-1}\rVert^{-1}$ なる任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ を取る。このとき、 $$ \lambda-T=(\lambda_0-T)-(\lambda_0-\lambda)=(\lambda_0-T)(1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1})\quad\quad(*) $$ であり、$\lVert(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\rVert<1$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より、$1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は可逆であり、 $$ \{1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\}^{-1}=\sum_{m\in\mathbb{Z}_+}(\lambda_0-\lambda)^n(\lambda_0-T)^{-n}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。よって $(*)$ より $\lambda-T:D(T)\rightarrow \mathcal{H}$ は全単射であるから $\lambda\in \rho(T)$ であり、$(*),(**)$ より、 $$ \begin{aligned} (\lambda-T)^{-1}&=\{1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\}^{-1}(\lambda_0-T)^{-1}\\ &=\sum_{m\in\mathbb{Z}_+}(\lambda_0-\lambda)^n(\lambda_0-T)^{-(n+1)}\quad\quad(***) \end{aligned} $$ である。これより任意の $\lambda_0\in \rho(T)$ に対し $\lambda_0$ を中心とする半径 $\lVert (\lambda_0-T)^{-1}\rVert^{-1}$ の $\mathbb{C}$ の開球は $\rho(T)$ に含まれるから $\rho(T)$ は $\mathbb{C}$ の開集合であり、その開球の任意の元 $\lambda$ に対し $(***)$ が成り立つから、冪級数関数の複素微分可能性(複素解析の初歩定理2.5)より、$\rho(T)\ni \lambda\mapsto (\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ はBanach空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 値正則関数である。

系5.5(スペクトルは$\mathbb{C}$ の閉集合)

Hilbert空間上の閉線形作用素のスペクトルは閉集合である。

証明

Hilbert空間上の閉線形作用素のレゾルベント集合は、命題5.4より $\mathbb{C}$ の開集合であるから、その $\mathbb{C}$ における補集合であるスペクトルは $\mathbb{C}$ の閉集合である。

命題5.6(自己共役作用素のスペクトルは $\mathbb{R}$ の部分集合)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき $T$ のスペクトル $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の部分集合である。

証明

$T$ のレゾルベント集合 $\rho(T)=\mathbb{C}\backslash \sigma(T)$ に対し $\mathbb{C}\backslash \mathbb{R}\subset \rho(T)$ であることを示せばよい。そこで $\alpha,\beta\in \mathbb{R}$、$\beta\neq0$ とし、$\lambda:=\alpha+i\beta\in \mathbb{C}\backslash \mathbb{R}$ とおく。このとき $(v\mid (\alpha-T)v)\in \mathbb{R}$ $(\forall v\in D(T))$ であることから、 $$ \begin{aligned} &\lVert(\lambda-T)v\rVert^2=\lVert (\alpha-T)v+i\beta v\rVert^2=\lVert (\alpha-T)v\rVert^2+\beta^2\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in D(T)),\quad\quad(*)\\ &\lVert (\overline{\lambda}-T)v\rVert^2=\lVert(\alpha-T)v-i\beta v\rVert^2 =\lVert (\alpha-T)v\rVert^2+\beta^2\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in D(T))\quad\quad(**) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ と $\beta\neq0$ より ${\rm Ker}(\lambda-T)=\{0\}$、$\overline{{\rm Ran}(\lambda-T)}={\rm Ran}(\lambda-T)$($\lambda-T$ が閉線形作用素であることに注意)である。そして $(**)$ より ${\rm Ker}(\overline{\lambda}-T)=\{0\}$ であるから、命題3.9の $(5)$ より、 $$ {\rm Ran}(\lambda-T)=\overline{{\rm Ran}(\lambda-T)}=( ({\rm Ran}(\lambda-T))^{\perp})^{\perp}=({\rm Ker}(\overline{\lambda}-T))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。よって $\lambda-T:D(T)\rightarrow \mathcal{H}$ は全単射であるから $\lambda\in \rho(T)$ である。ゆえに $\mathbb{C}\backslash \mathbb{R}\subset \rho(T)$ であるから、$\sigma(T)\subset \mathbb{R}$ が成り立つ。

定理5.7(自己共役作用素のスペクトルとそのCayley変換のスペクトルの関係)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき $T$ のスペクトル $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の空でない閉集合であり、同相写像 $$ C:\mathbb{R}\ni t\mapsto (t-i)(t+i)^{-1}\in \mathbb{T}\backslash \{1\} $$ *2に対し、 $$ C(\sigma(T))=\sigma(C(T))\backslash \{1\} $$ が成り立つ。ただし $C(T)$ は $T$ のCayley変換である。

証明

系5.5命題5.6より $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の閉集合である。また定理4.6より $C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素である。任意の $t\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ \begin{aligned} C(t)-C(T)&=(t-i)(t+i)^{-1}-(T-i)(T+i)^{-1}\\ &=(t+i)^{-1}\{(t-i)(T+i)-(t+i)(T-i)\}(T+i)^{-1}\\ &=2i(t+i)^{-1}(t-T)(T+i)^{-1} \end{aligned} $$ であるから、$C(t)-C(T):\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ が全単射であることと、$t-T:D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ が全単射であることは同値である。よって $t\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ C(t)\in \sigma(C(T))\backslash \{1\}\quad\Leftrightarrow\quad t\in\sigma(T)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題3.5より、$\sigma(C(T))\backslash\{1\}\subset \mathbb{T}\backslash \{1\}=C(\mathbb{R})$ である。よって $(*)$ より、 $$ C(\sigma(T))=\sigma(C(T))\backslash \{1\}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。また $\sigma(C(T))\neq\emptyset$(Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.8)であるから、もし $\sigma(C(T))\backslash \{1\}=\emptyset$ ならば $\sigma(C(T))=\{1\}$ となり、連続汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義6.6)より $C(T)=1$ となる。よって $1-C(T)$ が単射であること(命題4.5)に矛盾する。ゆえに $\sigma(C(T))\backslash \{1\}\neq\emptyset$ であるので、$(**)$ より $\sigma(T)\neq\emptyset$ である。

6. 射影値測度による積分

定義6.1(Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の射影作用素全体 $\mathbb{P}(\mathcal{H})$)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の射影作用素全体を $\mathbb{P}(\mathcal{H})$ と表す。

定義6.2(射影値測度)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ が次の条件を満たすとき、$E$ を射影値測度と言う。

命題6.3(射影値測度の基本的性質)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathcal{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、

  • $(1)$ $E(\emptyset)=0$.
  • $(2)$(単調性)$A\subset B$ なる任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ に対し $E(A)\leq E(B)$.
  • $(3)$ 任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ に対し $E(A\cap B)=E(A)E(B)$ が成り立つ。特に $A\cap B=\emptyset$ ならば $E(A)$ と $E(B)$ は直交する。
  • $(4)$($\sigma$-加法性)$(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の非交叉列であるならば、$(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は射影作用素の直交族であり、 $$ E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ が成り立つ。(射影作用素の直交族の和の定義(定義2.6)を参照。)
  • $(5)$(単調収束性)$(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調増加列であるならば、$(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の単調増加列であり、 $$ E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\text{SOT -}\lim_{n\rightarrow\infty} E(B_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ が成り立つ。
  • $(6)$(単調収束性)$(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調減少列であるならば、$(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の単調減少列であり、 $$ E\left(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\text{SOT -}\lim_{n\rightarrow\infty} E(B_n)=\inf_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $(u\mid E(\emptyset)v)=E_{u,v}(\emptyset)=0$ であるから $E(\emptyset)=0$ である。
  • $(2)$ $\mathbb{P}(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}_+(\mathcal{H})$ であるから任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $E_{v,v}$ は非負値測度である。よって非負値測度の単調性より $A,B\in \mathfrak{M}$ が $A\subset B$ を満たすならば、 $$ (v\mid E(A)v)=E_{v,v}(A)\leq E_{v,v}(B)=(v\mid E(B)v)\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、命題1.4より $E(A)\leq E(B)$ が成り立つ。
  • $(3)$ $A,B\in \mathfrak{M}$ が $A\cap B=\emptyset$ を満たすとすると、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid E(A\cup B)v)=E_{u,v}(A\cup B)=E_{u,v}(A)+E_{u,v}(B)=(u\mid (E(A)+E(B))v) $$ であるから、$E(A)+E(B)=E(A\cup B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ である。よってBanach環とC*-環のスペクトル理論命題8.3より $E(A)$ と $E(B)$ は直交するので $E(A)E(B)=0=E(A\cap B)$ である。
    任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ を取る。$A=(A\backslash B)\cup (A\cap B)$ であり、$(A\backslash B)\cap (A\cap B)=\emptyset$ であるから上段の結果より、 $$ E(A)=E(A\backslash B)+E(A\cap B) $$ である。そして $(A\backslash B)\cap B=\emptyset$ であるので、再び上段の結果より、 $$ E(A\backslash B) E(B)=0 $$ である。$(2)$ より $E(A\cap B)\leq E(B)$ であるからBanach環とC*-環のスペクトル理論命題8.2より、 $$ E(A\cap B)=E(A\cap B)E(B) $$ である。よって、 $$ E(A)E(B)=(E(A\backslash B)+E(B))E(B)=E(A\backslash B)E(B)+E(A\cap B)E(B)=E(A\cap B) $$ である。
  • $(4)$ $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の非交叉列ならば $(3)$ より $(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は射影作用素の直交族であるから $\sum_{n\in\mathbb{N}}E(B_n)$ はSOTで収束する(定義2.6を参照)。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \left(u\mid E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)v\right) =E_{u,v}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_n\right) =\sum_{n\in\mathbb{N}}E_{u,v}(B_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}(u\mid E(B_n)v) =(u\mid \sum_{n\in \mathbb{N}}E(B_n)v) $$ であるから $E(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}E(B_n)$ が成り立つ。
  • $(5)$ $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調増加列ならば測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題15.2の $(3)$ より任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \left(u\mid E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)v\right) =E_{u,v}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_n\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}E_{u,v}(B_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(u\mid E(B_n)v) $$ である。そして $(2)$ より $(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は射影作用素の単調増加列であるから定理2.4より、 $$ \text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ である。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \left(u\mid E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)v\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}(u\mid E(B_n)v) =(u\mid \text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)v)= (u\mid \sup_{n\in\mathbb{N}}E(B_n)v) $$ であるから、 $$ E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ である。
  • $(6)$ $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調減少列ならば $(X\backslash B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調増加列であり、$X\backslash \bigcap_{n\in \mathbb{N}}B_n=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}(X\backslash B_n)$ である。このことと $(5)$ より分かる。

命題6.4

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とし、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。また $\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ を $X\rightarrow \mathbb{C}$ の有界可測関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れた単位的可換 $C^*$-環とする。このとき*-環準同型写像 $$ \Phi_E:\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M}), \forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そして、 $$ \Phi_E(\chi_B)=E(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ である。

