Lie微分

 Lie微分(Lie derivative)とは,滑らかな多様体におけるベクトル場に関する方向微分である。 滑らかな微分多様体 $M$ のベクトル場 $X$ が与えられたとき $M$ 各点の近傍で $X$ の生成する1-パラメータ局所変換群 $\varphi_t$ が定義される。この $\varphi_t$ の流れで何らかの場(スカラー場,ベクトル場,テンソル場)を"変形"することで $t$ に依存する新しい場が作られる。この新しい場の $t=0$ での微分,すなわち場の無限小の変形がベクトル場 $X$ によるリー微分である。 Lie微分の対象は,テンソル場または接続の係数などのように差がテンソル場になるものである。

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スカラー場のLie微分

 $X$ の生成する1-パラメータ局所変換群を $\varphi_t$ とする。 スカラー場 $f\in C^\infty(M)$ に対して,$f$ の $X$ によるLie微分を $$\mathcal{L}_Xf:=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\varphi_t^\ast f-f)=\frac{d}{dt}\varphi_t^\ast f|_{t=0}=X(f)$$ と定義する。 すなわちスカラー場に対しては通常の方向微分である。 $$$$

 $M=\mathbb{R}^2,\ f=x^2+y^2\in C^\infty(M),\ X=y\partial_x$ に対して,$X(f)=2xy$

ベクトル場のLie微分

 ベクトル場 $X,Y$ に対して,$\varphi_t$ を $X$ が生成する1-パラメータ局所変換群とする。 このとき,$Y$ の $X$ によるLie微分を $$\mathcal{L}_XY:=\lim_{t\rightarrow0}( \varphi_{t\ast}^{-1}Y-Y )$$ と定義する。 $$$$  Lie微分をチャートに関する成分で表示してみよう。まず $f\colon M\rightarrow M$ を微分同相とするとき,ベクトル場 $X$ が局所的に $\varphi_t$ を生成しているならば,$f_\ast X$ は局所的に $f\circ\varphi_t\circ f^{-1}$ を生成している。 実際,$q=f(p),\ \psi\in C^\infty(M)$ に対して, $$(f_\ast X)_q\psi=X_p(\psi\circ f)=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}( (\psi\circ f)(\varphi_t(p))-(\psi\circ f)(p) )=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}( \psi(f\circ \varphi_t\circ f^{-1})(q)-\psi(q) )$$ となることから分かる。 $$$$  各点 $p\in M$ で $X$ の1-パラメータ局所変換群が定義される近傍を取り,それが一つのチャートに覆われているとしてよい。 $Y$ の生成する1-パラメータ局所変換群を $\psi_s$ とすると,$$(\varphi_{t\ast}^{-1}Y)_p=\frac{d}{ds}\varphi_t^{-1}\circ\psi_s\circ\varphi_t(p)|_{s=0}=\varphi_{t\ast}^{-1}Y(\varphi_t(p))$$ である。 ここで $\varphi_t:x^i\mapsto y^i(x,y)=x^i+tX^i+o(t^2)$ となるから, $$Y^j(\varphi_t(x))=Y^j(x^i+tX^i+o(t^2))=Y^j+\sum_kX^k\frac{\partial Y^j}{\partial x^k}t+o(t^2)$$ である。 また$\frac{\partial y^i}{\partial x^j}=\delta^i_{\ j}+t\frac{\partial X^i}{\partial x^j}+o(t^2)$ であるから,逆行列を考えて $\frac{\partial x^j}{\partial y^i}(y(x,t))=\delta^j_{\ i}-t\frac{\partial X^j}{\partial x^i}+o(t^2)$ なので $$( \varphi_{t\ast}^{-1}Y(\varphi_t(x)) )^j=\sum_i\frac{\partial x^j}{\partial y^i}(y(x,t))Y^i(\varphi_t(x))=\sum_i(\delta^j_{\ i}-t\frac{\partial X^j}{\partial x^i}+o(t^2))(Y^i+\sum_kX^k\frac{\partial Y^i}{\partial x^k}t+o(t^2))=Y^j+\sum_k(X^k\frac{\partial Y^j}{\partial x^k}-Y^k\frac{\partial X^j}{\partial x^k})t+o(t^2)$$ を得る。 (一般には微分写像には逆写像は存在しないが、1-パラメータ局所変換群は局所的には微分同相写像であるから逆があるため、$\frac{\partial y^i}{\partial x^j}$ の逆行列が存在する) 従って, $$\mathcal{L}_XY=\sum_{j,k}\left(X^k\frac{\partial Y^j}{\partial x^k}-Y^k\frac{\partial X^j}{\partial x^k}\right)\frac{\partial}{\partial x^j}$$ となる。