証明

一意性は自明である。存在を示す。まず任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し複素数値測度 $E_{u,v}:\mathfrak{M}\ni B\mapsto (u\mid E(B)v)\in \mathbb{C}$ の全変動(定義19.1)$\lvert E_{u,v}\rvert:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{C}$ が $\lvert E_{u,v}\rvert(X)\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert$ を満たすことを示す。そのためには $\mathfrak{M}$ の有限非交叉列 $B_1,\ldots,B_n$ で $X=\bigcup_{j=1}^{n}B_j$ なるものを取り、 $$ \sum_{j=1}^{n}\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。そこで各 $j\in \{1,\ldots,n\}$ に対し $\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert=\alpha_jE_{u,v}(B_j)$、$\lvert\alpha_j\rvert=1$ を満たす $\alpha_j\in \mathbb{C}$ を取る。このとき、 $$ \sum_{j=1}^{n}\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert=\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE_{u,v}(B_j) =\sum_{j=1}^{n}(u\mid \alpha_jE(B_j)v)\leq \lVert u\rVert\left\lVert\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE(B_j)v\right\rVert $$ であり、$B_1,\ldots,B_n$ が非交叉であることから $E(B_1)v,\ldots,E(B_n)v$ は互いに直交する(命題6.3)ので、 $$ \left\lVert\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE(B_j)v\right\rVert^2=\sum_{j=1}^{n}\lVert \alpha_jE(B_j)v\rVert^2=\sum_{j=1}^{n}\lVert E(B_j)v\rVert^2 =\left\lVert \sum_{j=1}^{n}E(B_j)v\right\rVert^2=\lVert E(X)v\rVert^2=\lVert v\rVert^2 $$ である。よって、 $$ \sum_{j=1}^{n}\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert\leq\lVert u\rVert\left\lVert\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE(B_j)v\right\rVert=\lVert u\rVert\lVert v\rVert $$ より $(*)$ が成り立つので、 $$ \lvert E_{u,v}\rvert(X)\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in \mathcal{H})\quad\quad(**) $$ が成り立つ。任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ を取り固定する。$f$ は可測単関数によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)から、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C}\quad\quad(***) $$ は準双線形汎関数であり、$(**)$ より、 $$ \left\lvert \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right\rvert\leq\lVert f\rVert\lvert E_{u,v}\rvert (X)\leq \lVert f\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ であるから、$(***)$ はノルムが $\lVert f\rVert$ 以下の有界準双線形汎関数である。よって位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し $\Phi_E(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが定まり、$\lVert \Phi_E(f)\rVert\leq \lVert f\rVert$ である。こうしてノルム減少な有界線形作用素 $$ \Phi_E:\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\ni f\mapsto \Phi_E(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ が定義される。$\Phi_E$ が*-環準同型写像であることを示す。任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$(v\mid \Phi_E(\overline{f})v)=\int_{X}\overline{f(x)}dE_{v,v}(x)=\overline{\int_{X}f(x)dE_{v,v}(x)}=\overline{(v\mid \Phi_E(f)v)}=(\Phi_E(f)v\mid v)\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、偏極恒等式より、 $$ \Phi_E(\overline{f})=\Phi_E(f)^*\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})) $$ である。よって $\Phi_E$ は対合を保存する。後は任意の $f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \Phi_E(fg)=\Phi_E(f)\Phi_E(g)\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $B\in \mathfrak{M}$、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid \Phi_E(\chi_B)v)=\int_{X}\chi_B(x)dE_{u,v}(x)=E_{u,v}(B)=(u\mid E(B)v) $$ であるから、 $$ \Phi_E(\chi_B)=E(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ である。よって任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ に対し命題6.3より、 $$ \Phi_E(\chi_A\chi_B)=\Phi_E(\chi_{A\cap B})=E(A\cap B)=E(A)E(B)=\Phi_E(\chi_A)\Phi_E(\chi_B) $$ であるから、$\Phi_E$ の線形性より $(****)$ は任意の可測単関数 $f,g$ に対して成り立つ。任意の有界可測関数は可測単関数によって一様近似できること(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)と、$\Phi_E$ が有界線形作用素であることから、$(****)$ は任意の $f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対して成り立つ。よって $\Phi_E$ は*-環準同型写像である。

定義6.5(射影値測度による有界可測関数の積分)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。命題6.4より*-環準同型写像 $$ \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\ni f\mapsto \int_{X}f(x)dE(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ で、 $$ \left(u\mid \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)v\right)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M}),\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。任意の有界可測関数 $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ を $f$ の $E$ による積分と言う。 $$ \int_{X}\chi_B(x)dE(x)=E(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ である。

命題6.6

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を任意の可測関数とする。そして、 $$ D_E(f):=\left\{v\in \mathcal{H}:\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty\right\} $$ とおく。このとき、

  • $(1)$ $D_E(f)$ は $\mathcal{H}$ の稠密な線形部分空間である。そして任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ v_n:=E( (\lvert f\rvert\leq n))v\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおくと、 $$ v_n\in D_E(f)\quad(\forall n\in \mathbb{N}),\quad \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert v_n-v\rVert=0 $$ が成り立つ。
  • $(2)$ 任意の $u\in \mathcal{H}$、$v\in D_E(f)$ に対し $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert E_{u,v}\rvert)$ であり、 $$ \left\lvert \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right\rvert\leq \lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}} $$ が成り立つ。
  • $(3)$ $$ \mathcal{H}\times D_E(f)\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。
  • $(4)$ 線形作用素 $\Phi_E(f):D_E(f)\rightarrow \mathcal{H}$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in D_E(f)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そして、 $$ \lVert \Phi_E(f)v\rVert^2=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ 任意の $v\in D_E(f)$、任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ E_{\alpha v,\alpha v}(B)=\lVert E(B)\alpha v\rVert^2=\lvert\alpha\rvert^2\lVert E(B)v\rVert^2=\lvert \alpha\rvert^2E_{v,v}(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ であるから、非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{\alpha v,\alpha v}(x)=\lvert\alpha\rvert^2\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty $$ である。よって $\alpha v\in D_E(f)$ である。また任意の $u,v\in D_E(f)$ に対し、 $$ E_{u+v,u+v}(B)=\lVert E(B)u+E(B)v\rVert^2 \leq 2(\lVert E(B)u\rVert^2+\lVert E(B)v\rVert^2)=2(E_{u,u}(B)+E_{v,v}(B))\quad(\forall B\in\mathfrak{M}) $$ であるから、非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{u+v,u+v}(x)\leq 2\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{u,u}(x)+\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)<\infty $$ である。よって $u+v\in D_E(f)$ であるので $D_E(f)$ は $\mathcal{H}$ の線形部分空間である。任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $v_n=E( (\lvert f\rvert\leq n))v$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ とおくと、 $$ E_{v_n,v_n}(B)=\lVert E(B)v_n\rVert^2=\lVert E(B\cap (\lvert f\rvert\leq n))v\rVert^2 =E_{v,v}(B\cap (\lvert f\rvert\leq n))\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall B\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v_n,v_n}(x)=\int_{(\lvert f\rvert\leq n)}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\leq n^2\lVert v\rVert^2<\infty\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。よって $v_n\in D_E(f)$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ である。また命題6.3より、 $$ \text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E( (\lvert f\rvert\leq n))=E(X)=1 $$ であるから、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}v_n=\lim_{n\rightarrow\infty}E( (\lvert f\rvert\leq n))v=v $$ である。よって $D_E(f)$ は $\mathcal{H}$ の稠密部分空間である。
  • $(2)$ $f_n:=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として有界可測関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義する。任意の $u\in \mathcal{H}$、任意の $v\in D_E(f)$ を取り固定する。複素数値測度 $E_{u,v}:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{C}$ の全変動 $\lvert E_{u,v}\rvert:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ に対するRadon-Nikodym微分を $h\in\mathcal{L}(X,\mathfrak{M},\lvert E_{u,v}\rvert)$ とする(複素数値測度による積分の定義(測度と積分4:測度論の基本定理(2)定義19.5)を参照)と、射影値測度による有界可測関数の積分の定義(定義6.5)より、 $$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x)&=\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE_{u,v}(x)=\left(u\mid \left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE(x)\right)v\right)\\ &\leq \lVert u\rVert\left\lVert\left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert \overline{h(x)}dE(x)\right)v\right\rVert \end{aligned} $$ であり、 $$ \begin{aligned} \left\lVert\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE(x)v\right\rVert^2 &=\left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE(x)v\mid \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert \overline{h(x)}dE(x)v\right)\\ &=\left(v\mid \left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE(x)\right)v\right)=\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}\\ &\leq \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x)\leq \lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。よって単調収束定理より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x) =\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x) \leq\lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}<\infty $$ であるから $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert E_{u,v}\rvert)$ であり、 $$ \left\lvert\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right\rvert \leq\int_{X}\lvert f(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x)\leq \lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}} $$ が成り立つ。
  • $(3)$ $f_n:=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として有界可測関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義する。有界可測関数は可測単関数により一様近似できるから、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \mathcal{H}\times D_E(f)\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。そしてLebesgue優収束定理より、 $$ \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f_n(x)dE_{u,v}(x) $$ であるから、 $$ \mathcal{H}\times D_E(f)\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。
  • $(4)$ 任意の $v\in D_E(f)$ に対し $(2),(3)$ より、 $$ \mathcal{H}\ni u\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は有界反線形汎関数であるから、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より $\Phi_E(f)v\in \mathcal{H}$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが一意的に定まる。そして $(3)$ より、 $$ \Phi_E(f):D_E(f)\ni v\mapsto \Phi_E(f)v\in \mathcal{H} $$ は線形作用素であり、$(2)$ より、 $$ \lVert\Phi_E(f)v\rVert\leq \left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ である。よって 任意の $v\in D_E(f)$ に対し、 $$ \lVert \Phi_E(f)v-\Phi_E(f_n)v\rVert=\lVert\Phi_E(f-f_n)v\rVert\leq\left(\int_{X}\lvert f(x)-f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であり、右辺はLebesgue優収束定理より $n\rightarrow\infty$ で $0$ に収束するので、 $$ \lVert\Phi_E(f)v\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert\Phi_E(f_n)v\rVert $$ が成り立つ。ここで射影値測度による有界可測関数の積分の性質(定義6.5)より、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert\Phi_E(f_n)v\rVert^2=\left(\int_{X}f_n(x)dE(x)v\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)v\right) =\left(v\mid \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE(x)v\right) =\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) $$ であるから、単調収束定理より、 $$ \lVert\Phi_E(f)v\rVert^2=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert\Phi_E(f_n)v\rVert^2 =\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) =\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) $$ となる。

定義6.7(射影値測度による可測関数の積分)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を任意の可測関数とする。このとき命題6.6より、 $$ D_E(f):=\left\{v\in \mathcal{H}:\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty\right\} $$ は $\mathcal{H}$ の稠密な線形部分空間である。そして、 $$ \left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)v\right)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in D_E(f)) $$ を満たす稠密に定義された線形作用素 $$ \int_{X}f(x)dE(x):D_E(f) \ni v\mapsto \int_{X}f(x)dE(x)v\in\mathcal{H} $$ が定まる。これを $f$ の $E$ による積分と言う。命題6.6の $(4)$ より、 $$ \left\lVert \int_{X}f(x)dE(x)v\right\rVert^2=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ である。