 またベクトル場 $X,Y$ に対して,Lie括弧を $$[X,Y]=\sum_{j,k}\left(X^k\frac{\partial Y^j}{\partial x^k}-Y^k\frac{\partial X^j}{\partial x^k}\right)\frac{\partial}{\partial x^j}$$ と定義すると,ベクトル場の全体 $\mathcal{X}(M)$ はLie括弧 $[\cdot,\cdot]$ に関してLie環になることが分かる。 $$$$

 $M=\mathbb{R}^2,\ X=\partial_x,\ Y=-y\partial_x+x\partial_y$ に対して,$[X,Y]=\partial_y$

テンソル場のLie微分

 ベクトル場 $X$ が生成する1-パラメータ局所変換群を $\varphi_t$ とする。 $\varphi_t$ はテンソル積空間の同型 $\widetilde{\varphi_t^{-1}}:T^{(r,s)}_{\varphi(p)}(M)\rightarrow T^{(r,s)}_p(M)$ を次のように誘導する。 $r=s=1$ の例で議論するが一般化は容易である。 上のベクトル場のリー微分の議論と同じような設定のチャートに関して $(1,1)$-型テンソル場 $T$ が $$T=\sum_{i,j}T^i_{\ j}\frac{\partial}{\partial x^i}\otimes dx^j$$ と表されているとすると, $$\widetilde{\varphi_t^{-1}}(T)_p:=\sum_{i,j}T^i_{\ j}(\varphi_t(p))\varphi_{t\ast}^{-1}\left(\frac{\partial}{\partial x^i}\right)\otimes \varphi_t^\ast(dx^j)$$ と定義する。 これはチャートの取り方に依らない。 このとき $X$ による $T$ のリー微分を $$\mathcal{L}_XT=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\widetilde{\varphi_t^{-1}}(T)-T)$$ と定義する。

 ベクトル場と同様にチャートによる成分表示を求めてみよう。 $$(\widetilde{\varphi_t^{-1}}T(\varphi_t(x)))^i_{\ j}=\sum_{k,l}\frac{\partial x^i}{\partial y^k}\frac{\partial y^l}{\partial x^j}T^k_{\ l}(\varphi_t(x))=\sum_{k,l}(\delta^i_{\ k}-t\frac{\partial X^i}{\partial x^k}+o(t^2))(\delta^l_{\ j}+t\frac{\partial X^l}{\partial x^j}+o(t^2))(T^k_{\ l}+t\sum_m\frac{\partial T^k_{\ l}}{\partial x^m}X^m+o(t^2))\\=T^i_{\ j}+\sum_k(X^k\frac{\partial T^i_{\ j}}{\partial x^k}+\frac{\partial X^k}{\partial x^j}T^i_{\ k}-\frac{\partial X^i}{\partial x^k}T^k_{\ j})t+o(t^2)$$ であるから $$(\mathcal{L}_XT)^i_{\ j}=\sum_k(X^k\frac{\partial T^i_{\ j}}{\partial x^k}+\frac{\partial X^k}{\partial x^j}T^i_{\ k}-\frac{\partial X^i}{\partial x^k}T^k_{\ j})$$ である。 従って一般的には、$(r,s)$-型テンソル $T$ に対して、$r$ 個の反変指標に対しては $-\frac{\partial X^{i_k}}{\partial x^k}T^{i_1\cdots k\cdots i_r}_{j_1\cdots j_s}$なる項が、$s$ 個の共変指標に対しては $\frac{\partial X^k}{\partial x^{j_k}}T^{i_1\cdots i_r}_{j_1\cdots k\cdots j_s}$ なる項が現れるので $$(\mathcal{L}_XT)^{i_1\cdots i_r}_{j_1\cdots j_s}=\sum_k(X^k\frac{\partial}{\partial x^k}T^{i_1\cdots i_r}_{j_1\cdots j_s}-\frac{\partial X^{i_k}}{\partial x^k}T^{i_1\cdots k\cdots i_r}_{j_1\cdots j_s}+\frac{\partial X^k}{\partial x^{j_k}}T^{i_1\cdots i_r}_{j_1\cdots k\cdots j_s})$$ となる。 $$$$  $(0,s)$-型テンソル場 $T$ に対して,座標に依存しない方法においてしばしば有用なLie微分の公式を与えよう。 まず$s=2$の場合で議論する。 $$(\mathcal{L}_XT)_{ij}=\sum_k(X^k\frac{\partial T_{ij}}{\partial x^k}+\frac{\partial X^k}{\partial x^i}T_{kj}+\frac{\partial X^k}{\partial x^j}T_{ik})\cdots\cdots(\ast)$$ であるから,ベクトル場 $Y,Z$ に対して $$\mathcal{L}_XT(Y,Z)=(\mathcal{L}_XT)_{ij}Y^iZ^j=\sum_k(X^k\frac{\partial }{\partial x^k}(T_{ij}Y^iZ^j)-T_{kj}[X,Y]^kZ^j-T_{ik}Y^i[X,Z]^k)=X(T(Y,Z))-T([X,Y],Z)-T([Y,[X,Z])$$ が成り立つ。$X(T(Y,Z))=\mathcal{L}_XT(Y,Z)+T([X,Y],Z)+T([Y,[X,Z])$ と書くと微分作用素のライプニッツルールと見れるから覚えやすい。 これは容易に一般化できて,$(0,s)$-型テンソル場 $T$ とベクトル場 $X_1,\cdots,X_s$ に対して, $$\mathcal{L}_XT(X_1,\cdots,X_s)=X(T(X_1,\cdots,X_s))-\sum_{i=1}^sT(X_1,\cdots,[X,X_i],\cdots,X_s)$$ となる。 またこれを定義とすることもできる。