命題6.8(射影値測度による積分の基本性質)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の可測関数$f,g:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ D\left(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\right)=D_E(fg)\cap D_E(g), $$ $$ \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\subset \int_{X}f(x)g(x)dE(x) $$ が成り立つ。
  • $(2)$ 任意の可測関数 $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}\overline{f(x)}dE(x)=\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^* $$ が成り立つ。
  • $(3)$ 任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow \mathcal{H} $$ は稠密に定義された閉線形作用素である。そして任意の可測関数 $f,g:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)}=\int_{X}f(x)+g(x)dE(x), $$ $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)}=\int_{X}f(x)g(x)dE(x) $$ が成り立つ。
  • $(4)$ 任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^n=\int_{X}f(x)^ndE(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N}), $$ $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x) $$ が成り立つ。
  • $(5)$ 任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ {\rm Ker}\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)={\rm Ran}E( (f=0)) $$ が成り立つ。そして、 $$ \int_{X}f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow \mathcal{H} $$ が単射、すなわち $E( (f=0))=0$ であるとき、 $$ f^{-1}(x)=f(x)^{-1}\quad(\forall x\in X\backslash (f=0)) $$ なる任意の可測関数 $f^{-1}:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{-1}=\int_{X}f^{-1}(x)dE(x) $$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$、$g_n=g\chi_{\lvert g\rvert\leq n}$ として有界可測関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$、$(g_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義する。任意の $u\in\mathcal{H}$ と任意の $v\in D_E(g)$ に対し、射影値測度による有界可測関数の積分の定義(定義6.5)とLebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v\right)=\lim_{m\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g_m(x)dE(x)v\right)\\ &=\lim_{m\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)g_m(x)dE(x)v\right) =\left(u\mid \int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\right) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)v=\int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\quad(\forall v\in D_E(g),\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。よって任意の $v\in D_E(g)$ に対し、 $$ w:=\int_{X}g(x)dE(x)v\in \mathcal{H} $$ とおけば、 $$ \int_{X}f_n(x)dE(x)w=\int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、ノルムの二乗を取れば、 $$ \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{w,w}(x)=\int_{X}\lvert f_n(x)g(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ となる。よって単調収束定理より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{w,w}(x)=\int_{X}\lvert f(x)g(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) $$ となる。これが任意の $v\in D_E(g)$ に対して成り立つので、 $$ D\left(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\right)=D_E(fg)\cap D_E(g) $$ が成り立つ。そして任意の $v\in D_E(fg)\cap D_E(g)=D(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x))$ と任意の $u\in \mathcal{H}$ に対し、Lebesgue優収束定理と射影値測度による有界可測関数の積分の定義(定義6.5)より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid\int_{X}f(x)g(x)dE(x)v\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v\right) =\left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v\right) \end{aligned} $$ となる。よって、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\subset \int_Xf(x)g(x)dE(x) $$ が成り立つ。
  • $(2)$ 有界可測関数の列 $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を考える。任意の $u,v\in D_E(f)=D_E(\overline{f})$ に対し Lebesgue優収束定理と射影値測度による有界可測関数の積分の定義(定義6.5)より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)v\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)u\mid v\right) =\left(\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)u\mid v\right) \end{aligned} $$ となるので、 $$ \int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\subset \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^* $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $$ v\in D\left(\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\right) $$ を取り、$v\in D_E(\overline{f})$ を示せばよい。まず $(1)$ より、 $$ \int_{X}f_n(x)dE(x)=\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)E( (\lvert f\rvert\leq n))\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、命題3.9の $(9)$ より、 $$ E( (\lvert f\rvert\leq n))\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\subset \left(\int_{X}f_n(x)dE(x)\right)^*=\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ である。よって単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)v\right\rVert^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert E( (\lvert f\rvert\leq n))\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*v\right\rVert^2\leq \left\lVert \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*v\right\rVert^2<\infty \end{aligned} $$ であるから、$v\in D_E(\overline{f})$ である。
  • $(3)$ 任意の可測関数 $f:X\Rightarrow \mathbb{C}$ に対し $(2)$ より、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)=\left(\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\right)^* $$ であるから、命題3.9の $(6)$ より $\int_{X}f(x)dE(x)$ は閉線形作用素である。 任意の可測関数 $f,g:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $D_E(f)\cap D_E(g)\subset D_E(f+g)$ であることと射影値測度による積分が閉線形作用素であることから、 $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)}\subset \int_{X}f(x)+g(x)dE(x) $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。 $$ B_n:=(\lvert f\rvert\leq n)\cap (\lvert g\rvert\leq n)\in \mathfrak{M}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ とおくと、SOTで $\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)=1$ であるから、任意の $v\in D_E(f+g)$ に対しLebesgue優収束定理と $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}f(x)+g(x)dE(x)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}(f(x)+g(x))\chi_{B_n}(x)dE(x)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}f(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v+\int_{X}g(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)\right)E(B_n)v\\ &=\left(\overline{\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)}\right)v \end{aligned} $$ である。よって逆の包含関係が成り立つ。$(1)$ と射影値測度による積分が閉線形作用素であることから、 $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)}\subset \int_{X}f(x)g(x)dE(x) $$ である。この逆の包含関係を示す。任意の $v\in D_E(fg)$ に対しLebesgue優収束定理と $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}f(x)g(x)dE(x)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f(x)g(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)E(B_n)v\\ &=\left(\overline{\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)}\right)v \end{aligned} $$ である。よって逆の包含関係が成り立つ。
  • $(4)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$、$v\in D_E(f^n)$ に対し $E_{v,v}$ が有限測度であることから、Hölderの不等式より、 $$ \lvert f\rvert^2\in \mathcal{L}^n(X,\mathfrak{M},E_{v,v})\subset \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},E_{v,v}) $$ である。よって、 $$ D_E(f^n)\subset D_E(f)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。今、ある $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^n=\int_{X}f(x)^ndE(x)\quad\quad(*) $$ が成り立つと仮定すると、$(1)$ より、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{n+1}=\int_{X}f(x)^ndE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\subset \int_{X}f(x)^{n+1}dE(x) $$ であり、$(1)$ と $D_E(f^{n+1})\subset D_E(f)$ より、 $$ D_E\left(\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{n+1}\right)=D_E(f^{n+1})D_E(f)=D_E(f^{n+1}) $$ である。よって $(*)$ は $n+1$ の場合も成り立つので、帰納法より $(*)$ は任意の $n\in \mathbb{N}$ に対して成り立つ。また $(1),(2)$ より、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right) =\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\subset \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x) $$ であり、$(1)$ と $D_E(\lvert f\rvert^2)\subset D_E(f)$ より、 $$ D_E\left(\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)\right) =D_E(\lvert f\rvert^2)\cap D_E(f)=D_E(\lvert f\rvert^2) $$ であるから、$(\int_{X}f(x)dE(x))^*(\int_{X}f(x)dE(x))=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x)$ が成り立つ。
  • $(5)$ 任意の $v\in {\rm Ker}(\int_{X}f(x)dE(x))$ に対し、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\left\lVert \int_{X}f(x)dE(x)v\right\rVert^2=0 $$ であるから、 $$ \lVert E( (\lvert f\rvert>0))v\rVert^2=E_{v,v}( (\lvert f\rvert>0))=0 $$ である。よって、 $$ v=E( (f=0))v+E( (\lvert f\rvert>0))v=E( (f=0))v\in {\rm Ran} E( (f=0)) $$ であるから ${\rm Ker}(\int_{X}f(x)dE(x))\subset {\rm Ran}E( (f=0))$ が成り立つ。また $(1)$ より、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)E( (f=0))=\int_{X}f(x)\chi_{(f=0)}(x)dE(x)=0 $$ であるから ${\rm Ran}E( (f=0))\subset {\rm Ker}(\int_{X}f(x)dE(x))$ も成り立つ。 $\int_{X}f(x)dE(x)$ が単射、すなわち $E( (f=0))=0$ であるとし、$f^{-1}(x)=f(x)^{-1}$ $(\forall x\in X\backslash (f=0))$ なる可測関数 $f^{-1}:X\rightarrow \mathbb{C}$ を考えると、$(1)$ より、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\subset \int_{X}f(x)f^{-1}(x)dE(x)=E( (f\neq0))=E(X)=1, $$ $$ D\left(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\right)=D_E(f^{-1}) $$ であるから、 $$ \int_{X}f(x)\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)v=v\quad(\forall v\in D_E(f^{-1})) $$ である。よって $\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\subset (\int_{X}f(x)dE(x))^{-1}$ が成り立つ。また $(1)$ より、 $$ \int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\subset \int_{X}f^{-1}(x)f(x)dE(x)=E( (f\neq0))=E(X)=1, $$ $$ D\left(\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\right)=D_E(f) $$ であるから、 $$ \int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)v=v\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ が成り立つ。よって $(\int_{X}f(x)dE(x))^{-1}\subset \int_{X}f^{-1}(x)dE(x)$ も成り立つ。

命題6.9(射影値測度のユニタリ作用素による変換)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間、$U:\mathcal{H}\rightarrow \mathcal{K}$ をユニタリ作用素、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、 $$ UEU^*:\mathfrak{M}\ni B\mapsto UE(B)U^*\in \mathbb{P}(\mathcal{K}) $$ は射影値測度であり、任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)d(UEU^*)(x)=U\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)U^*\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

$UEU^*$ が射影値測度の定義6.2を満たすことは自明である。$(*)$ は $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ が可測単関数である場合は明らかに成り立ち、有界可測関数は可測単関数により一様近似できること(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)から、$f:X\rightarrow \mathbb{C}$ が有界可測関数の場合も $(*)$ は成り立つ。今、任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、有界可測関数の列 $f_n:=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を考えると、任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2d(UEU^*)_{v,v}(x)&=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2d(UEU^*)_{v,v}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert \int_{X}f_n(x)d(UEU^*)(x)v\right\rVert^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert \left(\int_{X}f_n(x)dE(x)\right)U^*v\right\rVert^2 =\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{U^*v,U^*v}(x)\\ &=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{U^*v,U^*v}(x) \end{aligned} $$ であるから $D_{UEU^*}(f)=UD_E(f)$ が成り立つ。そして任意の $u\in \mathcal{H}$ と任意の $v\in D_E(f)$ に対しLebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f(x)d(UEU^*)(x)v\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)d(UEU^*)(x)\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid U\left(\int_{X}f_n(x)dE(x)\right)U^*v\right) =\left(u\mid U\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)U^*v\right) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ は任意の可測関数 $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ に対して成り立つ。

命題6.10

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。このとき $\mathbb{C}$ の開集合 $U$ で $E(f^{-1}(U))=0$ を満たすもの全ての合併を $U_0$ とおけば $E(f^{-1}(U_0))=0$ が成り立つ。

証明

任意の $v\in \mathcal{H}$ を取り、$\mathbb{C}$ 上の有限Borel測度 $$ \mathcal{B}_{\mathbb{C}}\ni B\mapsto E_{v,v}(f^{-1}(B))\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad\quad(*) $$ を考える。$\mathbb{C}$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5より $(*)$ はRadon測度である。よって、 $$ E_{v,v}(f^{-1}(U_0))=\sup\{E_{v,v}(K):K\subset U_0\text{ はコンパクト}\}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。任意のコンパクト集合 $K\subset U_0$ を取る。$U_0$ の定義より $\mathbb{C}$ の有限個の開集合 $U_1,\ldots,U_n$ で、 $$ K\subset \bigcup_{k=1}^{n}U_k,\quad E_{v,v}(f^{-1}(U_k))=0\quad(k=1,\ldots,n) $$ を満たすものが取れる。よって、 $$ E_{v,v}(f^{-1}(K))\leq \sum_{k=1}^{n}E_{v,v}(f^{-1}(U_k))=0 $$ より $E_{v,v}(f^{-1}(K))=0$ であるから、$K$ の任意性と $(**)$ より $E_{v,v}(f^{-1}(U_0))=0$ である。$v\in \mathcal{H}$ の任意性と偏極恒等式より、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $E_{u,v}(U_0)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^kE_{i^ku+v,i^ku+v}(U_0)=0$ であるから、$E(U_0)=0$ である。

定義6.11(可測関数の射影値測度に関する本質的値域)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。命題6.10より $E(f^{-1}(U))=0$ を満たす $\mathbb{C}$ の開集合 $U$ のうち最大のもの $U_0$ が存在する。そこで $\mathbb{C}$ の閉集合 $$ {\rm ess.Ran}_E(f):=\mathbb{C}\backslash U_0 $$ を $f$ の $E$ に関する本質的値域と言う。${\rm ess.Ran}_E(f)$ は明らかに次のように特徴付けられる。($(\lvert \lambda-f\rvert<\epsilon)=\{x\in X:\lvert\lambda-f(x)\rvert<\epsilon \}=f^{-1}(B(\lambda,\epsilon))$ であることに注意。) $$ {\rm ess.Ran}_E(f)=\{\lambda\in \mathbb{C}:\forall \epsilon\in(0,\infty),\text{ }E( (\lvert\lambda-f\rvert)<\epsilon)>0\}. $$

命題6.12(射影値測度による積分のスペクトルと本質的値域)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。このとき $f$ の $E$ による積分 $\int_{X}f(x)dE(x)$ のスペクトルと、$f$ の $E$ に関する本質的値域は一致する。すなわち、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)={\rm ess.Ran}_E(f) $$ が成り立つ。

証明

本質的値域の定義より、 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)=\{\lambda\in \mathbb{C}:\forall \epsilon\in(0,\infty),\text{ }E( (\lvert\lambda-f\rvert)<\epsilon)>0\}\quad\quad(*) $$ である。任意の $\lambda\in {\rm ess.Ran}_E(f)$ を取る。$(*)$ より各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $E( (\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n}))>0$ であるので、単位ベクトル $$ v_n\in {\rm Ran}E\left(\left(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n}\right)\right) $$ が取れる。そして命題6.8の $(1)$ より、 $$ \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)E\left(\left(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n}\right)\right)=\int_{X}(\lambda-f(x))\chi_{(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n})}(x)dE(x)\in\mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ であるから、$v_n\in D_E(f)$ であり、 $$ \left\lVert \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)v_n\right\rVert =\left\lVert\int_{X}(\lambda-f(x))\chi_{(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n})}(x)dE(x)v_n\right\rVert\leq\frac{1}{n} $$ である。よってもし $\lambda\notin \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ ならば、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ 1=\lVert v_n\rVert=\left\lVert \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{-1}\left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)v_n\right\rVert\leq \frac{1}{n}\left\lVert\left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{-1}\right\rVert $$ となり矛盾する。ゆえに $\lambda\in \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ である。これより、 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)\subset \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。そのためには $\lambda\notin {\rm ess.Ran}_E(f)$ なる任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ を取り、$\lambda\notin \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ が成り立つことを示せばよい。$(*)$ よりある $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、 $$ E( (\lvert\lambda-f\rvert<\epsilon))=0 $$ である。特に、 $$ E( (\lambda-f=0))\leq E( (\lvert\lambda-f\rvert<\epsilon))=0 $$ であるから、命題6.8の $(5)$ より、 $$ \lambda-\int_{X}f(x)dE(x)=\int_{X}\lambda-f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow\mathcal{H}\quad\quad(***) $$ は単射である。今、可測関数 $g:X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(x)=\begin{cases}(\lambda-f(x))^{-1}&(\lvert\lambda-f(x)\rvert\geq\epsilon)\\ 0&(\lvert\lambda-f(x)\rvert<\epsilon)\end{cases} $$ とおくと $g$ は有界であり、命題6.8の $(1)$ より、 $$ \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)\int_{X}g(x)dE(x)=\int_{X}(\lambda-f(x))g(x)dE(x)=E( (\lvert\lambda-f\rvert\geq\epsilon) )=1 $$ であるから $(***)$ は全射でもある。ゆえに $\lambda\notin \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ であるから $(**)$ の逆の包含関係が成り立つ。

系6.13

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を位相空間、$E:\mathcal{B}_X\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とし、任意の空でない開集合 $U\subset X$ に対し $E(U)>0$ が成り立つと仮定する。このとき任意の連続関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)=\overline{f(X)} $$ が成り立つ。

証明

$f^{-1}(\mathbb{C}\backslash \overline{f(X)})=\emptyset$ であるから本質的値域の定義(定義6.10)より、 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)\subset \overline{f(X)} $$ である。逆の包含関係を示す。${\rm ess.Ran}_E(f)$ は閉集合であるので $f(X)\subset {\rm ess.Ran}_E(f)$ が成り立つことを示せばよい。そのためには、定義6.10の最後における ${\rm ess.Ran}_E(f)$ の特徴付けより、任意の $x_0\in X$ と 任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ E(\lvert f-f(x_0)\rvert<\epsilon)>0\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$f$ の $x_0\in X$ における連続性より、$x_0$ の開近傍 $U\subset X$ が存在し、 $$ U\subset (\lvert f-f(x_0)\rvert<\epsilon) $$ となる。よって仮定より、 $$ 0<E(U)\leq E( (\lvert f-f(x_0)\rvert<\epsilon)) $$ であるから、$(*)$ が成り立つ。

7. Radon射影値測度とRiesz-Markov-角谷の表現定理

定義7.1(局所コンパクトHausdorff空間上のRadon射影値測度)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$E:\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し複素数値Borel測度 $E_{u,v}:\mathcal{B}_X\ni B\mapsto (u\mid E(B)v)\in\mathbb{C}$ が複素数値Radon測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定義33.1)であるとき、$E$ をRadon射影値測度と言う。

注意7.2(第二可算局所コンパクトHausdorff空間上の射影値Borel測度は自動的にRadon射影値測度)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$E:\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度注意33.2より、 $E$ は自動的にRadon射影値測度である。

定理7.3(射影値測度に関するRiesz-Markov-角谷の表現定理)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$\Phi:C_0(X)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を *-環準同型写像とし、 $$ \Phi(C_0(X))\mathcal{H}={\rm span}\{\Phi(f)v:f\in C_0(X),v\in \mathcal{H}\}\quad\quad(*) $$ が $\mathcal{H}$ において稠密であるとする。(ただし $C_0(X)$ は $X$ 上の無限遠で消える連続関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れた可換 $C^*$-環である。)このときRadon射影値測度 $E:\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ \Phi(f)=\int_{X}f(x)dE(x)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

証明

Banach環とC*-環のスペクトル理論定理10.1より $\Phi$ はノルム減少であるから任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ C_0(X)\ni f\mapsto (u\mid \Phi(f)v)\in \mathbb{C} $$ はノルムが $\lVert u\rVert\lVert v\rVert$ 以下の有界線形汎関数である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理30.4)より、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し複素数値Radon測度 $\nu_{u,v}\in M(X)$ で、 $$ \int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(f)v)\quad(\forall f\in C_0(X))\quad\quad(*) $$ を満たすものが定まり、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \nu_{u,v}\in M(X) $$ はノルムが $1$ 以下の有界準双線形写像である。今、$X\rightarrow\mathbb{C}$ の有界Borel関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れた可換 $C^*$-環を $\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ とおくと、任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ はノルムが $f$ 以下の有界準双線形汎関数であるから、位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より $\Psi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ \int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Psi(f)v)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H})\quad\quad(**) $$ を満たすものが定まり、$\lVert \Psi(f)\rVert\leq \lVert f\rVert$ が成り立つ。こうしてノルム減少な線形写像 $$ \Psi:\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\ni f\mapsto \Psi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ が定義できる。$(*),(**)$ より、 $$ \Psi(f)=\Phi(f)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ である。今、$\Psi$ が*-環準同型写像であることを示す。任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (v\mid \Phi(f)v)\geq0\quad(\forall f\in C_{c,+}(X)) $$ であるから、Riesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より $\nu_{v,v}$ は非負値測度である。よって任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)$、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (v\mid \Psi(\overline{f})v)=\int_{X}\overline{f(x)}d\nu_{v,v}(x)=\overline{\int_{X}f(x)d\nu_{v,v}(x)}=\overline{(v\mid \Psi(f)v)}=(v\mid \Psi(f)^*v) $$ であるから、偏極恒等式より、 $$ \Psi(\overline{f})=\Psi(f)^*\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)) $$ が成り立つ。ゆえに $\Psi$ は対合を保存する。$\Psi$ が乗法を保存すること、すなわち、 $$ \Psi(fg)=\Psi(f)\Psi(g)\quad(\forall f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X))\quad\quad(***) $$ が成り立つことを示す。まず $\Phi:C_0(X)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は*-環準同型写像であるので任意の $f,g\in C_0(X)$、$u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(fg)v)=(u\mid \Phi(f)\Phi(g)v)=\int_{X}f(x)d\nu_{u,\Phi(g)v}(x) $$ である。よって任意の $g\in C_0(X)$、$u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (\nu_{u,v})_g:\mathcal{B}_X\ni B\mapsto \int_{B}g(x)d\nu_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ なる $(\nu_{u,v})_g\in M(X)$*3を考えれば、任意の $f\in C_0(X)$ に対し、測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題19.6より、 $$ \int_{X}f(x)d(\nu_{u,v})_g(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=\int_{X}f(x)d\nu_{u,\Phi(g)v}(x) $$ である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より、 $$ (\nu_{u,v})_g=\nu_{u,\Phi(g)v}\quad(\forall g\in C_0(X),\forall u,v\in \mathcal{H})\quad\quad(****) $$ が成り立つ。次に任意の $g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)$ に対し、 $$ (\nu_{u,v})_f:\mathcal{B}_X\ni B\mapsto \int_{B}f(x)d\nu_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ なる $(\nu_{u,v})_f\in M(X)$ を考えると、測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題19.6と $(****)$ より、任意の $g\in C_0(X)$ に対し、 $$ \begin{aligned} \int_{X}g(x)d(\nu_{u,v})_f(x)&=\int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=\int_{X}f(x)d(\nu_{u,v})_g(x) =\int_{X}f(x)d\nu_{u,\Phi(g)v}(x)= (u\mid \Psi(f)\Phi(g)v)\\ &=(\Psi(f)^*u\mid \Phi(g)v)=\int_{X}g(x)d\nu_{\Psi(f)^*u,v}(x) \end{aligned} $$ が成り立つ。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より、 $$ (\nu_{u,v})_f=\nu_{\Psi(f)^*u,v}\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M}),\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ が成り立つ。ゆえに任意の $f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)$、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題19.6より、 $$ \begin{aligned} (u\mid \Psi(fg)v)&=\int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=\int_{X}g(x)d(\nu_{u,v})_f(x)=\int_{X}g(x)d\nu_{\Psi(f)^*u,v}(x)\\ &=(\Psi(f)^*u\mid\Psi(g)v)=(u\mid\Psi(f)\Psi(g)v) \end{aligned} $$ が成り立つので $(***)$ が成り立つ。これより $\Psi:\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は*-環準同型写像である。そして、 $$ \Psi(1)\Phi(f)v=\Psi(1)\Psi(f)v=\Psi(f)v=\Phi(f)v\quad(\forall f\in C_0(X),\forall v\in \mathcal{H}) $$ であり、$(*)$ は $\mathcal{H}$ で稠密であるので、$\Psi(1)=1$ である。よって任意の $B\in \mathcal{B}_X$ に対し $E(B):=\Psi(\chi_B)$ とおけば、 $$ E(B)=\Psi(\chi_B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad(\forall B\in\mathcal{B}_X),\quad E(X)=1 $$ であり、 $$ (u\mid E(B)v)=(u\mid \Psi(\chi_B)v)=\nu_{u,v}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_X,\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ である。ゆえに $E:\mathcal{B}_X\ni B\mapsto E(B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ はRadon射影値測度であり、任意の $f\in C_0(X)$、$u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \left(u\mid \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)=\int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(f)v) $$ であるので、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)=\Phi(f)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ が成り立つ。これで存在が示せた。一意性を示す。$E':\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ もRadon射影値測度であり、 $$ \int_{X}f(x)dE'(x)=\Phi(f)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ を満たすならば、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(f)v)=\int_{X}f(x)dE'_{u,v}(x)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ であるから、Riesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より $E_{u,v}=E'_{u,v}$ である。よって $E=E'$ である。これで一意性が示せた。

8. スペクトル測度、Borel汎関数計算

命題8.1(正規作用素に付随するスペクトル測度の一意存在)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とし、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を正規作用素とする。このとき射影値測度 $E^T:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ T=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda) $$ を満たすものが唯一つ存在する。(注意7.2より$E^T$ は必然的にRadon射影値測度である。)そして、 $$ f(T)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\quad(\forall f\in C(\sigma(T))) $$ が成り立つ。ただし左辺は $T$ に関する連続汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義6.6)である。