Lie微分と幾何学的な対称性

 Lie微分は幾何学構造の対称性を扱うときにしばしば有用である。 多様体上の幾何学的構造は何らかのテンソル場により与えられている状況が多い。 例えば,リーマン幾何はリーマン計量テンソルにより,シンプレクティック幾何はシンプレクティック形式によりそれぞれ与えられる。 $$$$  多様体にLie変換群?が作用するとき,その作用の流れが定義するベクトル場(基本ベクトル場?と呼ばれる) $X$ が存在する。 基本ベクトル場は複数ありえる。 このとき多様体上の何らかの幾何構造を定めているテンソル場 $T$ がこの群作用で不変であるならば,明らかに $\mathcal{L}_XT=0$ となる。 逆に,このようなベクトル場 $X$ を求めることは構造 $T$ の対称性を見つけることに役立つ(離散的な対称性はベクトル場からは与えられない)。

 例えば2次元ユークリッド空間は $\mathbb{R}^2$ にユークリッド計量 $g=dx^2+dy^2$ を与えたものである。 ベクトル場達 $P_x:=\partial_x,\ P_y:=\partial_y,\ L=-y\partial_x+x\partial_y$ は全てユークリッド計量 $g$ をリー微分すると0になるから $g$ の対称性である。 このことは、1-パラメータ変換群を具体的に求めて定義に当てはめれば分かるし、またはリー微分の公式 $(\ast)$ を適用しても分かる。 $$$$  具体的には、$P_x=\partial_x$ の生成する1-パラメータ変換群は、$\varphi_t:(x,y)\mapsto(x+t,y)$ であり、 $$\widetilde{\varphi_t^{-1}}(dx^2+dy^2)=\varphi_t^\ast(dx^2+dy^2)=d(x+t)^2+dy^2=dx^2+dy^2$$ より、$$\frac{d}{dt}\widetilde{\varphi_t^{-1}}(dx^2+dy^2)|_{t=0}=0$$ である。 $L=-y\partial_x+x\partial_y$ に関しては、1-パラメータ変換群 $$\varphi_t:\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}\mapsto\begin{pmatrix}\cos t&-\sin t\\ \sin t&\cos t\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$$ で先程と同様に引き戻しても良いし、公式を使うと、$g_{xx}=1,g_{xy}=0,g_{yy}=0,L^x=-y,L^y=x$ より、 $$(\mathcal{L}_Lg)_{xx}=L(g_{xx})+\sum_{\alpha=x,y}(g_{x\alpha}\partial_xL^\alpha+g_{\alpha x}\partial_xL^\alpha)=0$$ となる。 $(\mathcal{L}_Lg)_{xy}=(\mathcal{L}_Lg)_{yy}=0$ も同様に分かる。 $$$$  計量をリー微分して0になるベクトル場は、リーマン幾何学において、Killingベクトル場?と呼ばれる。 2次元のリーマン多様体 $(M,g)$ 上では、連立線形偏微分方程式 $\mathcal{L}_Xg=0$ (ベクトル場Xが未知関数、Killing方程式と呼ばれる)の解空間の次元は最大で3次元であることが知られている(解空間の次元は計量 $g$ に依存する)。 したがって、2次元ユークリッド空間の場合は、$P_x,\ P_y,\ L$ らが一次独立であることから、これらの線形結合で得られるベクトル場以外の解は存在しない。

リーマン接続によるLie微分の表示

公式達

関連事項

  • フロベニウス可積分性?
  • キリングベクトル場?
  • ハミルトンベクトル場?


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Last-modified: 2020-12-14 (月) 14:24:15 (145d)