証明

連続汎関数計算 $$ C(\sigma(T))\ni f\mapsto f(T)\ni C^*(\{1,T\})\subset\mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ は単位元を単位元に写す*-環準同型写像であるから、射影値測度に関するRiesz-Markov-角谷の表現定理(定理7.3)より、射影値測度 $E^T:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ f(T)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda) $$ を満たすものが存在する。特に、 $$ T=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda) $$ である。よって存在が示せた。射影値測度 $E,F:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ が、 $$ \int_{\sigma(T)}\lambda dE(\lambda)=T=\int_{\sigma(T)}\lambda dF(\lambda) $$ を満たすとする。恒等写像 ${\rm id}:\sigma(T)\ni \lambda\mapsto \lambda\in \mathbb{C}$ に対し、Stone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理35.4)より、 $$ C(\sigma(T))=\overline{\text{span}\left\{\overline{{\rm id}}^n{\rm id}^m:n,m\in\mathbb{Z}_+\right\}} $$ であるから、任意の $f\in C(\sigma(T))$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE(\lambda)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dF(\lambda) $$ が成り立つ。ここで $\sigma(T)$ は第二可算コンパクトHausdorff空間であるから注意7.2より $E,F:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ は自動的にRadon射影値測度である。ゆえに定理7.3より $E=F$ である。これで一意性が示せた。

定義8.2(正規作用素に付随するスペクトル測度)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の正規作用素 $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、命題8.1における射影値測度 $E^T:\mathcal{B}_X\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を、$T$ に付随するスペクトル測度と言う。

定理8.3(自己共役作用素に付随するスペクトル測度の一意存在)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき射影値測度 $E^T:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$(定理5.7より $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の空でない閉集合であることに注意)で、 $$ T=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

証明

$$ C:\mathbb{R}\ni t\mapsto (t-i)(t+i)^{-1}\in \mathbb{T}\backslash \{1\}\quad\quad(*) $$ は同相写像であり、逆写像は、 $$ C^{-1}:\mathbb{T}\backslash \{1\}\ni \lambda\mapsto i(1+\lambda)(1-\lambda)^{-1}\in\mathbb{R} $$ である。定理4.6より $T$ のCayley変換 $C(T)=(T-i)(T+i)^{-1}$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素であり、定理5.7より、 $$ C(\sigma(T))=\sigma(C(T))\backslash\{1\}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。$C(T)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ はユニタリ作用素であるから正規作用素である。そこで $C(T)$ に付随するスペクトル測度(定義8.2)を、 $$ F:\mathcal{B}_{\sigma(C(T))}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}),\quad C(T)=\int_{\sigma(C(T))}\lambda dF(\lambda) $$ とおく。命題4.5より、 $$ 1-C(T)=\int_{\sigma(C(T))}(1-\lambda)dF(\lambda) $$ は単射であるから、命題6.8の $(5)$ より、 $$ \{0\}={\rm Ker}(1-C(T))={\rm Ran} F(\{\lambda\in \sigma(C(T)):1-\lambda=0\})={\rm Ran}F(\sigma(C(T))\cap \{1\}) $$ である。よって $(**)$ より、 $$ F(C(\sigma(T)))=F(\sigma(C(T))\backslash\{1\})=F(\sigma(C(T)))=1 $$ である。これと $(*)$ が同相写像であることから、 $$ E:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\ni B\mapsto F(C(B))\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad\quad(***) $$ は射影値測度である。今、任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}f(t)dE(t)=\int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f(C^{-1}(\lambda))dF(\lambda)\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示す。$E$ の定義より $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ がBorel単関数である場合は明らかに成り立つ。また任意の有界Borel関数はBorel単関数の列により一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(****)$ は $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ が有界Borel関数の場合も成り立つ。任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f_n:=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ として有界Borel関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義すると、単調収束定理より、任意の $v\in\mathcal{H}$ に対して、 $$ \begin{aligned} \int_{\sigma(T)}\lvert f(t)\rvert^2dE_{v,v}(t)&=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{\sigma(T)}\lvert f_n(t)\rvert^2dE_{v,v}(t)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}\lvert f_n(C^{-1}(\lambda))\rvert^2dF_{v,v}(\lambda)\\ &=\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}\lvert f(C^{-1}(\lambda))\rvert^2dF_{v,v}(\lambda) \end{aligned} $$ となるから、$D_E(f)=D_F(f\circ C^{-1})$ である。よって任意の $v\in D_E(f)=D_F(f\circ C^{-1})$、任意の $u\in\mathcal{H}$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} \left(u\mid \int_{\sigma(T)}f(t)dE(t)v\right)&=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{\sigma(T)}f_n(t)dE(t)v\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f_n(C^{-1}(\lambda))dF(\lambda)v\right)\\ &=\left(u\mid \int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f(C^{-1}(\lambda))dF(\lambda)v\right) \end{aligned} $$ となる。これより $(****)$ は任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対して成り立つ。命題4.5命題6.8の $(1),(5)$ より、 $$ \begin{aligned} T&=i(1+C(T))(1-C(T))^{-1}=i\int_{\sigma(\sigma(T))}(1+\lambda)dF(\lambda)\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}(1-\lambda)^{-1}dF(\lambda)\\ &\subset \int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}i(1+\lambda)(1-\lambda)^{-1}dF(\lambda) =\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}C^{-1}(\lambda)dF(\lambda) =\int_{\sigma(T)}tdE(t) \end{aligned} $$ であるので、命題6.8の $(2)$ より、 $$ T\subset \int_{\sigma(T)}tdE(t)=\left(\int_{\sigma(T)}tdE(t)\right)^*\subset T^*=T $$ である。ゆえに、 $$ T=\int_{\sigma(T)}tdE(t) $$ が成り立つ。これで存在が示せた。一意性を示す。射影値測度 $E':\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ も、 $$ T=\int_{\sigma(T)}tdE'(t) $$ を満たすとし、$E'=E$(ただし $E$ は $(***)$ によって定義したもの)が成り立つことを示す。射影値測度 $$ F':\mathcal{B}_{\sigma(C(T))}\ni B\mapsto E'(C^{-1}(B))\in\mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ を考えると、$(****)$ を示したのと全く同様にして、任意のBorel関数 $g:\sigma(C(T))\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(C(T))}g(\lambda)dF'(\lambda)=\int_{\sigma(T)}g(C(t))dE'(t) $$ が成り立つことが分かる。よって命題6.8の $(1),(5)$ より、 $$ \begin{aligned} \int_{\sigma(C(T))}\lambda dF'(\lambda)&=\int_{\sigma(T)}C(t)dE'(t) =\int_{\sigma(T)}(t-i)(t+i)^{-1}dE'(t)\\ &=\int_{\sigma(T)}(t-i)dE'(t)\int_{\sigma(T)}(t+i)^{-1}dE'(t)\\ &=(T-i)(T+i)^{-1}=C(T) \end{aligned} $$ となるので、$C(T)$ のスペクトル測度の一意性(命題8.1)より $F'=F$ である。ゆえに任意の $B\in \mathcal{B}_{\sigma(T)}$ に対し、 $$ E'(B)=E'(C^{-1}(C(B)))=F'(C(B))=F(C(B))=E(B) $$ である。よって $E'=E$ であるので一意性が示せた。

定義8.4(自己共役作用素に付随するスペクトル測度)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $T$ に対し、定理8.3における射影値測度 $E^T:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を、 $T$ に付随するスペクトル測度と言う。

定義8.5(Borel汎関数計算)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素か正規作用素とし、$E^T:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ に付随するスペクトル測度とする。このとき任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f$ の $E^T$ による積分を、 $$ f(T):=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda) $$ と表す。$f\mapsto f(T)$ を $T$ に関するBorel汎関数計算と言う。命題8.1より、Borel汎関数計算は連続汎関数計算と矛盾しない。

命題8.6

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{R}$ を実数値可測関数とし、$\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $$ T:=\int_{X}f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow\mathcal{H} $$ (自己共役作用素であることは命題6.8の $(2)$ による)を考える。このとき任意のBorel関数 $g:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ g(T)=\int_{X}g(f(x))dE(x) $$ が成り立つ。ただし右辺の被積分関数は $g\circ f:f^{-1}(\sigma(T))=f^{-1}({\rm ess.Ran}_E(f))\rightarrow\mathbb{C}$ である。(命題6.12より $\sigma(T)={\rm ess.Ran}_E(f)$ であることに注意。)

証明

$$ F:\mathcal{B}_{\sigma(T)}\ni B\mapsto E(f^{-1}(B))\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad\quad(*) $$ とおく。命題6.12より $\sigma(T)={\rm ess.Ran}_E(f)$ であるから、 $$ F(\sigma(T))=E(f^{-1}(\sigma(T)))=E(f^{-1}({\rm ess.Ran}_E(f)))=1 $$ である。よって $F$ は射影値測度である。任意のBorel関数 $g:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}g(\lambda)dF(\lambda)=\int_{X}g(f(x))dE(x)\quad\quad(**) $$ が成り立つことを示す。$(*)$ より $g$ がBorel単関数である場合は成り立つ。有界Borel関数はBorel単関数の列により一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(**)$ は $g$ が有界Borel関数の場合も成り立つ。任意のBorel関数 $g:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$g_n:=g\chi_{(\lvert g\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ として $\sigma(T)$ 上の有界Borel関数の列 $(g_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義すると、任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し、単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{\sigma(T)}\lvert g(\lambda)\rvert^2dF_{v,v}(\lambda) &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{\sigma(T)}\lvert g_n(\lambda)\rvert^2dF_{v,v}(\lambda) =\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert g_n(f(x))\rvert^2dE_{v,v}(x)\\ &=\int_{X}\lvert g(f(x))\rvert^2dE_{v,v}(x) \end{aligned} $$ であるから、$D_F(g)=D_E(g\circ f)$ であり、任意の $v\in D_F(g)=D_E(g\circ f)$、任意の $u\in \mathcal{H}$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} \left(u\mid \int_{\sigma(T)}g(\lambda)dF(\lambda)v\right) &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{\sigma(T)}g_n(\lambda)dF(\lambda)v\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}g_n(f(x))dE(x)v\right)\\ &=\left(u\mid \int_{X}g(f(x))dE(x)v\right) \end{aligned} $$ である。これより $(**)$ は任意のBorel関数 $g:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対して成り立つ。よって特に、 $$ \int_{\sigma(T)}\lambda dF(\lambda)=\int_{X}f(x)dE(x)=T $$ であるから、$F$ は $T$ のスペクトル測度である。よって任意のBorel関数 $g:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$(**)$ より、 $$ g(f(T))=\int_{\sigma(T)}g(\lambda)dF(\lambda)=\int_{X}g(f(x))dE(x) $$ である。

命題8.7(スペクトル測度とBorel汎関数計算の基本的性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素か正規作用素とし、$E^T:\mathcal{B}_\sigma(T)\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。このとき、

  • $(1)$ 任意のBorel関数 $f,g:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \overline{f}(T)=f(T)^*,\quad (f+g)(T)=\overline{f(T)+g(T)},\quad (fg)(T)=\overline{f(T)g(T)} $$ が成り立つ。
  • $(2)$ 任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f(T)^*f(T)=\lvert f\rvert^2(T),\quad (f(T))^n=f^n(T)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。
  • $(3)$ 任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ {\rm Ker}(f(T))={\rm Ran} E^T( (f=0)) $$ が成り立つ。また $f(T)$ が単射、すなわち $E^T( (f=0))=0$ であるとき、 $$ f^{-1}(\lambda)=f(\lambda)^{-1}\quad(\lambda\notin (f=0)) $$ を満たす任意のBorel関数 $f^{-1}:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f(T)^{-1}=f^{-1}(T)$ が成り立つ。
  • $(4)$ $\sigma(T)$ の任意の空でない開集合 $U$ に対し $E^T(U)>0$ が成り立つ。
  • $(5)$ $T$ の点スペクトル $\sigma_{\rm p}(T)$($T$ の固有値全体)は、 $$ \sigma_{\rm p}(T)=\{\lambda\in \mathbb{C}:E^T(\{\lambda\})>0\} $$ と表せる。そして $\lambda\in \sigma_{\rm p}(T)$ に対する固有空間は ${\rm Ker}(\lambda-T)={\rm Ran}E^T(\{\lambda\})$ である。
  • $(6)$ $\sigma(T)$ の任意の孤立点*4は $T$ の固有値である。
  • $(7)$ 任意のBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma(f(T))={\rm ess.Ran}_{E^T}(f)=\{\lambda\in\mathbb{C}:\forall\epsilon\in(0,\infty), E^T( (\lvert \lambda-f\rvert<\epsilon))>0\}, $$ $$ \sigma_{\rm p}(f(T))=\{\lambda\in \mathbb{C}:E^T( (f=\lambda))>0\} $$ が成り立つ。
  • $(8)$ 任意の連続関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma(f(T))=\overline{f(\sigma(T))} $$ が成り立つ。
  • $(9)$ 任意の実数値Borel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{R}$ と複素数値Borel関数 $g:\sigma(f(T))\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ g(f(T))=(g\circ f)(T) $$ が成り立つ。ただし右辺の $g\circ f$ の定義域は $f^{-1}(\sigma(f(T)))=f^{-1}({\rm ess.Ran}_{E^T}(f))$ である。

証明

  • $(1)$ 命題6.8の $(1),(2),(3)$ による。
  • $(2)$ 命題6.8の $(4)$ による。
  • $(3)$ 命題6.8の $(5)$ による。
  • $(4)$ 恒等写像 ${\rm id}:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し 定理6.12より、 $$ \sigma(T)=\sigma\left(\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda)\right) ={\rm ess.Ran}_{E^T}({\rm id})=\{\lambda\in\mathbb{C}:\forall\epsilon\in(0,\infty),E^T( (\lvert\lambda-{\rm id}\rvert<\epsilon))>0\} $$ である。$\sigma(T)$ の任意の空でない開集合 $U$ を取り、任意の $\lambda_0\in U$ を取る。$U$ が $\sigma(T)$ の開集合であることから、ある $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $(\lvert \lambda_0-{\rm id}\rvert<\epsilon)\subset U$ となる。よって、 $$ E^T(U)\geq E^T( (\lvert \lambda_0-{\rm id}\rvert<\epsilon))>0 $$ である。
  • $(5)$ $\lambda\in\mathbb{C}$ に対し命題6.8の $(5)$ より、 $$ {\rm Ker}(\lambda-T)={\rm Ran}E^T( (\lambda-{\rm id}=0))={\rm Ran}E^T(\{\lambda\}) $$ であるから、 $$ \sigma_{\rm p}(T)=\{\lambda\in\mathbb{C}:{\rm Ker}(\lambda-T)\neq\{0\}\} =\{\lambda\in\mathbb{C}:E^T(\{\lambda\})>0\} $$ である。
  • $(6)$ $\lambda\in\sigma(T)$ が $\sigma(T)$ の孤立点であるならば、$\{\lambda\}$ は $\sigma(T)$ の開集合であるから、$(4)$ より $E^T(\{\lambda\})>0$ である。よって $(5)$ より $\lambda$ は $T$ の固有値である。
  • $(7)$ 定理6.12より、 $$ \sigma(f(T))=\sigma\left(\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\right) ={\rm ess.Ran}_{E^T}(f)=\{\lambda\in\mathbb{C}:\forall\epsilon\in(0,\infty), E^T( (\lvert \lambda-f\rvert<\epsilon))>0\} $$ である。また命題6.8の $(5)$ より、任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ に対し ${\rm Ker}(\lambda-f(T))={\rm Ran}E^T( (f=\lambda))$ であるから、 $$ \sigma_{\rm p}(f(T))=\{\lambda\in \mathbb{C}:E^T( (f=\lambda))>0\} $$ である。
  • $(8)$ $(4)$ と系6.13による。
  • $(9)$ 命題8.6による。

定義8.8(非負自己共役作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。$\sigma(T)\subset[0,\infty)$ であるとき $T$ を $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素と言う。この定義は有界非負自己共役作用素の定義(定義1.1)と矛盾しない。

命題8.9(非負自己共役作用素の冪乗根の一意存在)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素とする。このとき任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素 $S$ で $S^n=T$ を満たすものが唯一つ存在する。

証明

Borel汎関数計算により、 $$ \sqrt[n]{T}=\int_{\sigma(T)}\sqrt[n]{\lambda}dE^T(\lambda) $$ を考えると、命題8.7の $(1),(8)$ より $\sqrt[n]{T}$ は非負自己共役作用素であり、命題8.7の $(2)$ より、 $$ (\sqrt[n]{T}))^n=\int_{\sigma(T)}(\sqrt[n]{\lambda})^ndE^T(\lambda)=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda)=T $$ である。また非負自己共役作用素 $S$ が $S^n=T$ を満たすとすると、命題8.7の $(2), (9)$ より、 $$ \sqrt[n]{T}=\sqrt[n]{S^n}=\int_{\sigma(S)}\sqrt[n]{\lambda^n}dE^S(\lambda)=\int_{\sigma(S)}\lambda dE^S(\lambda)=S $$ である。

命題8.10(非負自己共役作用素の特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素である。
  • $(2)$ 任意の $v\in D(T)$ に対し $(v\mid Tv)\geq0$ が成り立つ。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとすると、$T=\sqrt{T}^2$ であるから、任意の $v\in D(T)$ に対し、 $$ (v\mid Tv)=(\sqrt{T}v\mid \sqrt{T}v)=\lVert \sqrt{T}v\rVert^2\geq0 $$ である。よって $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $\lambda\in \sigma(T)$ を取る。このとき任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $v_{\epsilon}\in D(T)$ で、$\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert<\epsilon\lVert v_{\epsilon}\rVert$ を満たすものが存在する。実際、もしある $\epsilon_0\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert (\lambda-T)v\rVert\geq\epsilon_0\lVert v\rVert\quad(\forall v\in D(T)) $$ が成り立つとすると、${\rm Ker}(\lambda-T)=\{0\}$ であり、$\lambda-T$ が閉線形作用素であることから ${\rm Ran}(\lambda-T)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である。よって命題3.9の $(5)$ より、 $$ {\rm Ran}(\lambda-T)=( ({\rm Ran}(\lambda-T))^{\perp})^{\perp}=({\rm Ker}(\lambda-T))^{\perp}=\mathcal{H} $$ であるから、$\lambda-T:D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射であることになる。これは $\lambda\in \sigma(T)$ であることに矛盾する。ゆえに任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $v_{\epsilon}\in D(T)$ で、$\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert<\epsilon\lVert v_{\epsilon}\rVert$ を満たすものが取れる。今、$\lambda\geq0$ であることを示す。もし $\lambda<0$ ならば、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $-\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})\geq0$ であるから、 $$ \epsilon^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2>\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert^2 =\lambda^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2-2\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})+\lVert Tv_{\epsilon}\rVert^2\geq \lambda^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2 $$ となる。よって任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $\epsilon>\lvert\lambda\rvert$ となる。これは $\lambda=0$ を意味するので、$\lambda<0$ であることに矛盾する。ゆえに $\lambda\geq0$ である。こうして任意の $\lambda\in \sigma(T)$ に対し $\lambda\geq0$ であるから $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ であるので、$T$ は非負自己共役作用素である。

9. 稠密に定義された閉線形作用素の極分解

定義9.1(稠密に定義された閉線形作用素の絶対値作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素とする。このとき定理3.10より $T^*T$ は $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素であり、任意の $v\in D(T^*T)$ に対し、 $$ (v\mid T^*Tv)=(Tv\mid Tv)=\lVert Tv\rVert^2\geq0 $$ であるから、命題8.10より $T^*T$ は非負自己共役作用素である。そこで $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素 $\lvert T\rvert$ を、 $$ \lvert T\rvert:=\sqrt{T^*T} $$ として定義する。これを $T$ の絶対値作用素と呼ぶ。

定義9.2(自己共役作用素の台射影作用素)

$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。$\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\overline{{\rm Ran}(T)}$ の上への射影作用素(定義1.6)を $S(T)$ と表す。$S(T)$ を $T$ の台射影作用素と呼ぶ。

命題9.3(台射影作用素の特徴付け)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $T$ に対し、$T$ の台射影作用素 $S(T)$ は、$\{P\in \mathbb{P}(\mathcal{H}):PT=T\}$ の最小元である。

証明

${\rm Ran}(S(T))=\overline{{\rm Ran}(T)}$ なので、$S(T)Tv=Tv$ $(\forall v\in D(T))$、よって $S(T)T=T$ である。$PT=T$ なる任意の射影作用素 $P$ に対し、 $$ {\rm Ran}(S(T))=\overline{{\rm Ran}(T)}\subset {\rm Ran}(P) $$ であるから、$S(T)=PS(T)=PS(T)P\leq P$ である。

定理9.4(稠密に定義された閉線形作用素の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素とする。このとき $T$ の絶対値作用素 $\lvert T\rvert$ と $\lvert T\rvert$ の台射影作用素 $S(\lvert T\rvert)$ に対し、部分等長作用素 $V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$(定義1.1)で、 $$ V^*V=S(\lvert T\rvert),\quad T=V\lvert T\rvert $$ を満たすものが唯一つ存在する。この $T=V\lvert T\rvert$ なる分解を $T$ の極分解と言う。

証明

$T^*T=\lvert T\rvert^2$ であるから、定理3.10の $(1)$ より $D(T^*T)=D(\lvert T\rvert^2)$ は、$T,\lvert T\rvert$ の共通の芯である。 $$ D:=D(T^*T)=D(\lvert T\rvert^2) $$ とおく。任意の $v\in D$ に対し、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=(v\mid T^*Tv)=(v\mid \lvert T\rvert^2v)=(\lvert T\rvert v\mid \lvert T\rvert v)=\lVert \lvert T\rvert v\rVert^2 $$ であるから、 $$ V_0:\lvert T\rvert(D)\ni \lvert T\rvert v\mapsto Tv\in \mathcal{H} $$ なる等長線形作用素が定義できる。位相線形空間1:ノルムと内積命題3.6より $V_0$ は等長線形作用素 $$ V_1:\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}=\overline{\lvert T\rvert(D)}\rightarrow\mathcal{H} $$ に一意拡張できる。($\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}=\overline{\lvert T\rvert(D)}$ であることは $D$ が $\lvert T\rvert$ の芯であることによる。)そこでHilbert空間 $\mathcal{H}$ の直交分解 $$ \mathcal{H}=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}\oplus ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}\quad\quad(*) $$ を考えて、 $$ V:\mathcal{H}=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}\oplus ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}\ni v+u\mapsto V_1v\in \mathcal{H} $$ として $V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を定義する。このとき、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}),\quad Vu=0\quad(\forall u\in ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}) $$ であるから、命題1.7より $V$ は部分等長作用素で、$V^*V$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ の上への射影作用素、すなわち $V^*V=S(\lvert T\rvert)$ である。そして、 $$ V\lvert T\rvert v=V_1\lvert T\rvert v=V_0\lvert T\rvert v=Tv\quad(\forall v\in D)\quad\quad(**) $$ である。任意の $v\in D(\lvert T\rvert)$ を取る。$D$ は $\lvert T\rvert$ の芯であるので $D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,\lvert T\rvert v_n)\rightarrow (v,\lvert T\rvert v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。$(**)$ と $V_0$ が等長線形作用素であることから、 $$ \lVert Tv_n-Tv_m\rVert=\lVert V_0\lvert T\rvert v_n-V_0\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert \lvert T\rvert v_n-\lvert T\rvert v_m\rVert\rightarrow0\quad(n,m\rightarrow\infty) $$ である。よって $(T v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するので、$T$ が閉であることから、 $$ (v_n,T v_n)\rightarrow (v,T v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。これより、 $$ V\lvert T\rvert v=\lim_{n\rightarrow\infty}V\lvert T\rvert v_n=\lim_{n\rightarrow\infty} Tv_n=Tv $$ であるから $V\lvert T\rvert\subset T$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $v\in D(T)$ を取り、$v\in D(\lvert T\rvert)$ が成り立つことを示せばよい。$D$ は $T$ の芯であるので、$D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,Tv_n)\rightarrow (v,Tv)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。$(**)$ と $V_0$ が等長線形作用素であることから、 $$ \lVert \lvert T\rvert v_n-\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert V_0\lvert T\rvert v_n-V_0\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert Tv_n-Tv_m\rVert\rightarrow0\quad(n,m\rightarrow\infty) $$ である。よって $(\lvert T\rvert v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するので、$\lvert T\rvert$ が閉であることから、 $$ (v_n,\lvert T\rvert v_n)\rightarrow (v,\lvert T\rvert v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。これより $v\in D(\lvert T\rvert)$ であるから $V\lvert T\rvert=T$ が成り立つ。以上で存在が示せた。
一意性を示す。$V,W\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ がそれぞれ部分等長作用素であり、 $$ V^*V=S(\lvert T\rvert)=W^*W,\quad V\lvert T\rvert=T=W\lvert T\rvert $$ を満たすとする。命題1.7より、 $$ Vu=Wu=0\quad(\forall u\in ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}) $$ である。また、 $$ V\lvert T\rvert v=Tv=W\lvert T\rvert v\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、$V$ と $W$ は ${\rm Ran}(\lvert T\rvert)$ 上で一致する。$V,W$ の連続性より $V,W$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ 上でも一致するから、$(*)$ より $V=W$ である。

定理9.5(稠密に定義された閉線形作用素の共役作用素の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素とし、$T$ の極分解 $$ T=V\lvert T\rvert,\quad V^*V=S(\lvert T\rvert) $$ を考える。このとき $T^*$(定理3.10より $T^*$ も稠密に定義された閉線形作用素である)の極分解は、 $$ T^*=V^*\lvert T^*\rvert,\quad VV^*=S(\lvert T^*\rvert) $$ である。(Banach環とC*-環のスペクトル理論命題8.5より $V^*$ は部分等長作用素であることに注意。)

証明

定理3.10の $(3)$ より $T=T^{**}$ であるから、 $$ \lvert T^*\rvert=\sqrt{TT^*} $$ である。$V^*V=S(\lvert T\rvert)$ より $V^*V\lvert T\rvert=\lvert T\rvert$ であり、命題3.9の $(9)$ より、$T^*=(V\lvert T\rvert)^*=\lvert T\rvert V^*$ であるから、 $$ (V\lvert T\rvert V^*)(V\lvert T\rvert V^*)=(V\lvert T\rvert)(V^*V\lvert T\rvert V^*) =(V\lvert T\rvert)(\lvert T\rvert V^*)=TT^*=\lvert T^*\rvert^2\quad\quad(*) $$ である。そして命題3.9の $(9)$ より、 $$ (V\lvert T\rvert V^*)^*=(VT^*)^*=T^{**}V^*=TV^*=V\lvert T\rvert V^* $$ であるから $V\lvert T\rvert V^*$ は自己共役作用素であり、 $$ (v\mid V\lvert T\rvert V^*v)=(V^*v\mid \lvert T\rvert V^*v)\geq0\quad(\forall v\in D(V\lvert T\rvert V^*)) $$ であるから、命題8.10より $V\lvert T\rvert V^*$ は非負自己共役作用素である。よって $(*)$ と命題8.9より、 $$ \lvert T^*\rvert=V\lvert T\rvert V^*\quad\quad(**) $$ が成り立つ。これより、 $$ V^*\lvert T^*\rvert=V^*V\lvert T\rvert V^*=\lvert T\rvert V^*=(V\lvert T\rvert)^*=T^* $$ であり、 $$ VV^*\lvert T^*\rvert=VT^*=V\lvert T\rvert V^*=\lvert T^*\rvert\quad\quad(***) $$ である。よって命題9.3より、 $$ S(\lvert T^*\rvert)\leq VV^* $$ が成り立つ。この逆の不等式を示す。$(***)$ より、 $$ VV^*\lvert T^*\rvert=S(\lvert T^*\rvert)\lvert T^*\rvert $$ であるから、$(**)$ より、 $$ VV^*V\lvert T\rvert V^*=S(\lvert T^*\rvert)V\lvert T\rvert V^*\quad\quad(****) $$ である。 $$ \lvert T\rvert=\lvert T\rvert^*=(V^*V\lvert T\rvert)^*=\lvert T\rvert V^*V $$ であるから $(****)$ の両辺に右から $V$ を掛ければ、 $$ VV^*V\lvert T\rvert=S(\lvert T^*\rvert)V\lvert T\rvert $$ を得る。ゆえに、 $$ VV^*VS(\lvert T\rvert)=S(\lvert T^*\rvert)VS(\lvert T\rvert) $$ が成り立つ。$VS(\lvert T\rvert)=VV^*V=V$ より、 $$ VV^*V=S(\lvert T^*\rvert)V $$ であり、両辺に右から $V^*$ を掛けて、 $$ VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^* $$ を得る。これより、 $$ VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^*S(\lvert T^*\rvert)\leq S(\lvert T^*\rvert) $$ であるから、$VV^*=S(\lvert T^*\rvert)$ が成り立つ。

命題9.6(射影値測度による積分の極分解)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とし、$\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素 $$ T:=\int_{X}f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow\mathcal{H} $$ を考える。このとき、 $$ \lvert T\rvert=\int_{X}\lvert f(x)\rvert dE(x) $$ である。そして、 $$ \omega(x):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{\lvert f(x)\rvert}{f(x)}&(f(x)\neq0)\\0&(f(x)=0)\end{array}\right. $$ なる有界可測関数 $\omega:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ V:=\int_{X}\omega(x)dE(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ を定義すると、 $$ T=V\lvert T\rvert,\quad V^*V=S(\lvert T\rvert) $$ が成り立つ。すなわち $T=V\lvert T\rvert$ は $T$ の極分解である。

証明

命題6.8の $(4)$ より、 $$ T^*T=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x) $$ であるから、命題8.6より、 $$ \lvert T\rvert=\sqrt{T^*T}=\int_{X}\sqrt{\lvert f(x)\rvert^2}dE(x)=\int_{X}\lvert f(x)\rvert dE(x) $$ である。また命題6.8の $(1)$ より、 $$ V\lvert T\rvert=\int_{X}\omega(x)\lvert f(x)\rvert dE(x)=\int_{X}f(x)dE(x)=T $$ であり、 $$ V^*V=\int_{X}\lvert \omega(x)\rvert^2dE(x)=E( (f\neq 0)) $$ である。台射影作用素 $S(\lvert T\rvert)$ は閉部分空間 $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ の上への射影作用素であるから、$1-S(\lvert T\rvert)$ は、 $$ ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}={\rm Ker}(\lvert T\rvert)={\rm Ker}\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert dE(x)\right)={\rm Ran}E( (f=0)) $$ (三番目の等号は命題6.8の $(5)$ による)の上への射影作用素である。よって $1-S(\lvert T\rvert)=E( (f=0))$ であるから、 $$ S(\lvert T\rvert)=1-E( (f=0))=E( (f\neq 0)), $$ ゆえに $V^*V=S(\lvert T\rvert)$ である。

系9.7(Borel汎関数計算の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素か正規作用素とする。そしてBorel関数 $f:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \omega(\lambda):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{\lvert f(\lambda)\rvert}{f(\lambda)}&(f(\lambda)\neq0)\\0&(f(\lambda)=0)\end{array}\right. $$ なる有界Borel関数 $\omega:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。このときBorel汎関数計算 $f(T)$ の極分解を $f(T)=V\lvert f(T)\rvert$ とすると、 $$ \lvert f(T)\rvert=\lvert f\rvert(T),\quad V=\omega(T) $$ が成り立つ。

10. 掛け算作用素

命題10.1(掛け算作用素の定義の前)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とし、Hilbert空間 $L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ を考える。このとき任意の $B\in \mathfrak{M}$ に対し、 $$ E^{\mu}(B):L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\ni [f]\mapsto [\chi_Bf]\in \mathbb{P}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu)) $$ は射影値測度(定義6.2)である。そして任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$f$ の $E_{\mu}$ による積分(定義6.7)の定義域は、 $$ D_{E^{\mu}}(f)=\{[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu):[fg]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\} $$ であり、 $$ \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[g]=[fg]\quad(\forall [g]\in D_{E_{\mu}}(f))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

任意の $[f],[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $[\overline{f}g]\in L^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ であるから、 $$ \mathfrak{M}\ni B\mapsto E^{\mu}_{[f],[g]}(B)=([f]\mid E^{\mu}(B)[g])=\int_{B}\overline{f(x)}g(x)d\mu(x)\in\mathbb{C} $$ は複素数値測度である。よって $E^{\mu}$ は射影値測度である。任意の可測単関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し明らかに、 $$ \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[g]=[fg]\quad(\forall [g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu))\quad\quad(**) $$ が成り立つ。有界可測関数は可測単関数列によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(**)$ は任意の有界可測関数に対して成り立つ。今、任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を取り、有界可測関数の列 $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ を定義すると、任意の $[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE^{\mu}_{[g],[g]}(x)&=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE^{\mu}_{[g],[g]}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert\int_{X}f_n(x)dE^{\mu}(x)[g]\right\rVert_2^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)g(x)\rvert^2d\mu(x)=\int_{X}\lvert f(x)g(x)\rvert^2d\mu(x) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} D_E(f)&=\left\{[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu):\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE^{\mu}_{[g],[g]}(x)<\infty\right\}\\ &=\{[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu):[fg]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\} \end{aligned} $$ であり、任意の $[g]\in D_E(f)$ と任意の $[h]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、 $$ \begin{aligned} \left([h]\mid \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[g]\right) &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left([h]\mid \int_{X}f_n(x)dE^{\mu}(x)[g]\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}\overline{h(x)}f_n(x)g(x)d\mu(x)\\ &=\int_{X}\overline{h(x)}f(x)g(x)d\mu(x) =([h]\mid [fg]) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

定義10.2(掛け算作用素)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、命題10.1における $$ \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x):D_{E^{\mu}}([f])\ni [g]\mapsto [fg]\in L^2(X,\mathfrak{M,\mu}) $$ を $f$ による $L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の掛け算作用素と言う。混乱の恐れがない場合は、$\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)$ はそのまま $f$ と表す。また、射影値測度 $E^{\mu}:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))$ を掛け算作用素を表す射影値測度と呼ぶこととする。

命題10.3($L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ の $\mathbb{B}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))$ への埋め込み)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間とし、$E^{\mu}:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))$ を掛け算作用素を表す射影値測度とする。このとき、 $$ L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)\ni [f]\mapsto \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)\in \mathbb{B}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))\quad\quad(*) $$ は等長*-環準同型写像である。

証明

$(*)$ が*-環準同型写像であることは明らかである。$L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ は $C^*$-環であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論定理10.2より、 $(*)$ が単射であることを示せば等長性も示せたことになる。そこで $[f]\in L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)=0$ であるとして、$[f]=0$ が成り立つことを示す。$\sigma$-有限性より $\mathfrak{M}$ の列 $(X_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}X_n,\quad \mu(X_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。任意の $n\in\mathbb{N}$、任意の $B\in \mathfrak{M}$ に対し、$[\chi_{B\cap X_n}]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ であるから、 $$ 0=\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[\chi_{B\cap X_n}]=[\chi_{B\cap X_n}f]\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall B\in\mathfrak{M}) $$ である。よって $[f\chi_{X_n}]=0$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ であるから、$X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}X_n$ より $[f]=0$ である。

命題10.4(連続関数による掛け算作用素に関するスペクトル写像定理)

$X$ を位相空間、$\mu:\mathcal{B}_X\rightarrow [0,\infty]$ を $\sigma$-有限なBorel測度とし、任意の空でない開集合 $U\subset X$ に対し $\mu(U)>0$ が成り立つとする。そして $E^{\mu}:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(L^2(X,\mathcal{B}_X,\mu))$ を掛け算作用素を表す射影値測度とする。このとき任意の連続関数 $f:X\rightarow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)\right)=\overline{f(X)}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

任意の空でない開集合 $U\subset X$ に対し $\mu(U)>0$ であるから、命題10.3より、 $$ E^{\mu}(U)=\int_{X}\chi_U(x)dE^{\mu}(x)>0 $$ である。よって系6.13より $(*)$ が成り立つ。

11. 直和Hilbert空間上の線形作用素

定義11.1(Hilbert空間上の線形作用素の直和)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $T_j$ が与えられているとする。このとき直和Hilbert空間(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義26.3)$\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ から直和Hilbert空間 $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $\bigoplus_{j\in J}T_j$ を、 $$ D\left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right):=\left\{(v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j: v_j\in D(T_j)\text{ }(\forall j\in J),\text{ } (T_jv_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j \right\}, $$ $$ \bigoplus_{j\in J}T_j:D\left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)\ni (v_j)_{j\in J}\mapsto (T_jv_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j $$ と定義する。$\bigoplus_{j\in J}T_j$ を $(T_j)_{j\in J}$ の直和と言う。

命題11.2(Hilbert空間上の線形作用素の直和の基本的性質)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $T_j,S_j$ と、Hilbert空間 $\mathcal{K}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{L}_j$ への線形作用素 $R_j$ が与えられているとする。このとき、

  • $(1)$ $(T_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}^{(\infty)}\mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j)$*5 ならば、 $$ \bigoplus_{j\in J}T_j\in \mathbb{B}\left(\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j,\text{ }\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j\right),\quad \left\lVert \bigoplus_{j\in J}T_j\right\rVert=\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert=\lVert (T_j)_{j\in J}\rVert_{\infty} $$ が成り立つ。
  • $(2)$ 各 $j\in J$ に対し $T_j$ が可閉ならば $\oplus_{j\in J}T_j$ も可閉であり、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j} $$ が成り立つ。そして、 $$ D:=\text{span}\bigcup_{j\in J}D_j(T_j)\subset \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j $$ は $\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}$ の芯である。
  • $(3)$ 各 $j\in J$ に対し $T_j$ が稠密に定義された線形作用素ならば $\oplus_{j\in J}T_j$ も稠密に定義された線形作用素であり、 $$ \left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)^*=\bigoplus_{j\in J}T_j^* $$ が成り立つ。
  • $(4)$  $$ \bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j\subset \bigoplus_{j\in J}(S_j+T_j) $$ であり、もし各 $j\in J$ に対し $S_j+T_j$ が可閉ならば、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{S_j+T_j} $$ が成り立つ。
  • $(5)$ $$ \bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j\subset \bigoplus_{j\in J}R_jT_j $$ であり、もし各 $j\in J$ に対し $R_jT_j$ が可閉ならば、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j} $$ が成り立つ。

証明

$$ \mathcal{H}:=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j,\quad \mathcal{K}:=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j,\quad \mathcal{L}:=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{L}_j $$ とおき、自然に、 $$ \mathcal{H}_j\subset \mathcal{H},\quad \mathcal{K}_j\subset \mathcal{K},\quad \mathcal{L}_j\subset \mathcal{L}\quad(\forall j\in J) $$ とみなす。

  • $(1)$ $T=\bigoplus_{j\in J}T_j$ とおく。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert Tv\rVert^2=\sum_{j\in J}\lVert T_jv_j\rVert^2\leq \sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert\sum_{j\in J}\lVert v_j\rVert^2=\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert \lVert v\rVert^2 $$ であるから $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ であり、$\lVert T\rVert\leq \sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert$ である。また任意の $j\in J$、任意の $v_j\in \mathcal{H}_j$ に対し、 $$ \lVert T_jv_j\rVert=\lVert Tv_j\rVert\leq\lVert T\rVert\lVert v_j\rVert $$ であるから $\lVert T_j\rVert\leq \lVert T\rVert$ である。よって $\lVert T\rVert=\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert$ が成り立つ。
  • $(2)$ $$ U:\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}\ni ( (u_j)_{j\in J},(v_j)_{j\in J})\mapsto (u_j,v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}(\mathcal{H}_j\oplus \mathcal{K}_j) $$ は明らかにユニタリ作用素である。そして、 $$ U\left(G\left(\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}\right)\right) =\bigoplus_{j\in J}G(\overline{T_j})=\bigoplus_{j\in J}\overline{G(T_j)} $$ である。右辺は $\bigoplus_{j\in J}(\mathcal{H}_j\oplus \mathcal{K}_j)$ の閉部分空間であるから、$G(\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j})$ は $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ の閉部分空間である。よって $\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}$ は閉線形作用素である。また、 $$ U\left(\overline{G\left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)}\right) =\overline{\bigoplus_{j\in J}G(T_j)}=\bigoplus_{j\in J}\overline{G(T_j)}=\bigoplus_{j\in J}G(\overline{T_j})=U\left(G\left(\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}\right)\right) $$ であるから、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j} $$ である。$T=\bigoplus_{j\in J}T_j$ とおく。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D(T)$ を取り、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係を入れた有向集合とする。 $$ v_F:=\sum_{j\in F}v_j\in D=\text{span}\bigcup_{j\in J}D(T_j)\quad(\forall F\in \mathcal{F}_J) $$ とおけば、 $$ Tv_F=\sum_{j\in F}T_jv_j\quad(\forall F\in \mathcal{F}_J) $$ なので、 $$ (v_F,Tv_F)\rightarrow(v,Tv)\quad(F\rightarrow J) $$ である。よって $G(T)\subset \overline{G(T|_D)}$ であるから、 $$ G(\overline{T})=\overline{G(T)}\subset \overline{G(T|_D)}\subset G(\overline{T}) $$ である。ゆえに $D$ は $T$ の芯である。
  • $(3)$ $T:=\bigoplus_{j\in J}T_j$、$T':=\bigoplus_{j\in J}T_j^*$ とおく。 $\text{span}\bigcup_{j\in J}D(T_j)\subset D(T)$ であり、左辺は $\mathcal{H}$ において稠密であるので $T$ は稠密に定義された線形作用素である。任意の $u=(u_j)_{j\in J}\in D(T)$、任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D(T')$ に対し、 $$ (v\mid Tu)=\sum_{j\in J}(v_j\mid T_ju_j)=\sum_{j\in J}(T_j^*v_j\mid u_j) =(T'v\mid u) $$ であるから、$T'\subset T^*$ である。逆の包含関係を示す。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D(T^*)$ を取り、$v\in D(T')$ であることを示せばよい。 $$ w=(w_j)_{j\in J}=T^*v\in \mathcal{H} $$ とおく。このとき任意の $j\in J$、任意の $u_j\in D(T_j)$ に対し、 $$ (v_j\mid T_ju_j)=(v\mid Tu_j)=(T^*v\mid u_j)=(w_j\mid u_j) $$ であるから $v_j\in D(T_j^*)$ であり、$w_j=T_j^*v_j$ である。よって、 $$ (T_j^*v_j)_{j\in J}=(w_j)_{j\in J}=w\in \mathcal{H} $$ であるから、$v\in D(T')$ である。
  • $(4)$  $$ \bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j\subset \bigoplus_{j\in J}(S_j+T_j) $$ は自明である。各 $j\in J$ に対し $S_j+T_j$ が可閉であるとすると、$(2)$ より $\bigoplus_{j\in J}\overline{S_j+T_j}$ は閉線形作用素であり、 $$ D:=\text{span}\bigcup_{j\in J}D(S_j+T_j) $$ は $\bigoplus_{j\in J}(\overline{S_j+T_j})$ の芯である。そして $D$ 上で、 $$ \bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j= \bigoplus_{j\in J}(\overline{S_j+T_j}) $$ であるから、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j}= \bigoplus_{j\in J}(\overline{S_j+T_j}) $$ が成り立つ。
  • $(5)$  $$ \bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j\subset\bigoplus_{j\in J}R_jT_j $$ は自明である。各 $j\in J$ に対し $R_jT_j$ が可閉であるとすると、$(2)$ より $\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j}$ は閉線形作用素であり、 $$ D:=\text{span}\bigcup_{j\in J}D(R_jT_j) $$ は $\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j}$ の芯である。そして $D$ 上で、 $$ \bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j=\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j} $$ であるから、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j} $$ が成り立つ。

定理11.3(射影値測度の直和)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ と射影値測度 $E_j:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ が与えられているとする。このとき、 $$ \bigoplus_{j\in J}E_j:\mathfrak{M}\ni B\mapsto \bigoplus_{j\in J}E_j(B_j)\in \mathbb{P}\left(\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j\right) $$ は射影値測度であり、任意の可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)d\left(\bigoplus_{j\in J}E_j\right)(x)=\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x) $$ が成り立つ。そして点スペクトル(定義5.1)に関して、 $$ \sigma_{\rm p}\left(\int_{X}f(x)d\left(\bigoplus_{j\in J}E_j\right)(x)\right) =\bigcup_{j\in J}\sigma_{\rm p}\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right), $$ スペクトルに関して、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)d\left(\bigoplus_{j\in J}E_j\right)(x)\right) =\overline{\bigcup_{j\in J}\sigma\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)} $$ が成り立つ。

証明

$\mathcal{H}:=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$、$E:=\bigoplus_{j\in J}E_j:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ とおく。$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取り $B=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n$ とおく。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} (v\mid E(B)v)=\sum_{j\in J}E_{j,v_j,v_j}(B)=\sum_{j\in J}\sum_{n\in\mathbb{N}}E_{j,v_j,v_j}(B_n) =\sum_{n\in\mathbb{N}}\sum_{j\in J}E_{j,v_j,v_j}(B_n) =\sum_{n\in\mathbb{N}}(v\mid E(B_n)v) \end{aligned} $$ であるから、$E:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ は射影値測度である。

12. 完備化、テンソル積Hilbert空間上の線形作用素

13. コンパクト作用素

14. 自己共役作用素の離散スペクトルと真性スペクトル、min-max原理、Reyleigh-Ritzの原理

15. 加藤-Rellichの定理、相対コンパクトな摂動に対する真性スペクトルの安定性

16. トレースクラス、Hilbert-Schmidtクラス、積分作用素

17. $\sigma$-WOT、$\sigma$-SOT、von Neumann環、二重可換子環定理

18. von Neumann環とBorel汎関数計算



*1 任意の $v\in\overline{{\rm Ran}(T)}$ に対し $v$ に収束する ${\rm Ran}(T)$ の列 $(Tu_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が取れる。$(*)$ より $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ はCauchy列であるから $u=\lim_{n\rightarrow\infty}u_n\in \mathcal{H}$ が存在する。よって $v=\lim_{n\rightarrow\infty}Tu_n=Tu$ であるから $v\in{\rm Ran}(T)$ である。ゆえに ${\rm Ran}(T)$ は閉である。同様に ${\rm Ran}(T^*)$ も閉である。
*2 逆写像は $\mathbb{T}\backslash \{1\}\ni \lambda\mapsto i(1+\lambda)(1-\lambda)^{-1}\in \mathbb{R}$ である。
*3 $\nu_{u,v}$ が複素数値Radon測度であることについては測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度命題33.4の $(3)$ を参照。
*4 $X$ を位相空間とする。$x\in X$ が $X$ の孤立点であるとは $\{x\}$ が $X$ の開集合であることを言う。
*5 $\bigoplus_{j\in J}^{(\infty)}\mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j)$ はBanach空間の族 $(\mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j) )_{j\in J}$ の $\ell^\infty$ 直和Banach空間(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義26.1)である。

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Last-modified: 2021-01-20 (水) 17:49:07 (1d)